今よりほんの少し昔。
ここではない何処か。
『約束の二人』ヨーハンとフィレスが誰にも邪魔されずに暮らしていた。
そんな二人に、ある日ヴィルヘルミナが尋ねてきた。
「二人とも久しぶりなのであります」
「やあ、久しぶりだね、ヴィルヘルミナ」
「ねえ、ちょっと聞いてよ。ヨーハンったら
「星空が綺麗ね、ヨーハン」
「そうかな。僕には少しも綺麗に見えないな」
「どうして? こんなに綺麗なのに」
「君の美しさに比べたら星だって瞬きを止めてしまうさ」
「ヨーハンったら、もう……」
「フィレス」
「何?」
「んっ……」
「んっ……はむっ……」
重ね合わされる二人の唇、ヨーハンの執拗に求めるキスに息が苦しくなったフィレスは彼を突き飛ばし
ヨーハンったらちっとも離してくれなかったのよ、窒息するかと思ったわ」
「フィレスがチャーミングすぎるからさ」
「もう、馬鹿なんだから。でもそんな所が大好き」
「僕も大好きだよ」
「ヨーハン……」
「フィレス……」
ビキッ
「それでね、こんなこともあったの
「ねえ、この料理どう? 自信作なんだけど」
「あまり美味しくないかな」
「そんな…ひどい…一生懸命作ったのに」
「でも君と一緒に食事できるだけで僕は幸せだけどね」
「ヨーハン……」
「フィレス、口直しが欲しいな」
「うん、すぐ持ってくるからちょっと待って」
「フィレス、そうじゃないんだ、こっちに来て」
「なあに?」
「んっ……」
「んっ……はむっ……」
「ぷはぁ、君が一番の口直しかな」
「もう、馬鹿なんだから」
「そうだ、今日のデザートはフィレスにしようかな」
「馬鹿……」
なんて言うのよ、でもそんなところが大好き」
「僕も大好きだよ」
「ヨーハン……」
「フィレス……」
ビキビキッ
「それからね、その日の夜のことなんだけど
「ねえ、フィレス、僕たちに子供はできるのかな?」
「どうかしら、でもできたらいいわね」
「子供は女の子がいいかな」
「あら、私はヨーハンみたいなかっこいい男の子がいいわ」
「だめだよ、男の子じゃ」
「どうして?」
「息子ができたらきっと僕は息子に嫉妬しちゃうよ」
「息子に嫉妬するなんて変よ」
「だって君にはずっと僕の事を見て欲しいんだ」
「馬鹿……」
その日の夜はいつも以上に熱く燃えちゃったの。
馬鹿でしょ? ヨーハンって。でもそんなところが大好き」
「もちろん! 僕は君のことを世界で一番愛しているんだから」
「あら、私の愛のほうが強いわよ」
「僕のほうが強い」
「私のほう」
「僕」
「私」
「僕」
「私」
「あー、もう! 君はなんてかわいいんだ!」
がばっと抱きしめ黄緑色の髪を梳きながらキスを交わす。
それに応え、フィレスもヨーハンの頭と首に手を回す。
「愛してるよ、フィレス」
「私もよ、ヨーハン」
ビキビキビキッ
ヴィルヘルミナの顔が般若のごとき形相に変わる。
あまりのバカップルにさしもの彼女も怒りをあらわにする。
「もう、怖い顔しないの、そんなだからいい男の一人もひっかけられないのよ」
ブチッ
とどめの一言がヴィルヘルミナを串刺しにし、火に油を注ぐ。
「……姫……?」
「……コロス……コロシツクス!!」
ヴィルヘルミナとフィレスの喧嘩が今まさに始まろうとしていた。