敗北は時に人を前進させるが、少なくとも現在の坂井悠二には焦燥の種でしかない。  
(くそっ、こうも一方的に負けるなんて…)  
眼前の少女をにらみつけるが、むこうは意に介した風もない。  
むしろ彼女の闘気に圧倒されそうになる。  
相対しているのはアラストールのフレイムヘイズ、シャナ。  
百戦錬磨の彼女に胆力での勝負は分が悪い。  
(落ち着け、呑まれちゃいけない)  
深呼吸をひとつ。  
焦る気を静めると、さらに大きく息を吸い込む。  
必勝の気合を込めて右手を翻す!  
「スリーカード!」  
シャナの表情は動かない。  
ぐっと唾を飲んで彼女の手を見る悠二。  
その手の中には――  
「フルハウス」  
「えええええぇぇぇっ!? また僕の負け!?」  
 
ここは坂井悠二の自室。  
常のように学校帰りに坂井家を訪れたシャナを、やはり常のように千草がぜひ夕食に  
と引きとめ、現在に至る。  
「トランプなら勝てると思ったんだけどなぁ…」  
目下8連敗中、見事な負けっぷりである。  
「ふふん、勝負の年季がちがうのよ」  
嬉しそうにシャナがチップ代わりのメロンパンをひっさらっていく。  
暇つぶしにとポーカーを持ちかけたのは悠二のほうだった。  
日ごろの鍛錬で一方的にやられている分ここで一矢報いようとひそかに企んだのだが  
当てが盛大に外れた。  
 
ちなみに、今彼女の胸元にはコキュートスはない。  
アラストールはまた携帯電話に偽装して、千草とおしゃべり、もとい、会談中である。  
最近アラストールはよく千草と話したがるようになった気がするが、まあ仮にも紅世  
の王が人間の、それも人妻に対して妙な気をおこす事はないだろう……と思う。  
 
「で、どうするの? そっちのお菓子は無くなっちゃったみたいだけど」  
「え…、あ,本当だ」  
熱くなっているうちに、チップを使い切ったことに気づかなかったようだ。  
「ま、今日はこの辺で勘弁してあげてもいいわよ」  
その圧倒的優位の微笑みに、さすがに悠二がむっとなる。  
「勝ち逃げする気かよ。もう一勝負!」  
「でももう賭けるものないじゃない」  
「そ、それは…、そうだ! 負けたら何でもいうことをひとつ聞く! それなら  
文句ないだろ」  
自分で言っててもかなり危険な条件のような気がしたが後の祭りだ。  
「ふーん、いいのね?」  
「う…」  
シャナの浮かべる危険な笑みに、背筋に冷たいものが走る悠二だった。  
 
「ま、当然の結果よね」  
「何でここ一番で勝てないんだ僕ってやつは…」  
上機嫌のシャナとひたすらヘコむ悠二。明暗くっきり分かれた結果となった。  
「さて、なにをさせようかな」  
「お、おてやわらかに……」  
(まさか市内のパン屋一巡してメロンパン買ってこいなんていわないよな…)  
ほとんど気分は刑の執行を待つ囚人の気分である。  
 
しばし考え込んでいたシャナだったが、やがて素晴らしい悪戯を思いついた子供の表情を  
浮かべる。  
「決めた、お前イスになりなさい」  
「イ、イス!?」  
よりによって物扱いときた。  
「ほらほら、何でも言うこと聞くんじゃなかったの?」  
「わかったよ…」  
もはや己の軽挙を呪うしかない。  
仕方なくその場で四つんばいになる。  
「…なにやってるの?」  
「なにって…イス」  
「それじゃ背もたれがないじゃない。ちょっとベッドへ行きなさい」  
「ったく注文の多い…いてっ!蹴るなよ!」  
「敗者がぶつぶつ言わない!」  
弱肉強食の理をその身にひしひしと感じながらベッドに腰掛ける悠二。  
「で、どうするんだ?」  
「別に、そのままでいいわ」  
「え?」  
シャナはその場くるりとで背を向けると、ちょこんと悠二の膝の上に座る。  
「これでよし」  
(いやいやいやいやよくないよくないいや個人的にはいいんだけどいやそれは決して  
いやらしい意味でとかじゃなくてなんかこういきなりというのは僕も心の準備がって  
なに考えてるんだ僕はああもうなにがなんだか!)  
そんな悠二の胸中も知らず、シャナは戦利品のメロンパンの封を破り始める。  
「私がコレを食べ終わるまで動いちゃ駄目」  
一方的に言われても困る。  
何しろ彼女が居住まいを正そうと膝をもぞもぞさせるたびに柔らかなヒップの感触が  
ダイレクトに伝わってくるのだ。こんな状態で欲望を感知されたら本当に真剣で叩き  
斬られかねない。  
(お、落ち着け落ち着くんだ!)  
人知れず死線の間際で格闘する悠二。  
 
と、メロンパンを取り出したシャナが振り返る。  
「悠二、息がうるさいんだけど」  
「え!? あ、ああごめん!」  
心臓が止まりかけた。が、安堵する間もなく凄絶な表情で彼女は続ける。  
「言っておくけど、何か妙な真似をしたら――」  
「し、しない、しないって!」  
ならいい、とシャナはメロンパンに向き直る。  
(し、死ぬかと思った)  
根本的な問題は解決していないが、とりあえず目の前の危機を脱したことで悠二の体に  
脱力感が押し寄せる。  
そのとき、あることに気づいた。  
(小さいな…。それに軽い…)  
学校で教師たちを圧倒するシャナ、徒を討滅するシャナ、心身ともに強さを誇る  
フレイムヘイズ。しかし時々思い返す、マージョリーに敗れて自分の胸にすがって  
泣いた彼女の姿。  
あのときに自分の心は決まった  
自分が彼女を守ろうなんて思い上がりが過ぎることはわかっている。  
でも少しでもいい、どんなことでも力になりたいというのは、自分の偽らざる本心だ。  
だから自分の膝の上で幸せそうにメロンパンを食べる彼女を見ていると胸の奥が暖かくなる。  
シャナが幸せになれるなら膝でも何でも差し出そう。覚悟はできているのだから。  
(そして僕は……)  
(叶うことなら僕は君と……)  
膝の上の小さな彼女への愛しさがあふれる。  
シャナがそこにいる。シャナのそばにいる。  
その幸せを感じたくて、確かめたくて、感情の導くまま悠二の腕は無意識に動いていた。  
 
 
それがおきるまでシャナはすこぶる上機嫌だった。  
メロンパンのカリカリを味わい、モフモフを堪能する。その反復動作はまさにこの世の至福。  
それが勝負の末に勝ち取ったものであり、しかも場所が悠二の膝の上とくれば味も格別だ。  
このまま2つ目も食べてしまおうか。そう考えたとき、腹部に何か暖かいものを感じた。  
(え…、ちょ、ちょっと…)  
いつの間にか悠二の両手がおなかに添えられていた。  
想定外の事態に一瞬硬直した後、頭が急沸騰する。  
(な、なななななっ!)  
軽いパニックを起こしたシャナは現状に対応すべくもっとも単純で効果的なアクションをとろうと  
する。  
つまり悠二の煩悩と頭蓋を粉砕すべく拳を固めたのだ。  
(それ以上ちょっとでも動かしたら殺る!)  
臨戦体制を整えながら、戦闘で言うならば後の先をとるべく悠二の気配をうかがう。  
パニックと同時に併発した胸の動悸はまだ戻らないが、かまってられない。  
部屋の中に緊迫した空気が流れる。  
10秒……20秒……30秒……。  
何の動きもないまま、悠二の手から伝わる暖かさがシャナのおなかを浸す。  
(…ま、まあいいかな、これぐらい…)  
これ以上の危険はなさそうだ。  
悠二が私をどうにかできるわけないし、と自分に言い聞かせながら緊張を解く。  
そう、何も恐れる必要はない。なにかあったら千草にいわれたようにぶっ飛ばしてやればいいの  
だから。  
それに、正直なところこの体勢はお腹がポカポカしてなんだか気持ちよかった。  
そうして意識をメロンパンに戻そうとしたとき再び心臓がはねた。  
髪の上から柔らかい感触がする。  
それが悠二の頬だと気づくのに一瞬かかった。  
お腹に回っている腕に力がこもる。背後の悠二の体がやや前傾しシャナの背と密着する。  
ちょうど悠二にすっぽりと抱きすくめられる形。  
(……………!!)  
悠二の真意が読めず先ほど以上に混乱する。  
ただの罰ゲームだったはずが、予想もしなかった意味を帯び始めた。  
 
(ど…どうしよどうしよ!?)  
今まで学んだ情報に、想い人から抱きしめられたときの対処法はなかった。  
こんなときに的確な助言をくれる千草はここにいない。  
アラストールはその千草と一緒に階下にいる。  
孤立無援の状態で、心臓の鼓動だけが加速していく。  
(な、なんとかしないと)  
男女の営みについては生理学の一環として学んだことがある。  
そして以前キスについて調べた際に読んだ文献には、抱きしめられた直後に、具体的な描写はなかったもののその男女の営みへと移るシーンがあった。  
(つまり、このままいけば私は悠二とその…せっく…)  
そこまで考えてシャナの頭はとうとう爆発した。  
もはや力技で押し切るという選択肢を忘れ、ほとんど泣きそうになりながら無駄とは知りつつも助けを求めて部屋の中を見回す。  
押入れ……誰かいるわけがない。  
机……論外。  
窓は……と窓を見た瞬間、目が吸い込まれ離せなくなった。  
宵闇色に切り取られた窓の向こう。  
そこに悠二がいた。  
ベッドに座り、真っ赤になった自分を抱きしめて。  
目を閉じたその表情は、眠っているようにも、祈っているようにもみえる。  
その穏やかな顔の中にかすかに見える何がしかの決意。  
敬虔とすらいえるその姿にシャナの中で何かがはじけた。  
(あ……)  
胸のおくから甘い疼きが疾り、それが全身に伝わるのはあっという間だった。  
同時に息が苦しくなるほど切なさがこみ上げる。  
窓の向こうに駆け寄って悠二を抱きしめたい、そんな衝動に駆られた。  
いつの間にか不安やあせりは消えていた。  
 
悠二に包まれている部分が暖かく、とても心地よいことにいまさら気づく。  
ふと、窓に移る自分と目が合った。こわばっていたその表情はすでにほどけ、どこか幸せそうだ。  
思わず自分でも笑みがこぼれる。  
そのまま目を閉じると、悠二の腕に自分の手を添える。  
暗闇に包まれた二人だけの世界で、悠二の鼓動と温もりがシャナを包む。  
心の中だけでそっと問いかける。  
悠二………私のこと好き?  
その瞬間――  
フウッ  
「ひゃあぁん!!」  
悠二の息が耳にかかった。  
体の奥をびりびりと何かが駆け抜け、下半身がむずむずするような奇妙な感覚。  
股の間から何かがあふれ出す。  
(!!)  
「ああっ、ご、ゴメン!」  
その未知の刺激の正体もつかめぬまま体を上に引っ張り挙げられた。  
(ああっ……!)  
体を包んでくれていた悠二の温もりから引き剥がされる。  
その絶望的な感覚に抗おうとするが、悠二は手の届くところにいない。  
部屋の冷気がちくちくと背中を突き刺す。  
今まで感じたことのないような喪失感にさいなまれながら、シャナは目を開けた。  
 
(な、なにやってんだ僕は!)  
シャナを抱きしめているうちに彼女の暖かさとかすかに漂う甘い香りに包まれ、  
いつの間にか意識が飛んでしまっていた。  
自分の行為に気づいたのは、悲鳴を聞いてからだった。  
とりあえず故意ではないことを示そうと部屋の反対側まで飛び退ったが、彼女から見れば  
不埒な行為を働いた愚か者の逃亡にしか見えないような気もする。  
恐る恐るシャナのほうを見る。  
顔はうつむき加減で表情はわからないが肩がかすかに震えている。  
(やばい…間違いなく怒ってる…)  
過去の経験から考えると、これはもう大太刀での一撃は避けられないだろう。問題は  
それが峰か刃の方かということだ。  
いつも「峰だぞ」の一言を入れてくれるアラストールはいない。  
シャナがす、と立ち上がる。  
(父さん母さん、先立つ不幸をお許しください…)  
思わず両親に詫びを入れる悠二。自分がすでに死んでいることは忘れている。  
「………わよ」  
「……え?」  
問答無用の一撃を覚悟していた悠二は、予想外の反応に目を瞬かせる。  
「勝負。続けるわよ」  
「え、あ、う、うん」  
てっきり激怒して襲い掛かってくるかと思っていたが、シャナは無表情のまま  
自分が座っていた場所へと戻る。  
 
(ど、どうゆうつもりなんだろ…)  
トランプを配りながら彼女の表情を伺うが、相変わらず無表情で沈黙を守っている。  
これならいっそボコボコにされたほうがまだ気が楽だ。  
悠二にとっては針筵も同然のこの状況で勝ちを拾えるはずもなく、あっさり勝負は決する。  
「…さっきの条件はまだ有効よね?」  
「は、はい」  
思わず敬語になる。  
「ベッドに横になりなさい」  
一瞬、なぜベッドに?という疑問が頭をよぎるが、シャナの気迫に押され従ってしまう。  
(これからなのか…?)  
ベッドの上で仰向けになりながら自分に降り注ぐであろう『懲罰』を想像する。  
(殴るなら立たせたほうがやりやすいだろうし…まさか解体する気か!?)  
想像がグロいほうへいってしまう悠二。  
「あの…シャナ? さっきのはってちょ、ちょっと! シャナ!?」  
彼女が自分のからだの上にまたがってくる。  
制服のスカートがまくれて白いものが見えかけるがそれどころではない。  
そのままシャナは体をこちらへゆっくりと倒してくる。  
(え? え? え? え!?)  
今度はシャナが悠二にぴったりと張り付く状態。  
悠二の頭はオーバーヒート寸前だった。  
 
胸の鼓動は収まらない。体の火照りもひどくなる。  
何かが股間にあふれたときから体を支配していた甘い疼きはより激しいものへと変わった。  
自分でもそれが何なのかわからないまま、悠二の温もりを求め体を密着させる。  
悠二の腕、悠二の足、悠二の胸。だが、まちがいなく悠二に触れているはずなのに先ほどの  
ような満足感を得ることができない。  
(なんで…どうして…!?)  
その苛立ちをぶつけるように詰め襟を握り締め、顔を胸に押し付ける。  
「しゃ、シャナ?」  
悠二の戸惑った声が苛立ちに拍車をかける。  
(もっと…ちゃんとさっきみたいにギュッてしてよ…!)  
じれったくなって足をこすり付けるがぜんぜん足りない。  
これほど願っているのに伝わらず、かといって口に出すことはプライドが許さない。  
八方塞の中、焦燥に駆られたシャナの思考はある危険な賭けを思いつく。  
 
一度混乱した思考は現状を認識する力を奪う。  
自分の体の上をシャナが這い上がってきても、その意図に気づくことができなかった。  
「あ、あのシャナ…」  
眼前に迫った彼女の表情は怒りのせいでこわばっているように見えた。  
吹きかかる熱い吐息が、悠二には自らの顔面を焼く炎のように感じられた。  
と、突然シャナの顔が迫る。  
驚いてとっさに目を閉じた瞬間、歯に何かが激突した衝撃が走った。  
口のあたりを何かに押さえつけられる感覚。  
何なのか確かめようと目を開けてみて愕然とする。  
そこには目を全力で瞑って紅潮した顔を自分の唇に押し付けているシャナの姿。  
(こ、これってキスだったのか!?)  
密かに想像していた甘いものとは違う暴力的な感覚。  
だが驚愕はそれだけにはとどまらなかった。  
 
「ふむぅ!?」  
何かぬめったものが口を割って侵入してくる。  
それは悠二の口内を文字通り蹂躙した。  
それがシャナの舌だということを一瞬遅れで理解する。  
「シャナ! なにを――」  
「うるさいうるさいうるさい!ぜんぶおまえのせいよ!」  
たまらずにシャナを引き剥がした悠二が目にしたのは、今にも泣き出しそうにゆがんだ彼女の表情。  
「人のことをこんな風にしといて! 人のことをこんな気持ちにさせといて!」  
いきなりぶつけられた感情の奔流に狼狽しつつも、なんとかことの原因を問いただそうとするが、シャナの激情がそれを許さない。  
「こんな、こんなのって、どうすればいいの!?」  
彼女の腕にいっそう力がこもる。  
その怪力に戦慄しながら、悠二はこの状況に既視感を覚えた。  
それは彼女の涙を初めてみた日。  
(僕は…また傷つけてしまったのか? でもどうして?)  
今日帰宅してからの出来事がぐるぐると頭の中をめぐる。  
千草、トランプ、賭け、チップ、罰ゲーム、懲罰、キス――  
とりとめもなく廻り続ける断片的なイメージ。  
それらがまったくまとまらないまま彼女と目が合う。  
涙に濡れ、吸い込まれそうなほど深い彩をしたその瞳を見た瞬間――  
悠二の中ですべてがはまる音がした。  
 
自分でも無茶を言っているのはわかっていた。  
それでもこの体を蝕む熱が理性の制御をうばったまま返してくれない。  
ディープキスは以前愛染兄妹に見せ付けられたものを見よう見まねで再現したものだった。  
(千草からは誓いの証だって教わったのに……)  
彼女を裏切ってしまった罪悪感が胸を締め付ける。  
そして肝心の悠二に気持ちは届かなかった。  
涙でかすんだ視界の向こうで、戸惑っていた悠二の顔から表情が抜け落ちていくのがわかる。  
背筋がぞくっとした。今度は間違えようもない、悪寒。  
悠二が口を開こうとしている。  
紡がれるのは非難、罵倒、侮蔑、あるいは拒絶か。  
(いやだ…いやだ、いやだいやだいやだ!)  
破滅の瞬間を直視できずに再び体が暴走した。キスの形をとった暴虐で悠二の口を封じる。  
(違う、こんなことがしたいんじゃないのに…)  
だが過ぎ去った時は戻らずただ無情に流れた……  
…………………………………………………………………  
くちゅっ  
突然舌に何かが触れた。  
(え……)  
くちゅ…ちゅくっ…  
柔らかくて暖かいものがシャナの舌のまわりを滑りながら触れてまわる。  
やがてそれは舌をやさしく包み込んできた。  
(これって…悠二の…?)  
意識した途端、心臓がどきどきと高鳴りだし、頭がじわりと甘く痺れる。  
思考が桃色の霞にかかったようになって何も考えられなくなる。  
さらさらとした悠二の舌が水音を立てて口内を嘗め回す。  
自分が強引に行った乱暴なものとは違う、優しくて深いキスに思わず涙がこぼれた。  
 
胸を締めつけていた絶望を、歓喜が洗い流して幸福感が熱く心を満たす。  
(嬉しい……。でも、どうして…?)  
そっと目を開ける。  
目の前の悠二の顔は赤く染まりかすかに震えてすらいる。  
だが、目を瞑ったその表情は静かで透徹な、あの敬虔な表情だった。  
すでに限界だと思っていた鼓動がさらに激しさを増す。  
後頭部に暖かいものが添えられる。悠二の右手だ。  
背中の上を温もりが滑っていく。悠二の左手だ。  
(ああ……私はこれが欲しかったんだ……)  
身悶えしたくなるような幸福感。  
と、重ねられていた唇が離される。  
(あ、待って……)  
それを追いかけようとわずかに舌を伸ばしてしまい、赤面する。  
向き合った悠二の表情は、緊張のせいかやや強張っていた。  
口を開きかけたその表情が、怒ったような顔、戸惑いの顔、曖昧に笑うような顔へと  
めまぐるしく変化する。  
シャナは何か決定的な予感を感じながら、それを見守った。  
やがて悠二は意を決し顔を真っ赤に染め言葉をつむぐ。  
「あ、あのさ…シャナ、ずっと前から考えてたんだ。シャナと一緒に鍛錬したり、徒と戦ったりいや僕は  
ほとんど何もしてないけど、ずっと一緒にすごしてきて、大変な目にも何度もあって、でもそれが全然嫌  
じゃなくて、むしろ僕のこれからの時間とか考えたときにいやそれだけが理由じゃなくて、えっと、その……」  
心音がやかましく耳に響く。  
「シャナ、好きだ。ずっと一緒に居たい」  
「私も――」  
悠二の表情が驚きのそれに変わる。  
だが悠二以上に、口にしたシャナ自身が驚いていた。  
 
「私も好き……悠二が、好き」  
今までどうしても言えなかった言葉、どうやって伝えればいいのかわからなかった言葉が、胸の奥から  
自然と零れ落ちた。  
何か大事な過程を省いてしまったのではないかと不安を感じるほど、あっけない告白。  
あっけにとられたような表情で固まっている悠二の沈黙が、すでに『好きだ』と告げられたにもかかわらず、  
シャナの不安を加速させる。  
その不安が頂点に達そうかというそのとき――  
「ほっ、本当!?」  
悠二の腕がシャナの頭を抱え込んだ  
上ずった声が、興奮した熱い吐息が悠二が本気だということを、自分の気持ちが伝わったことを  
伝えてくる。  
「うん…本当だよ」  
シャナはこの時、初めて喜びの涙の熱さを知った。  
 
自分の腕の中にいる彼女に、自分の想いが通じたことが信じられない。  
ひょっとしたら今までのは周到な演技で、顔を上げると「そんなわけないでしょ」の一言で斬って  
捨てられるのではないか、恐らく自分よりも長い時を生き、修羅場をくぐってきたフレイムへイズが  
僕なんかに――  
だが、涙を流しながらも微笑む彼女を見て、そんな疑いは紅世の彼方まで吹き飛んだ。  
まだ泣き続ける彼女に、少しでも癒してあげたい衝動に駆られ、涙をキスで拭う。  
シャナは少しくすぐったそうにしているが抵抗しない。  
彼女の頬はとても柔らかくて、触れているこっちまで気持ちよくなってしまう。  
「ねぇ……さっきはゴメン」  
唐突な謝罪にキスをいったん止める。  
「ん…?」  
「だからその……無理矢理……」  
そこまで言って顔を伏せてしまう。  
いやアレはもういいよ、と言いかけふと思いとどまった。唇の端をにやりと吊り上げる。  
 
「あー、あれはひどかったよなあホント」  
「ご、ゴメン…」  
「逆レイプされるかと思ったよ」  
「ぎゃ、逆レイプ!?」  
「だってそうだろ、シャナのほうからのしかかってきて無理矢理キス。誰がどう見たって  
逆レイプじゃないか」  
「…………」  
「いやー知らなかったなあ、シャナがあんなに性欲旺盛なレイパーだったなんぐふぅ!」  
密着状態では回避不能のリバーブローが悠二に突き刺さる。  
「き、効いたぞ今の! 本当は反省する気無いだろ!?」  
「うるさいうるさいうるさい! レイパーって何よ!?」  
顔を真っ赤にしてくってかかってくるシャナ。その様子に笑みがこぼれる。  
よかった、いつものシャナだ。  
気づけば彼女も一緒になって笑っていた。  
 
先ほどまで感じていた不安や焦燥が嘘のように穏やかな気持ちだった。  
自分を元気付けようとする悠二の台詞が嬉しい。  
改めて自分は彼が好きなのだということを自覚する。  
ひとしきり笑ったあと、沈黙が訪れた。  
だが、それは決して不快ではない暖かい時間。  
どちらからともなく体を起こし、見つめあう。  
悠二の両手がそっと自分の両頬に添えられる。  
そのぬくもりに導かれるがまま、顔を悠二にそろそろと近づけ目を閉じる。  
唇に触れる暖かく湿った感触。何度かついばむように繰り返す。  
しかしそれでは満足できず、先ほどのような深いキスがほしくなる。  
 
と、悠二の舌がそっと滑り込んできた。  
「ん…んふ……」  
悠二の舌が唾液とともにくちゅくちゅとシャナの口の内側を嬲りまわす。  
ただそれだけでシャナは自分の体が甘く溶けて行くのを感じた  
反撃しようとするも、悠二の舌が自分のそれと触れるたびに心の底までとろとろにされ、  
受け入れるがままになってしまう。  
悠二に触れられている部分がどこもかしこも気持ちいい。  
口の周りが唾液でべたつき始めるが、むしろそれがうれしい。  
――悠二のことが大好きな私と、私のことが大好きな悠二がキスをする。こんな素敵なことって  
ほかにない!  
口内にたまった彼の唾液を飲んでみると、体の奥で自分と悠二が溶け合うような感じがする。  
お返しに唾液を送り込んでみる。悠二が嚥下する音が聞こえ、胸が熱くなる。  
「ふうっ……んうっ……」  
悠二の舌は容赦を知らない。あくまで丁寧に優しく、口蓋の上部や奥歯の裏まで這い回る。  
悠二の舌が自分の舌を絡めとり激しく吸い上げる。唾液も想いもすべて悠二に吸い込まれていく。  
空っぽになった自分に残ったのはたまらないほどの幸福感。  
切なく甘い疼きはいまや全身にくまなく広がり、シャナをアラストールもかくやという炎で包む。  
悠二がもっと欲しい。悠二にもっと燃え上がらせて欲しい。  
体も心も蕩けるキスを受けて、秘所が熱くぬかるみ下半身から力が抜けていく。  
「んむ…ね、ねぇ、ちょっと待って」  
キスを止める。もっと続けていたかったけど胸を切なさが締め付け限界だった。  
今ならわかる。自分は悠二に発情してしまったのだ。  
 
突然の中断に不満を感じなかったかといえば嘘だ。  
だがシャナの切羽詰った表情が深刻な状況を告げている。  
「どうしたの?」  
シャナはしばし俯いてもじもじとしていたが、ややあって蚊の鳴くような声で呟いた。  
「…熱いの」  
「え?」  
「…体が熱いの」  
シャナにとって下手な戦闘よりも勇気を要した告白。  
さすがに日頃は鈍い悠二もこのときはその真意を汲み取った。  
躊躇を覚える理性と彼女を求める本能が一瞬せめぎあう。  
だけどいまさら引き返すことはできない。自分も、彼女も。  
急速に干上がった口を湿らせ、悠二はうなずいた。  
 
「やっぱり恥ずかしいから見ないで」  
「でも結局は見ることに――」  
「いいからっ!」  
「わ、わかったよ」  
今二人は互いに背を向けて服を脱いでいる。  
緊張のあまりボタンにかかった指が震え、何とか静めようと四苦八苦していると  
すすっ、しゅるっ、ふぁさっ  
背後から聞こえる衣擦れの音がますます悠二を昂ぶらせる。  
ようやく上半身を脱ぎ終えたときシャナから声がかけられた。  
「…もういいよ」  
彼女のものとは思えないほどアンニュイな声。  
一度深呼吸をしてから振り向く。  
そのとき見たものを悠二は一生忘れることはできないだろう。  
窓に切り取られた暗闇をバックに白い裸身をさらす少女。  
胸と秘部を手で覆い、恥じらいに顔をかすかに染めている。  
一片の無駄もないその肢体は激闘を繰り広げてきたフレイムへイズとは思えないほど華奢だった。  
 
「きれいだ…」  
いつかは言えなかった言葉が自然と口をついた。  
その言葉を受けてシャナの頬の赤みがいっそう増す。  
気づけば悠二はふらふらと彼女に吸い寄せられていた。  
あともうちょっとで指が彼女に触れる。  
50センチ…20センチ…10センチ…  
「あっ、ちょっと待って!」  
突然の制止。  
見ると、シャナは『夜笠』を取り出し両手に巻きつけ始める。  
そして怪訝な表情でその様子を見ている悠二に甘くかすれた声で囁く。  
「コレで私の手を縛って欲しいの」  
「…え?」  
あまりの展開に絶句する悠二。  
(まさか初体験からSMプレイ!?)  
だが幸か不幸か彼の予想は裏切られた。  
「私が本気で悠二を抱きしめたら無事じゃすまないから…」  
「あ、ああ、そういうことか」  
彼女から夜笠の端を受け取ると、そっと結ぶ。  
そのままシャナがベッドに横たわると、手をベッドの柵にくくりつけた。  
(な、なんかすごいぞ…)  
幼い肢体の少女が両手を拘束され全裸でベッドに横たわっている。  
その光景は淫靡や卑猥を通り越してもはや犯罪だ。  
その美しさに、これから自分が彼女に触れるという事実に、悠二は眩暈を覚えた。  
「いいよ、悠二…」  
促され、触れれば砕けてしまいそうな白い肌にそっと指を這わせる。  
 
「んっ……」  
ビクンと震える彼女に、思わず手を引っ込めそうになるが彼女の反応が不快さによるものではないことを  
確認すると、そのまま右手を胸へと滑らせる。  
粉雪のように肌理の細かい肌は、なめらかながらも手にぴっとりと吸い付き、悠二の頭にいっそう血を  
上らせた。  
なだらかなシャナのふくらみは、かすかな曲線を描きやがて桜色の結実へといたる。  
指にかすかに力を込めると、その分だけ押し返してくる。  
「ふあ……んっ……あう……」  
乳首を人差し指と中指の間に挟むようにして胸を揉みしだくと、シャナの口から耐えられなく  
なったように艶っぽい喘ぎ声が漏れた。  
(シャナが感じてる…!)  
胸のおくから言いようのない喜びが駆け上がり誇らしい気持ちになる。  
その反応に勇気を得、手のひらを波打たせるようにして小さなふくらみをより深く揉みこむ。  
「ふうっ……ぅあっ、あ…ゆうじぃ……」  
頼りなく腰をくねらせ、愛撫に耐えるその姿は幼い容姿とあいまってひどく背徳的だ。  
自分の動きの一つ一つに可愛らしく反応してくれるシャナが愛しくて、もっともっと彼女を  
悦ばせようと指の動きを激しいものにした。  
 
絶え間なく悠二の手から送り込まれる刺激に、体は汗ばみ始め、足の付け根に熱が渦巻く。  
今までに感じたことのない熱さと痺れとそれ以外の不思議な感覚が、触れられたところを中心に  
甘い波紋を広げる。  
と、胸を愛撫していた悠二の指が、つんと自己主張していた突起をつまんだ。  
「ひゃうん!」  
やさしく撫で回されていたときとは違う鋭角的な刺激。  
快感のあまり弓なりにそらせた体は、図らずも悠二に胸を捧げるような姿勢になってしまう。  
(や、やだ……こんなはしたない――)  
 
だが悠二はお構いなしで、乳首をくりくりとつまみ、転がし、なぶり続ける。  
「ひゃっ、やあっ、くぅん!」  
その刺激の強さに身をよじって逃れようとするが、悠二の指は執拗に追跡し決して離れぬまま弄び続ける。  
(こんなの、ひどい)  
(でも気持ちいい)  
(コレじゃまるでおもちゃ扱いだ)  
(もっと悠二の好きにして欲しい)  
(こんなのってなんか変)  
(悠二のものになってしまいたい)  
戦士の自分と女の自分が葛藤する。だがそれは悠二によってあっけなく終焉を迎えた。  
「シャナ、愛してる」  
たったその一言でシャナの胸が幸せでいっぱいになる。  
(もうどうなってもいい!)  
拘束され、悠二を抱きしめることのできない両腕がもどかしい。  
目でキスをねだると、望みはすぐにかなえられた。心と心がつながった喜びに無我夢中で舌を絡め唾液を啜る。  
その間も中断されることなくシャナの胸は嬲られ続けた。  
「ん……ふむ、んん…」  
激しすぎるキスと刺激にあたまがくらくらする。  
つながっていた唇がようやく離れた頃には、シャナはどろどろに蕩けきっていた。  
悦楽にかすんだ視界の中、やはり熱に浮かされたような悠二の顔が胸元に降りていく。  
(……?)  
桃色に染まったシャナの思考が答えを出す前に、胸に湿った熱い感触がはしる。  
「ふああっ!あああっ!」  
悠二が小さなふくらみにかぶりついていた。  
そのまま硬くなった左右の乳首を交互に甘噛みされ、たっぷりとしゃぶられる。  
「ひあっ、んあっ、あん…はあっ…」  
ちろちろと乳首の周りを嘗め回され、ときおり突起にやさしく歯が立てられる。  
 
ちゅうちゅうと根元から吸われ同時に反対側をつままれ引っ張られると、胸の奥で無数の快楽がはじけた。  
「いいよぉ…やっ…ゆうじぃ…はああっ…」  
塗りこめられる唾液に、舌の熱さに、ふやけて溶けてしまいそうになる。  
霞がかった思考で自分から胸を押し付けると、悠二の腕がしっかりと背中に回され、さらに激しく愛される。  
身も心も悠二に拘束される幸福が心を満たした。  
「ゆうじっ! もっとぉ!」  
「シャナ…」  
悠二が顔を上げた。口の周りは自分の胸と同じように唾液と汗でべとべとになっている。  
その目は今までに見たことがないほどぎらつきながら、奥に暖かいものを秘めていた。  
彼の手が太ももにかかる。  
「いいよね、シャナ」  
その視線の熱さに首肯しかけて、自分の秘所の惨状に思い至る。  
そこは悠二の愛撫を受けて、胸以上にどろどろになっていたのだ。  
気づいたとたんに新たな恥じらいがこみ上げる。  
こんなの恥ずかしい、見られたくない!  
「だ、ダメ! やっぱりダメッ!」  
両足に力をいれ太ももをぴったりと閉ざす。  
 
突然の拒絶に悠二は困惑した。  
未知の世界への期待で、心臓は弾け飛びそうなほど高鳴り、耳の奥で血流が渦巻いている。  
もっとシャナを深く愛したいのに、その入り口は目の前で閉ざされてしまった。  
「優しくするよ、約束する」  
「そ、そういうことじゃなくて…とにかく絶対ダメ!」  
懐柔策は効をなさなかった。  
かといって無理やりは嫌だ。彼女が泣き出したらとても自分はそれ以上の行為に及べないだろう。そもそも力では  
太刀打ちできないが。  
閉じられた太ももの内側には妖しく輝く果実が覗いているのに……。  
焦れた悠二は、多少の抗議の意味を込めて足の付け根に舌を這わせた。と――  
 
「んああぁぁっ!」  
高く湿った嬌声とともにシャナの腰が跳ねた。  
それを見た悠二に天啓がひらめく。  
シャナの閉じられた部分に顔を近づける。女芯から漂う甘く濃密な香りに包まれるが今は後回しだ。  
そのまま下腹部と恥丘の間あたりに吸い付く。  
「ひゃん! きゃふっ!」  
再び腰が跳ねる。  
予想通りの反応に内心ほくそえむと、今度は舌を押し付ける。  
「あ、あっ、やっ、やああぁぁぁっ!」  
シャナは体をのけぞらせて快感をやり過ごそうとするが、とても受け流しきれず、徐々に  
足が開いてしまう。  
「ふあっ、へ、へんなこと、んんっ、やっ、するなっ、うあぁっ」  
「へんなことってなにが?」  
とぼけてみせる悠二。  
「僕はただシャナのお腹にキスしてるだけだよ」  
そういうと再び顔を彼女の下腹部に沈める。  
「ひあ、や、ま、まって、ああっ」  
繰り返し責め立てているうちに足に込められた力が緩んでいく。  
頃合いを見計らって悠二は顔を上げた。  
ギュッと目を瞑り快楽に耐えるシャナの耳元に口を寄せ、優しく堕天の誘いをかける。  
「ね、シャナ。僕に見せてよ、もっと気持ちよくしてあげる」  
かすかに開かれた瞳には逡巡の色が見て取れた。  
だがやがておずおずと足を開き始める。  
その聖地を目の当たりにした悠二は感歎のため息をついた。  
鮮やかなピンク色に彩られた華が淡い色の花弁を覗かせ咲き誇っている。  
その華は愛蜜を溢れさせ淫靡な輝きを放つ。  
そしてその蜜は華に収まりきれず、シーツをしとどに濡らしていた。  
「…すごい…こんなに濡れてる…」  
「う、うるさいうるさいうるさい! 言うなバカー!」  
 
羞恥のあまり真っ赤になって怒鳴るシャナ。だがそんな顔も可愛い。  
「意地悪してゴメン」  
謝罪のキス。  
驚いたことに彼女はそれだけで真っ赤になって黙ってしまった。  
そんなシャナに胸を突かれるような愛しさを覚え、陰唇にそっと触れる。  
熱く息づくその部分は、ほかとは違う独特の柔らかさをもって指を迎え入れた。  
さらに奥まで指を入れてみると、無数の襞が指に絡みつき中へ飲み込もうとする。  
可憐な少女の体の一部とは思えないほど妖しい光景に悠二は更なる劣情を感じた。  
 
自分のもっとも大切な部分をさらけ出し、悠二がそこに触れている。  
その事実だけでどうにかなってしまいそうなのに、悠二の指使いがさらにシャナを狂わせる。  
「あっ……ん……ふうっ!」  
自分の中をゆっくりと優しくかきまぜられるたびに、下半身に熱い快楽が渦を巻き、愛液がこぼれる。  
(私、こんなにえっちだったんだ…)  
自分でも触ったことのない場所を悠二に開拓され、恥ずかしいはずなのに、貪欲にさらに悠二を  
求める自分が居る。  
ぐちゅぐちゅと淫らな音を立てる秘所と本能は、早く悠二を迎え入れたいと訴えている。  
(私は全部悠二のものになっちゃったんだ…)  
誇り高きフレイムへイズにはあるまじき思考。  
きっと自分はおかしくなってしまったに違いない。  
(おかしくなっちゃったのなら…いいよね、もっと悠二を感じても)  
桃色の霞で占められた頭が、欲情に狂った自分を正当化する。  
力の入らない足を動かし、より深い快楽を求め自ら腰を悠二に差し出す。  
それに応えるように悠二が秘所にしゃぶりついてきた。  
「あぅあぁっ、くうっ、あぁん!」  
ただでさえ自分の恥ずかしい液でどろどろだった秘裂が、悠二の舌に丹念に舐められ、唾液も  
混ざっていっそう熱と水気を増す。  
 
一番敏感な場所をぬるりとした舌が這い、舐り、弄りまわされ、シャナはただその快感に悶え続けるしかない。  
「ああっ、んっ、いやぁん、あっ、あっ、いい、いいよおっ、ゆうじぃっ!」  
愛しい相手の名を呼んで、更なる快楽をねだる。  
その望みはすぐにかなえられた。悠二にクリトリスを探り当てられ、愛撫の餌食となってしまう。  
「ふあっ、だ、だめ、そこは、あう、感じすぎちゃうっ!」  
興奮のあまり硬くなった突起を、悠二は指でこすり、それが終わったかと思うと今度は舌先で  
転がし、唇に挟んでしごきたててくる。  
「ああんっ、んああっ、くうっ!」  
もはや自分の意思とは関係なく腰は跳ねる。だが快楽で力の抜けた腰は悠二にしっかりと抱き  
かかえられ逃れることはできない。  
悠二の舌が秘裂を割り開いておくまで侵入してくる。  
膣内の襞を丁寧に舐められる感触がシャナを新たな悦楽へと誘う。  
視界が鮮烈な白に染まり、体の中をびりびりと快感が蹂躙する。  
「あっ、ゆうじっ、あっ、ああああぁぁぁぁぁっ!!」  
この瞬間、初めてシャナは快楽の絶頂を迎えた。  
 
「うぐ、ぷはあっ」  
シャナが絶頂を迎えた瞬間、悠二は突如生命の危機に晒された。  
彼女の太ももに強烈に挟み込まれ、顔を陰部に押し付けた状態で身動きが取れなくなったところに、  
どっと愛液が溢れてきて窒息しかけたのだ。  
何とか頭を振って死地から逃れる。  
危うく零時を待たずに消滅してしまうところだった。もっとも、顔面をシャナの柔らかい体で覆われた  
あの感覚はまさに天国だったが。  
(あの状態で死んだらやっぱり腹上死ってことになるのかな)  
照れ隠しに馬鹿なことを考えつつ、一息ついた。  
 
息を荒くしたシャナが気になって覗き込む。  
彼女は小さな体をほんのりピンクに染め、絶頂の余韻か、かすかに体を震わせている。  
遥か彼方をさまよっていた目の焦点が徐々にはっきりとし、程なく悠二と目が合った。  
シャナはしばらくぼーっとしていたが、やがて花の咲くような微笑を浮かべる。  
「すごかったよ…悠二…」  
これには悠二のほうが赤くなった。  
(そんな笑顔でそんなこと言うなよ…)  
そんな悠二を見てクスクス笑うシャナ。  
ちょっと悔しくなって行為の続きを切り出そうとするが、それこそが二人にとって最も重要な  
本題であることに思い至る。  
改めて息を整えシャナと向き合う。  
どう切り出そうか逡巡し、もっともシンプルな言葉を選ぶ。  
「君が欲しいんだ、シャナ」  
シャナの答えもまたシンプルだった。  
「私も…悠二とひとつになりたい」  
その言葉でお互いに覚悟は決まった。  
悠二は下着ごとズボンを脱いで下半身を解放した。  
張り詰めた肉棒がそり立つ光景にシャナが息を飲む。  
「それが本当に私の中に入るの…?」  
「怖い?」  
「ううん、大丈夫。戦闘に比べたらどうってことない」  
そう言いながらも、彼女の顔には僅かに怯えが見て取れた。  
シャナを安心させようと軽くキスをすると、悠二は慎重に腰を進めていった。  
亀頭がゆっくりと飲み込まれていく。シャナは目を瞑り耐えている。  
さらに進めようとしたところで、強い抵抗が進入を妨げた。  
(これが……)  
シャナと再度目で意思を確認しあうと、下腹部に力をいれ、一気に抵抗を貫く。  
「…………っ!」  
「……………!」  
その部分を抜けた瞬間、陰茎はシャナの最奥までスムーズに達した。  
 
その途端、無数の肉襞が肉棒に絡み付いてくる。  
「っ……くううっ」  
暖かくぬめる感触に発射しそうになるが、無理やり意志の力でねじ伏せた。  
下半身に力を込め、快感をやり過ごす。  
「っはあっ、はあっ、シャナ、大丈夫?」  
全力疾走直後のような息をしながら、痛みに耐えているであろう彼女の心配をする。  
「え…あ、あれ……痛く…ない?」  
しかし、彼女は予想に反して、困惑した表情を見せた。  
しばらく不審気な表情を見せていたが、悠二と目が合うと必死になって弁解を始める。  
「わ、私初めてなんだから、ほ、本当なんだから!」  
「信じるよ」  
「え?」  
悠二は結合部から流れ出た純潔の証をすくってみせる。  
「え、じゃあなんで…?」  
「僕にもよくわからないけどさ、そういう体質の人っているらしいよ」  
「そ、そうなの?」  
目をぱちくりさせるシャナ。  
そのしぐさがたまらなく可愛くて、悠二は思い切り抱きしめていた。  
 
悠二の体温を全身に感じて不安だった気持ちがあっという間に落ち着く。  
受け入れた悠二の肉棒は、体の奥を押し広げ熱を放っている。  
「すごく熱いよ、悠二…」  
痛みがなかったのは少し拍子抜けだが、悠二と結ばれた喜びはそんなものをあっさりと吹き飛ばした。  
「わたしたち、ひとつになれたんだ…」  
「うん、シャナの中ってさ、すごく柔らかくてあったかくてきもちいい…」  
「悠二も、すごく大きくて、熱くて、硬くって、おくまで届いてる…」  
そのまま二人ともじっとして、互いの感触を確かめ合う。  
目を閉じると、体の深いところまで打ち込まれた悠二を強く感じられる。  
 
これが自分の中を激しくこすったらどうなってしまうのだろう。  
「悠二。動いて…」  
求めに応じて悠二の腰が焦らすようにゆっくりと引かれていく。  
それに合わせて自分の膣内が引きずられる。  
抜けそうなぎりぎりのところまで引くと、ズン、と深く突いてきた。  
「はああっ!」  
今までの愛撫とは違う、重い質量すら伴う快楽。  
腰の奥までしびれるような快感。  
もっと、もっと悠二に動いて欲しい。  
もっと感じさせて欲しい。  
「悠二、ゆうじ、ゆうじぃっ!」  
「シャナっ!」  
悠二が腰を激しく動かし始める。  
肉襞をめくりながら陰茎が引き抜かれ、子宮口に達するまで深々と突き刺される。  
「ふあっ、んんっ、やっ、あっ、あっ、あっ、ああっ!」  
「シャナ、シャナ、シャナ!」  
悠二が何度も自分の名を呼ぶ、彼がくれた大切な名前。  
その名を呼ばれるたびに胸に喜びがたまり溢れそうになる。  
「悠二、ゆうじ、好きっ、好きっ、大好き!!」  
「僕も、僕も愛してるっ!!」  
悠二が腰を引くたびに悦楽の波紋が広がり、突きこまれると快楽の電流がはじける。  
腕を拘束された不安定な体勢で、シャナの体は揺さぶられ続ける。  
「あ、ああっ、あっ、ひうっ、うあっ!」  
体の中心に熱がどんどん集まっていく。  
と悠二が動きを変えた。  
肉棒を奥まで突き立てて抉り回す。  
「ひああぁぁぁっ!」  
苦痛と紙一重の焼け付くような快感。  
 
いつも、自分にどやされ殴られ、守ってあげなければならないほど弱くて、でもときどき  
はっとするほど鋭い悠二。  
それらとはまったく違う荒々しい悠二が自分を翻弄している。  
けれど、そんな悠二も好きだ。自分を激しく愛してくれる悠二が好きだ。  
世界で一番悠二のことを愛してる!  
「あっ、うああっ、あくっ、あああっあっ、あっ!」  
悠二の動きが激しくなる。  
自分からも腰をうねらせて彼に同調する。  
いまやシャナの体は拘束された腕を支点にして、ベッドの上から跳ね上がるほど犯されていた。  
もう悠二のこと以外何も考えられない。  
混濁した世界の中で、全身を荒れ狂う快楽がより熱く昇華していく。  
「しゃ、シャナ、もう――」  
悠二のほうも限界が近づいているようだ。  
「んっ、いい、いいよ、ゆうじ、きてぇぇっ!」  
全身で悠二を受け止めて、自分もまた昇りつめていく。  
息のかかる距離で狂おしく見つめあいながら、突かれ続ける。  
悠二の表情が快感に激しく歪んだ。体内で肉棒が膨れ上がる。  
同時にシャナの中で熱が一気に爆ぜ、頭の中が閃光で真っ白になる。  
「ふああっ、あっ、はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」  
はるかな高みへと打ち上げられた体は、激しい炎に包まれ悦楽の火の粉を散らしながら霧散していく。  
遊離した感覚の中、胎内に注ぎ込まれた熱いエキスを感じる。  
(熱い……それにこんなにたくさん)  
満たされた想いとともに意識が現世へと戻ってくる。  
力を使い果たしたように俯いていた悠二が、のろのろと手を伸ばし夜笠をほどいた。  
痺れの残る両手を悠二の背に回す。  
彼の体がゆっくりとシャナに覆いかぶさる。  
(幸せ……)  
折り重なるように抱きしめあいながら、心地よい余韻を味わった。  
 
 
全身のけだるさは抜けないが、それが気持ちいい。  
これなら永遠に零時が来なくてもいいかもしれない。  
自分の腕の中で、うっとりと目を閉じながら髪を撫でられているシャナを見て、埒もないことを考える。  
その安心しきった穏やかな表情はとてもフレイムヘイズとは思えない。  
明日学校へ行ってもいつものように接することができるだろうか?  
今までのように彼女を見ることができないような気がする。  
彼女を一人の女性として愛してしまった以上、それなりの振る舞いが必要なのではないだろうか。  
いくら彼女が、女性と呼ぶにはチビっこくっていろいろと未発達で胸がまだまだ小さいとは言っても――  
「今なんかお前失礼なこと考えたでしょ」  
「い、いいっ!?」  
「私の胸じろじろ見てたわよ」  
後頭部までぶち抜くような視線でにらまれた。  
思わず苦笑がもれる。  
前言撤回、やっぱりシャナはシャナだ。  
「なに笑ってるのよ」  
「なんでもないよ、それよりさ」  
身の危険を回避するため、話題を当面の問題へと移す。  
「アラストールや母さんにこの事は言っておいたほうがいいかな?」  
「うーん、もうちょっと伏せておく。今訊かれると言葉でうまく説明できそうにない」  
「じゃあ二人だけの秘密だね」  
その言葉の甘美な響きにシャナの顔がほころぶ。  
「うん!」  
暖かな気持ちに突き動かされ、そっと触れるようなキスをする。と――  
「悠ちゃーん、シャナちゃーん、ごはんよー」  
『あ』  
階下からの千草の呼び声に、二人はあわただしく行為の後始末を始める。  
 
互いの精液や愛液を拭い、下着をはき、悠二がシャツの裏表を間違え、シャナがソックスをはき忘れ、  
それに気づいてますますあわてる。  
なんとか着終わりおかしいところがないか互いにチェックして、ようやく部屋を出た。  
 
「あれ…?」  
一階に降りてみるとテ−ブルの上には何もなかった。  
千草のほうを見やると、手に携帯電話(コキュートス内蔵)を持っていつもの笑みをを浮かべている。  
「あ、あの、千草?」  
「ちょっと待ってね、シャナちゃん」  
携帯を受け取ろうとしたシャナの手をやんわりとさえぎる。  
「さっきまでアラストオルさんとシャナちゃんの今後のことでお話していたんだけどね」  
千草の笑顔は変わらない。  
悠二の背にいやな汗が流れ始める。  
横のシャナの表情も不安げだ。  
「私は二人が仲良しさんになってくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと仲良くなりすぎちゃったみたいね」  
『……!!!』  
緩やかなカーブを描きつつ核心を突く千草に硬直する二人。  
悠二は我が家の防音問題の不備にいまさら気づく。  
「二人とも立ってお話しするのは疲れるでしょう? さあ、座って」  
にこやかにイスを引く千草  
アラストールの沈黙が怖い。  
そしてそれ以上に千草の笑顔が怖い。  
イスに向かう悠二の足取りは13階段を上るそれだった。  
 
それでも世界は、ただそうであるようにあり続ける。  
 
                             続く?  

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