王都ファンの歓楽街の一角で、その騒ぎは起った。  
貫禄ある壮年の男に率いられた一団の前に一人の美女が忽然と現れたのだのだ。  
“魔女”の二つ名で呼ばれる賢者の学院きっての天才魔術師ラヴェルナその人である。  
普段は“氷の彫像”とも仇名されるほどに冷たい印象の持ち主なのだが、今の彼女からは烈火のごとき迫力が全身から奔っていた。  
その見る者全てを焼き尽くさんばかりの強烈な眼差しが真っ直ぐに先頭の男に注がれる。  
男も女の方を、ややたじろぎながらも見つめ返していた。  
「用件はお分かりですわね。さ、行きましょうか」  
 
有無を言わさず、それだけを告げると水晶の指輪を閃かせ呪文を詠唱する。  
次の瞬間二人の姿はその場から跡形もなく消え失せていた。  
 
自宅の居間に転移した二人だったが“魔女”の怒気は治まる気配がない。  
むしろ人目を憚る必要が無くなった分烈しさが増したくらいだ。  
「さて、まず何から聞かせてもらえるの? 報告? それとも釈明かしら?」  
険しい顔つきで言い寄るラヴェルナに対し、男――ローンダミス。彼女の夫にして王国の近衛騎士団長である――は、困ったような表情で答えた。  
「君のことだ。どちらも必要ないと思うがな」  
 
意外な言葉に虚を突かれた妻に向けて夫が更に言を重ねる。  
「王宮へは既に行って来たんだろう? ならば俺の部隊の報告は聞いているはずだ。街に帰って来た日時なんかも含めてな。でなければ、あそこに来る理由がない。それに何より……」  
一旦言葉を切り相手の反応を伺う。  
妻に一応話しを聞く気があることを確認しつつ言葉を続けた。  
「俺がお前以外の女に心を奪われるなど有り得ない」  
臆面もなく言いきった男の視線にラヴェルナは心を鋭く射抜かれた。  
獲物を捕えて離さない鷲のごとき瞳から逃れるように、つと顔を背けてしまう。  
 
(あの瞳の輝きが、いつも調子を狂わせてしまう)  
それは彼女が初めてこの男に出会ってから今に至るまで、ずっと感じてきたことだった。  
幼い頃から天才ともて囃され、或いは魔女と呼ばれ畏れられてきた彼女だがそれを誇りと思っていたし励みにもしてきた。  
しかし身に募る言いようのない孤独感は募るばかりだった。  
まして学院と王宮の双方で重責を担う今の立場は、彼女に極度の緊張を強いてきた。  
しかし、この男に抱かれると自身の内に秘めた本性に何故か素直になれる。  
仮面と枷から解き放たれ、心地よい安らぎに身を任せられるのだ。  
 
すべてを捨て去りただの女として、愛する男に抱かれる。  
日頃のあらゆるしがらみから解放され、さながら獣のように、ただひたすら肉欲に身を委ね歓喜の涙を流して快楽に溺れる。  
それは逃避であり夫への、いや男への女としての依存だ。  
このままではいけない……と、思う。  
今まで、ひたすらに身を律し、努めて冷静であるよう心がけてきた自分の生き方を根本から破壊されてしまいそうになる。  
しかし一方でそうされることを望んでいる部分も確かに存在するのだ。  
彼を愛し、愛されたい。しかし、その愛に呑み込まれてしまうのは怖い。  
 
ローンダミスが腕を伸ばすとラヴェルナは一歩、間を開けた。しかし半瞬遅く背後から抱きしめられてしまう。  
「お願い…、もう少しだけ待って……。今は、まだだめよ……」  
そう言うものの言葉とはうらはらに動きには力が感じられない。  
ごつごつした筋肉の付いた量感のある腕。  
この腕と、その持ち主は幾つもの危険と災厄から自分を守ってくれた。  
その実感があるだけに、こうして抱きしめられるうちに彼女の内には夫への情欲が次第に高まってきてしまうのだ。  
男のほうもそのことを知悉しているからこそ妻を放そうとはしなかった。  
 
力強い戒めは、やがて愛しい者を包み込む抱擁へと変わっていった。  
じわりと伝わる体温の心地良さと微かに感じる息使いにより着実に彼女の内に有る女としての領域が活性化されていく。  
重ねられた腕から次第に力が抜けていった。  
「ラヴェルナ……」  
耳元で名を囁かれただけで堪え切れずに漏れてしまう熱い吐息。  
幾らか気分が出て来たらしい妻の様子を見て夫が微笑を漏らす。  
ラヴェルナは目を向け、形だけの抗議をしたが細い顎を掴まれ唇を塞がれてしまう。  
ぬるり、と舌で唇を舐められると、その妖しい感触に身震いが走った。  
 
「ん、ふあっ…ん……っんん!」  
堪らず息を継ごうとした途端すかさず舌を挿し込まれる。  
口腔内を隈無く舐られると最初は子供がいやいやするように顔を振っていたはずが、いつしか自分のほうから舌を差し出すまでになっていた。  
舌と舌、唇と唇とが絡み合い静かな室内にピチャピチャと淫靡な音色が染み渡っていく。口元から溢れた、つぅっと糸を引き床に、ぽたりと落ちる唾液。  
そして背後からは男の手がゆっくりと愛撫を開始した。  
背中を上下へと撫で下ろされキュッと締まった尻肉を鷲掴みにされると子宮にズキンと疼痛が走る。  
 
同時にもう一方の手はラヴェルナの乳房をローブの上から揉みしだく。  
着衣のままでもはっきりと分かる豊満な双丘は手の動きに合わせ、自在に形を変えていった。  
「はぁん、だめ…。だめよ、こんな……、ずる…い、んっ!」  
しかし唇を軽く重ねられると自分から舌を突き出し、より深い接吻を求めてしまう。  
僅かに残っている理性がイケナイと警告するが固く痼った乳頭が服の中で擦れる度にあられもない声が漏れるのを抑えられない。  
(だめ、だめよ…。あぁ……そんな…に、しな…っいでぇ。わたし……なっ、ながされ……んっはぁぁん!)  
 
既に彼女の秘部は徐々に溶けはじめ、下穿きの内には愛を感じた証しと分かる染みが現れていた。  
(感……じ…てる。こんなこと、わた…し……。あぁ、でも……、っあんん!)  
身体が熱い。胸が張り詰め、尻が震え、恥ずべき部分が切なく疼く。  
肉欲が豊満な肢体の内で次第に膨らみだす。  
その快感に恍惚となったその時、彼女の身体をまさぐる手が突然離されてしまった。  
 
(……!?)  
 
思わず声に出して続きをせがみそうになるのを必死で堪える。  
妻から離れたローンダミスはソファに身を沈めると淡々とした口調で言った。  
 
「こっちに来て自分で脱ぐんだ。出来るな?」  
「………えぇ…」  
躊躇いは一瞬だった。  
頷いて男の前に歩み出ると羽織っていたローブを、するりと脱ぎ捨てる。続けて腰帯に手をかけ、迷うことなく抜き取った。  
逸る心を抑えて一枚一枚、衣服を脱いでいく。  
剥き出しになった肌を這う男の視線を意識すると、それだけで敏感になった部分に刺激が走るような気がする。  
シュミーズが取られると、ふるふると揺れる豊乳と、その頂きにある二つの突起が露になった。  
見られている、ただそれだけなのに酩酊感にも似た背徳的な興奮が湧き起る。  
 
次いでローンダミスは自分の服をも彼女に脱がさせた。全裸の肢体が男の前に跪き、おずおずと命令に従う。  
ズボンに手をかけベルトを外し下着を下ろさせると女の目前にいきりたつ男根が飛び出し、その鼻をピシャリと打った。  
反射的に顔を離すが目はひたすらにその逞しいモノに釘付けになる。気が付くと再び顔を近づけていた。  
「まずは胸からだ。さぁ、やって貰おうか」  
官能に精神を侵されたラヴェルナが、その命令に背くことはなかった。  
両手で張り詰めた乳房を捧げ持ち目の前に屹立する男根を挟みシュッ、シュッと扱き始める。  
 
(わたし…、なぜ、こんなに……? でも、もう…)  
混乱する心とは裏腹に身体はますます昂ぶっていく。  
乳房を支える手の指先が自らの乳首に触れるとピリピリとした刺激を伴う快楽が駆け抜ける。  
柔肌から吹き出す汗と男根からにじみ出る先汁が混ざりヌルヌルになった巨乳。  
愛する男の快楽のためだけに自分を道具に貶める。その背徳感が一層女の興奮を煽り立てた。  
「くっ、いくぞっ! うぉぉおおおっ!!」  
野太い声を上げ絶頂に達したローンダミス。  
放出された大量の精液がラヴェルナの顔に、胸に、ぶちまけられていく。  
 
その牡汁をうっとりとした表情をしながら指で掬い舐め取っていく。  
鼻を突く異臭も、もはや淫欲を燃え上がらせる燃料だ。  
床の上に仰向けに横たわり脚の間に指を這わせる。乳首をコリコリといじり、秘部を恐る恐る掻き混ぜる。  
それでも望む快楽は得られない。  
白い裸体が絨毯の上でクネクネと卑猥な動きで焦れたように踊り続ける。  
やがて何かが遂に彼女の中で弾けた。  
「ほっ…ほしい、の……。あなたぁ。もう……ね…。来て、おねがい……」  
その言葉を待っていたローンダミスは会心の笑みを浮かべて妻の身体に覆い被さっていった。  
 
その衝撃は突然やって来てラヴェルナを瞬く間に悦楽の渦に投げ込んだ。  
前戯もせずに、いきなり男根を女の腟内へぶち込んだのだ。  
「んはっ! ひぃやぁああん!!」  
熱く太く硬いモノがドロドロに溶けた秘肉を掻き分けて奥深くまで挿し込まれていく。  
幾重もの襞がその剛直に絡み付き更に腟壁全体でキュウッと絞り上げていくのが感じられる。  
大きな動きで腰を使われるとその度に全身がビクビクと痙攣し甘く蕩けた悲鳴を漏らしてしまう。  
「すごっ、こん…なっ、ああぁ、いやぁーっ、こわ…いの、だっ、だめぇぇええぇ!!」  
 
絶頂がすぐそこまで来ている。  
「い…くぅっ。わたし、ひぁっ。っんああぁぁん!」  
だが男の責めは突然止んでしまった。  
「まだ、終わりじゃあないぞ。そのまま四ん這いになって尻をこっちに向けるんだ」  
(……えっ!?)  
戸惑う女に男はニヤリと笑い言った。  
「イかせて欲しいなら早くするんだ」  
ヌルリと男根を引き抜かれ、代わって男の指が女の蜜壷に入れられた。  
焦らすように入り口の辺りで小刻みに出し入れを繰り返されると限界まで膨れ上がった快感がラヴェルナの正気を削り取っていく。  
「ひどっ、ああ……っ、はぁあん!」  
 
快感に支配され思うように動いてくれない身体では男の求める姿勢を取れない。  
男も、それを分かっていながらわざと焦らしているのだろう。  
「素直になれない奴には、お仕置きだなぁ」  
意地悪な台詞とともに愛液に塗れた指が肢体を徐々に這い進む。  
辿り着く先はフルフルと揺れる胸の頂きだ。  
痛いほど尖ったその先端をクリクリと転がされ、或いはギュッと抓まれる。  
口に含んで丹念に舐め回したかと思えば歯を立てて甘噛みしてくる。  
空いた手が反対の乳房や脇腹をサワサワと撫でていく。  
肉欲が心を満たしを膨らむ興奮を抑えれない。  
 
「ひっ、痛っ…いぃ。や……めぇ、んはぁぁ…ん」  
痛みと快感が交互に弾け、脳裏に火花がバチバチと散る。  
しかも、男の加減は巧妙で悪辣だった。女の限界をきっちりと見切り寸前まで押し上げてはスッと引かせる。  
気が狂いそうなほどに泣きじゃくり、悲鳴をあげても男の責めは容赦がなく続けられた。  
「お……ねが…い、たす…け……、死…んじゃ…んぅ」  
穴という穴から牝の匂いを撒き散らし、ダラダラと汁を滴らせ、ビクンビクンと熟れた肢体を震わせるラヴェルナ。  
その精神は極彩色の闇の中に半ば沈みかけ、崩壊する一歩手前だ。  
 
そんな妻に夫はようやく許しを与えた。  
手を挿し延べてその身体をひっくり返し、次いで膝を立たせていく。  
うつ伏せになって床に這い尻だけを高々と突き上げる、まさに牝犬と呼ばれても仕方ない格好だ。  
男はその尻を掴み割れ目をグイッと広げ、口を付けて激しく吸い付いた。  
ジュルッ、ジュルルッ、と音を立てて後から後から溢れ出る蜜を吸い上げ、舌を使ってパックリと開いた秘裂の中を執拗に抉る。  
「ぁ……ぁぁ、んっ、ぁあ…はあぁ……」  
だらしなく口を開け、涎を垂らしながら呆けた表情で与えられるままに悦楽を貪るラヴェルナ。  
 
堕ちきった妻の痴態を前にローンダミスの男根もまた限界を迎えつつあった。  
「行くぞ」  
短い一言を告げられ、背後から一気に長大な肉槍を突き挿されると大量の淫蜜がブシュッと吹き出した。  
激しい動きで腰が打ち着けられるとたちまち女は嬌声上げ、自分からも尻を振り始める。  
湯気が立ち昇るほどに煮えたぎる蜜壷から聞こえてくるのは淫らな有り様を示すかのようなグチョッ、グチョッという恥ずべき音だけ。  
一突きされるごとに頭の芯まで響いてくる魔的な快感。危険な、しかし例えようのない甘美な刺激に陶酔していく。  
 
「ひぃっ、ひぃっ、ぅああぁっ、っは、ああぅ、んんぁぁぁ!」  
絨毯に爪を立て、尻を振りたくり、汗と涎と牝汁を撒き散らし、獣じみた淫声をあげる。  
時折背中や尻を打たれるが、そんな痛みも既に快楽にしかならない。  
肉芽を抓まれ、乳房を揉まれ、力強い律動を秘部に受け、狂おしいほどの悦楽に溺れる。  
「だめ…っ、もっ、あぁ、いくっ、い…っあ、ふぁあああああ!」  
ひときわ高い声で叫びを上げ背をピンとのけ反らせラヴェルナは果てしない絶頂へと昇りつめていった。  
同時にローンダミスも限界を迎え、その精を妻の中へ放出する。  
 
ドロドロに溶けた精神と身体に心地よい疲労を感じながら折り重なって横たわる。  
「…すまんな……」  
行為の後、そう言ってローンダミスが謝るのはいつものことだ。  
労るように身体を撫でる夫の手が気持ちよく、そのまま睡魔の誘いに身を任せていく。  
明日からは、国務に追われることになる。  
だからこそ、今、この身体を満たす充足感を大切にしたい。  
寝室へ運ぶために逞しい腕が自分を抱き上げる。  
その感触を最後にラヴェルナは深い眠りに落ちていった。  
 
了  
 

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