悠二は学校から帰る途中、真南川河川敷に寄り道していた。  
特に理由があったわけでもないが、唐突に散歩するつもりになったのかもしれない。  
ここで彼女と会うのは偶然だったのか、それとも必然か。  
 
「お久しぶりですね。零時迷子のミステス、坂井悠二」  
突如後ろから声をかけられる。振り返るとそこには、  
水色の髪、水色の瞳、大きな帽子に白装束を着た小柄な女性――  
だがその正体は徒、フレイムヘイズともにその名を知らぬものはいない。  
三柱臣の一角にして強大な紅世の王、ヘカテーであった。  
「久しぶりだね。で、いったい何の用事だい?」  
背中に冷や汗が流れる。できる限り平静を装い、この窮地を切り抜ける方法を必死に考える。  
もし戦いになれば、万に一つも勝ち目はない。  
が、少なくとも自分に宿る宝具がある限りむやみに手を加えてこないだろう。  
あえて憮然と答えた。相手の思惑を探るために。  
「今日は私だけの用事です。危害を加えるつもりもありません…あなたが望むのなら別ですが」  
内心ほっとしながらも強気な態度を崩さずに、  
「だからその用事が聞きたいんだけど?」  
「…以前、私があなたと器を合わせた時のことを覚えていますか?  
 あの時、私はあなたの想いを断片的にですが知ることができました。  
 そして私は今まで感じたことのない『心』を一時的にですが得ることができたような気がします。  
 『心』というものが何なのか、それを私は知りたい、そして手に入れたい。  
 ですから前回は精神を合わせました。ですが私の望むものは手に入らなかった。  
 だとしたら肉体を合わせたときに私の望むものが手に入ると思うのです。  
 さあ、ミステス、私と一緒に……」  
「……」  
(ちょっと待て、今すごい論理飛躍がなかったか? でもこれは千載一遇のチャンスかも。  
 こんなにかわいい女の子が一緒になろうって言ってるんだぜ? 据え膳食わぬは…って言葉も  
 あるくらいだし。でもなあ、シャナや吉田さんに知られたら? 殺される? もう死んでるけど。  
 じゃあ、存在を消される? どーすんの? どーすんの、俺!?)  
上記のことをわずか0.5秒で考えた悠二。  
だが考えがまとまる前にヘカテーの整った顔が眼前にまで迫っていた。  
唇をわずかに前に出し、キスを求めているような表情だ。  
(そうか、僕は今襲われてるんだ。こんなに強い"王"に迫られてるんだから、断れなかった。  
 僕は被害者だ。そうだよ、被害者なんだよ。だから一緒になるのは仕方がないよね。うん、覚悟完了)  
と、都合のいい自己弁護を並べ立て、目を閉じた彼女と唇を重ねた。  
 
「…んっ…」  
唇がほんのわずかに触れ合うような軽いキスのはずだった。だが全身が痺れるような甘さがあった。  
強い刺激はすぐに引いてしまう。更なる刺激を求めてヘカテーが舌を滑り込ませてくる。  
舌先が触れ合う。先ほどよりも強い痺れ、快感に包まれる。  
「…はむっ…」  
悠二の唇を味わおうと口を広げ、彼のすべてを包み込もうとする。  
なすがままだった悠二も負けじと彼女を食べようとする。  
舌が絡み合う、吐息の熱さを感じる、唾液が混ざり合う。  
両者ともに初めてだったろうそれはどんどんと濃厚なものになっていった。  
どちらからともなく唇が離れると、銀色の糸が二人の間に残った。  
スローモーションのように糸がたわみ、ふっ、と切れた。  
時間は1分もたっていなかっただろう、だが二人には何時間もしていたかのように感じられた。  
二人はお互いにつながりを求めるように、再び唇を重ねた。  
(何だ……? とっても甘くて気持ちいい……)  
味覚が少しずつ侵食されていく、頭がぼーっとする……理性が破壊されていく……  
理性はもとよりほとんどなかったが。  
「外で続きをするのはいただけませんね……場所を移しましょう?」  
「うん……」  
こうして悠二は彼女にひかれるまま、ほいほいとホテルについていってしまったのだ。  
フロントでイザコザがあったようだが、何らかの方法で黙らせたらしい。その方法はご想像にお任せする。  
 
 
ベッドに腰掛ける二人。悠二は我慢できずに再びヘカテーの唇を奪った。  
「あっ…あん…」  
甘い声が漏れ、声を聞いた悠二のズボンにはテントが張ってしまっていた。  
ヘカテーは手を悠二の股間に伸ばしチャックを開けてあげると、悠二のそそり立ったものが姿を現した。  
「うわぁ……大きいんですね」  
「そ、そうかな? 自分ではよくわからないけど」  
ヘカテーの白くひんやりとした手がものに触れる。  
「うっ……」  
「あ…また大きくなりました……たしかこうすると……」  
ものを軽く握りゆっくりと手を上下に動かす。自分でもしたことはあるがするのとされるのでは大違いだった。  
つたない動きであるのにもかかわらず、竿を上ってくるのを感じる。  
「ちょっと待って……」  
悠二の制止の声を聞かず、手の動きを速めていき、もう片方の手で亀頭を撫で回しながら、  
「もっと……感じてもいいんですよ……」  
上目遣いに潤んだ瞳、甘い誘惑のささやきに悠二の視覚、聴覚が陥落していく……  
「ああ……うっ……!」  
ビクンとひときわ大きく脈打つと、白濁した自身の分身がヘカテーの小さな手に吸い込まれていく。  
「すごい……こんなにたくさん……」  
悠二の発射したそれは彼女の手に収まりきらずにこぼれ、シーツにしみをつくっていく……  
あまりの量に少し驚いたようだがうっとりとしていまだにピクピク動くそれを眺めている……  
「はぁ…はぁ…うっ!?」  
肩で息をし、息を整えようとした悠二のものが今度は生暖かい感触に包まれた。  
「あむ…ちゅっ…ほうへふか? ひもひいいへふか?」  
ヘカテーがくわえながら問いかけてくる。先ほど悠二を陥落させた上目遣いのおまけつきで。  
「うん…とっても…いい…」  
「よはった……んっ……」  
先ほどの絶頂で敏感になった悠二のそれは彼女の声の振動、息遣い、舌に反応し、再び硬度を取り戻していた。  
じゅぶじゅぶと音を立てる彼女の口の感触、卑猥な音、吸い込まれそうな瞳の前に悠二は完全に主導権を握られていた。  
シーツをつかみ必死にこらえようとしても彼女が奏でるハーモニーの前にはまるで無力であった。  
より深く、強くくわえてくる。舌を自在に使い、先端をつつき、カリをなめ、裏スジをなぞっていく。  
咽奥で先っぽを締め付けながらズズッと音が出そうなほど強く吸引を加えてくる。  
悠二の身体が震える。目をつぶり射精感を抑えようとする。しかし休ませてはくれない。  
快感の波が幾重にも打ち寄せてきて、  
「うっ…あっ…出るっ…!」  
思わずあえぎ声を漏らしてしまう。この機を逃さず手でしごきながら吸い上げを強めてきた。  
「うわぁっ!」  
盛大に2度目の放出を行ってしまった。勢いがまったく衰えないそれはヘカテーの口内を  
あっという間に満たしていく。  
「んんっ!? けほっけほっ……」  
「ごめん! 大丈夫?」  
「大丈夫ですよ、あんなに濃いなんて驚きましたが」  
ゆっくりと喉を鳴らして飲み込んでいく。  
「不思議な味ですが……悪くはないです」  
「本当にごめん……」  
「謝る気があるのなら……肉体で払ってもらいましょうか?」  
小悪魔っぽく微笑むと悠二のワイシャツに手をかけ、ボタンをひとつずつ外し、ズボンも脱がせてしまった。  
 
「もっと……あなたを感じさせてください……」  
彼女の白い巫女装束がはらりと床に落ちる。  
雪のように白い肌、控えめに膨らんだ2つの丘、細く引き締まった腰――芸術品のような美しさがそこにはあった。  
「綺麗だ……」  
彼女の美しすぎる裸身に悠二は釘付けになってしまっていた。  
「そうですか? 私にはよくわかりませんが」  
(自分の魅力に気づかないのも罪なんじゃないのかなあ……)  
と、どうでもいいことを考えていると、背中のほうからも肉を寄せ、  
できた小さな谷間に悠二の肉棒は捕らえられてしまっていた。  
「あまり大きくはないですが……がんばりますね」  
胸だけを動かせればいいのだが、そうもいかず全身を使い肉棒を圧迫し奉仕してきた。  
顔を朱に染め、あっ…あん…と矯声を脳に響かせてくる。  
シルクのようにすべすべの肌に唾液を少したらし潤滑液にして  
「小さくてごめんなさい……でも気持ちよくしますから……」  
献身的な奉仕の前に悠二も腰を突き出すようにして刺激を求め始めた。  
「とっても気持ちいいよ…もっと欲しい…」  
「ありがとうございます…ちゅっ…ちゅっ…」  
胸からはみ出た悠二の亀頭にキスの雨を降らせていく。時々当たる前歯がむずがゆくさせる。  
「えっ…? うそっ…? またっ…!」  
3度目の暴発。若いからか溜まっていたかはわからないが、何度も何度も彼女を汚しているのにも  
かかわらず自己主張を続けるものに自己嫌悪すら覚える。  
降り注ぐ白い液体が彼女の髪、顔を汚していく。が、3度目ともなれば慣れてきて、  
肉棒が解放されると、ハンカチで壊れやすいものでも扱うかのようにそっとやさしく丁寧に拭いていく。  
「ごめん…」  
「さっきから謝ってばかりですね」  
「ごめん…」  
「ほらまた…気にしなくてもいいんですよ? それよりも…」  
ヘカテーが身体を近づけてくる、じっと目を見つめてきながら、  
「さあ…私とひとつに……」  
 
ヘカテーは座ったままの悠二に抱きつき、肌をやさしくすり合わせてくる。  
自らの女の部分を悠二の陰茎の先に軽く当て、そこで身体を止めてきた。  
「あなたが選んでください。私とひとつになるか、拒むのか」  
悠二は――  
1.突き進んだ  
2.突き飛ばした  
 
悠二の天使と悪魔が……せめぎあわなかった。  
このような選択肢など最初から答えは決まっているのである。  
彼女の美しい身体、甘く脳に響く声、ほのかに香る甘いにおい、キスの味、  
そして今まで享受してきた快感の前には悠二の薄っぺらい理性など一瞬で吹き飛んでしまった。  
五感すべてが彼女との行為を記憶し、彼女を求めている、彼女とつながりたがっている。  
その欲望が今の悠二のすべてだった。  
そっと彼女を抱きしめるとゆっくりと自身を侵入させていく。入れるだけの行為であっても  
彼女のぬくもりを感じ、彼女の締め付けが悠二に襲い掛かってくる。  
自身が危険な状況であっても、  
「大丈夫? 痛くない?」  
やさしく問いかけ、彼女を傷つけないようにできる限りの配慮をする。  
「ん…大丈夫ですっ…! もっと奥まで…きてっ…!」  
「うん。いくよ…?」  
ぐっと力をこめ彼女の中を分け入っていく。  
彼女との距離が縮まる。彼女の荒い吐息が胸にかかる。肉体が密着する。  
「ん…はあ…すごくいいです……」  
歓喜の涙が悠二の胸をぬらしていく。顔を胸に擦り付けながら腰をゆっくりと動かし始める。  
「うわっ! そんな無理しなくても…くうっ!」  
「はぁ…あぁん…気持ちがよくて止められないんです……さあ…あなたも……」  
「なら…いくよっ!」  
腰を互いに激しく動かし快楽を貪っていく。  
悠二が前後に腰を動かし彼女の奥を突けば、ヘカテーは上下左右に腰を動かし  
不規則な締め付けを悠二に与えてくる。  
 
スパン…グチュッ…ニチュッ…  
スパン…グチュッ…ニチュッ…  
 
もう腰が止まらない…止めることができない…禁断の行為に酔いしれ、二人の快楽が同調していく…  
 
「すごくっ…いいよっ…!」  
「もっと…もっと…くださいっ…!」  
互いに快楽の頂点へと上り詰めていく。そして  
「あああああっ! 私っ! イっちゃいますっ!」  
きゅうっと締め付けが強さを増し悠二は耐え切れず、  
「うあっ! あっ! でるっ!」  
「あっ! ああっ! 熱い……」  
熱い欲望のたぎりが膣内を満たしていく。  
彼女の中に何度も何度も注ぎ込んでいく。  
「「はぁ…はぁ…はぁ…」」  
互いに強く抱きしめあい余韻に浸る二人。  
顔を赤らめたヘカテーがわずかに身体を離し、じっと覗き込みながら、  
「なんだか火照って、抑えが利かないんです…ごめんなさいっ! もう一度っ…!」  
再び腰をゆすり始める。もはや一線を越えてしまった悠二は  
「うん…満足できるまでがんばるよ…」  
自らの肉体を奮い立たせ、彼女との行為にふけるのだった。  
 
・・・・・・  
 
「あっ! あっ! あぁん!!」  
「出すよ! ヘカテー!」  
「悠二さん! きてえっ!」  
 
ドクン! ドクン! ドクッ、ドクッ、ドクッ…  
 
いつの間にか日は落ち、宵闇が広がるころ、二人はまだやっていた。  
高めあい、高まりあうこの螺旋から抜け出すことはできなくなっていた。  
二人は疲労感からつながったまま意識が落ちていった……  
 
朝、悠二が先に目を覚ました。隣につながったまま無防備な顔をさらすヘカテーがいる。  
(腰が痛い…でも、学校行かなくちゃ…ていうか無断外泊しちゃったし、  
 こんなところから出てくるの見られたら?封絶使う…わけにはいかないよなあ。  
 説教食らうのは勘弁したいところだし。はあ…なんて言い訳しようか。  
 成り行きとはいえこんな状態だしなあ…父さんがいたらなんて言うかな?  
 やっぱり責任取れなのかなあ? どーすんの? どーすんの、俺!?)  
「ん……」  
ヘカテーが寝ぼけ眼で悠二のことを見つめてくる。徐々に意識が覚醒し、  
つながった状態を確認すると昨日の情事を思い出したのか、顔を真っ赤にする。  
「えっと…お、おはよう……」  
「お、おはようございます、悠二さん……」  
気まずい雰囲気が広がる。そんな空気を切り裂くように悠二がヘカテーの唇を奪う。  
「ん…はむっ…あむっ…」  
そっと唇を離すとやさしく笑いかけながら  
「昨日はとってもかわいかったよ、ヘカテー」  
もともと赤かった顔をさらに赤くすると  
「ゆ、悠二さんこそ…あんなにいっぱい出して……」  
二人は互いに真っ赤になったまま再び沈黙が流れる。  
「…出ましょうか…」  
「うん…」  
格好を整えホテルを後にする。幸い誰にも見つからずに御崎大橋までくることができた。  
(できることなら彼のそばにずっといたい…離れたくない…  
 でもそれは今はかなわない願い…だから今だけ……)  
ぎゅっと悠二に抱きつき顔をうずめ、彼のシャツをわずかに濡らす。  
悠二も震える彼女をそっと抱きしめるとそっと髪をなでてやった。  
しばらくして落ち着きを取り戻し、彼の身体から離れると  
「さようなら、悠二さん」  
「そういうことは言っちゃだめだよ。また会いましょう。そう言うんだ。  
 だから、泣かないで。笑って? これが最後じゃないんだから」  
「……また……会いましょう、悠二さん」  
一陣の風が吹き抜けると、次の瞬間彼女の姿は見えなくなっていた。  
悠二が最後に見た彼女の顔は――笑顔だった――  
 
 
それから数ヵ月後。  
窓辺で可憐な少女が椅子に座っている。  
そっと目をつぶり何かを囁いている。  
「悠二さん、あなたは私にたくさんのことを与えてくれました。  
 あなたの優しさ、ぬくもり、あなたの『心』――  
 そして私が持つ『心』、この胸のときめきに気づかせてくれた――  
 それから――」  
彼女はそっと下腹部に手をやる。  
「いつかまた会いに行きます、悠二さん」  
彼女が見上げた空は彼女の心を映したように澄み渡っていた。  
 
無垢なる少女の願い・完  
 

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