ちゃぷん。  
何故こんな事になったのだろう。  
思い人の家の風呂で湯に浸かり、  
彼女−平井ゆかりがシャワーを浴びるのを不躾にならぬよう、横目で眺めている。  
彼女は同姓である自分から見ても綺麗と思えた。  
自分の様に余計な肉は付いておらず、普段の立ち振る舞いと相まって、  
見る者に清冽な印象を与える。  
その上、勉学スポーツ共に抜きん出ていて、小さな体と相反して大きな存在感を持ち、  
なにより、自分よりずっと多く「彼」と時間を共有している。  
そう思うとなんとなく惨めな気分になり、それを隠すために湯船の湯で顔をバシャバシャと洗った。  
「………」  
風呂に入ってから、一美は言葉を一言も発していない。  
 
しゃわわ〜。  
何故こんな事になったのだろう。  
いつもの夕食前、いつものように風呂に入り、  
だが、彼女−吉田一美の前でシャワーを浴びている。  
彼女は同姓として羨むべき存在といえた。  
自分の様に貧相な凹凸ではなく、普段の立ち振る舞いと相まって、  
見る者に柔和な印象を与える。  
その上、自分の思いをはっきり口にする勇気を持ち、  
主張の大きい体と相反して常に一歩引く態度を取り、  
なにより、彼女と接する時の「あいつ」はとても優しい目になる。  
そう思うとなんとなく悔しい気分になり、それを隠すためにシャワーで頭をガシガシと洗った。  
「………」  
風呂に入ってから、シャナは言葉を一言も発していない。  
 
 
事の起こりはいつものごとく、である。  
帰ろうとした一美に池が声を掛けたのだ。  
曰く、明日は小テストだというのに、悠二はノートを忘れていってしまった。  
ついては、これを届けて恩を売ってやれ、と。  
毎度ながら池の抜け目のなさと気遣いに感謝しつつ、一美は坂井家を訪ねた。  
初めて訪れる思い人の家である。  
期待に胸を(いつも以上に)膨らませ、些か浮かれるのも無理からぬ事だろう。  
だがそれも居間兼応接間に通されるまでだった。  
そこに、彼女−ゆかりが居たのである。  
 
妙な事になった、シャナは思った。  
自分を見た時の一美の表情は、「なぜ」と言っている様に見えたし、  
「やっぱり」と言っている様にも見えた。  
それからの一美は前を向いたり下を向いたり、悠二に語り掛けようとしたり押し黙ったり。  
ノートを渡してさっさと帰ろうか、  
それとも自分がいる内は帰る訳にはいかないのか、逡巡している風情だ。  
と、そこに千草が紅茶を勧めながら、夕食を食べていってはどうか、と申し出た。  
「あ、はあ。」と要領を得ない返事を返す一美に、  
「じゃ、決まり。」とはしゃぐ千草。  
その事自体には特に感慨はない。シャナが慌てたのはその後だ。  
「お夕飯にはまだ掛かるから、二人でお風呂に入っていらっしゃいな。」  
二人って事は、自分と悠二が…そんなコトそんなコトそんなコト…  
いやまさか、一美と悠二が…許さな許さな許さな…  
ってそんなわきゃないか。と言う事は、自分と…  
「え?ゆかりちゃんと…?」  
一美も同じ考えに至ったらしく、控え目に不満を表す。しかし、  
「ね?」  
二人の不満は一瞬で封じられた。  
人生経験の乏しい(年数の問題ではないらしい)二人が、  
千草必殺の「微笑みプレッシャー」に抗えるはずもなかった。  
 
 
盆と正月が一緒に来た時はただ喜べばいいが、天国と地獄が一緒に来た時はどうすればいいか。  
憎からず思っている女の子二人が自分の家の風呂に入っているのである。  
悠二としては、いや健康なオトコノコとしては、通常ならヒャッホウな状況であるのだが、  
問題は、その二人も悠二の事を憎からず思っているらしい、ということである。  
という事はつまり−自惚れを混ぜて言うなら−ライバル関係にある二人が、  
顔を突き合わせているのである。  
しかも、仮に一触即発の事態になったとしても、今風呂場は禁断の地と化している。  
近付こうものなら痛い目を見るどころか、自宅も学校も今後は針のムシロとなるのは確実だ。  
悠二は今、嬉しくて仕方がないのに気が気じゃない、という極めて稀な精神状態にあった。  
母に頼るかと台所を覗いてみると、千草はシチューを煮込みながら、  
携帯電話片手にアラストオル氏と子育て談義に花を咲かせていた。  
彼を援護する者は、いなかった。  
 
 
きゅ…  
シャワーを止め、立ち上がる。  
「空いたわよ。」  
「う、うん…」  
視線を合わせることなく入れ替わる。  
もし合わせてしまったら別の部分に目がいってしまい、さらに悔しい気持ちになるから、  
とはシャナ自身気付いていない。気付いたとしても認めない。  
湯に体を埋め、全身にじんわりと熱が染み入ってくるのを感じると、思わず吐息が漏れる。  
胸の中の小さなモヤモヤが解けていくのを感じながら、ふと目を横に転じ…シャナはギョッとした。  
しゃかしゃかしゃかしゃか、ぷるぷるぷるぷる、  
しゃかっしゃかっしゃかっしゃかっ、ぽよんっぽよんっぽよんっぽよんっ。  
一美が髪を洗う動きに合わせて、胸が、震えている、揺れている。  
しまった。見てしまった。  
頭では見たくないと思っているのに、目が離せない。  
そういえば、男子達が横目でちらちらと一美の方を見ては、  
小声でほくそ笑んでいるのを何度か見かけた事がある。  
男はこういうのがいいのだろうか。悠二も例外ではないのだろうか。  
それに、同性異性を問わず友人が多く、そばには常に複数の者がいた。  
それは彼女が持つ独特の「柔らかさ」故だろう。  
外見的にも内面的にも、自分には持ち得ないものを持っている一美に、  
シャナはただ見とれていた。自分が今どう動いているか気付かない程に。  
 
「彼」の家でシャワーを浴びる。  
その点だけなら、一美は今幸せの絶頂である。  
だが実際はそうではない。  
シャワーの滝の向こうに、凛とした美しさがあるからだ。  
湯船の中で次第に薄桃色に染まっていくゆかりは、つくづく可愛らしく、綺麗で、艶かしい。  
誰もが彼女を敬愛し、誇らしく思い、頼りにした。  
しかもゆかりの可愛らしい外見と凛とした態度により、決してあからさまでない形で。  
そういえば、クラスの皆が、いや場合によっては教師までもが、  
彼女を憧憬のまなざしで見つめているのを何度か見かけた事がある。  
坂井悠二もそうなのだろうか。  
彼も自分の知らない時に自分の知らない所で、彼女にそんな視線を向けているのだろうか。  
性格的にも能力的にも、自分では追い付けっこないゆかりを、  
一美はあえて視界に入れない様にして髪を洗っていた。  
だからゆかりが今どう動いているか気付かなかった。  
 
むにゅ。  
ゆかりちゃんが、私の胸を、さわっている。  
その事実は、一美をパニックに陥れるには充分だった。  
そのサイズ故か、友人(女子限定)に胸を触られるのは一再ではない。  
時には鷲掴みさえされることもある。  
だから普通の女子よりは、一美は触られ慣れていると言える。  
だが、最もそういう事をしなさそうなゆかりが、  
しかも普通はそういうことをする時はおどけた表情でするものだが、  
ゆかりは至って大真面目に、何かを調べているかの様な表情でいた。  
一美はすっかり固まってしまっていた。ゆかりも触って何をする訳でもなく、  
ただ湯船から体を乗り出して一美のふくらみに手を当てている。  
「ゆ…かり…ちゃん…」  
ようやく声を絞り出すと、ゆかりの瞳に色が戻っていった。  
そして、そこで初めて自分が何をしていたか気付いたかの様に、びくんと手を引っ込める。  
ただその際に、ゆかりの指先が、先端に付いている、薄桃色の小豆を、さらりと撫でた。  
 
「んっ…は…」  
一美があげた吐息はわずかだったが、背筋に戦慄えが走ったのを見逃しはしなかった。  
なぜそうなったのかシャナには分からない。  
なぜかは分からないが、そうすればそうなるという事は理解できた。  
だからシャナは、一旦引っ込めた手を再び一美へと伸ばした。  
「ちょ…ゆかりちゃん…何を…」  
一美は肘で手を払いのけようとする。  
だがシャナにとっては湯船から出て、座っている一美の背後に回り、  
肘をかわして手を潜り込ませるなど造作もない事だった。  
むにゅ、むにゅ、もにゅ。  
「や、やめ…やぁっ!」  
この期に及んでなお控え目に抵抗する一美。  
それが何となく気に入らなくて、シャナは指の動きを尚一層速くする。  
「や…は…ん、んんっ…」  
一美の反応が次第に変わってきた事を見て取ると、シャナの表情は  
初めて犬の頭を撫でる幼児のそれから、カブトムシの群れを見つけた小学生のそれへと変わっていった。  
ここで、さっきの反応はさっきのあれのせいかどうか確かめてみようと思い立つ。  
「ゆかりちゃ、やっ!そこは…」  
シャナの指が、すでに桃色となって息づくそれを、捉えた。  
 
「んくぅぅ!」  
先端に軽い電撃が走る。  
一美は今、ゆかりの指がもたらす快感に翻弄されつつあった。  
自分の部屋で自分を慰める時に「彼」の指を想像しながらそこを弄ぶ事があるとはいえ、  
感じたくもないのに感じてしまう自分が恨めしい。  
くりゅ。(あ、ま、また…)  
またも電撃が走り、肩がガクンガクンと上下する。  
ゆかりは飽きもせずに指先でそこを転がしている。  
「ん…むぁっ…ゆか…り…ちゃ…ゆかぁぁぁ…」  
自分はどうなってしまうのだろう?  
最も思う人の家で、最も屈託を以て接する相手に、こんな事をされるなんて。  
ゆかりの手が、指が、「思い知れ!」と言っている様な気さえしてくる。  
…と、ゆかりの手が止まった。  
「…?」  
背後を見遣ると、ゆかりは自分の身体を見下ろし、なにやら気難しい顔をしている。  
 
一美の反応が面白くて、シャナはそこばかりを弄んでいた。  
右にひねれば一美の身体は左に跳ね、上に転がせば下に捩れる。  
こんな小さな部分で人の身体がこうも動くとは。  
指先で隠れてしまう様な…と、そこでシャナは一つの事に思い至った。  
一美のそれと自分のそれを見比べてみる。  
大きさは共に小豆大、色もさして変わらない。  
だが一美のそれはいかにも小さく、目立たない印象を受ける。  
翻って自分のそれは妙に目立つ。  
その違いが「土台」によるものであるのは考えなくても分かる。  
その事が、シャナの一美に対するある種の思いをじりじりと焦がす。  
シャナは唇を突き出し、眉根を寄せて立ちつくしていた。  
 
チャンスだ。  
何のチャンス?  
逃げるチャンス、とは一美は考えなかった。  
普段の自分なら逃げ出していたかもしれない。  
だがこの時の一美は、ゆかりに対する憧憬(負けたくない)、  
劣等感(負けない)、「彼」への思い(ゆかりちゃんには、負けない!)など様々な感情が相俟って、  
やりかえすチャンス、としか思い浮かばなかった。  
だから、一美はゆかりの胸に突進した。  
 
虚を突かれた。  
正面からドン、と衝撃を受け、我に返った時にはシャナは一美の体の下にいた。  
さてどうしたものか。  
抜け出るには殴り倒してしまえば話は早いのだが、相手は普通の人間であり、しかも女の子である。  
そんなことをする訳にもいかない。  
…などと冷静に考えていたのが悪かった。  
シャナは相手の狙いに思いを巡らせるべきだった。  
一美はシャナの上に乗ったまま、あるかないか分からない様なふくらみの頂にある突起に唇を寄せ、  
はむっ、ちゅるるっ。  
「くぁぁぁっ!」  
生まれて初めての感覚がシャナを襲う。  
なおも唇を蠢かす。  
「んあっ、はぁ…は、ふぁぁぁぁっ!」  
目の前にパチパチと火花が飛んだ様な気がした。  
一美を跳ね除けようにも、これだけでシャナは既に腕に力が入らなくなっていた。  
どうして?どうして…こんな…  
さっきまで自分がそうしていたのに、それを自分がされた時にどうなるか、  
という事に思い至らないのがシャナのシャナたる所以である。  
こと色事に関しては。  
効果絶大を知った一美は口を総動員して、転がし、舐り、吸上げ、甘噛みする。  
そのたびにシャナは、反り返り、髪を打ち振るい、戦慄き、力無い嬌声を漏らした。  
 
一美は、ゆかりのあまりの反応の良さに少々驚いていた。  
自ら慰める事を知っている一美は、色事に関してはゆかりに比べてかなりの上級者である。  
いや、相手が初心者過ぎるだけなのだが。  
だから、ここで当然の疑問が湧き上がってくる。  
女の体には胸以上に敏感な所がある。  
胸でこれだけ乱れるならば、そこを愛撫したらどうなるのだろう?  
一美は肩を押さえつけていた右手を、そろそろと下に伸ばした。  
 
一美の手が、肩から脇、腰、腿へと滑っていく。  
それだけでゆかりはぎくん、と固まってしまう。  
予想通りの反応に内心ほくそ笑みながら、腿のすべすべした感触を楽しむ。  
そう、この時の一美には楽しむ余裕すらあったのだ。  
だから完全に力の抜けた脚を開かせても、すぐに核心を突く事はせず、  
腿の内側、股関節のすぐ下を、円を描く様に撫で上げる。  
「う、く…く…くくぅぅ…」  
ゆかりは身体を這い登ってくる何かに必死に堪えている様に見えた。  
ゆかりの表情を微笑ましく眺めつつ、先ほど覚えた興味がまた頭をもたげてきて、  
一美は親指と中指を添えると、先程まではただの線一本だったそこを、くつろげた。  
くちゅり。  
可愛らしい音と共に粘りけの少ない雫が、一筋こぼれ出し、緩やかな曲線を描く。  
「ひっ…ひ、はぁぁ…」  
小刻みな震えがゆかりの全身を走る。  
続いて、くつろげたままの花弁を人差し指でくすぐる。  
「ふぁっ、はあ…んんっ…」  
すると、秘唇の上端から桜色の米粒がおずおずと顔を出した。  
一美はその情景に、  
─産毛しか生えていない恥丘に─  
─手を離せば一本線に戻ってしまう秘唇に─  
─そこから零れ出た雫に─  
─ほんの微かに顔を覗かせる陰核に─  
─シンプルな放射を形取る菊紋に─  
目を奪われ、引き寄せられ、  
ちゅ。口づけた。不思議と嫌らしさも汚らしさも感じなかった。  
「ひあはぁぁぁ!」  
今までにない程にゆかりの身体が波うつ。  
舌で全体を舐めあげ、唇をすぼめて吸ってみる。  
ゆかりの波はさらに大きくなり、一美は予想以上の反応に満足した。  
しかし一美は気付いていない。自分が既にゆかりの上から退いてしまっていることに。  
 
悔しい。  
これ程までに自分の中に自分の知らない感覚があった事が、  
それを自分に知らしめたのが悠二ではなく一美であった事が、  
その一美に翻弄され、自分のものとも思えない声を聞かれている事が。  
反り返り、捻れ、波打ちながら、シャナは唇を噛んだ。  
そうしたところでその感覚が薄れる事はない。  
それどころか、一美の指と唇が下がって行くに従って、  
痺れに似たものから熱さを伴ったものへと変わっていく。  
知らず、シャナの腕が掴む事のない何かを求めるかの様に、中空へと延びて行く。  
未だ自分ですら触れた事のない場所で一美の唇が蠢く毎に、手が頼りなく開閉を繰り返し─  
待て、何故腕を伸ばせる?  
涙に濡れる瞼を無理矢理開くと、霞がかった視界の中に一美の下肢が見えた。  
それは既に自分の上にはない。  
それを知ったシャナのどこかで、何かに火がついた。  
─負けない─  
どうなれば負けなのか、どうすれば勝てるのか、そんな事は分からない。  
ただ、このままにはしておけない。  
手を伸ばし、脚を強引に割り開き、後ろの双丘をがしりと掴む。  
「ひゃあっ!え?え?ゆかりちゃん?どうして?」  
突然の逆襲に面食らったのだろう、脚を閉じようとするがその動きは鈍い。  
構わず、先程胸に対してした様に指と掌を使って揉みほぐす。  
「あぁ、ん、んは…」  
一美が漏らす吐息が、最も敏感な場所をくすぐる。  
思わず気が遠くなりながらも、シャナは横向きに寝たまま双丘を引き寄せる。  
あごのすぐ下に、まだ淡い繁みを感じる。  
今二人は互いの左腿を枕に、互いの急所を眼前に見ていた。  
 
控え目な蹂躙を受けたゆかりのそれは、溢れ出た雫で輝きを増している。  
眼前の眺めとそこから発せられる酸い香りににクラクラしながら、  
一美は指先の感触に今更ながら驚く。  
すべすべと滑らかで、瑞々しさを湛えている。  
しかしながら硬いという訳ではなく、鍛えられた故の張りと思われる。  
強靱なバネの様に、触れる者を受け止め、押し返し、寄せ付けない強さを持つ、  
そんなゆかりの心身の何たるかを見た様な気がした。  
翻って自分を顧みれば、さぞ頼りないものであるだろう。  
それが悔しくて、だから一美は「攻撃」を再開した。  
 
触れてもいないのに一美のそれは、何かを期待するかの様に蠢き、息づいた。  
眼前の眺めとそこから発せられる甘い香りににクラクラしながら、  
シャナは掌中の感触に今更ながら驚く。  
ふにふにと柔かく、少し力を入れると指は容易くめり込んで行く。  
しかしながら少し進むとたおやかな抵抗に遭い、指が押し戻される。  
つきたての餅の様に、柔らかくしなやかでしかし踏込み過ぎを許さない強さを持つ、  
そんな一美の心身の何たるかを見た様な気がした。  
翻って自分を顧みれば、さぞ融通の利かないものであるだろう。  
それを認めたくなくて、だからシャナは「攻撃」を開始した。  
 
シンプルなスリットに舌を差し込み、舐る。  
と同時に甘い衝撃が下半身から上半身へと駆け上ってきた。  
思わず、小刻みに震えながら身体が捩れる。  
ゆかりが攻撃を開始した事を悟り、一美は負けじとさらなる攻勢を加える。  
肉芽を唇で啄みながら、指で入口を円を描く様にくすぐった。  
「ひ…」  
ゆかりの動きが一瞬止まる。  
それを機に一美は指をじわり、と差し入れてみる。  
狭い。何という狭さだろう。  
動かし方を少し間違えれば、指の骨がみしりといってしまいそうだ。  
一美は指を小刻みに前後させつつ、内部のひだを傷つけない様に気を付けて  
じわじわと奥に進ませる。  
「ひ、ひっ…ひくぅ…くぅぅぅ…こ、このっ!」  
戦慄いていたと見えたゆかりが動き、ちゅぷ、という音と何かが侵入してくる感覚が一美を襲った。  
「くっ、くっ、くくっ!」  
食いしばった歯の間から声が漏れる。  
ゆかりの指の動きはたどたどしく、強かったり弱かったり、浅かったり深かったり、  
一美を翻弄するためと言うより、単に加減が分からないだけの様に思える。  
だが一美は翻弄された。  
指が動くたびに身体は右に捻れ、左に捻れ、額をゆかりの恥丘にこすりつけた。  
「んはっ、はあ、あぁぁぁっ!」  
自らを慰めた時でも、ここまで大胆に中をかき回した事はなかった。  
次第に頭の中にもやがかかってくる。次第に目に映るものが滲んでくる。  
それが恐くて、不安で、何かにすがりたくて、  
一美は赤ん坊の様に、目の前にあるものにしゃぶり付き、吸い上げた。  
 
慎ましやかなクレバスから桜色の縁側が僅かに覗いている。  
それを両親指で押し開き、くすぐってみると、唇の下端から、とぷんと露が溢れ出てくる。  
と同時に腰から後頭にかけての筋が、弾かれた弦の様にびいん、と跳ねる。  
同時に攻撃を開始したシャナに、さらなる攻勢が加わった。  
「ひ…」  
シャナの動きが一瞬止まる。  
すると身体の中にじわり、と何かが押し入ってくる。  
それはシャナを焦らすかの様に、あるいは様子を探るかの様に、  
進んでは退き進んでは退きを繰り返しながら、じわじわと奥へ向かって来る。  
「ひ、ひっ…ひくぅ…くぅぅぅ…こ、このっ!」  
それ以上の侵攻を抑えたくて闇雲に動かした指先が、ちゅぷ、とぬかるみにはまった。  
「くっ、くっ、くくっ!」  
一美が何かに耐えようとしているのが分かった。  
一美が自分にしたのと同じように、自分も一美の中に侵攻しているのは分かったが、  
そこから先のやりようが分からず、ただ粘液の滑りにまかせて指を動かしてみる。  
そのたびに一美の身体は右に捻れ、左に捻れ、額を恥丘にこすりつけて来る。  
「んはっ、はあ、あぁぁぁっ!」  
シャナの指は、次第に大胆に中をかき回す様になっていった。  
(これなら、勝てる。)  
どうなれば勝ちなのか分かっていないのに、いや勝ち負けがあるかどうかも分かっていないのに、  
朦朧とする頭でそう思った、その時、  
下半身が何かに吸い込まれた様な気がした。  
 
「ひはぁぁぁぁぁぁ!」  
遠くで叫ぶ声がする。  
すでに一美はなぜこんなことをしているか分からなくなっていた。  
─負けたくない─  
その思いはずっと持っている。  
こんな事に勝ち負けがあるか分からないのに、  
勝ったところで「彼」が自分のものになる訳ではないのに。  
─でも、負けたくない─  
だから一美は、指と唇と舌を動かし続けている。  
その間にもゆかりがもたらす快感が襲ってくる。  
このままでは自分が先に気を遣ってしまうかもしれない。  
─負けない─  
だから、トドメを刺そうと思い、一美は矛先を花弁の後ろで息づくすぼまりに向けた。  
 
つぷっ。  
「くあ…う…かはっ…」  
思いも掛けない後門からの襲撃に、シャナは呻くしかなかった。  
同時に前門への攻勢も続いている。  
萌芽を吸い上げられ、花弁を舐り回され、菊門を蹂躙されている。  
快感と気味悪さが、喜びと悔しさが、熱さと悪寒が、  
頭の中にマーブル模様を描いている。  
体は横になっているはずなのに、なぜかふわりと上昇しているかの様な感覚に陥った。  
自分が未だ見ない高みへと達しつつある様な気がした。  
それはすなわち負けを─  
いやだ、いやだ、いやだ!  
瞼に悠二の顔が浮かぶ。  
負けと悠二と何の関係があるのか分からないけど、でも、いやだ!  
だから、シャナは勝負に出た。  
 
 
頭の中の悪い想像は増していくばかりだ。  
教室での二人の間に流れる不穏な空気を知っているだけに、悠二の心配は尽きる事はない。  
浴室の中で何が行なわれているか知らないので、  
悠二の心配とはもちろんバイオレンス方面のものだ。  
とはいえ一美がシャナに敵う訳がない。  
鍛え抜かれたフレイムヘイズと普通の女の子、どうなるかは考えるまでもない。  
結果は違えど、それが二人にとっていいものであるはずがない。  
ついに悠二は腰を上げ、千草に気付かれぬ様にそろりそろりと脱衣所に近付き、耳をそばだてた。  
 
 
シャナは一美を組み敷くと、一美の股間に自分の股間を差し入れた。  
花弁と花弁が合わさり、体重を掛けるとひしゃげる。  
「ああっ…」  
「んく…」  
すでに火がついて久しい身体は、また高みへと向かい始める。  
構わず腰を動かすと互いの潤滑液が混ざり合い、ちゅくちゅくと音を立てる。  
「あ、あ、あ、あぁ、んあぁぁっ!」  
「くはっ、はん、はん、はん、はあぁぁっ!」  
二人の嬌声も混ざり合う。  
腰を前後に動かせば襞と襞が絡まり合い、円を描く様に動かせば萌芽と萌芽が擦れ合う。  
一美も腰を浮かせ、より強く押しつけるかの様に動く。  
「あぁ、あぁ、さか…いくん、さかっ、あぁぁぁっ!」  
「くあっ、はあっ、ゆう…じ…ゆう、じぃぃぃぃぃっ!」  
一美の脳裏には坂井悠二に抱きしめられる情景が浮かび、  
シャナの脳裏には悠二を抱きしめる情景が浮かぶ。  
それが二人にとどめを刺した。  
「ふあぁぁっ!私、もう…だめぇぇぇ…」  
「はあぁぁぁっ!ふ…くあぁぁぁぁぁっ!」  
ほぼ二人同時に、「それ」は、来た。  
一美はぷるぷると細かく震えると、脱力し、ぐったりと果てた。  
シャナは雷に打たれたかの様に全身を張りつめさせ、そのまま前に倒れ込んだ。  
それをシャナにはない天然のクッションが優しく受け止める。  
荒い息の中で目を開けると、二人の視線が合う。  
二人は朦朧とした頭で、勝てなかった悔しさと、負けなかった安堵と、  
相手への敬意をぼんやりと感じていた。  
そこへ、どたどたどた、と足音が聞こえてくる。  
誰かがここに近付いてくる!  
ガラッ  
「二人とも大丈夫かっ!?」  
 
脱衣所の外で中の様子を窺っていると、二人の声が聞こえてくる。  
内容までは聞き取れなかったが。  
まさか、まさか…  
最悪の事態を思い浮かべる悠二の耳に、  
シャナの気合い(本当は嬌声)と一美の悲鳴(これも嬌声)が飛び込んでくる。  
いよいよたまらなくなって、悠二は脱衣所に駆け込み、浴室の戸を開いた。  
ガラッ  
「二人とも大丈夫かっ!」  
だが、中の光景は思い描いたものとは全く違ったものだった。  
二人は浴室の床で横になり、重なり合い、可愛らしいお尻をこちらに向けていた。  
それはつまり、二人の大事な所が、未だ悠二が見た事のない所が、  
ばっちりと、それはもうばっちりと…  
鼻から迸る血潮は、シャナの放った洗面器によるものか、  
それとも網膜に焼き付いた白色と肌色と鴉の濡れ羽色と栗色と桜色と薄桃色によるものか。  
「ばっ、ばかっ!見るな!」  
手で隠そうとするが、腕を背中から回しているので隠しきれるものではない。  
むしろ、より淫靡な光景になっている事にシャナは気付いていない。  
一美はあまりのショックに固まってしまっている。  
「あらあら、どうしたの?」  
声にギクリと振り返ると、そこには微笑みの中に柔らかな驚愕を浮かべている母親。  
そしてその右手には携帯電話─  
悠二には携帯電話から赤い気が立ち上っている様に見えた。  
 

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