妻に出て行かれ、男やもめの生活をしているとやはりこの年でも
男としての寂しさが出てくるものだ。
かといって娼婦を抱く気分にはなれず、春画を買う勇気も無く、
ここ最近愛弟子のヒースの部屋に彼が不在の時にこっそりと何冊か彼の秘蔵書を
失敬しているという状態が続いている。
先日いつもの様に彼が風呂に行っている隙を見て、部屋の床に置いてあった本を
持って行った時の事だ。
自室で本を開いた時、ページの間に書置きが挟まっていた。
それを見るとヒースの文字で一文。
「もうちょっと声をおさえろ。聞こえてるぞ」
ま、まずい。ヒースにばれてしまったのだろうか?
取りあえず師匠として悟られるわけにはいかない。
そう思っていたがやはり気になってしまうのか、今日の朝食の時も彼の方向を
何度も見てしまった。
どうやらヒースも気づいてしまっているのだろう、苦虫を噛み潰した表情が
見てとれるように分かった。
明日のゼミは気が重い…。胃薬を再び常備する日が続きそうだ…。