街の遥か高みを薄長い曇天が聳え、人肌を吹き刺す寒風が地を滑っていく。  
例年よりも更に厳しさを増す寒気に、駅前の雑踏を行き交う人々の表情も険しく、重い。  
ここ御崎市は今、二月も半ばに差し掛かり本格化する寒波に、その全身を覆われていた。  
御崎駅前の通りを歩く人々の服装は、重武装と形容しても過言ではないだろう。  
マフラーはもちろんの事、コートを羽織り、セーターを着込む者も少なくない。  
その、人波でごった返す駅前の通りを挟んだ反対側、周りの建物よりも幾らか高いデパートに、  
一目を引く三人の姿があった。  
 「ふむ。この型ならば、耐久性も十分でありますな」  
デパートの中央二階、休日という事もあってか賑わいを見せる家電売り場で、奇妙な格好をした女性が、  
傍らに立つ販売員の説明に一心に耳を傾けている。彼女の名はヴィルヘルミナ・カルメル。  
白磁の様に透き通った肌、整った目鼻立ちに、艶やかに靡く髪を戴いたその風貌は、無表情の感はあるが  
絶世の美女と言うに相応しかった。その上時代錯誤的なメイド服に身を包み、巨大なザックを背に掲げている。  
その滅多に見られない奇抜な取り合わせに、衆人の好奇の視線が集まるのも無理からぬ話だった。  
 「ねえ、悠二。アレは?」  
 「ああ、あれはオセロって言って・・・」  
その売り場からやや離れた場所に位置するオモチャ売り場で、少女と少年の問答が繰り広げられている。少女の名は平井  
ゆかり。連れ立つ二人には『シャナ』と呼ばれていた。目の前に陳列された商品を爛々とした瞳で眺めるその姿には、  
普段常に漂わせている色濃い威圧感は感じられない。少女は見知らぬ物を見付けるたびに、その横に並び立つ少  
年に質問を繰り返していた。その問いに逐一答えている坂井悠二は、これと言って特徴の無い風貌を持つ少年だ。  
だが、その瞳はどこか人を安心させる様な、不思議な光を湛えている。少年は別段嫌がる風でもなく、  
少女の質問攻めに丁寧に応じていた。  
 (ふう。シャナもこういう時だけは、無邪気な顔をするんだな)  
悠二は心中で一人呟く。小さな熊の人形を手に取り満足そうに微笑む少女の様は、普段目にする厳格で、責務に  
忠実な彼女からは想像も出来ない程だ。悠二はそのギャップに思わず、クスッと笑みが零れてしまう。  
少女はそれを目聡く感じ取り、人形に向けていた視線を戻し、詰問の色を乗せて悠二を睨み付ける。  
 「ちょっと悠二。何で私を見て笑ったのよ?」  
 「えっ!い、嫌、別に・・・あ、カルメルさん、終わったみたいだよ」  
問い詰められた悠二は言葉に詰り、ちょうどタイミング良く現れたヴィルヘルミナを出迎え、誤魔化す事にした。  
シャナは釈然としない面持ちを浮かべるものの、とりあえずこちらに向かって来る彼女に声を掛ける。  
 「どうだった、ヴィルヘルミナ?」  
 「必要な物は全て買い揃えたのであります」  
問われたヴィルヘルミナは至って簡潔に答える。今日この三人がデパートを訪れた目的は彼女、シャナが住まう  
平井家のマンションに、最低限の電化製品を取り入れるためだった。シャナは生活の大半を坂井家で過ごしていた  
ために、その殺風景な自宅の現状には不満が無かったが、彼女を育てた養育係、ヴィルヘルミナはせめて生活に必要な  
物だけでも買うべきだと主張し、こうして少女と共にデパートへと足を運ぶ事になった。悠二はその付き添いとして  
二人に同行する事になったが、やる事はと言えば、退屈そうにヴィルヘルミナの言葉を聞くシャナを連れ出して、  
デパートを案内するという、子供のお守りの様な物だ。そう内心自覚しつつも、  
シャナが楽しんでくれればそれで良いか・・・  
と、思っていたあたり、少年の穏やかな性格が滲み出ている。その少年、坂井悠二はヴィルヘルミナに一言尋ねる。  
 「それで、配送は何時頃になったんですか?」  
 「・・・明後日、2月14日の予定であります」  
ややの沈黙の後、短くそう答える。彼女のその言葉に、悠二は思い出した様に呟いた。  
 「ああ、14日ってちょうどバレンタインの日ですね」  
 「バレンタイン?何の事、悠二?」  
傍らに並び歩むシャナが、悠二に端的な言葉で聞き返す。  
 「うん。バレンタインって言うのは、女の子が好きな人にチョコを贈る日なんだ。ほら、ちょうどあそこに―」  
悠二が左手のフロアに設置された特設会場を指差す。その場には高校生くらいだろうか、二人の制服姿の少女が  
真剣な表情を浮かべて、色取り取りのラッピングに彩られるチョコを、丹念に吟味する姿が見えた。  
 「まあ、とは言っても」  
悠二が更に言葉を続ける。  
 「今は女の子同士であげる事も珍しく無いみたいだよ」  
その言葉にヴィルヘルミナが頷き、  
 「外国では男女を問わず、大切な人にプレゼントをするのが仕来りなのであります」  
悠二の言葉に補足を加えた。二人の説明にシャナは、  
 「そう・・・」  
短く言葉を漏らし、顔を伏せつつ何か思案に耽っていく。悠二はその様子に気付く事も無く、  
 「カルメルさん。テレビの配線なんかは僕も手伝いますよ」  
ヴィルヘルミナに再び言葉を向けた。しかし、  
 「・・・・・」  
問いを受けた彼女は無言のままだ。無視、と言うよりは悠二が喋った事すら気付いていない様だ。  
 
その麗美な顔は相変わらずの無表情だが、どこか平常とは違う雰囲気が見て取れる。  
その微細な変化を感じ取れたとしても、悠二にはそれが何を意味するかまでは分からなかった。  
何故か急に押し黙り、ただ家路へと歩を進める二人に挟まれて、悠二は苦笑を露にする。そして一瞬、  
ある事に思い至るが、  
 (はは、まさかね・・・)  
それを身勝手な自意識の過剰と捉えてしまう。結局、二人に習いただ黙って歩く事にした。  
三人は、地を舐める強い寒気に肌を晒されつつ、静かに道路を進んで行く。  
三者三様の思いが胸中に蟠り、来るべき時に向け、動き始めていた。  
 
 
その翌日の夜、坂井家のリビングでは、常には見られない事態が起きていた。  
 「一体どうしちゃったんだろ、母さんとシャナ」  
悠二はぶつくさとぼやきつつ、自室へと繋がる階段を一段づつ昇っていく。普段ならば、夕食後のこの時間は三人で  
テレビを見つつ、何くれと無く歓談を交じわしているのだが・・・  
 「何か僕には言えない事でもあるのかな」  
やや疑問を浮かべつつ、ベットに寝そべった。今日に限ってシャナは、夕食後にリビングには近づかない様にと、悠二に  
言い放った。頼みと言うよりは命令に近いその宣告に当然反発をしたものの、少女の、強い輝きを燈す瞳に睨まれて  
は、気の優しい少年としてはどうにもならなかった。  
 「まあ・・・今日だけだろうし、我慢すれば良いか」  
天上を眺めつつ呑気にそう漏らす。そして夜の鍛錬が始まる前にと、宿題を済ませるべくその身を起こした。そして、  
 「そうだ。明日は学校の帰りにカルメルさんの所に寄らないと」  
鞄を開きノートを取り出しつつ、一人呟いた。  
 
 
同日の同時刻。坂井家からはやや離れた距離に位置する住宅で、一人の少女が明日への準備を行っていた。  
 「ふう。とりあえずは出来たけど・・・」  
少女、吉田一美はテーブルに並べられたチョコを眺めつつ、小さく安堵の溜息を漏らす。湯煎やボウル等の調理器具  
が大きなキッチンを埋め尽くし、無塩バターにオレンジピール、キルシュやリキュール等々・・・  
料理を知らない者から見れば、何に使うかも分からない様な代物が、あちこちに所狭しと置かれている。  
 (坂井君・・・気に入ってくれれば良いんだけど)  
吉田は胸中で呟きつつ、機嫌良く鼻歌を歌いながら後片付けを始めた。そこへ、  
 「あー姉ちゃん、また『写真の兄ちゃん』に何か作ってるの?」  
台所のドアを勢い良く開け、吉田の弟・健が入ってきた。  
 「あ、健!それは食べちゃ駄目。この残った物ならいいけど」  
 「ちぇ、写真の兄ちゃんばっかり贔屓するんだもんな」  
テーブルに伸ばした手を引っ込め、文句を言いつつも台所に残されたチョコを頬張る。その様子を目に映しながら、  
吉田は少年の姿を、更には明日の光景を脳裏に思い描いていた。  
 (坂井君も・・・健みたいに笑ってくれるかな)  
自分の差し出したチョコを照れながらも食べ、そしてにっこりと微笑みを向けてくれる。その後二人で・・・  
そんな出口の無い空想をぽーっと思い浮かべる姉を、呆れた様な表情を作りながら健が茶化した。  
 「姉ちゃん、あんまりしつこいと嫌われちゃうぜ?男は嫉妬深いのと、しつこいのが一番嫌いなんだから」  
吉田は、自分が何を想像していたのか、弟に見抜かれた事に驚くと同時に、頬を紅潮させて荒い声を上げる。  
 「健!!変な事言ってないで、早く寝なさい!」  
 「わ、分かったよ姉ちゃん。分かったから、包丁持って追いかけないでよ!」  
健が逃げる様に台所を後にし、自室へと慌てて引き上げていく。  
その後ろ姿を眺めながら吉田はふぅっと、溜息を付いた。  
 「とにかくこんなには持っていけないし・・・どれか一つにしないと」  
ずらりと並べられたチョコを一つづつ、丹念に見定めていく。彼女はまだこの時、予期もしていなかっただろう。  
この作業に、実に三時間もの時間を費やさなければならなかった事に。  
 
 
やはり同日の夜半。シャナとヴィルヘルミナが住まう平井家では、一つの異変が起きていた。  
 「・・・案外難しい物でありますな」  
台所に立つヴィルヘルミナが苦々しく言葉を漏らす。彼女の目の前には、無数のチョコの残骸(と思われる)が  
無残に散らばっていた。いくら料理下手の自分でも、チョコを溶かして固めるぐらいならば出来るだろうと、  
考えていたのだが・・・  
 「チョコの残りもあと僅か。何とかしなければならないのであります」  
テーブルに積まれたチョコを眺めつつ、一瞬気を張り詰めて、再び作業に取り掛かる。彼女の失敗は素人目にもやら  
ないような物が多い。例えば、  
湯煎に使うお湯の中にチョコを放り込み、奇妙なチョコのスープを作ってみたり、  
それに懲りて、チョコを直接火で炙り、黒コゲの物体を作り出したり・・・  
と、常識外れの物ばかりだ。得意料理は湯豆腐とサラダのみ、という彼女が何故、わざわざ手間の掛かるお菓子作り  
に手を出したのかと言えば、  
 (あの方はきっと・・・喜んでくれる筈であります)  
自分の育てた少女、シャナの為であった。メロンパンに限らず甘い物に目が無い少女ならば当然、喜んで食べて  
くれるだろう。その可愛らしい少女の笑みを思い浮かべつつ、  
 (その為にも、明日までに完成させねばならないであります)  
心中で呟き、黙々と作業を進めていく。この時、彼女はまだ気付いていなかった。彼女が愛するその少女もまた、  
強力な助っ人と共に、明日に備えた準備を入念に行っていた事を。  
 
 
 「……も、もう一回やってみましょう、シャナちゃん。時間はまだあるんだし、ね?」  
悠二の母、千草がキッチンカウンター一杯に広がる惨状に若干目を逸らしつつ、傍らの少女に励ましの言葉を掛ける。  
 「・・・分かってる、千種」  
シャナはムスッとした声を上げつつも、再び作業に取り掛かった。カウンターに散らばるそれは・・・何だろうか、  
黒く焦げた何かの塊の様に見える。少なくとも、その物体の原材料がチョコレートだと答えられる者は一人として  
いないだろう。子は親に似ると言うべきか、彼女、シャナもまた絶望的と言ってよい程に料理は不得手だ。しかし、  
 (負けない。吉田一美には……絶対に、負けない!)  
ライバルへの対抗意識が彼女を後押ししする。昨日聞いた悠二の話によれば当然、吉田一美はチョコを作ってく  
るだろう。もし自分が何も作らなければ、吉田一美に一歩も二歩も引けを取る事になる。そうなれば……  
 (・・・悠二は絶対に、渡さない!)  
一瞬思い浮かべた光景を振り払う様に、包丁でチョコを力任せに刻んでいく。彼女は昔(と言っても半年程前)の様  
に、悠二への感情を隠そうとはしなかった。吉田一美にも宣戦布告は当に済ませてある。  
真っ向から立ち向かうしかない。  
 「あ、シャナちゃん。そこはちゃんとかき混ぜないと、ダマになっちゃうわよ」  
千草が、やや気負い過ぎの少女を優しく嗜める。  
 「うん・・・」  
シャナはやや目を伏せつつ小さく頷き、千草の説明に耳を傾けた。  
 
 
 「・・・出来上がりでありますな」  
ヴィルヘルミナは満足げに言葉を漏らす。その緩んだ視線は、いびつではあるが紛れも無い一つのチョコの姿を捉え  
ていた。深夜もとうに過ぎ、やっと出来上がった第一号の成果だ。何の工夫も施されてはいないが、作り手の深い愛  
情を受けたそれは、きっと少女も気に入ってくれるだろう。ヴィルヘルミナは少し弾んだ心持ちで、そのチョコを綺  
麗にラッピングしていく。  
そうして手際よくリボンを巻きながら、ふと気が付いた。  
 「少し余りが有る様でありますな」  
テーブルの一角を眺めつつ端的に言い表す。自分の腕を考慮して大量に買い揃えていたチョコは、若干ではあるが残り  
がある。作ろうと思えば、一人分ぐらいは出来るだろう。  
ヴィルヘルミナは数分思案し、  
 「――誰が、あいつなんかに・・・」  
思い浮かべた一人の少年を即座に否定する。そして、  
 「とにかく、あの方に贈る事が出来れば・・・」  
一言洩らし、作業を淡々と進めていった。  
 
 
太陽が南天に高く昇り、暖かな陽気が地を照らす昼下がり。普段よりもどこか騒がしい教室で、悠二はいつもの  
面子と共に昼食を取っていた。  
 「さ、坂井君・・・これ、どうぞ」  
 「うん。いつもありがとう吉田さん」  
吉田が悠二に手作りの弁当を手渡す。これはもはや日常と言ってもいい程に見慣れた光景だが、  
 (何だろう。吉田さん、少し顔が赤くなってるみたいだけど)  
今日の彼女の様子はどこか、奇妙だった。伏せた目をこちらを窺う様に走らせ、時折小刻みに喉を震わせている。  
悠二には無論、心当たりは無いが……  
 (まあ・・・考えても仕方が無いし、とりあえずご飯を食べよう)  
 
ほんの数秒思索し、そう結論付けた。そして、受け取った茶巾の包みの紐を緩めていくが、  
 「あれ――吉田さん、これって・・・」  
その中には見慣れた弁当箱の他に、真紅のリボンに包まれた透明なセロハンの包みがあった。悠二はそれを  
掴み上げ、まじまじと注視する。それは―  
 (チョコ?あ、そうか今日は・・・)  
趣向を凝らした手製のチョコレートだった。丸く整えられたチョコの甘い香りと、柑橘系の爽やかな匂いが、悠二  
の鼻腔を優しく擽る。そこまで考える内に、自分の顔が一気に赤くなっていくのが感じ取れた。  
 (ん?何だ、吉田さんも案外大胆なんだな)  
コンビニの弁当を摘みつつ、池は心中で言葉を紡ぐ。横目で眺め見た二人の顔は耳まで朱に染まり、お互いに何か  
言いたげに視線を交じわせている。以前ほど自分を頼らなくなった彼女に、どうしても寂しさと共に喪失感を  
抱いてしまうが……  
 (ふうっ。それは喜ぶべき事なんじゃないのか?)  
その屈折した情動を仕舞い込み、自嘲気味に虚しく笑う。池は自分の気持ちが何なのか、それを見定めない内は  
友達として彼女を応援すると、悠二に宣告していたからだ。  
友人の旅立ちは素直に喜ぶべき事だろう、と冷静に考える。  
 (とりあえず、今は僕が口出しすべき事でも無いし、静観しておこう)  
そう静かに結論付け、再び弁当に視線を落として黙々と食べ始めた。  
悠二が先か、吉田が先か、どちらが話し掛けるべきか互いに迷い、一時の静寂に場が包まれる。  
―と、その時  
 「悠二!!」  
 「え?――わあッ!!」  
悠二の隣に座るシャナが、何かを力一杯悠二の胸に突き付けた。その弾みで悠二の体が椅子ごと後ろに倒れ、耳に  
響く騒音が床を低く鳴らす。  
 「シャ、シャナ、いきなり何を――」  
 「ゆかりちゃん!どう――」  
 「うるさいうるさいうるさい!!悠二、黙ってそれを食べなさい!」  
口を開いた悠二と、抗議の声を上げかけた吉田を遮り、シャナが真っ赤に染まった頬を隠す様に俯きながら、  
怒鳴り声を上げた。その言葉に悠二は、  
 (食べる?)  
少女の言葉を反芻しつつ、胸元に目線を移す。それは、  
 「――――――何、これ?」  
綺麗にラッピングされた黒焦げの、何か。他に形容すべき言葉は何も見当たらなかった。今日が何の日か知っていな  
ければ、悠二にはそれが何なのか見当も付かなかっただろう。悠二は額に脂汗を浮かべつつ、シャナに一応訊き返す。  
 「・・これ、僕が食べるの・・・?」  
 「な、何よ!私は、悠二の為に・・・」  
一転、汐らしく言葉を洩らし、潤んだ瞳で見詰めるシャナ。その、少女にそぐわない艶のある仕草に、悠二は  
崖っ淵へと一気に追い込まれていく。  
そして一回、咽喉を低く鳴らし、  
 「い、いただきます・・・」  
引き攣った顔をぎこちなく動かして、そう呟いた。  
 
 
 「シャナ、先に帰っててよ。僕はカルメルさんの手伝いをしてくるから」  
 「え?悠二が行くなら、私も行く」  
赤く焼けた陽が斜めに校舎を照らす中、校門前で悠二とシャナが言葉を交じわしている。悠二は一昨日ヴィルヘル  
ミナと交わした約束を果たす為に、平井家へと向かう所だ。  
 「シャナが来ても、家電の配線なんかは分からないだろ?すぐに帰るから家で待っててよ」  
 「・・・うん、分かった悠二。早く帰って来てね?」  
シャナは少し迷った後に、短く同意する。実際、自分が行った所で悠二の言う様に、役に立つ事はありそうに無い  
からだ。こういう客観的に物事を見る事が出来る所は、少女の美点とも言える。  
 「うん。じゃあまたね、シャナ」  
悠二は軽く手を振りながら、少女の小さな後姿を見送る。長い髪が緩く吹く風に戦ぎ、すぐに夕闇へと  
その身を溶かして行った。そして、  
 「それにしても」  
シャナの姿が見えなくなったのを確認した後に、  
 「あれは凄かったな・・・  
舌に残る悪心に身震いしながら、悠二は苦笑混じりに言葉を洩らした。  
 
 
 「カルメルさん、こんばんは。手伝いに来ました」  
 「ミステス・・・何故、ここに」  
呼び鈴を鳴らし、待つ事数分。悠二を出迎えたのは常変わらぬ仮面の様な表情……ではなく、やや呆気に取られた  
様子を浮かべるヴィルヘルミナだった。  
 「何故って・・・一昨日言ったじゃないですか。手伝いに行くって」  
 「そ、そうでありますか・・・とりあえず、入るであります」  
ヴィルヘルミナは、やや上ずった声を本来の調子に戻しつつ、悠二を家に招き入れる。部屋は暖房が効いている  
のだろうか、暖かな陽気に満ち、上着を着ていては暑過ぎるほどだ。  
悠二は制服の上着を脱ぎつつ、思い出した様に胸中で呟いた。  
 (そういえば一昨日のカルメルさん、聞いて無かったんだっけ)  
今の彼女の様はその時の状態とやや似ている。どちらも、平常では絶対に見られないと言う点では。  
 「――ミステス。その前に、渡す物があるのであります」  
 「へ?あ、はい、分かりました、カルメルさん」  
悠二は答えつつも内心首を傾げ、数秒思案する。  
今まで彼女から何か貰った事など、一度としてない。彼女は無駄な事を一切する事も無い。  
なら一体何を……  
 (ふぅっ。考えたってしょうがないや。分かるわけ無いんだし)  
そう考え直し、黙って彼女に付いて行く事にした。リビングへと通された悠二に、  
ヴィルヘルミナは滔滔と語りかける。  
 「これを、あの方に渡してほしいのであります」  
 「シャナに?これって……チョコですか」  
ヴィルヘルミナが差し出したのは、群青のセロハンに、透き通った水色のリボンがよく映える、チョコレート  
だった。やや無骨な作りだが、料理下手の彼女からしてみれば上々の出来だろう。悠二は軽く微笑みつつ、  
 
 「シャナもきっと喜んでくれますよ、カルメルさん」  
本心からの言葉を贈った。ヴィルヘルミナは僅かに頷き、更に、  
 「ミステス、これはお前に・・・」  
顔を僅かに伏せつつ、悠二にチョコを手渡した。それはシャナの物と同様に凝った包装が施され、  
見る者に煌びやかな印象を与えている。悠二は内心の動揺も露に、ヴィルヘルミナに訊き返した。  
 「ぼ、僕にですか?あの、ありがとうございます・・・カルメルさん」  
そう言う内にも顔が火照り、じっとりと汗が流れ出していくのが感じ取れた。  
 「か、勘違いするなであります!それは、余り物で作っただけの事であります!」  
同じく、顔を真っ赤に染めたヴィルヘルミナが一気に捲くし立て、反論する。  
悠二はその様子を眺めながら、静かに、一言だけ囁く。  
 「カルメルさん」  
 「ミステス、まだ話は――!!」  
ヴィルヘルミナの声が、中途で途切れる。悠二が一瞬早く、彼女を胸元へ抱き寄せていた。  
 「カルメルさん、ありがとう、本当に・・・」  
固く抱き止め、想いを言葉に乗せる。  
ヴィルヘルミナは、何も答えない。  
数分、場を静寂が支配するが、  
 「ミステス、お前は卑怯であります・・・」  
ヴィルヘルミナが、くぐもった声を上げた。  
 「あの方にも好意を振りまき・・・そして今、この私にも・・・」  
堪えた嗚咽が、涙と共に流れ出す。  
 「どうして――」  
震える声を必死に搾り上げ、言葉にする。  
 「・・・こんな事を、するでありますか――」  
悠二の胸に顔を押し付け、掠れた声を上げた。  
 「――っ、う、うう・・・」  
必死に抑えた涙が頬を伝い、床に落ちる。  
 「カルメルさん、顔を上げて」  
悠二はヴィルヘルミナの頬を優しく挟み、涙を拭った。  
 「僕は」  
一呼吸置き、高鳴る心臓を静める。  
 「カルメルさんが好きだ」  
その言葉に、ヴィルヘルミナは大きく目を見開らいた。  
何かが、心に強く溢れていく。  
 「他の誰よりも」  
手の温もりが頬に伝わり、脈打つ心臓の鼓動が耳に響く。  
 「シャナよりも、吉田さんよりも」  
悠二がにっこりと、ヴィルヘルミナに笑い掛けた。  
 「それじゃ、駄目かな?」  
お互いに無言で見詰め合う。  
悠二の蕩蕩とした瞳が、真っ直ぐに自分を見据えている。  
 「・・・ミステス」  
 
ヴィルヘルミナは涙を拭いつつ、小さく囁く。  
 「やっぱりお前は、卑怯であります」  
顔を悠二に向け、自然に微笑み返していた。  
 
 「今日は随分と遅いのね、悠ちゃん」  
 「うん・・・」  
シャナは、千草の問い掛けに気の無い返事を返す。リビングに据えられた時計は七時を指し示し、外は暗い影を落  
としている。  
 (・・・・悠二)  
得体の知れない胸騒ぎが、シャナの心に蟠る。予感、と言うよりは直感に近いその不安が、どこか気になった。  
 「……千草、私様子を見てくる」  
そう言うが早いか、椅子に掛けられたコートを手に取り、それを羽織りつつ立ち上がる。そして、  
 「すぐに戻って来るから」  
千草に別れの言葉を掛け、リビングを後にした。千草はその後姿を見送りつつ、ふうっと、溜息を付く。  
 (シャナちゃんも、悠ちゃんの事になると周りが見えなくなっちゃうわね)  
玄関のドアを閉める音が鳴り響き、リビングに一時の静寂が訪れる。  
千草は何をするでも無く、カップに注がれた紅茶に口を付け、甘い香りを味わった。  
 
少女はまだ、何も知らない。  
 
 
 「うあっ!カ、カルメルさん・・・」  
 「ん、うんっ、んっ・・・」  
リビングに、悠二の低い呻き声が響く。ヴィルヘルミナが膝立ちし、顔を前後に緩く動かして、悠二の固く怒張した  
ペニスを指で優しく扱いていた。  
 「ふむっ、んんっ――」  
竿を丁寧に舌で舐め上げ、軽く歯を立てる。悠二はその、痺れる様な快感に翻弄され、思わず身を捩じらせた。  
 「んむ・・・どうでありますか?ミステス」  
ヴィルヘルミナが唇を離し、上目越しに問う。その視線を真正面に受け、悠二は顔を真っ赤に染めながらも、  
 「凄く、気持ちいいです・・・カルメルさん」  
正直に言葉を発した。ヴィルヘルミナはその様を眺め、優しく微笑む。そして、  
 「では――これはどうでありますか?」  
 「あっ!ふぁ、それ、は―」  
ペニスを豊満な乳房で挟み込み、上下に動かし始めた。唾液で濡れそぼったペニスは滑らかに滑り、木目の整った  
柔肌が縦横に形を変える。更に強烈になる甘美な感覚に、頭が沸騰しそうな程に熱くなっていく。  
 「うぁ、ん!カルメル、さん・・・」  
 「ん――むっ」  
ヴィルヘルミナが、胸の谷間からはみ出した亀頭を再び口に含む。滑らかな舌がペニスを包み込み、柔らかい胸の  
感触が、悠二を絶頂の高みへと一気に導く。  
 「あ、カ、カルメルさん、もう!」  
 「んんッ!――」  
声にならない呻きと共にペニスが鋭く痙攣し、口腔の最奥、喉へと濁った大量の精子を噴出した。  
 
 「ふむっ・・・」  
二度三度、ペニスが大きく脈動し、残滓を吐き出していく。ヴィルヘルミナは悠二の尿道を吸い上げ、  
一滴残らず口に含んだ。そして、  
 「ん・・・」  
その苦味に、やや顔を歪めつつ、咽喉を鳴らして精液を飲み干していく。  
 「……はぁっ、随分とたくさん出したのでありますな」  
ペニスから顔を離し、口角をにっと上げて、言葉を紡いだ。その薄く朱を引いた唇に、精子が糸を引き、白い筋を残  
し、雫となって床に落ちた。悠二はその、背筋が凍る様な淫靡な光景に目を奪われ、理性の箍が外れそうになる。  
―が、次の瞬間には、  
 「カルメルさん!」  
 「あっ・・・」  
自分でも気付かぬ内に、ヴィルヘルミナをソファーに押し倒していた。手を下の方へと下ろし、古めかしい  
ズロースを一息に、真下に降ろす。  
 「何だ・・・カルメルさんも、もうこんなになってるじゃないですか」  
悠二はヴィルヘルミナの秘所を眺めつつ、微かに皮肉った。秘裂は既に愛撫を加えるまでも無い程に熱く濡れ、  
愛液を滴らせている。  
 「なっ!そんな事、言うなでありま――あっ!!」  
ヴィルヘルミナが抗議の声を上げるよりも一足早く、悠二は膣口に指を差し入れていた。中指を前後に鋭く  
動かし、膣壁を擦る。膣は易々と指を受け入れ、適度に締め上げていく。更に、  
 「ふぁ、あっ、何を――」  
クリトリスを口に含み、優しく舌で転がした。刹那、ヴィルヘルミナの腰が跳ね上がり、甘く蕩ける様な  
嬌声が部屋に響き渡る。  
 「ひあっ!あぁ、ミステス、やめ・・」  
 「ん?やめちゃっていいんですか、カルメルさん?こんなに濡れているのに」  
ヴィルヘルミナの囁きに悠二は意地悪く笑い、膣に差し込んだ指を引き抜いて、彼女に見せ付けた。指に纏わり付  
いた愛液は灯に映え、濡れ色に淡く光っている。  
 「むっ・・・い、いきなり何を言うでありますか」  
それを眺め、真っ赤になりつつもヴィルヘルミナが言葉を紡ぐ。悠二はいたって平静に、  
 「だってカルメルさんが嫌なら、無理やりしたら可哀想じゃないですか……」  
彼女の言葉に答えた。それを耳にし、ヴィルヘルミナは一瞬言葉に詰まる。  
だが、  
 「・・・・・・であります――」  
 「え?よく聞こえないんですが・・・」  
消え入る様な声を囁くヴィルヘルミナを、悠二は更に焦らす。彼女は目尻を吊り上げて悠二を睨み付け、  
 「して欲しいのであります!!」  
戦慄く唇を必死に動かした。それでも悠二は、  
 「何を?」  
短く、一言だけ詰問する。その言葉に、ヴィルヘルミナは双眸に涙を湛えながら、  
 「もう、知らないであります!」  
茹で上がった様に火照った顔を横に背け、そう吐き捨てた。  
 「すいません、カルメルさん・・・なんだか可愛くて、つい」  
 
 「い、今更何を――ふぁッ!!」  
悠二がヴィルヘルミナに声を掛けつつ、再び膣に指をねじ込んだ。その指を奥へ奥へと滑り込ませていく。更に、  
 「あぁ、はぁん・・・ぅん!」  
指を二本、三本と増やしヴィルヘルミナを攻め立てた。膣の締め付けが一層高まり、絶頂の兆しが緩やかに訪れる。  
悠二は指の動きを一際速め、膣壁に軽く爪を立て、絶頂へと彼女を導く。その動きに連れて、ヴィルヘルミナの喘ぐ  
声が段々と高まり、荒く吐く呼気と共に洩れ出していく。そして―  
 「はぁっ――あ、ふああああああ!!」  
足腰が攣る様な感覚に襲われ、壮絶な快楽の波が総身を震わせた。  
 
 「――――雪―」  
シャナは足早に歩を進めつつ、一人呟く。見上げた漆黒の夜空には、風に吹かれ舞う様に空を滑る風花が、闇夜を  
彩っていた。シャナはコートに付いたその欠片を一片掴み、思案に耽っていく。  
 (そういえば……悠二に訊いてなかった)  
昼間の状景を脳裏に描く。今思い返せばあの時、一番肝心の事を悠二に訊きそびれていた事に気が付いた。  
もっとも、その時は悠二に渡す事だけを一心に考えていた為に、それ以上頭が回らなかったのだが。  
 (悠二は・・・私のチョコを食べて、どう思った?)  
握った拳の中で粉雪が溶け、じっとりと掌を濡らす。  
 (悠二は、私の事をどう思っているの?)  
人も疎らな住宅地の歩道を目の端に捉え、  
少女はただ黙々と、愛する少年の元へと歩き続けた。  
 
 「はぁん、ふぁ・・んんっ――」  
悠二はヴィルヘルミナの上から圧し掛かり、体重を掛ける様に腰を打ち付け、力強く膣にペニスを出し入れする。  
湿った粘液の弾ける音が繋がった場所から洩れ、静まった室内に響く。  
 「うぁっ、カルメルさん・・・」  
悠二の手が目の前で舞う乳房に伸びた。優しく揉みあげ、暖かく柔らかな感触を味わっていく。そして、  
 「あっ!はぁ、そこ、は―」  
固く立った桜色の乳首を貪り、舌で舐め上げた。円を描く様に舌を動かし、優しく乳首を噛む。ヴィルヘルミ  
ナの甘い囁きが、悠二の感覚を更に研ぎ澄ませていく。  
 「カルメルさん」  
悠二がヴィルヘルミナを抱き上げ、後ろ手に倒れこむ。ちょうどヴィルヘルミナが、悠二に馬乗りになる体勢だ。  
 「ほら・・・自分で動いてみてよ」  
彼女の腰を掴み、動きを促す。  
ヴィルヘルミナは一瞬迷いを見せた後、  
 「……仕方が無いでありますな」  
短く言葉を洩らし、ペニスを膣口に宛がった。  
 「んっ・・・」  
深く、膣の最奥へとペニスを誘い入れ、そして締め上げる。悠二は彼女の引き締まった腰を上下に動かして、  
下からペニスを衝き上げた。ヴィルヘルミナの形の良い胸が縦に揺れ、嬌声が徐々に大きくなっていく。  
 「んん、ふぁぁ、あ――」  
 
ヴィルヘルミナが玉の様な汗を浮かべ、腰を前後上下に激しく揺り動かす。熱く脈打つペニスが肉襞を貫き、膣が  
痛い程にそれを締め付ける。互いの絶頂が近づき、更にその動きを速めて行った。そこへ、  
 「ひあっ!ん、はぁん―」  
悠二が露出したクリトリスを摘み上げた。電流の様な鋭い感覚が身体を這い回り、絶頂へと引き上げていく。  
 「ふあぁ、もう、私は―あっ!」  
 「カ、カルメルさん・・・僕も、もう!」  
膣の締まりが更に高まり、絶頂の兆しにペニスが一際膨張する。そして、  
 「んんっ、あ――あああぁぁっっ!!!」  
 「くっ!うあぁっ!!」  
ペニスを膣の最奥に打ち付け、膨大な量の精子を注ぎ込んだ。収斂した膣が蠢動し、残滓を子宮口へと  
導いて行く。壮絶な快感の渦が総身を駆け巡り、腰が抜けた様に力が入らなかった。  
 「ふぁ、あ・・・」  
放たれた熱い液体を感じつつ、ヴィルヘルミナは恍惚とした表情で宙を眺める。  
 「よっ・・・」  
悠二がヴィルヘルミナの腰を掴み上げ、ペニスを引き抜いた。精液が膣口から流れ出し、糸を引いてソファーに  
零れる。  
 「・・・ふぅ――――」  
ヴィルヘルミナはソファーに横になり、荒い息を整える。切れ長の瞳を閉じ、しばし、酔う様な感覚に身を任せるが、  
 「―― 、―」   
すぐに微睡へと意識が薄らいでいった。静かに寝息を立て、胸を緩やかに上下させて深い眠りに付く。その、凛  
とした美貌に浮かぶ可愛らしい寝顔を眺めつつ、悠二は服を身に付け始める。  
―と、そこへ、  
 「ん?誰か来たみたいだな……」  
呼び鈴が高く鳴り響き、来訪者の到来を告げた。悠二はほんの一瞬思案するが、  
 (とりあえず毛布を持ってこないと)  
ヴィルヘルミナが風邪を引かない様にと、まず寝室へ急いだ。ベットから毛布を持ち出し、ヴィル  
ヘルミナに優しく掛ける。  
 「はーい。今行きます!」  
その合間に、もう一度呼び鈴が室内に響き渡った。  
悠二は慌ててシャツを引っ掛け、玄関へと駆け出していく。  
 
この後に、三つ巴の壮絶な修羅場が繰り広げられるとも知らずに。  
 
 
 

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