『欲望の嗅覚と日本刀・おでん』
「くっ……」
シャナの両の腕に、そこらじゅうに無造作に生えた蔦が絡まっている。
「ふふ……抵抗しても独り身の貴方には誰の助けも来てくれませんわ」
蔦に絡まる人質を、ティリエルは嘲るように笑った。愛染の兄弟は、
いつも自分達の前に立ちはだかるフレイムヘイズを、出来る限り残酷な方法で
殺しているのであった。
「ティリエルー!もってきたよー!」
“愛染自”ソラトが大きな鍋を持って走ってくる。
「ちょっと!こんなの聞いてないわよ!」
「ふふ、当然ですわ。打ち合せなんてするわけないでしょう?」
ソラトが持ってきた鍋のフタを開けると、
ほんわかとした湯気とともに暖かそうなおでんが現れた。
「まぁ、美味しそう……でもこれじゃ、ろくなリアクションはとれませんわね」
ティリエルは鍋の下に手をかざして、山吹色の炎を作り出した。
おでんがぐつぐつと音をたて始める。
「ちょっと、やめなさいよ!私だったら普通の温度でリアクション取れるんだから!」
「何をおっしゃっているのかしら?これからするのは拷問ですのよ?」
ティリエルの秀麗な顔は恐ろしいほど穏やかな笑みで満たされている。
「私は絶対にやらないわよ!」
シャナはぷいと横をむいて、固く口を閉ざした。
「じゃあぼくがやるよ!」
ソラトがいつにない真剣な表情で手を挙げた。
「いやわたくしがやりますわ!」
それにティリエルも続く。それに後押しされたシャナは
「じゃ、じゃあ、私が――」
「「どうぞどうぞどうぞ」」
以下、大根を顔にくっつけたり、ゆで卵を吹き返したりする
お馴染みのネタを観客なしに披露している最中に、結局悠二とマージョリーに
ピニオンを破壊されるのでした。
(本編W巻124ページ、16行目に続く)