足元に倒れている、網目状に焦げ目の付いた自らの夫を連れて、
オーファンにこの人ありと歌われる「魔女」ラヴェルナは、歓楽街から自宅の寝室へと瞬時に帰りついた。
少しの間、彼女は床に転がるローンダミスを立ったまま見下ろしていたが、どうも一向に彼が動く様子はない。
仕方がないので、夫のそばに背中を向けて腰を下ろし、彼の意識が戻るのを待つことにした。
ラヴェルナからすれば、それほど強く電撃を放ったつもりは無かったのだが、
ぼんやりしながらしばらく待ってみても、夫はなかなか目覚めない。
ちょっとばかり加減を間違えたかも、とさすがの彼女もわずかに不安を覚え始めたころ、
「ラヴェルナ」
唐突に背後で、ローンダミスが妻の名前を呼んだ。
「……なに」
ラヴェルナは背中を向けた胡坐のまま、いつもどおりのそっけない返事を返す。
「お前は男の甲斐性というものをだな、もうちょっと理解いででででで」
ローンダミスの軽口は、ラヴェルナが彼の火傷の上に、背中から倒れこんだところで中断された。
「まだ言うか」
「言わない。言いません。ちょっとイタイですゆるして」
たっぷりと時間をかけて夫をイジメ抜いてから、ラヴェルナは彼を解放した。
「さて、もう夜も遅いし、ぼちぼち寝ようぜ」
「勝手にすれば?アタシはこれから、王への報告書を書かなきゃいけないの。
どっかのお気楽変態近衛騎士サマと違って、宮廷魔術師は忙しいのよ、いろいろ」
「……動けない。ベッドまで運んでよ、魔法で」
「うるさい黙れ。地獄へ堕ちろ」
「魔女」の二つ名には、非常に相応しいと言える捨て台詞を吐いて、ラヴェルナは立ち上がった。
そして部屋を出ようとする彼女の背中に、
「ラヴェルナ」再び、声がかかった。
「なによ」
「――会いたかったよ」満ち足りた、声音。
「……」
振り返らずとも、彼がどんな表情をしているか――たぶん目を閉じたまま、口元だけで微笑んでいる――は大体わかるので、
彼女は鼻を鳴らしただけで、そのまま無言で寝室を出ると、そっとドアを閉めた。
ふん、そんなの。
――アタシもよ、ばか。