【192頁14行目から】  
 
「お褒めにあずかり、光栄です。  
 それでは、これで用は済みましたので始末させていただきます」  
 その声に反応して、ラミアの背後でドッペルゲンガーが変身を解除して、蟻から元の姿へと戻った。この接触を予期して、ここ数日ずっと近くに潜み、機会を伺っていたのだ。  
 音は立てなかったはずだが、ラミアは盗賊ギルドの幹部だ。気配だけで背後の敵の出現に気付き、振り向いて身構えた。  
 ラミアが反撃しようとする前に、ベラが素早く全力で静寂の呪文を唱え、同時にドッペルゲンガーが電縛の呪文を唱えた。ラミアは輝く雷の網に絡め取られ、完全に動きを封じられた。  
 電縛の雷鳴とラミアの叫びは、ベラの唱えた静寂の呪文によって封じられた。電光の輝きも、ベラが事前に路地の出入り口に配置したシェイドによって完全に隠蔽されている。  
 恐らくラミアはすべてが自分の思惑通りに進んで、浮かれていたのだろう。他人の重要な秘密を知り、その相手に自分が秘密を知っているなどと無闇に伝えるのは、陰謀渦巻くファンドリアでは極めて迂闊な行為だ。  
 やがて、かつてラミアと呼ばれていた女性は性別すら判然としない消し炭の塊と成り果てた。  
「秘密を知っている者は消す。それが鉄則なんです」  
 ベラは、二日前に迷宮の中でマイシリカに伝えた言葉を繰り返す。すると、最後に聞いた彼女の言葉が脳裏を過ぎる。  
(いつかあなたもこうなるのよ)  
 そうだ。いずれ、自分もだれかが企てた陰謀の犠牲となって消えるのだ。それがいつか、あるいは敵か味方のどちらの手によってかはわからないが……  
「それじゃあ、あたしはこの姿で何日か過ごしてから、適当な理由で消えるから」  
 ラミアそっくりに化けたドッペルゲンガーは、オリジナルそっくりの声色と口調でそう伝え、微笑を浮かべながら、軽く手を振って別れを告げた。  
 
【以下、194頁頭に続く】  
 

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