昼休み。いつものメンバーでの昼食の最中のことだった。
「一美、その梅干しちょうだい」
「あ、はい」
甘党のシャナには珍しいと思いつつも、吉田一美は自分の弁当箱の中、白いご飯の中心にある真っ赤な梅干しを差し出す。
「ありがと」
「うん、別にいいんだけど……シャナちゃん、酸っぱいもの好きだっけ?」
とりあえず苦いものが駄目なのは知っているが……よくよく考えてみると、吉田は恋敵である少女について、知らないことが多いのに気付いた。
「別に、好きってわけじゃないけど……最近、やたらと酸っぱいものが食べたくなるの」
梅干しをひょいと口の中に放り込み、その酸っぱさにシャナが身体をぷるぷると震わせている間、その言葉の意味する所に、
坂井悠二は箸を落として大粒の冷や汗を流し、
池速人のメガネにヒビが入り、
佐藤啓作は間違って炭酸飲料のペットボトルを思い切り振り、
田中栄太のいつもは細められている目がくわっと見開かれ、
緒方真竹はドサクサ紛れに隣席の田中に抱きついた。
吉田一美は顔を伏せて、肩をわずかに震わせている。手に持っていた箸は、真ん中で綺麗に折れていた。
シャナの言葉自体は別におかしくもなんともないかもしれないが、そこに先日、シャナの口から飛び出した問題発言を加えると、まったく意味合いが変わってくる。
「……? みんな、どうし……うっ」
シャナが、両手を口に当てる。どうにも顔色が悪い。
「シャ、シャナ、どうしたの?」
嫌な予感を覚えつつも、悠二がシャナに訊く。
「な、なんか……気持ち、悪……だ、だめっ!」
よほど吐き気が酷かったのか、シャナは勢いよく席を立ち、教室の外へ飛び出していった。
「…………」
残ったのは、約一名の男子生徒にとって痛すぎる沈黙。
「……ねえ、坂井君」
皆を代表して、緒方が言う。
「な、なにかな、緒方さん(待て待て待てそりゃ毎晩五回は中田氏してるけどさいやあのでもフレイムヘイズは妊娠しないんじゃそういや昨夜のシャナはいつにも増してエロかったようなってこれ関係ないやああもうなにがどうなって)」
「なにか、言うことはない?」
クラス中の視線が自分に集まるのを感じて、悠二は封絶を張って全てをうやむやにしてしまいたい衝動に駆られるが、なんとかそれを堪えて、どうにか一言だけを搾り出す。
「……ご、ごめんなさい」
その彼らしいといえばらしい肯定の言葉に、今まで沈黙を保っていた吉田が、
「ケーケケケ、コロース!!」
「か、一美が壊れたー!?」
「ねえ、昨日あんたに頼まれてチビジャリにかけた自在法だけどさ、何の意味があるわけ? 味覚なんか変えてどーすんのよ」
「やはり、甘いものばかり食べさせるわけにはいかないのであります」
「偏食改善」
「なーるほどなぁ、ヒーヒッヒ! マージョリー、おめーも自分にかけてみたらどーだ、ちょっとは酒癖が良くなるかもブッ」
「ふーん、なんだそんなことか。ま、いいわ。適当に編んだ式だから今頃チビジャリ、副作用で吐き気でも催してるかもね」
つづかない