夜の鍛錬が終わり悠二が部屋に戻ると、警戒色を頭部にまとい、赤い直方体を背負ったシャナの姿があった。
室内の光を反射し、夜のベランダの窓に映るその姿は、ひどく愛らしく感じられた。
それもそのはず、黄色の通学帽にランドセル、小柄な身体と幼さを残した容貌は
何処から見ても小学生である。
悠二はとっさのことに眼を丸くしつつも、こちらを振り返ったシャナに尋ねた。
ある種の間違った期待を込めて。
「シャナ。どうしたのさ、そんな格好して。しかもこんな時間に、って、あれ?もしかして・・・
いや、僕はその、似合ってると思うし好きだけどさ、そういうのも・・・
でもやっぱり、いきなりそれは嬉しすぎるというか何と言うか・・・」
悠二は顔を赤くして挙動不審に陥っている。
しかも何故か前屈みだ。
シャナはそんな悠二の様子に不審を覚えつつも、
「潜入調査。ヴィルヘルミナが気になる事があるからって。明日行ってみる。
川の南側にある小学校。」
業務報告のように淡々と告げる。
「そ、そうなんだ。」
当然といえば当然の答えに、悠二はつい肩を落とした。
(まぁ、そりゃそうか・・・)
「トーチに残った存在の力が使えないときは、こうやって近づくしかないの。
だから、悠二に違和感がないかどうか一応確かめてもらえって、ヴィルヘルミナが」
流石に恥ずかしいのだろうか、不満げに漏らすシャナ。
「あーうん、大丈夫なんじゃないかな。そんなに違和感ないと思うよ」
(高校よりもむしろ違和感ないかも。存在感はありすぎだけど)
などと苦笑する悠二に、抑揚のない、何処までも心底冷え切った声が届いた。
「調査完了なのであります。やはりミステスの嗜好は危険でありましたな」
「変態性癖」
(っっ!?)
「ヴィルヘルミナ?調査完了って?」
シャナは、いつの間にか悠二の背後に立っていたヴィルヘルミナを
小学生スタイルで小首をかしげながら見上げている。
この後、確実に襲ってくるであろう恐怖に全身冷や汗を流しながらも、
今はただ、直球ど真ん中のシャナの姿を脳裏に焼き付けていたい悠二であった。