いつもの食事風景。  
田中と佐藤の馬鹿話に池と僕が突っ込む。  
吉田さんがそれを見て、くすりと笑う。  
シャナは気にしないでメロンパンをぱくついている。  
そんないつもの風景。  
 
ふと、佐藤が何気無く  
「平井ちゃんって、いっつもメロンパン食べてるよな」  
なんて言ってきた。  
「…好きだから」  
モフモフの所(彼女いわく)を堪能しつつ、シャナが返す。  
メロンパンの味を逃すまいと、しっかりと飲み込んでから  
返事をするあたりがシャナらしい。  
「よく分かるよ。色んな菓子を食べてるのを見てるけど、絶対メロンパンが  
その中に入ってるからね」  
…池、よく見てるな。  
 
話がシャナのことに及ぶと、僕は閉口するしかない。  
迂闊に踏み込めば地雷(佐藤、田中、池+吉田さんの視線)に  
当たるのが目に見えてるから。  
出来る限り危険区域には近寄らない。  
それにシャナはメロンパンに夢中だし。  
こんな対処法を身に付けるようになった自分に涙していたら、  
佐藤が、僕なりの対処法を、シャナのご機嫌な思考を、瞬時に吹き飛ばす一言。  
 
 
 
「メロンパンと坂井、選ぶんだったらどっちを取る?」  
 
 
 
「…………」  
 
シャナがメロンパンを口に運ぼうとしたまま固まってる。  
 
「…………」  
 
吉田さんの手から箸がこぼれ落ちてる。  
 
「…………」  
 
田中が、面白そうだと言わんばかりに、ニヤついた顔をしてる。  
池は少し真剣な、佐藤は会心の笑みを顔に貼り付けてる。  
 
「…………」  
 
僕はどんな顔をしてるんだろう?  
表情も分からないまま、顔はシャナの方に、向けられたまま。  
動かせない。シャナの取る行動から目が離せない。  
 
シャナの視線が、メロンパンにゆっくりと降りる。  
ジッと見つめて、ゆっくりと、今度は僕に目を合わせる。  
ゆっくりと、メロンパンへ。  
ゆっくりと、僕へ。  
「…………」  
メロンパンへ。  
「…………っ」  
僕へ。  
「…………っっ」  
メロンパン。  
「…………っ!」  
僕。  
「…………っっ!!」  
何度も視線が行き来していくうちに、その瞳が揺らいでいく。  
あの強大で雄雄しいシャナが、頬を赤らめて、思い悩むさまは可憐な様  
(って、何を考えてるんだ僕は!)  
突っ走りかけた思考を一途の理性で遮断して、  
思い悩む(?)シャナに救いの手を差し伸べる。  
「シャ…じゃなくて平井さん?」  
ビクッ!  
シャナが僕の声に反応して、彼女らしくなく、  
捨てられた子猫みたいに、こちらを伺うように視線を合わせる。  
「あんまり気にしなくていいよ。僕は平井さんが悩んでくれたってだけでいいから」  
「う、うるさいうるさいうるさい!  
 別に、そんな、悩んでなんかいないわよ!!」  
「うん、わかってるよ」  
「なによ、その笑った顔!!悩んでなんかない!!」  
そんな僕らの様子を見て、佐藤と田中が腹を抱えてるし、池は苦笑い。  
吉田さんの背後に炎のオーラをそこはかとはく感じるけど、  
今は、目の前で顔を真っ赤にして詰め寄る彼女の姿に頬が緩んでくる。  
 
そんな、いつもの食事風景。  
 

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