清らかな水は心地よくベルカナの肌をかすめ流れる。  
 魔法を使った甲斐があったものです。  
 本当に、なんでクレスポさんはあんなにえっちなんでしょう?  
 あれこれ、ベルカナはちょっと気になる仲間について思いをはせていると、後  
ろからがさこそと音がした。  
 振り返ると、そこには1人の妖精が生まれたままの姿で立っていたのだ  
 きれい……。  
 月の光で輝く豊かな髪。見つめられる惹きこまれそうな深い緑の瞳。優美な体  
のライン。端正な顔立ち。桜貝のような唇。きめ細かなぬけるように白い肌。そ  
れらを儚げなバランスによって組み合わせて作り出された幻夢のような存在。  
 しかし、それは一瞬に現実の存在に戻った。  
 
「わー、気持ちいい〜」  
 飛び込むようにシャイアラは沢にはいったからだ。  
 もうちょっと、夢を見させてくれてもいいのですのに。  
 思わず微苦笑を浮かべてしまうベルカナ。  
 妙に子どもっぽいところを治せば、そう、さっきも静かに優雅に水に入れば、  
それはそれはもっと素敵な存在になるのに、残念ですわ。  
 悶々と妄想を広げてぼーとしているベルカナをシャイアラは見逃さなかった。  
「えいっ」  
 ばしゃーん。  
「きゃあ、やめてください。シャイアラさん」  
 シャイアラが盛大にかけた水はほぼ不意打ちとなって、ベルカナの全身をぬら  
す。目にも入った水を必死にぬぐって目を開けると、目の前にいたはずのシャイ  
アラがいない。  
 
 ぷにぷに〜。  
「あら、ベルカナもなかなかスタイルいいじゃない」  
 あの一瞬の間にシャイアラはベルカナの背後に回りこみ、後ろからベルカナの  
胸を包むように掴んだのだ。  
 それに慌てふためいて咄嗟の反応ができなかったベルカナはそのままぎゅうと  
抱きしめられ身動きが取れなくなってしまった。  
「何をしているのですか!?」  
 ベルカナの抗議を無視しつつ、シャイアラは揉み心地を楽しむかのようにぷに  
ぷにとそのまま胸をもみしだく。  
「綺麗な胸ね」  
 シャイアラさんほどじゃありませんわと、背中に押し付けられるシャイアラの  
胸の感触を感じながら思いつつ、ベルカナは頬を赤く染め首を小刻みに横にふる。  
 
「もうやめた方が、イイ?」  
 やめる? なぜ? こんな気持ちいいのに?  
 ベルカナはそこではっと我に返った。  
 気持ちいい? なんで、私が同性に胸をもまれて感じているの。  
 おかしい。絶対、おかしい。シャイアラさんが魔法を使ったのかしら?  
 しかし、シャイアラさんはそんなそぶりを見せてなかったし……。  
「ベルカナ?」  
 不安げな声が耳元で響く。抱きしめる力が弱った腕をゆるめ、シャイアラの顔  
をみる。心配と後悔を混じった瞳がベルカナを見つめていた。  
 
 ベルカナの中で何かが壊れた。  
 ぎゅうと抱きしめ、シャイアラの唇を奪う。  
 最初はベルカナの突然の変化に戸惑っていたシャイアラだったが、徐々に慣れ、  
ベルカナの唇に舌を差し込む。  
 絡まる舌、交じり合う唾液、そして、融けあう想い。  
 今まで、なぜ、気づかなかったのだろう? この気持ちを。  
 2人は今までの分を取り返すかのように、執拗に、貪欲に、互いの唇を貪り尽  
くした。  
 最後に名残惜しそうに唇を離すと、その間を透明な糸が伝い、そして、儚く切  
れた。見つめ合う2人。  
 
 ベルカナは小さな勇気を振り絞って、自分の気持ちを言葉にする。  
「シャイアラさん、2人のときだけでも、お姉さまと呼んでいいでしょうか?」  
「いいわよ」  
「本当ですか? ありがとうございます。お姉さま」  
 桜色に染めて喜ぶベルカナの頬をやさしくさするように撫でる。  
「別に2人のときだけじゃなくてもいいけどね」  
「いいのです。私はともかくお姉さまが誤解されたら困ります」  
 誤解じゃないと思うけどねと、内心つっこみつつ、いとしい妹の言うことは素  
直に聞いてあげることにした。  
「もっと可愛がってもいい?」  
「はい、お願いします。お姉さま」  
 

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