「色気がなくてすいませんでしたっ!」  
むかっとした。ヒースの襟首を掴むと、強引にくちづけた。空気が凍る。  
「…オイ。」ようやく離された唇に真っ白になる。  
「ふんだ。 満足ですか?」「ばぁか。」ヒースはうろたえ、手の甲でイリーナの唇の触れた箇所をゴシゴシとぬぐったが、ふと、迫る石壁に目を向けた。このトラップが、どうしたら止まるの皆目見当すらつかない。  
外にいるのは、頭の堅さで有名なファリス司祭とノリスだけだ。正直アテにはできない。  
マジで死ぬかも。  
拭ってしまった手の甲を見下ろす。…惜しいことを、したかもしれん。  
「…オトナのキスできるか? イリーナ」「へ?」  
「やっぱりオコチャマには無理だな。…こうするんだ。」「!…むぐ…」  
口付け、僅かに開いたイリーナの歯の隙間から、ヒースが侵入しイリーナのものを探り当てた。イリーナは躊躇いつつも、抗わない。  
ヒースは僅かに動揺しつつもイリーナの口内を侵し、イリーナはヒースのなすがまま、舐められ、からめられ、強く吸い上げられた。  
「…ぷはっ。っは。……まあ、色気がないってのは撤回だな。」  
イリーナは顔を真っ赤にし、瞳が羞恥で潤む。  
「…兄さんの、バカぁ…。」「お互いサマ。」  
「もうっ。」ぷっ、と一瞬ふくれた顔が、柔らかく崩れる。  
「…ふふ。もっとたくさん、一緒に生きていきたいです。ヒース兄さんとも皆とも…」イリーナはお祈りのカタチに手を組み、目を閉じる。「…ファリス様…。」  
――ゴゴゴっ  
さらに石の擦れる音にグレソの最後と、命の危険を感じて身をすくませた…。  
―――ゴトン…  
「ヒース〜イリーナ〜、大丈夫〜?生きてる〜?」  
すぐ近くから、ノリスのお気楽な声が聞こえる。  
頭を上げるとすぐ近くの石壁が、ポカリと口をあけて階段の上り口が見えていた。  
その階段の上には、クソガキの顔が覗いていた。  
安堵と照れくささに目配せだけを交わし、無言で階段を登り始めた。  
 
 
「ヒース兄さん、差し入れもってきましたよ〜。」  
昼時、小さなバスケットを抱えたイリーナが顔をだした。「おう、サンキュ。」  
学生も教授方も昼食のために階下へと降り、通常でさえ人数の少ない導師級クラスに割り当てられた、宿舎の階は静かだった。  
「ま、折角だ。ありがたくいただこう。」差し入れのバスケットを、積み上げられた研究資料を脇にどけて置く。  
「サンドイッチと木の実の焼き菓子です。」だろうな、ヒースはちょっと笑った。  
繊細な料理はイリーナの性にあわない。切ってはさむだけ、捏ねて焼くだけ。  
実にシンプルで解りやすい。ひとつ、つまんで口に入れる。美味い。  
まあ、シンプルな料理をあえて不味くさせるのは、ある意味才能だろうが。  
イリーナもマウナも冒険の最中では食事当番になることも多いし、現にそつなく、こなしている。  
それぞれの家庭も、甘やかされて育てられたわけでもない。  
「ラムリアースの紅茶の茶葉があるんですが、ポットは…」  
「ん、あ。 以前に使ったまんま、洗ってねえな。」「兄さんもそういうとこ、男の人ですよね…。  
洗ってきましょうか?」なんとなくトホホな視線。  
「いや、いい。」手元の水差しを引き寄せた。魔術師ギルド内の水は、新鮮な湧き水を魔法のオーブから引き寄せている。  
食事も終わり、話が途切れると、なんとなく気まずくなる。  
お互い、なにもなかったのかのような昨日の今日。  
ちょっぴり、不満と不安で気分がもぞもぞする。  
所在無く立ち上がり、壁際に座るヒースの前に立って、その顔を覗きこんだ。  
「…兄さん。アイラさんのこと好きですよね?」「ん? ああ、まあ、うん。」  
現在、行方不明との噂のあるヒースより年上の女性魔術師。ファン一の富豪の孫で、  
胸も尻もふくよかな肢体をもつ眼鏡美人。ヒースが冒険者として立とうと決意したのは、  
彼女と親しくなりつつあった冒険者と張り合う為だった。  
「カレンさんは?」「へ?」  
冒険をはじめて間もない頃に、お世話になった依頼人。その冒険で遺産を無事ゲットしお嬢様になった、  
イリーナと同世代の清楚で可憐な娘さん。そんな事実もないのに、ヒースは、マイスイートといって憚らない。  
…ホントにそんな事実がないのか、イリーナはよく知らない。  
「ルーシィは?」「おい?」  
隣国ラムリアースへの冒険で知り合ったユニコーンの乗り手で、有力貴族のお嬢様。綺麗な金髪に水色の瞳。  
ユニコーンに将来は超美人とお墨付きを得ている美少女。ヒースはライバルのユニコーンに張り合って  
彼女をゲッチューしようとしていた。今でも寝言にでるのは、彼女の名前だ。  
 
「…私のことは?」「…イリーナ?」「兄さんにとって私は女の子?」  
 
ヒースは固まったまま、イリーナの次の言葉を聞いた。  
「…わたし、ヒース兄さんの好みじゃ全然、ないです。」  
イリーナは愛しげにヒースの手を取り、自分の頬に触れさせ、キスをおとす。  
「ゴメンなさい。でも。」  
「…イリーナ。」そして胸へと誘導した。  
手のひらにはイリーナの胸のふくらみと、硬い頂きの隆起を感じる。  
「ずっと、兄さんのこと好きでした。   
恋愛の対象として、みたことはなかったけれど。 ずっと。   
ううん、ホントはヒース兄さんの顔がちらつくことは、ありました。   
けれど、ずっとずっと、打ち消してきたんです。   
ヒース兄さんをそんな風に思っちゃだめって。思っちゃイケナイって。  
…でも、ダメです。気持ちが、止まりません。」  
恥ずかしさに真っ赤になりながらも、イリーナの手はヒースの手を下方へ誘導した。  
滑らかな太ももへ、スカートの中へ…。  
やめろ、と力まかせに、振放すこともできるだろう。だが、できなかった。  
「…イリーナ!」   
くちゅり、と、ヒースの指に液体の湿った感触がした。  
「抱いてください、ヒース兄さん。」  
ヒースの思考が凍る。  
イリーナは羞恥心に真っ赤になり、潤んだ茶色い瞳でヒースを見つめていた。  
ずっと、妹として見てきた。 めったに逢うこともなくなった本当の妹以上に、『妹』として、大切に愛しんできた。 だけれど、本当はイリーナと同じ。  
ずっと、好きだった。 恋愛の対象として、みたことはなかったけれど。 ずっと。   
いや、実際は時折、イリーナの顔がちらつくことはあった。 あっけらかんとミニスカートを翻し、とっさの危機に裸を惜しげもなく晒す妹分に、視線のやり場に困ったことは一度や二度ではない。  
けれど、その度ごとに打ち消してきた。 そんなふうに思うな。俺はイリーナにとって、ただの兄がわりだ。父性愛に近いものだ。俺サマの趣味は〜、と。.  
ただ一度、気持ちの枷が外れた。あの遺跡で。  
この世への未練をすべて、あのイリーナへのキスで吹っ切ろうとすら、した。  
そして、あの時、イリーナは拒まなかった。  
予感がしていた。何かが壊れてしまう、予感。  
 
「いいんだな…?!」怒ったように、立ち上がると、ヒースはイリーナの身体を壁に押し付け、顔を覗き込んだ。  
イリーナは微笑んでヒースの身体にすりついた。  
息が詰まるくらい長く深いキスを交わす。深く深く貪られる。  
互いの唾液を何度も何度も交わして、嚥下した。  
神官服は胸の上まで捲り上げられ、あまり豊かとは双胸が曝け出される。  
ヒースは両手でその乳房をふにふにと揉みしだき、いとおしげに桜色に頂きを指で刺激したあと、口に含んで、ちゅ、と吸った。  
ヒースがスカートの中に手を入れ下着を引きずり落とす。応えるようにイリーナは足を軽く上げて下着を足から外した。  
ヒースの長い指が、まだ薄い茶色の茂みをかき分け、イリーナの秘所に分け入る。  
くちゅくちゅと猥らな音をたてるように、動かし始める。  
「ぁ、んっ、…んんっっ…」  
イリーナはビクリと身体をすくめ、声をあげる。  
秘所からの熱い蜜は、ごくわずかな愛撫の間に溢れ出し、次の段階へとヒースの背を押す。  
ヒースは黒いズボンの中から、熱く血が上りそそり立つ、男性自身を引き出した。  
お互い立ったまま、イリーナの足を開かせて、秘所にあてがい、強引に押し入れる。  
ぬぷり、とヒースのモノが侵入した。  
想像以上に鈍く重い、初めての強い痛みにイリーナは声をあげる。  
痛みに身体が震え、涙が止まらない。  
「はあっ…ああっ!ヒース兄さんっっ! ヒース兄さぁんっ…」  
「っく…。」ヒースの腰がゆれる。同時にイリーナの身体も上下する。  
卑猥な音が、部屋にこだまする。  
イリーナの目の前に、ヒースの身体の向うに姿見が見えた。  
姿見に映るヒースの背中、背中に絡みつくイリーナの腕。  
兄さんに抱えられ、広げられた足。  
押し入るヒースのモノの痛みに歪み、泣きながらも、鏡に映る自分の顔は嬉しそう。  
気持ちがストンと落ちた。そう、私はヒース兄さんが『好き』なんだ。  
『大好き』。 身体に、全身に、兄さんを感じる。  
唇に、胸に、まわす背中に、秘部に、太ももに、兄さんの身体の熱さを感じる。  
肌の熱さと、体臭と、息づかいを、身体に感じる。  
大好きな人に抱かれている。それは信じられないくらい、幸せなこと。  
それをヒースの肩越しに、鏡の中に見ている。  
「…はぁっ、兄さんっ、ヒース兄さんっ、『好き』、…『大好きっ』。」  
ヒースの腰が叩きつけられる。イリーナの身体も上下に揺れる。  
はあっ、はあっ、はあ、はあっ、はあっ…  
獣のように荒い吐息が、切ない。  
もっと、もっと、もっと、身近に感じたい。  
互いの身体。その境界線がもどかしい。もっと、ひとつになれたらいいのに。  
「く、はぁっ!」達する直前、ヒースはイリーナから、ペニスを引き抜いた。  
「は、…あぁっ」イリーナは切なげに声をあげる。  
ヒースはイリーナに背を向け、壁に肩を預け、汗にまみれて荒い息を繰り返している。  
はあ、はあ、はあ…。  
姿見には、汗だくで胸を露出し、足を開いた、猥らな自分の姿だけが、映っている。  
ヒースの身体で隠れないで晒されたその姿は、醜くくみえた。  
「…イリーナ。」「兄さん…。」「帰れ、今すぐ。」冷静を装った、低く震える怒声。  
「にいさ…!?」「…はやく!」  
千切れそうな思いで服を正し、バスケットを手にヒースの部屋を飛び出した。  
『嫌われた…。私が無理矢理、誘ったから…。 醜い自分を見せたから…。  
兄さんが、本気で怒ってた…。  
…わたし、ヒース兄さんに嫌われたんだ…』  
刹那の幸せから、一度に地に突き落された。 絶望的な思いだった。  
 
 
―――――  
『オチた。落とされた。 完璧に、ハマった。 抜け出せる自信が、ない。』  
後悔、罪悪感、怒り。すべて自分に向いていた。  
絶頂直前の、身体の震えが止まらない。  
ほんの僅かに刺激を加え与えただけで、それは白濁液を床に撒き散らした。  
「くぅ、あっ…。…は! 情けねえっ…。」  
羞恥と後悔で、顔を覆う。  
ただ、今わかるのは。   
イリーナ。  
その名前が『妹』ではなく、『女』そのものを意味する響きに、変ったことだけ。  
止めることができた。途中までは。  
だが、結局は止められずに強引に、イリーナの処女を奪った。  
奪ったとたん、止めることなど考えられなくなった。  
ただ、ただ、イリーナの身体をより深く、貪りたい。その欲求だけの雄になった。  
…イリーナに、溺れた。  
女がすべてそうなのか、イリーナが特別で、もしかしたら『名器』と呼ばれるモノなのかどうかは知らない。ただ、強く熱く深い快楽に、飲み込まれていた。  
とにかく、欲望のまま胎内に出す直前に、理性を引き戻せたのは僥倖だった。  
「イリーナ…。」下腹が、まだ足りないと主張して、うずく。  
無理にでも帰さなければ、初めてのイリーナをどこまでも貪り、犯し、  
もしかしたら、壊していたかもしれない。  
いや、逆にどこまでもイリーナの身体に、絞り尽くされたのかもしれないが。  
「……情けない兄貴分で…スマン。」荒い息を抑え、壁を背に床に座り込み、うなだれた。  
堪える為の体力はあまり、無いようである。  
 
 
――――――  
泣きながら走って帰った。その日は小鳩亭にも早めに顔をだして、用事があるからと、ヒースに顔を合わせる前に帰った。  
ヒースを受け入れた身体の一番深い場所が、傷ついた痛みを主張していて、  
神聖魔法で治そうかとも思ったけれど、これがヒースとの最後の繋がりのようで、それも躊躇われた。  
「…ヒース、兄さん…。」  
怖い。こうなる可能性だって、わかってたはずなのに。気持ちが止められなかった。  
より多くを、期待してしまった。  
遺跡でのキスから…。女の子として見てもらえるんじゃないかって…。  
浅はかだ。  
キスして、オトナのキスをして。抱いてもらった。  
つかの間だけど、確かに幸せだった。だから、一度きりでも、満足しなきゃ…。  
わたしはヒース兄さんのことが、好き。大好き。 だけど。  
でも、皆と別れなければならないのなら、これからヒース兄さんとずっと気まずい思いするくらいなら、  
ヒース兄さんに嫌われるくらいなら、何も無かったことにする…。  
…全部、忘れてしまってもいい…。  
その夜イリーナは、ココロの痛みに震えながら、眠った。  
 
 
―――――――  
次の日の夕方、イリーナは小鳩亭で珍しくお酒を頼んだ。  
しかも早々に度が過ぎ、酔ったイリーナはこっそりとマウナやバス、エキューらの手を借りて個室に隔離された。  
看板冒険者のファリス神官のへべれけな姿を、常連とはいえ一般客に見せるわけにはいかない。  
それは例えば、警察官がへべれけな姿を一般人に見せるがごとく、店とパーティのイメージダウンになるから。  
「にぁあ。」「あら、デボン。ヒースは?」  
マウナは若い白猫に話しかけ、残り物の小魚のフライを小皿にとって出した。  
白い猫はデボン・ロンデル。ヒースの使い魔。  
諸処諸々の事情があって、以前に失った使い魔・カラスのフレディの代わりに、新しくヒースが儀式を行って使い魔にした。  
口の堅い元主人より、使い魔から知れるだけの情報を引き出そうという目論見もあった。元主人が結局、亡くなったのも一因だ。  
「にぁあ。」ぱたぱたと猫が、尻尾を振る。  
「そう、まだなのね。 悪いけど個室のイリーナ達の傍にいてくれる? そっちにヒースの分も運ぶから。」  
小魚を食べおわって一息ついた白猫は、不思議そうに首を傾げた。  
個室の前で「なあ。」と鳴くと、扉が開いてイリーナが顔を出した。  
「あ、デボン〜〜。」イリーナがとろんとした瞳で白猫を抱えあげた。  
「おいで〜〜。」イリーナは白猫を自分の席に招き、レアな焼き鳥をわけてあげる。  
白猫の食事風景を愛しそうに眺めながら、イリーナの体が斜めに傾いて行く…。  
「ふにぁ〜?」  
なれない量のエールのジョッキ林に囲まれて、イリーナはテーブルにつっぷした。  
「…ねぇ、デボン。わたし、ヒース兄さんに嫌われちゃったのかなぁ…?」  
テーブルの上にちょこんと座るデボンを覗き込んで、イリーナは悲しそうに呟きテーブルの上で顔を隠してしまった。  
白猫はイリーナの頬を慰めるように舐めた。  
 
しばらくの後、夜の小鳩亭。  
「よう。」「あら、ヒースいつものでいい?」「おう。」  
マウナは焼き鳥とエールを注文しに厨房へと消える。  
個室へと足を向け「よ。」と、手をあげて、それぞれに挨拶する。  
「あ、きた。今日も依頼は入ってないよ。」ノリスが報告する  
茶色い髪の白い神官服はテーブルの隅の方で動かない。  
「イリーナはもう潰れてるのか。」「らしくないね。」エキューが果汁を飲みながら呟く。  
ノリスとバス、エキュー、そして養女のマウナはこの宿に常駐しているから、遅くまで付き合っていたのだろう。  
ガルガドは用事ができたら呼んでくれと、今日は神殿を離れていない。  
「しょうがないな…メシ食ったら、とっとと送って行ってやるか。」  
照れくささから秘め事を悟られないよう、デボンを抱えあげながら、なんでもない顔で、恩着せがましく言った。  
 
背にすやすやと、寝息が聞こえる。背にイリーナの温かさを感じる。  
背にイリーナを負うたのは、あのイリーナの死亡事件以来だった。  
今でもそれを思い出すと、心が冷える。  
その記憶のせいか、今はイリーナの体温を感じる事が、嬉しい。  
「…むぅ〜、…ひーす、にいさん〜?」背中でイリーナが、目を覚ました。  
「おう。」夜道をファリス神殿へと歩く。もうそう遠い距離ではない。  
ちなみに後ろから白猫が、てちてちと着いてくる。  
「……ひーす、にいさんは…」小声で続ける。  
「ひーす、にいさんは…えっちなコ、嫌い…?」  
「嫌いじゃないな。」歩を進めながら、ヒースの口に微笑が浮かぶ。  
「…ひーすにいさんは、えっちなわたし、嫌い…?」  
「えっちだろうが、なんだろうが、イリーナはイリーナだろ。」  
「…わたし、ヒース兄さんに、嫌われて、ない…?」  
「んなわけ、あるか。バカ。」言ってから、ヒースは苦笑を浮かべた。  
その呟きをデボンの耳で聞いたときに、同じ科白を講義中にうっかり漏らしてしまって周囲を凍りつかせていた。  
「大事な、俺サマの、イリーナだ。」  
「…ホント…?」  
「ん? 証明がほしいのか?」背中で、こくりと頷いた気配がする。  
「このまま、俺の部屋にくるか?」ファリス神殿までは後、ほんの少し。  
「それか、明日の午前中から昼までなら、俺は手が空いてる。 尋ねてキナサイ。」  
イリーナの体を地面に下ろして、答えを待つ。  
イリーナはおろおろと、神殿への道とヒースの顔を見比べた。  
やはり、朝帰りはしたくはないようだ。  
微笑を浮かべて「じゃ、また明日ナ。」と背を向けて手を振った。  
「デボンを、預けておいてやる。いつでも繋がるとは限らないが…ま、何かあったら、連絡ナサイ。」  
「にゃあ。」足元で、白にゃんこが、イリーナにすりついた。  
 
ヒースの背をぼんやりと見送る。  
ナニカ、イワナケレバイケナイ、タイセツナコトガ、アッタノニ…。  
白猫を抱きかかえ、イリーナは酔いを振り払おうと、軽く頭を振った。  
ヒースの姿は、ファンの闇に消えてゆこうとしている。  
「…まってください…。」  
本来なら聞こえる筈もない、距離と小さな声。  
けれど、ヒースの足が止まった。  
「そのまま、ちょっとだけ、まっていてください。」  
ゆっくりヒースが振り返る。  
イリーナは神殿へとあぶなっかしく駆け出し、しばらくして戻ってきてヒースと並んだ。  
「…おくっていきます。どうしても、いま、いっておきたいことが、あるんです。」  
 
わたし、さいていだ。  
あやまらなきゃ。ゆるしてもらえなくても。  
ずっと、じぶんのことばかり、ヒース兄さんのきもち、考えなくてなくて、  
むりばかりいってて、こんなのじゃいけない。  
ヒース兄さんは、まだ、こんなに優しくしてくれるのに。  
わたし、まだ、ちゃんと、あやまってもいない。  
 
人通りのなくなったファンの夜道を、ふたりで並んで歩きだした。  
「…ごめんなさい、兄さん。」  
やや肌寒い夜気に、イリーナは小さな白い毛玉に暖をとり、うつむきながら切り出した。  
「ごめんなさい。わたし、兄さんのキモチ考えて、なかったです。」  
「…まあ、イリーナは一度暴走すると、止まれないからな。  
ま、暴走した後、ちゃんと反省できるトコがイリーナのいいとこだが。」  
冒険中にはそれで苦労したことも、非常手段として簀巻きにして止めたこともある。  
「…ほんとうに、ゴメンナサイ…。」  
「…HAHAHA。正直、俺様。背筋が凍った。」おどけて肩を竦めてみせる。  
「…あ、んで、ひとつ確認しておきたかったんだが…、イリーナ。   
遺跡でお前が飲んだアレ、媚薬やラブ・パッション(惚れ薬)ってことは、…ないか?」  
「…媚薬や惚れ薬…?」  
「もし、そうなら、とっとと解毒の呪文でカタがついた。  
それに気づけなかった俺にも責任がある…。」  
 
「…どう違うんですか? ホントの気持ちと…?」  
「ん〜、そうだな。」知識の中から媚薬として有名な魔法薬のデータを引っ張りだす。  
「薬を飲んだ瞬間から、身近な相手にゾッコンになっちまうのがスタンダードな、ラブ・パッションだが? 俺様も匂いは嗅いだが、影響はなかったし…。匂いもそれらしく、甘くはなかったが…。  
もし二人で影響されていたら、即座に熱烈なバカップルが出来上がるところだったな。HAHAHA。」  
「…それは、たぶん違うと思います。…即座にと言う訳では、なかったですし…。」  
「ん? …そうか。」嬉しそうでも、落胆したような声音でもなく、淡々とヒースは応じた。  
「…ゴメンナサイ。」  
「アヤまるな。オレサマもイロイロと、悪った。」  
「違います。兄さんは悪くないです。最初に軽いキモチでキスしたのはわたしなのに、  
そのキモチを止められなかった。それに…無理やり、誘ったのはわたしです。」  
「俺も、悪かったんだよ。 煽って、その気にさせた。拒めたのに拒まなかった。  
流されて、傷つけた。うかつな態度で…お前を泣かせた。」  
「…どうして…どうして、そう、兄さんはいつも、優しいんですかっ…」  
「イリーナ?」  
「ずるいですっ。だからっ、…好きになっちゃう…。  
期待して、甘えて、止まれなくなっちゃうっ…。」  
あやまることすらも不要と煙にまき、いい加減にみえる、さりげない優しさ。  
「兄さんの気持ち、大事にしたいのに。嫌われるコトなんてしたくないのに。  
…謝りたいのに。ただ、許してもらえなくても、謝りたいのに…。」  
ぽんぽんと茶色の髪を、軽く言い聞かせるように叩く。  
「…アー、わかった。謝罪は聞いた。ちゃんと聞いたぞ、イリーナ?   
…ではそれに対する返事をするぞ? いいな?」  
ヒースはイリーナの顔を伺い、泣き顔寸前のイリーナはこくりと頷いた。  
「…許してなぞやらん。イリーナ、責任取れ。」  
「へっ?」  
「おまえさんの悪辣で邪悪な手管のせいで、  
オレサマの清らかな貞操が奪われたのだ。 責任とれ。」  
普通は逆だろ!とツっこまれそうな、微妙な表現に困惑しながら、  
「…ええと、具体的にどうすればいいんですか? 」  
アイラさんやカレンさん、ルーシィと懇意になる手伝いをしろとでも言うのだろうか?と、イリーナは首を傾げる。  
「あー、もう、ホントに頭の悪い。  
…とりあえず黙ってついてこい、イリーナ。」  
 
静まり返った魔術師ギルド。そのヒースの部屋。ちなみに白猫は、現在自由行動。  
ヒースが壁の棚から、いそいそとランタンをひとつ選び出し、灯りを点す。  
その棚には、某土産物の名所地名提灯のごとく、ランタンが10個ばかりずらりと並んでいる。  
「適当にすわっとけ。」言ってヒースは、一度姿を消し、次に現れる時には手に、ティーポットと水差しを持っていた。  
「湯が沸くまでしばらくかかるな。」薬草の煮詰めに使う小さな実験用ランプに火を点し、三脚を置き、その上にポットを乗せる。  
イリーナはベッドの端で、ヒースは椅子に足を組んですわり、  
しばらくは二人で、そのオレンジ色の火を、黙って眺めていた。  
 
「…俺は誰にでも、見境なく優しいわけじゃない。」  
ぽつぽつと、ヒースが言葉を紡ぐ。  
「本気で拒むなら、いくらでも手段はあった。  
そうだな、パラライズかけて簀巻きにして、頭冷やせバカモン!と  
部屋から放りだしていたかもしれん。」  
イリーナは、その最悪の光景を想像して、ぞっとした。  
「…だから、自業自得。自己責任。そしてイリーナを本気で嫌っている訳でもない。  
ちょっとばかし、自分自身に腹がたっただけだ。」  
「ありがとうございます、兄さん。…それだけでも、救いになります。  
後はもう、煮るなり焼くなり、好きにして下さい。」  
ショボーンとイリーナは肩を落す。  
ヒースはそのイリーナの言葉に、常にはない壁を感じた。  
幼馴染だから、わかる。 いつも一緒だったから、感じる。  
己の行為を恥じ、怖れ、造ってしまったイリーナのココロの壁。  
もどかしさに苛立ち、立ち上がり、イリーナの手首を掴んだ。  
イリーナはビクリとして、ヒースの顔を仰ぎ見る。  
「後悔しているのか? イリーナ。   
お前は俺に抱かれたことを、後悔しているのか?   
もしそうなら、俺にはなにも言うことはない。   
今までどおり『ただの幼馴染』でいてやる。」  
お前はそれで、…いいのか?」  
ヒースの怖いくらいに真剣な表情。冒険のさなかに見せる本気になった時だけの顔。  
「…ヒース兄さん、わたし…、わたし、欲張っても、いいの…?」  
欲張りは罪悪だけれど、大好きなひとを潔く諦められる程に、いまだ心は強くない。  
イリーナは涙を浮かべて、ひとことひとこと、絞り出すように、問い掛けた。  
「…ヒース兄さんの、傍で、誰よりも傍で、  
一緒に、ずっと、ずっと、一緒にいても、いい…?」  
「傍にいてくれ。他の男の、誰のものにもなるな。」  
ヒースは会心の皮肉屋な笑みで、妹分の体を抱きしめた。  
ぶっちゃけ、とっくに腹はくくっていた。  
自分の中にイリーナへの欲望を、独占欲を認めた時、腹をくくるしかなかった。  
 
抱きしめる腕の中に、甘い匂い。  
最初の時には気づかなかった、優しいイリーナの匂い。  
服の上からでも、イリーナの肌の温かさや、甘い匂いに安らぎを感じる。  
いとおしさが広がる。それはとても、暖かくて、優しい感情だった。  
未だに小さく、くすん、くすんと、泣いているイリーナを子供のように背を叩いてあやす。  
茶色の頭髪にキスをする。額に、瞼に、頬に、顎に。  
二人の瞳が逢う。どちらともなく瞳を閉じて、愛しい人を唇に感じた。  
――もう何度目のキスになるだろう?   
軽く触れるだけのキスなのに、今が一番、愛しい相手を身近に感じる。  
まるで、今初めてキスをしたように、心がどこまでも安らかに澄んでいく。  
「――ん、落ち着いてきたな。 湯が沸いた。茶でも飲もう。  
おまえさんが差し入れてくれた、ラムリアースの。」  
熱くなったポットをおろし、火を消す。  
「…えへへ。 実はそれ、ルーシィが贈ってくれたんですよ。 皆さんへって。」  
「は? 俺サマ聞いてないぞ?」  
「言ってませんから。」さらりとイリーナが言う。  
「ロイヤルな紅茶だったのでマウナとエキューが図って、兄さんの分ガメちゃったんです。  
 ちょっと申し訳なくて、わたしの分を分けて持ってきたんですけど。」  
「くっ、マウナのヤツめ。」茶葉を入れ抽出すると、ふわりと、よい香りが部屋に広がる。  
「…ルーシィに未練、あります? もうヒース兄さんが、夜中に寝言で名前呼んで、やきもきしたり、しなくなるんでしょうか?」  
「あーどーだかなー。」視線を逸らし、遠くを眺める。  
背を向け、顔を逸らしていても、イリーナの表情がわかる。長い付き合いだから。  
肩で笑う。振り向いて見たイリーナの顔は、予想通りの膨れっ面だった。  
「ほれ。」笑いを噛み殺しながら、温かい紅茶を手渡した。  
イリーナの喉がこくりと鳴る。「あ、おいしい。」  
「…うまいな、たしかに。」ついで飲んだヒースも誉める。  
「ルーシィ、いいコだね。」「ま、一度はオレサマの眼鏡に適った娘だしな。」  
「兄さん、それって遠まわしに、気を使ってくれているつもりなんですか? ちょっと、遠まわし過ぎなんですけど。」ちょっと悲しげに小首を傾げる。  
ヒースはそんなイリーナを、可愛いと思ってしまう自分に、苦笑いをした。  
以前なら「あってはならんことだ。」と、即座に打ち消していた感情を、受け止める。  
 
空のカップを机の上に置き、ヒースはイリーナと並んでベッドに腰掛けた。  
「イリーナさん。」「はい?」「ちょっとこっちにキナサイ。」  
イリーナの体を膝の間に移動させ、後ろからと、きゅっと抱きしめた。  
「…ヒース兄さん?」「…ちょっとだけ、黙ってろ。」  
…とくん、とくん、とくん、とくん…  
鼓動だけが、伝わる。響く。次第に、少しずつ速くなってゆく。  
少ずつ、肌に感じる体温が、温かくなっているよう。  
「…わかるか? イリーナ。」イリーナの小さな手を包むように、ヒースの大きな手が重ねられる。 その手が、僅かに震えている。  
「兄さん…?」「わかるか? 俺が、お前に、欲情、してるんだ。」  
首筋にヒースの唇と吐息が触れ、イリーナは思わず唾を飲み込んだ。  
「責任とりやがれ、イリーナ。」「せ、責任って…。」「…抱かせろ。」  
「…それは」もちろん…とイリーナが続ける前に、言葉が続いた。  
「んでもってガキができたら、責任とって、イリーナ、産め。」「ヒース兄さんっ?!」  
「オレサマ体力ないから、毎回必ず、外ダシとか、多分無理。」  
冗談めかしてとんでもないことを、さらりと言う。  
一度は狼狽して、頭の中が白になったり、トホホな気持ちになったイリーナも、  
懸命に気持ちを立て直すと、気づけることがあった。  
「その時には兄さん、パパになってくれるんですよね?」  
包むヒースの手を重ね返し、甘えた声で言ってみる。  
「…それも、やむなし。」半ば観念したような声音の返事が返ってきた。  
「えへへ。逃げちゃ、ダメですよ?」  
「もうすでに、子持ちの気分だけどな。3人の娘の。」  
「チビーナ達の妹弟分が、そのうちできるんですね。  
あは。ちょっとダケ、はやく会いたいって思っちゃいました。」  
「…もうしばらくは勘弁して下さイ、いりーなサン。」  
ヒースの手がイリーナの神官衣の、胸の赤いリボンに伸び、解く。  
開いた鎖骨にヒースはくちづけを落す。そのまま、舌を首筋に這わせ耳元まで移動すると、甘く耳朶を噛んだ。神官衣の上着の中に潜ったヒースの左手が、イリーナの滑らかな肌をさわさわ、と這い、右手はスカートのホックを外した。  
「ぁっ、んんっ…」  
「うむ、イイ。そそられますナ。もっと鳴いてくれなさい。」  
 
「や…っ、兄さんのイジワル…。」  
「意地悪な兄さんが嫌いか? んん?」「…嫌いじゃ、ないです…」  
赤面して俯くイリーナの上着を脱がせ、スカートをすべらせ、落す。  
ランプの光でオレンジ色に浮かび上がる、イリーナの肌の色は艶かしく美しい。  
たしかに筋肉娘なだけあって、ムダのないすらりとした肢体は、ちょっとした身動きで  
筋肉の筋がわかり、腹筋が割れていたりはするけれど、かえって物珍しさで目が離せない。  
それでいて男とは違う、女性特有の身体の丸みが愛らしい。  
そのまま惚れ惚れと眺めていると、イリーナが抗議の視線を送ってきた。  
「兄さん、ズルイです。わたしだけ、モノスゴク恥ずかしいんですけどっ。」  
「おおう、悪い悪い。」自分もさっさと上着を脱ぎ上半身を曝け出す。  
イリーナが動揺し、軽く息を呑む音が聞こえた。  
ちょっとした思い付きから、ベッドに座るイリーナ前に立ち、イリーナの手で腰のベルトを外させるように誘導する。  
イリーナは中から現れた下着と、男のモノに真っ赤になって視線を反らせた。  
「ナンダナンダー? イリーナサンが欲しがっていたオトコのシンボルですゾー?」  
「…ふえ〜ん…兄さんやっぱり、意地悪ですっ…」  
「嫌いじゃないんだろ?」くくく、と邪悪ちっくに笑う。  
「ま、それはさておき。確かにミタメは凶悪だが、これも俺様の大事な体の一部だ。  
いとおしんでクレナサイ。…今はともかく、追々に…。」  
イリーナの手をとり、それに触れさせようとイタズラ心を起こしたが、「うひゃぁっ…」と、  
全力で手を引っ込められて、ちょっぴり傷つき意気消沈なヒース。  
屈んで、イリーナに残された最後の一枚をゆっくりと下ろすと、着衣はまとめて椅子の背もたれに掛けた。  
もはや布一枚身に着けていない、イリーナの小柄な身体をすっぽりと胸の内に抱き締める。  
「あ…。」互いの素肌が直に触れる。恥ずかしさもある。それ以上に心地よかった。  
イリーナは恥ずかしげに、ふわりと笑って、ヒースの首に腕を回して擦りついてきた。  
「勿体つけると、なかなか照れくさいもんだな。」とくに一度目は勢いだっただけに。  
「悪かったな。強引にやっちまって。」イリーナは首をふるふると振る。  
「いいの。兄さんが、抱いてくれた。それだけが大事なんです。それに、ちょっぴり、  
 わいるどな、兄さん…とても素敵でした…。」  
(…ナニカ、嬉しいことを言われている、キガスル…)ヒースはうっすらと赤面した。  
焦りに逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと両手をイリーナの小さな肩へ背中へと這わせる。  
肌を優しく撫で上げながら、軽くついばむようにキスを交わす。  
イリーナの唇は、弾けるような弾力を持ちつつ、やわらかくて、そして甘い。  
舌が隙間に入り込み口腔内を優しく探る、イリーナはその動きを受け入れ、応えた。  
舌が絡まって、ぴちゃぴちゃ、と卑猥な湿った音が部屋にこだまする。  
 
愛しさと、卑猥さに息が上がる。どれくらい時間が立ったのかわからないくらいに、長い長いくちづけ。  
ようやく唇を離すと、二人の間を唾液が、つぅっと糸を引き、途切れた。  
ヒースは軽く息を整えると、舌と唇を首筋へと這わせ、そのまま鎖骨へ、そして胸へと降りていった。  
指が刺激で固くなった桜色の蕾の先端を摘み、転がす。  
愛おしさに押されるまま、舌で舐めると唾液がランタンの光を受けて、てらてらと妖しく艶めいて、小振りな乳房が震えた。  
舐め、甘噛みをし、転がす、その度ごとにイリーナの甘い吐息が、空気を震わせる。  
滑らかな腹に背に手を這わせて、さらに快感をひきだす術をもとめて彷徨う。  
きゅっと引き締まりながらも柔かさと、愛らしさを残す尻や太ももを、幾度も優しくなで上げ、揉みしだく。  
尻の谷間を深く侵してヒースの長い指先が這う。「…ひんっ!」行きつく先に与えられた刺激に、  
尻を震わせイリーナは声を殺した悲鳴を上げた。  
イリーナのまだ薄い栗色の茂みを、焦らすようにゆっくりとかき分けてゆく。  
恥丘の谷に指を潜りこませ、刺激を与えつつ少しずつ更に降りる。  
雌芯を探りあてると、指で挟み、ぷるぷると刺激を与えた。  
僅かな間に雌芯は強く反応し、イリーナが息を乱し、首を激しく振って悶えはじめる。  
「あ、やん、…やだっ…こんなのっ、こんなの、しらなぃっ……はぁっ…」  
同時に秘所から溢れた熱い蜜が、ぬちゅり、とヒースの指先に絡んだ。  
「あ、すげ…。…イリーナ……お前……こんなにして。」  
「あん、いやっ、やだ、言わないでっ、は、恥ずかしい…」  
「いいのか? 感じてるのか? イリーナ?」ヒースは刺激しやすいよう体位を変えて、  
雌芯を弄る指先にさらに激しさを加える。  
「…はぅ、んく、…兄さん、兄さんっ、いいよう、…でも、切ないの、  
にいさんが、遠く、なっちゃうっ…あ、やだ、いやっ…いやぁっ…!」  
半開きの瞳を潤ませ、いやいや、と首をふる。  
そんな姿にヒースの本能が、嵐のように刺激される、痛いほど下半身が猛る。  
イリーナの肌に浮かんだ汗の玉を舐めとると、イリーナはビクリと喉を反らせた。  
親指で雌芯を刺激し続けながらも、イリーナの秘所から溢れ出る泉へと指を伸ばす。  
そこはイリーナの一番深い場所、一番熱を持つ場所。中指に蜜を絡めて深く深く差しいれる。  
くちゅくちゅと猥らな水音が響きはじめる。  
「あ、つぅっ、…にいさんっ、ひーす、にいさんっ…」「大丈夫だ。すぐに良くしてやる。」  
ぬちゅ、ぴちゃ、くちゅ…。容赦なくイリーナの秘所を捏ね回し、刺激し、押し広げる。  
二人の口からは荒い吐息がこぼれ、イリーナの意味を成さない喘ぎが続く。  
ヒースの手と腰が動き、イリーナの蜜の溢れ出した秘所にヒースのモノを擦りつけた。  
 
蜜を己のモノにねっとりとからませて、蜜を溢れ出す泉や太ももに、ぬるぬると擦り付ける。  
イリーナは下半身から伝わる、熱く切ない刺激にもどかしさを覚えて腰を震わせた。  
「ひゃんっっ…」「…わかるか? 俺の×××××がイリーナの××××に…って、…どうした、イリーナ?」  
イリーナはヒースの口から飛び出した単語にあまりの恥ずかしさに全身真っ赤になって顔を伏せて硬直していた。  
口を両手で覆い涙目にすらなっている。  
(やっぱりイリーナには、猥語でも効き過ぎるくらい、効くな。)  
これで容赦なく言葉責めをしたり、おねだりを強要したらどうなるだろう?   
と、ちょっぴり嗜虐心そそられてしまう。(ま、追々に、だな。)  
そのうちでいい、イリーナの唇がモノを啄ばんでいるところも、見てみたいもんだ。  
きっと悶絶してしまうくらいに気持ちよくて、可愛くて、そして愛おしいだろう。  
「悪かったヨ。」とイリーナの体をぽんぽんと、あやすように叩いた。  
ベッドの上にイリーナを横たえると、ヒースはイリーナの小柄な体を、体の下に組み敷いた  
ほつれた象牙色の髪が、イリーナの胸をくすぐる。お返しとばかりに、目前の火照ったヒースの胸を  
さわさわと刺激し、乳首に、ちゅっとくちづける。  
「おうっ!?」不意打ちで受けた刺激にヒースは、危く限度を超えかけた。  
(おのれ、こいつめ。…そのうち絶対に、イロイロと開発してやる、からな!)  
恥ずかしげなイリーナの足を、問答無用でM字に押し開き、熱い蜜を溢れ出す秘部に、ヒースの男性自身をあてがう。  
「いくぞ。」一言声をかける。イリーナは瞳を笑みのカタチに変えることで応えた。  
ぐっと押し込む。 先端がイリーナの熱い蜜とモノに包まれる。「くっ…。」  
その感触だけで意識がトびそうだ。それにもかまわず、さらに深い快楽を貪るために、  
まだ窮屈なその場所を、ぬぷぬぷと侵してゆく。(…やっぱり、イリーナ…スゲ…。)  
イリーナの手は刺激と痛みを耐えているのかシーツを固く握り締めていて、放射状のしわがシーツによっている。  
完全には埋まらないが、ヒースの強張りの殆どを、イリーナの熱い秘所が咥えこんだ。  
イリーナは痛みに震え、その微妙な震えはヒースを快楽の深淵へと突き落とそうとする。  
「動いて、いいか?」問うヒースに、イリーナはこくりと頷いた。  
「無理、しないで。…兄さんの好きに、して、ください。」  
「そっちこそ、無理すんな。」  
ゆっくりと、突き上げる動きにイリーナの双胸が揺れる。ベッドが軋んだ音をたてる。  
リズムをもった、猥らな水音が響く。  
イリーナの吐息が、すべての動きが、響く音が、少しずつ、確実に、理性を奪っていく。  
…はあっ、はっ、はぁっ、はぁ、はあ、…。 …あん、はっ、あぁんっ、んん…。  
ヒースの象牙色の髪が、汗に額に張りつき、イリーナの肌に汗が散る。  
 
そして徐々に速くなる腰の動きに、イリーナが腕を伸ばし、逞しいヒースの首を抱える。吸いつくように肌が触れ二つの双胸の先端が、ヒースの胸にぷるぷると擦れる。  
イリーナから求めて、ヒースの唇にくちづけた。求めるように舌をヒースの唇に這わせると、ヒースも応えて舌を伸ばし絡め、舌を吸い上げた。  
呼吸なんて、ままならないくらいに、高ぶっているのに、それでも繰り返し繰り返し、キスを交わす。  
腰を打ちつける度ごとに、せつなくも熱い刺激が、じりじりと身体を覆い尽くし、際限なく、高みへと登りつめてゆく。  
イリーナは半開きの瞳の端に大粒の涙を浮かべ、堪え切れない刺激に嗚咽を漏らしながら、いやいや、と首をふる。次第にその身体が、がくがくと震えだし…  
「ああぁっ! にいさんっ…! あぁんっっ…!」  
突如、イリーナの中がイキナリ締め上げ、弓のように背を、喉を仰け反らせ喘いだ。  
「! くぁっ、…イリーナぁっっ!!」  
その刺激に、ヒースも限界を超えた。   
脳髄から身体中を熱い衝撃が走る。 止められない。  
自身をイリーナから引き抜こうとするが、襲ってきた強い刺激のために意識が朦朧とする。  
熱い奔流がほとばしる。ヒースの身体は震えて、白濁した熱い液をぶちまけた。  
ようやく意識を引戻し、目を開けるとそこには、白と肌の色でまだらに染まったイリーナの肢体があった。  
イリーナは達したのか、涙を流した目をぎゅっと瞑り、身体をビクビクと震わせている。  
「イリーナ…。」頬に触れる。その頬や唇にも白い飛沫が飛んでいる。  
ヒースは痺れる身体をなだめつつも、やや放心して、その妖しい猥らな光景を眺めていた。  
「……に、いさん?」「……お、おう。」  
程なくして意識が戻ったのか、イリーナが声をかけて来た。その声にハッと我に返る。  
「あ、わり。…汚しちまった。」ベッドから降りて、タオルを引っ張り出してくる。  
イリーナの頬や唇を、首筋や胸を、下腹を、そこに散った情事の後を、丁寧に拭ってゆく。  
「にいさんも。」イリーナの小さな手が、ヒースからタオルを受け取り、ヒースの手や腹や汗にまみれた肌を、不器用に拭っていった。  
ふと、互いを拭う手が触れる。瞳が逢う。照れくささの中にも、満たされた優しい想いを感じ取る。ヒースはイリーナの手を取り、手のひらにキスをした。  
「あ、えと、…兄さん、ありがと…。」  
照れくささにイリーナは、はにかんで背を向け、顔を隠してしまった。  
「ドイタシマシテ? てゆーか、お互いサマ?」  
ヒースは後ろからイリーナのうなじにキスを落し、舌を這わせながら、抱き締める。  
「ふっふっふっ。えっちな、いりーなサンを、たあっぷりと、拝見、堪能させてイタダキましたからネエ。」  
くくく…と意地悪く笑うと、「うぎゃ!」という悲鳴と共に、ヒースの腕に八重歯の噛み後が残った…。  
「もうっ! てゆーか、自業自得?」ヒースを見上げ悪戯っぽく笑うイリーナの細い腰を、ちょっぴり涙目で引き寄せ、ベッドの上に転がせた。   
 
夜明けまでは、まだ時間がある。  
 
 
…毛布の中、何もしなくても身体に触れて感じる互いの肌の温かさで心地よい。  
「…兄さん、ヒース、兄さん。…好き、大好き、です。」  
すっぽりと抱き締めるヒースの耳もとで、くり返し甘く囁くイリーナの声。  
それは心地よい音楽のよう。  
ぴちゃ、ぴちゃっ…と、幾度も惜しむようにくちづけをかわし、  
それでも情事の後の疲れと気だるさに、次第に眠りへと落ちていった。  
 
 
 
朝方、ふと目覚めると、ヒースの温かな腕のなかにイリーナはいた。  
体にはヒースの腕が、まるで大切なものを守るように巻きついていて、  
とても幸せで、くすぐったい気持ちになる。  
ヒースは目を閉じ眠っているよう。表情は安らかだった。  
(ヒース兄さん、ありがとう。)  
ちょっと小首を傾げると、ズキリと、頭に重い鈍痛が襲った。多分、昨夜のお酒のせい。  
兄さんに嫌われたと思い込み、過ぎたお酒を飲んでしまった。  
慣れない鈍い痛みに『キュア・ポイズン』をかけようとして、ふと昨夜の会話を思い出す。  
『媚薬や惚れ薬の影響…ってことはないか?』  
そうではないとは思う。でももし、そうでも、絶対に後悔なんかしない。  
(ヒース兄さんが好き。大好き。抱いてもらって、もっともっと好きになった。)  
このキモチは、間違いでも、偽りでもない。  
「ファリス様…」呪文を唱える。「…『キュア・ポイズン』」  
頭の痛みが薄れていき、確かな手ごたえを感じる。   
同時に意識もクラリとまわり、ぽてっ、とヒースの胸の上にイリーナの頭が落ちた。  
(あれ? ふふ。まだ、ねむい、の、かな…。)  
頬や身体に感じるヒースの肌の温かさに、イリーナは幸せな夢の中を落ちていった…。  
 
 
―――ソシテ、いりーなハ、アノ日カラ、此ノ夜マデノ日々ヲ、忘レタ―――。  
 
 
大事な人、愛する人の記憶がすっぽりと抜け落ちたなら、  
その関係はもう一度、最初から築き上げるしかない。  
タイミングを失すれば、関係事体を諦めなければならない事だってあるだろう。  
そうならなくて、よかった。と、ヒースは思う。  
消失の痛みは今も僅かに残るけれど、それでも腕のなかにはイリーナがいる。  
その小柄な身体を抱きしめて、そう思う。  
 
昇ってきたばかりの月の光が窓から差し込む。  
「はじめてなのに、はじめてじゃないんですよね? ヘンな気分です。」  
腕の中のイリーナはくすぐったそうに笑った。  
「同じイリーナ、なのにな。」ヒースはイリーナの首筋に顔を埋めた。  
一度は諦めかけた、イリーナの肌の匂いに包まれる。  
「ひゃっ?」キスを落とし、こっそり赤い印しを残す。オレサマのもの、と  
「…おかえり、イリーナ…。」「へ?」  
「いや、なんでもない。」神官衣の赤いリボンを、いそいそとヒースが解く。  
「あ、えと、ひーす、にいさん。」「大丈夫だ。処女のつもりで、優しくしてやる。」  
「それは、そうお願いしたいんですけど。…聞きたいことがあるんです。」  
「なんだ?」「最初わたしと二度目わたしと、その間にあった出来事を…」  
「そのうち聞かせてやる。今は聞かないほうがイイ…と思うぞ?」  
「ふえ?」(今から泣いて逃げられても困るしな。)上着を脱がせる。  
今のイリーナが、最初は自分から猥らに誘惑したことを知ったら、多少なりとショックをうけるだろう。  
万が一にでも逃げ出して、橋の下にでも行かれたらと思うと、口を噤まざるをえない。第一、メンドクサい。  
「また失うのは、勘弁だからな。…トラウマもんだ、アレは。」スカートのホックを外す。  
「ごめんなさい。わたし、結果的に兄さんを混乱させてしまって、弄んだようなカタチになるんですよね。」  
「悪いと思うなら精精、オレサマに御奉仕なさって下さい、いりーなサン。HAHAHA」  
(ぎりぎり)  
「あたたたたっ。俺様、片耳エルフになるので、耳をひっぱるのはヤメテくれなさイ。」  
「にいさーん…。」ベッドの上に下着だけの姿でぺたんと座り込み、トホホな表情で、ヒースを見あげる妹分。  
愛しさに、きゅっと抱きしめると、イリーナはおずおずと抱きしめ返してきた。  
イリーナの身体をベッドの上で組み敷き、ヒースは声を落して耳もとで囁いた。  
「逃げるなよ?」 イリーナは、ふるふると首を振り、応えた。  
「…好き。大好き、です…。ヒース兄さん…。」  
イリーナはヒースの首に、腕をからめて、その時を待った。  
 
 
         Fin  
 
 

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