シーン1 メラリア・ヴァルサス事件  
 
「…汝らは邪悪なりっ!!」  
捕えた暗黒神信者とメラリアを護送した馬車を皆で見送った。  
イリーナは誰にも知られないよう、こっそりと  
自分自身の体を抱きしめ、支えていた。  
 
 
シーン2 ヒースクリフの自習室 
 
その事件から一晩、導師になれるかどうか、  
今まさにタイトロープというその課題を徹夜で成し遂げ  
解放されきったヒースの元へ幼なじみの少女が訪ねてきた。  
「…わたしを、しょうどく、してください…。」  
意外に小柄なイリーナの体には、朱色の異様な傷跡が、散っていた。  
家族にも誰にもいえない秘密を、幼なじみの兄貴分にだけ、打ち明けた。  
太陽のように明るい、快活なイリーナは  
…もうどこにも、いなかった。  
 
 
シーン3 夜  
 
「――してやる。」  
あらゆる渦巻く感情をおさえ、震える手で、慰めを与えた。  
ヒースのけだるい眼が、机の上の青い小瓶をとらえた。  
魔法薬と薬草学の希なる成果、事件後に徹夜で仕上げた  
『ブルーロータス』の小瓶。  
 
――忘れちまえ。お前を――したヤツのことなんざ。  
 
小瓶をとり握りしめた手に、痛い程、爪がくいこんだ。  
 
 
シーン4 青い小鳩亭  
 
「ごめんなさいっ、ヒース兄さんっっ!」  
「……。」机にかじりつき、ヒースはやけ酒をあおる。  
「いいんだ。さよなら、俺様の導師用ローブ…。」  
にぎやかに、あかるく、いつもの声が響く。  
「では『伝説の魔法・雷付与』の物語、どうぞご静聴くださいませ。」  
「静聴、できるか〜〜〜っっ!!」  
 
…いつもと、同じ、その声が。  
 
 
終  
 
 

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