台所、若夫婦が揃って料理をしている。どうやら芋の皮を剥いているらしい。
しかも手解きしているのは夫のほうで、その妻の手付きは些か心もとない。
「だっ、バカ。そうじゃないって。こうやって、こうだ」
「え…と、こうやって……」
夫の手捌きを真似ようとする妻だが、やはり上手くいかないようだ。
「あー、貸せっ。もう一回やってやるから!」
「いいです、やらせてください。出来ますからっ!」
焦れる夫と食い下がる妻。
「だから、根元を押さえて芋のほうを回すんだって。違っ、だーっ、やっぱ貸してみろって……イテッ」
包丁を取りあっているうちに夫が手を滑らして指を切ってしまった。
「ああっ、ごめんなさい。大丈夫ですか!?」
慌てふためき、涙ぐむ妻に気丈に笑って見せる夫。もう片方の手で妻の頭をぽんぽんと叩き、そのままクシャリと髪に指を絡ませる。
「イテテッと、平気へーき。泣くなよ、大丈夫だから。お前なら治せるだろ、これくらい」
「……ぐすっ、はい。手…、貸してください」
傷ついた夫の手を取り祈りを捧げ治癒の奇跡を神より授かる。傷口が塞がっても妻はその手を握り続けた。
「ばかだな、平気って言ったろ? 元気出せって」
ぶっきらぼうな言葉は不器用な夫なりの優しさだ。
頭を撫でていた手をゆっくりと滑らせて妻の顎にもっていき、くいっと上を向かせる。
「ヒース兄さん……」
「“兄さん”は、無しだ」
それだけを告げ、唇を、そっと重ねる二人。
そのキスは今の二人にとって、どんな料理にも優る美味だった。
「…お料理の練習、あとまわしでもいいですよね……」
「ん? …その、まぁ……なんだ。お前さえ良けりゃ、俺は別に……」
どちらからともなく抱き合い、先よりも深く唇を重ねる。
昼下がりの陽光が寄り添う二人の影を優しく映していた。