「ねえ、シャナ」  
ここは御崎市の住宅街。  
その中の一つである坂井家の二階の一室。  
「なに?悠二」  
二人の男女が存在していた。  
シャナと呼ばれたその華奢な少女は見た目とは違う圧倒的な存在感があった。  
腰の辺りまで伸ばされたクセ毛一本ない黒髪。  
吸い込まれそうなほどに深く、弓を射るように鋭い眼光。  
そのすべてに貫禄が満ちている。  
「シャナは―――――」  
一方悠二と呼ばれた少年は決して筋肉があるわけではないが無駄な脂肪もない、  
いわゆるどこにでもいる少年であった。見た目だけは。  
同時にどこにでもありえない秘密を秘めた少年であった。  
彼は身体の内に宝具と呼ばれているものを蔵した”ミステス”であった。  
その中でも”紅世”秘宝中の秘宝「零時迷子」を蔵していたのである。  
毎晩零時になるとその日の内に消費した”存在の力”を初期値に戻すことができる  
一種の永久機関であった。  
「僕のこと―――――」  
少女は”天壌の劫火”アラストールのフレイムヘイズ”炎髪灼眼の討ち手”であり、  
この世を跋扈する”紅世の徒”を討滅するための人間を遥かに超えた存在である。  
その誇り高き一人のフレイムヘイズが  
「どう思ってる?」  
一人の少女になった。  
 
 
人が一番感じることの少ない季節、秋のある日の土曜日。  
悠二とシャナは少々肌寒いながらもコーとをはおい、外を歩いていた。  
否、食べ歩いていた。  
「はむはむもぐもぐ」  
手にしているのはもちろんシャナの大好物であるメロンパンである。  
それを見て悠二は何度目か分からないため息をついた。  
(はあ・・・こんな寒い思いをしてまで食べたいなんて・・・。やっぱりシャナはメロンパンが  
 大好きなんだな)  
「はむはむもぐもぐ」  
悠二のそんな思いをはねとばすようにシャナは食べ続けている。  
(はは・・・まあよろこんでいるみたいだし別にいいか)  
なんてことも思い始めた悠二であった。  
そして、その視線にようやく気付いたのか  
「なに?」  
と怪訝そうな顔で、寒いからかは分からないがやや赤い顔で言った。  
「別に、なんにもないよ」  
とだけ悠二は答えた。  
 
「おかえりなさい悠ちゃん、シャナちゃん。寒かったでしょう?すぐに紅茶を淹れるから  
 座って待っててね」  
と坂井悠二の母こと坂井千草が二人が帰って来ると同時に玄関に飛んできた。  
そしてまたキッチンの方に飛んでいってしまった。  
リビングに入るころには紅茶のいい香りが部屋中に漂っていた。  
その香りは何とも言えないやすらぎと暖か味をくれる優しいものだった。  
そんなことを考えている内にコトッとテーブルに紅茶が置かれた。  
「シャナちゃんは甘党だから砂糖をたっぷりといれておいたわよ」  
まさしくその無駄のなさや手際のよさ、状況判断能力はシャナの契約者である  
アラストールをもうならせる完璧さがあった。  
「ありがとう、千草」  
そう心からのお礼を言い、シャナは紅茶を口につけた。  
砂糖をたくさんいれたからといっても甘すぎず、絶妙な味であった。  
どんなに寒い日でもこの紅茶を飲めばすぐに暖かくなれそうだなとシャナは思った。  
悠二は飲み慣れているのか無言で口につけている。  
だが文句一つ言わないで飲んでいるということはやはり悠二もこの紅茶の味を気に入って  
いるということがよく分かった。  
それほどにこの紅茶はおいしいのである。  
 
「ごちそうさま千草」  
紅茶も飲み終わって身体がポカポカしてきたとき、千草は今晩の夕食であるすき焼き  
の材料の買い出しに出かけて行った。  
シャナは家族の証である鍋を囲むという行為に改めて喜びを感じた。  
自分も輪の中に入っている。ここにいてもよい。悠二といっしょにいられる。  
そんな思いが頭の中を駆け巡った。  
(私、やっぱり悠二のことが好きなんだ)  
そう思うといても立ってもいられなくなる。でもそれがなかなか言えない。  
それが悲しくて情けない。  
(でも今日こそは・・・)  
と思ったことが何回あっただろうか。その度に自分はなんて弱いんだろうと思ってしまう。  
でも今日はいつもと違った。  
(私、絶対に言う)  
決意するようにもう一度  
(言って見せる)  
もう少女の目に迷いはなかった。  
 
悠二は紅茶を飲みながらシャナの方に目を向けていた。  
シャナは何かを考えているようだった。  
同じく悠二も考えていた。  
(シャナって僕のことどう思ってるんだろう)  
薄々ながらも彼女の気持ちに気付いてきたが確信にには至らない。  
その分かりそうで分からない微妙な感じになんとも言えない不快感を感じた。  
(今日、聞いてみようかな)  
少年もいつも違った。  
(よし、聞いてみよう)  
少年の目にも迷いはなかった。  
 
 
 
 
                            続く?  
 

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