ぽちゃん  
「ふー」  
 温泉に浸かりながら、ヒースは満足気にゆったりとと息を吐く。  
「あー。ごくらくごくらく~」  
 柄にもなく、鼻歌など歌ってる。  
 ここはエルフの村のエルフ温泉。  
 隣で、エキューがエルフ風呂を堪能している間、ヒースも温泉を堪能していました。  
 
「ヒース兄さん」  
 と、突然の声。振り向くと。  
 
 そこにタオル巻いただけのイリーナさんがいました。  
 
 短い茶色の髪を後ろにまとめて布で丸めてます。シニョンとかお団子とかいうのでしょうか。  
 こうすると、うなじがはっきり見えます。  
 
「ナンノヨウデスカ?」  
 
 ガクガクと震えながらヒース。何かを怖がっているのか、内心の動揺を悟られないようにしているのか。  
「もう。ヒース兄さん。わたしも温泉に入りに来たんですよ」  
 ぽちゃっと遠慮なしに温泉に入り、肩まで浸かるイリーナ。  
そんな幼なじみの少女をヒースは唖然と見ていました。  
「なに見てるんですか?」  
 そんなヒースに、イリーナはニコリと笑いかけます。無邪気に。  
「い、いや・・・」  
 顔を紅くして顔を背けるヒース。  
そんな年上の幼なじみに、イリーナはくすりと微笑を浮かべる。  
「あー。いい湯」  
 温泉の中で、思いっきり手足を伸ばし、イリーナは天を仰ぐ。  
 
 少女の健康そのものの肢体を、ヒースは横目でチラ、チラと覗くように見ていた。  
 正直見とれていた。  
 まるで無駄のない良質な筋肉に覆われたしなやかな肢体。  
決してムキムキに見えないのは、童顔のせいだけでなく、余分な肉が本当に無いからだろう。  
 あの薄いタオルの下には、どんな秘密が隠されているのか。  
 ヒースの視線は無意識に、その胸元に注がれる。ぺたんこの鉄板のような胸へと。  
 
「ヒース兄さん♪」  
 
 と、楽しげな声。  
 ヒースの視線に気づいたかどうか。  
イリーナはバシャバシャと温泉の中を進み、ヒースの眼前に顔を突きつける。  
「どうしたんですか? 顔が紅いですよ」  
 そう言って、お湯に濡れた顔で見上げるイリーナ。首筋のうなじがモロに目に飛び込む。  
「い、いや・・・そのだな」  
 イリーナに間近で見詰められ。ヒースはさらに紅く染まる。むべなるかな。  
 
「いやー! もうやめてー!」  
 と、隣の温泉からエキューの悲鳴。  
「兄さん。エキューを助けなくていいんですか?」  
「いいんだ。ほっとけ。あいつが望んだことだ」  
 ヒースはぶっきらぼうに言い放す。己の照れを隠すように。  
「ふーん」  
 イリーナは呟くと、ヒースの横に座り、ピタッと寄り添う。  
「お、おい」  
 肌の温もりを直に感じ、ヒースはさすがに狼狽を隠せなくなった。  
「どうしたんですか? ヒース兄さん」  
 イリーナは相変わらず無邪気に言う。笑いながら。  
 
「ど、どうしたって・・・・その、なんだ」  
 しどろもどろになり、ヒースはそれ以上は言えなくなる。  
 
 -男と女が裸で同じ温泉に入るもんじゃない。  
 
 そう言うのは簡単だが、言い出せない。  
言うと、イリーナを『女』として認識していると認めるようで。  
 いや実際にイリーナは女なわけだが、ヒース『兄さん』としては、  
妹気分のままでいてほしいという気持ちもあるわけで。  
 
 そんな気持ちを知ってか知らずか。  
 
「ねえ。ヒース兄さん」  
 
 イリーナはピトッ、と顔をヒースの肩に乗せる。  
 
 その顔の柔らかさに、髪の柔らかさに、ヒースは  
 ビビクゥ! と小刻みに震え、心臓が飛び跳ねそうになった。  
 
 その衝撃はイリーナにも伝わったはずだ。  
   
 だが-  
 
 イリーナはそのまま、ヒースの肩に頭を預ける。  
布でまとめた茶色の髪からは、とても良い香りが鼻をくすぐる。  
 
 ああ、女の匂いなんだな、とヒースは思った。  
 そしてそんな匂いを出すようになったイリーナに、ちょっと衝撃と寂しさを覚えた。  
 
 大人になりつつあるイリーナ。  
 そしてもう子供ではないイリーナ。  
 
 どくん・・・どくん・・・・・  
 
 心臓を高鳴らせ、動けない喋れないヒースに、イリーナも黙って身を預けたまま動かない。  
 
(誘ってる・・・・のか?)  
 正直、ヒースにはイリーナの真意が図りかねた。  
 
 ただ子供の頃のようにじゃれているのか。  
 大人として誘惑しているのか。  
 
 目を閉じて肩に置くその表情からは、うかがい知れない。  
 
 兄貴分と一緒に温泉を楽しんでいるのか。  
 女として扱われることを待ち望んでいるのか。  
 
 ヒースには何も分からなかった。  
 あれこれ考えて、頭がのぼせたか。  
 急に視界がクラクラする。  
 でも今は動けない。  
 動くと、イリーナに『何か』してしまいそうで。  
 
「ヒース兄さん・・・・?」  
 
 心配そうなイリーナの声。  
 
 その声を聞きながら、ヒースの視界が完全に黒くなる。  
 
「ヒース兄さんの・・・・馬鹿。意気地なし」  
 
 最後にそんな言葉が聞こえたような気がしたが。  
 ヒースはもはや意識を保っていられなかった。  
 
 
 
「・・・兄さん・・・・ヒース兄さん・・・」  
 
 目を開けて、飛び込んできたのは、イリーナの紅い顔。  
 いつもと雰囲気違うのは、髪をまとめているからか。  
 頭の後ろには、柔らかな感触。  
「ここは・・・?」  
 どうやら温泉の側らしい。  
 明晰な頭脳で思い出しハッと顔を上げた。  
 
 どうやら今までイリーナに膝枕されていたらしい。  
膝の柔らかさが、今でも後頭部に残る。  
 
「大丈夫ですか? ヒース兄さん」  
 タオル一枚だけのイリーナが聞いてくる。  
「ああ。大丈夫だ」  
「そうですか」  
 イリーナは立ち上がり、さっと背後を向く。  
「それじゃあ。わたし先に上がります」  
 ととっと駆けて行くように去っていく。  
 最後に、ヒースの股間を指差して。  
 
「ヒース兄さんのエッチ♪」  
 指差された股間を見て、ヒースは紅くなった。  
 
 ちんこが勃起していた。  
 
(おしまい)  
 

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