あれから兄さんに冒険に出るぞと誘われて。
いろんな仲間と知り合い、そして別れて。
でも一番大切な人はずっと傍にいてくれる。
そして今、その人の胸の中に私は生まれたままの姿でいる。
「イリーナ、起きろ。もう朝だぞ」
「うにゃ…」
窓から当たるお日様がまぶしい。
私はまだ睡眠を欲しがってる目を開けて声を掛けてくれた人を見る。
「ヒース兄さん…」
「ほれ、もうすぐアノスだぞ。今から出れば夕方には着くぞ」
そう、冒険を終えて私とヒース兄さんはファリス教の総本山であるアノスに向かっています。
きっかけは私の「一度アノスまで巡礼の旅をしてみたいんです」の一言。
その我侭について来てくれたヒース兄さん。
仲間に見送られながら約半年位、一緒に旅をしてきました。
途中、邪悪なものを成敗したりいろいろな場所に寄ったりして楽しんできました。
あ、ちゃんと巡礼もしましたよ?
本当ならもっと掛かるんだけど、夜中に眠る私をおぶって兄さんが「飛行」で進んだりしてくれたから普通の旅より遥かに早いそうです。
アノスに続く街道を歩く私たち。
「兄さん、もう少しでアノスですよ!」
私の声にヒース兄さんは疲れた様子で答える。
「分かってるよ…。ったく、昨日夜遅くまでしてたのに何でお前はそんなに元気なんだ…?」
「何か言いました?」
もう、周りの人に聞こえたらどうするんですか。
少し恥らいながらそれでも兄さんをにらみ付ける。
「イエ、ナンデモアリマセンヨいりーなサン?」
この都合が悪くなると言葉遣いが変わるのも昔からだ。
荒く息をつきながらのたのたと歩いている兄さんを尻目に私は駆け出す。
そうそう、目的はもうひとつあります。
これは兄さんも知ってる事なんですが…。
アノスに着いて、巡礼の旅が終わったらそこの神殿で誓いの儀式をするんです。
つまり、そのー…。
結婚式を挙げるんです!
もう仲間にも手紙を出してあります。
私のお父さんやお母さん、ヒース兄さんのご両親、ハーフェン導師や小鳩亭のおじさんとおばさん等知り合いの殆どが来てくれるそうです。
リジャール王も是非参加したいと言って周りの重臣に止められた、という事も書いてあります。
みんなラヴェルナさんの「瞬間移動」でこちらに来るそうです。
久しぶりにみんなの顔が見れると思うと嬉しくなっちゃいます。
眼下にはアノスの城下町が見えてきました。
「兄さーん!もうすぐ着くよーっ!」
私はありったけの大きな声で兄さんを呼びます。
そして大きく手を振って嬉しそうな顔をしながら私は兄さんを見つめていました。
巡礼の旅は終わりますが、私たちの旅はこれから始まります。
そう、人生という名の素敵な旅が…。