研究室
「本当にこれで大丈夫なんだな」
無機質で淡々とした問いかけが雑多な室内に響きわたる
「もっおぉぉぉちろんですとも!!我学の結晶エクセレント000999、[因果を守る者]の動作は完璧に決まってます!」
その問いに偉くハイな声が自信ありげに答える
「ならかまわん。こちらは依頼を達成するだけだ」
パイロットスーツを着た男は長くなりそうな話を適当に褒めて切り上げさせ、研究室を出た
部屋を出たところで背後に気配を感じた男は0.5秒で背後にショットガンを突きつける
そこにはサングラスをかけ、不敵に笑みを浮かべるオールバックの男が立っていた
「依頼人に銃を向けるのがレイヴン(傭兵)の礼儀というものか?」
男の笑いに不快な顔をしたレイヴンは喉元の鈎爪をショットガンで打ち払い
今回の依頼・敵地強行偵察の依頼主<千変>シュドナイを一瞥するとさっさと歩き去る
長く続く通路にレイヴンの姿が見えなくなるとシュドナイは呟く
「やれやれ…どうして俺はこうも嫌われるのかね」
:お前の他人を見る、ねっとりした視線を止めれば少しはマシになる:
<<システム、待機モードより通常モードに移行します>>
レイヴンがAC(9m〜11m位の人型兵器)に乗り込み、作戦領域に向かうべくスラスターを噴かして巡航状態で飛んでいく
それを遠目で観ていた白い巫女装束の少女が、いつのまにか横にいたシュドナイに問う
「シュドナイ、本当に人間に任せてよいのですか?
ベルペオルの反対を押し切ってまで彼を使う理由が私にはわかりません」
巫女、<頂の座>ヘカテーの詰問にもシュドナイは平然と応じる
「なぁに、俺達が人間を尖兵に使わないのは知れ渡っている。だからこその人間さ」
その答えには納得していないものの、それ以上ヘカテーは問いたださずに疑問を飲み込んだ
御崎市・夕方
シャナと悠二はその日の授業を終えて、メロンパンを買いに、商店街を歩いていた
「シャナ、こっちの方が厳選されたものみたいだよ?」
少年、坂井悠二の問いかけにも無反応…いや、夢中になってメロンパンを漁っている少女・シャナには届かず、人の流れに押されては二人の距離はさらにひろがっていった
そんないつもの日常の風景がなんの前触れも無しに燃え上がる
「封絶!?」
シャナと悠二が大規模な封絶の展開を感知すると同時に鋼鉄の巨人が封絶の中心、ビル街の真ん中に滑空状態から着陸した
アスファルトを削り、車を弾き跳ばしながらAC(アーマードコア)が停止する
「悠二!」「わかった!」
その光景を遠くから観ていた二人は素早く現場に急ぐべく、悠二はシャナにつかまり炎の翼で巨人の元に飛んでいった
<<隔離空間の展開を確認しました。システム、戦闘モード、起動します>>
レイヴンは頭部CPUの合成音を耳タコ状態なので無視して、生体・赤外線センサー・各種レーダーを作動させる
素早く戦闘体制に入ると、ふとモニターを見つめる。そこには完全に動きが止まった人々と周りを包む炎の明かりだけの異世界が広がっていた
「奴の我学の結晶とやらは正常に作動しているようだな」
明らかな異常事態ですらこのレイヴンには確認事項でしか無いようだ。するとレーダーに反応が…
「タリホー(敵捕捉)11時方向・方位7-1-0に数2、メインターゲットと特徴が一致。攻撃する」
「何あれ!徒じゃない?」[どうやら人間の兵器のようだ]「ロボット?」
シャナ達の前に現れたのは全長10mを越す無骨なフォルムのいかにも実用一点の形をしたロボット。ACである
しかしACはそんな彼らの驚愕すら無視して、空中にいるシャナと悠二に大量のマイクロミサイルの雨を降らせた
「っ!はぁぁぁ!!」
シャナはミサイルの雨に一瞬固まるも、すぐに大太刀に炎を纏わせてミサイル群を薙払う
炎の波に飲まれて次々と誘爆するミサイル、しかし迎撃して出来た爆煙を交い繰ぐってACが高速で突撃してくる
質量差が激しく、真正面からぶつかるのを避けようと回避し、時速数百kmで駆け抜けるACを炎の剣で打ち据える
その剣が当たる前にACが空中に飛び上がり、左腕部に取り付けられたレーザーブレードで振り返るように弾き返す
ACはブレードで弾き返した相手の体制が崩れた隙に近くのビルの屋上に乗り移り
ひざまずき、右肩の大口径グレネードの長い砲身を右腕で支えて構える
すさまじい力で弾かれた二人は後ろにあったビルのオフィスに突っ込み、一時的に動けないでいた
その時コキュートスから警告が飛ぶ
[坂井悠二!アズュールを使え!焼夷榴弾だ!]
0.2秒後、悠二がアズュールを発動させたと同時にグレネード弾が二人を襲った