「どうしたの、ゆかりちゃん?」
「さっき、佐藤と田中が話してたんだけど、『自家発電』って何?」
「え?」
「なんとなく悠二のことだと思ったんだけど、悠二の家はちゃんと電気が通ってるし、
発電機なんて置いてないの。だから、単に電気のことじゃないと見当は付けられる。
で、しばらくしたら私とあなたの名前が出てきた。どういうこと?」
「私の名前が?」
「うん、よくはわからなかったんだけど」
……ものすごく複雑。
佐藤君や田中君がそんなことを言うことよりも、坂井君がほんとうに私を、その、想
像でも、……していたとしても、それはそれで、複雑なのだけれど。
彼女が、それを、全くわかっていないことも、来るべき最後の手段として実力行使に
でるときには有利に働くかもしれないことも、それはそれで、ひょっとしたらいい材料な
のかもしれないけれど。
心の片隅に、わずかに生じたさざなみ。
−−ゆかりちゃんは、坂井君の家の中まで知ってる。
たったそれだけのこと。
でもそれが、とげのように突き刺さって。
「あ、ちょっと待って!」
後ろからの声も聞かず、駆けだしていた。今は少しだけ、一人になりたかった。