「来訪者」  
 
ある日の夕方。  
一人の女性が坂井家の前に立っていた。  
「ここでありますな」  
その女性は呟いた。  
「肯定」  
どこからか短く答える女性の声。  
「では」  
女性は坂井家の呼び鈴を鳴らした。  
 
学校から帰ったばかりの悠二が出てみると、見知らぬ女性が立っていた。  
「失礼。“炎髪灼眼の討ち手”がここにいるというのは事実でありますか?」  
妙な言葉遣いだったが、確かに“炎髪灼眼の討ち手”と言った。  
「…え?その呼び名を知ってるってことは、フレイムヘイズか紅世の徒……でも徒がこんな入り方しないと思うから、フレイムヘイズかな?」  
そのフレイムヘイズは答えた。  
「その通りであります。私は“万条の仕手”ヴィルヘルミナ・カルメル。  
これが私の契約者、“夢幻の冠帯”ティアマトーであります」  
「初見披露」  
例によって短く抑揚のない声で答える彼女(?)。  
それに些か驚いた悠二だが、こんなのもいるんだ、と思いあまり気には止めなかった。  
「ここで立ち話もなんだし、上がってください。シャナも…あ、“炎髪灼眼の討ち手”も、もうすぐ帰ってくると思うので」  
不思議な顔をするヴィルヘルミナ。  
 
彼女が聞いたところによれば、この少年は“ミステス”のはず。  
なのに、それを放って何処へ行っているというのか。  
しかし、彼女の疑問はすぐに氷解した。  
「今、近くのパン屋でメロンパンを買ってるはずだから、もうすぐ帰ってきますよ」  
「なるほど。了解であります。では、失礼するであります」  
ぺこりとお辞儀して彼女は家の中に入った。  
 
 
悠二はお茶の準備を始めた。  
ヴィルヘルミナはお構いなくと言ったのだが、悠二は遠慮しないでいいからと一杯の紅茶を出した。  
ヴィルヘルミナは紅茶を一口飲んで言った。  
「ふむ。なかなか美味しいでありますな」  
「口にあって良かった。ところで、シャナに何か用事ですか?」  
耳慣れない名前を聞いた彼女は答えた。  
「約束を果たすためであります。今“炎髪灼眼の討ち手”は、シャナと名乗っているのでありますか?」  
「名乗ってるっていうか…僕がつけたんです」  
呟く様に言う悠二の言葉に驚くヴィルヘルミナ。  
そこで、玄関から呼び鈴の音が聞こえた。  
「あ、帰ってきた。ちょっと待っててください」  
悠二は玄関に行って家のドアを開けた。  
 
「ただいま。あれ、誰か来てるの?」  
玄関に見慣れない靴を見つけたシャナは悠二に訊ねた。  
「ああ、さっきね。シャナの知り合いらしいからあがって待ってもらったんだ」  
「え?」  
不思議そうにするシャナ。  
誰が来ているのかと家に入ってみると、彼女にとって非常に意外な人物が待っていた。  
「久しぶりであります。“炎髪灼眼の討ち手”、“天壌の劫火”。活躍は聞いているであります」  
「…ヴィルヘルミナ!?なんでここに?」  
喜んでいるような困惑しているような妙な声でシャナは言った。  
「天道宮を出るときに約束したはずであります。また会おうと」  
「再会」  
いともあっさり言ってのけるヴィルヘルミナに、抑揚のない女性の声が続く。  
「久しいな、“万条の仕手”よ。“夢幻の冠帯”共々、変わりはないようだな」  
シャナに代わりアラストールが答える。  
「そちらは随分と変わったようでありますが。通称を得ているし、ミステスを守っているようであります」  
今度はシャナが答えた。  
「いろいろと事情があってね。また会えて嬉しいわ。ヴィルヘルミナ」 
どうやら旧知の知り合いらしい二人を不思議そうに見つめる悠二。  
 
そんな悠二を見てシャナが言った。  
「ヴィルヘルミナはね、私が前にいた天道宮ってところで私のお世話をしてくれてたの。  
メロンパンを初めて食べたのもそこで、よく買ってきてくれたわ」  
懐かしげに語るシャナにヴィルヘルミナがのってきた。  
「そうでありますな。私はこの娘の教育係で、一人前のフレイムヘイズにするべく奮闘していたであります」  
「へぇ……」  
二人が深い知り合いだと知り感心する悠二。  
そこで、悠二はその頃のシャナがどんなだったかとかの質問を始めた。  
ヴィルヘルミナは饒舌にそれを語り、話さなくてもいいようなことまで話してしまったためシャナを怒らせてしまった。  
「ヴィルヘルミナ!悠二にそんなことまで話さなくていいの!」  
「しかし事実であります」  
「肯定」  
「事実でも、ダメなものはダメなのっ!」  
むきになって怒るシャナに悠二は苦笑した。  
よっぽどさっき聞いたこと気にしてるんだな。  
シャナはそんな悠二の様子に気づき、慌てて言った。  
「悠二、何にやにやしてるの!さっき聞いたことは忘れて。いいわね!」  
顔を真っ赤にして怒っているシャナが可愛くて、ついからかってしまう悠二。  
 
「そんなこと言っても、シャナがあんなことしてたなんて忘れられないよ…くくっ」  
「うるさいうるさいうるさい!さっさと忘れて!」  
そんなやりとりを見ていたヴィルヘルミナも、くすくすと忍び笑いを漏らしている。  
「ふふっ…二人は本当に仲が良いようでありますな」  
「もうっ、ヴィルヘルミナまで!茶化さないで!」  
手を横に振りながら答えるヴィルヘルミナ。  
「いやいや、茶化しなどではなく、事実であります。喧嘩するほど仲が良いと言うでありますからな」  
それに二人は少々照れつつお互いを見つめ合い、さらに照れてしまう。  
「ふふっ、図星であります」  
「肯定」  
まだ忍び笑いをしているヴィルヘルミナに、無愛想な声が続く。  
ふとそこで、シャナは自分が買ってきた物の存在をすっかり忘れていた。  
むくれた顔でガサガサと袋をはぎ取り、メロンパンを頬張る。  
そういえばもう夕食の時間のはずだった。  
しかし、千草は貫太郎の具合が悪いとの知らせを聞いて単身赴任先まで行っているため、まだ用意されていないのだった。  
「うーん、どうしようかな…」  
悠二が困っていると、ヴィルヘルミナがザックから何かを取り出した。  
 
「そんなときは、これであります」  
ポン、とテーブルの上に置かれた物は、カップラーメンやその他インスタント食品だった。  
ヴィルヘルミナが唯一苦手とする料理の代わりに、いつもこれを持ち歩いているのである。  
それを見て唖然とする悠二。  
「こんなにいっぱい…いつも持ち歩いているんですか?」  
「そうであります。私は料理を苦手としている故、このようなものはありがたいのであります」  
「なるほど……」(料理もできそうな感じするけど…見かけによらないんだ)  
と、悠二は密かに思った。  
他に夕食になりそうな物も無さそうなので、ヴィルヘルミナのお相伴に与ることにした。  
シャナもメロンパンを食べるのをやめ、カップラーメンの蓋を開けた。  
湯を注いで三分後、カップラーメンが出来上がる。  
三人でずるずるとラーメンをすすっていると、シャナが言った。  
「こうやってヴィルヘルミナと食べてると、天道宮にいたころを思い出すわ」  
「そうでありますな。あのころは二人でよくカップラーメンを食べていたであります」  
二人の会話に疑問を持った悠二は言った。  
「シャナって、そのテンドウキュウってところにいたときずっとカップラーメンだったの?」  
 
「そうね。大体はこんな感じだったわ」  
「だから胸が育たなかったんじゃぐほっ!」  
悠二が言いかけたところでシャナが悠二の脇腹を小突いたため、食べかけていた麺を噴いてしまった。  
「余計なこと言わないで、さっさと食べる!」  
「はーい…」  
またも忍び笑いを漏らすヴィルヘルミナ。  
「ふふ、その仲の良さ、まるで恋人同士であります」  
「支持」  
それを聞いたシャナは小さく言った。  
「…………ホントに、そう見える?」  
「?」  
「ホントに、そう見える……?」  
もじもじしながら言うシャナを見てヴィルヘルミナは言った。  
「これも、図星でありましたか」  
「………………」  
かあっと顔を赤くして俯くシャナ。  
その様子にはフレイムヘイズの強さはなく、か弱い少女の様だった。  
悠二はそんなシャナの様子を見て、きょとんとしていた。  
(そんなに恋人同士って言葉が恥ずかしかったのかな…?)  
確かに悠二も照れはしたが、シャナほどではなかったため彼女の様子を不思議に思っていた。  
もしこれを口に出していれば、またシャナに殴られるだろう。  
さすがにそれは遠慮したいので、悠二は黙々とラーメンをすすっていた。  
 
三人は夕食を終え、シャナは「お風呂に入ってくる」と浴室に向かった。  
悠二は自分で淹れた紅茶を飲んでのほほんとしており、ヴィルヘルミナはカップラーメンの後始末を始めた。  
ふと、例によって悠二に預けられたコキュートスから声がした。  
「“万条の仕手”よ、本当にお前はシャナに会いに来ただけなのか?この付近で異変を感じたのではないのか?」  
そんな危惧をするアラストールだが、ヴィルヘルミナは淡々と答えた。  
「この辺りに異変は感じられなかったであります。少々トーチが多いくらいかと」  
「ふむ……」  
そう言ったきりアラストールは黙ってしまう。  
しばらくの沈黙の後、ラーメンの容器を片づけ終わったヴィルヘルミナは悠二に訊ねた。  
「貴方の中にはあの“零時迷子”が蔵されていると外界宿で聞いたのでありますが、事実でありますか?」「…誰から聞いたの?」  
「“弔詞の詠み手”と“儀装の駆り手”から聞いたのであります。“零時迷子”を蔵したミステスを連れている、と」  
よく知っている名前を聞いて悠二は納得した。  
「なるほど、ね。確かに僕には、“零時迷子”が蔵されています。でもなぜ?」  
悠二が聞き返すと彼女はこう答えた。  
 
「確認のためであります。あの二人が嘘を言っているとも思えないのでありますが、念のため」  
「はは…」  
ヴィルヘルミナの疑い深さに苦笑する悠二。  
その時、彼女は何かを思いついたように左手の平にぽん、と右手の握り拳を乗せた。  
「“炎髪灼眼”…いや、シャナでありましたな。愛し合っている様を、見せて欲しいであります」  
「えぇっ!?」  
「言葉だけでなく、行為で示して欲しいのであります」  
(…………………………どうしよう)  
悠二は困った。  
いまだかつてないほどに。  
シャナの知り合いとは言っても悠二にとっては他人でしかない。  
そんな他人の前で愛し合っているところを見せるなどできるはずがなかった。  
返答に窮していると、どこからか声がした。  
「分かったわ。見せてあげる」  
悠二が振り向くと、バスタオル一枚の姿のシャナが立っていた。  
「シャナ!?いつからそこに?」  
「ついさっきよ。何をそんなに驚いてるの?」  
「い、いや、その…」  
「分かった。恥ずかしいんでしょ?悠二はヴィルヘルミナのこと知らないからね。  
大丈夫よ。いつものようにすればいいから…」  
すっかりシャナのペースになっている。  
 
そこにヴィルヘルミナが口を挟んだ。  
「言い忘れたでありますが、後学のため“零時迷子”の力を見せて欲しいのであります。見たことがない故…」  
「それくらいお安いご用よ。ね、悠二?」  
いまだ固まっている悠二に言うシャナ。  
「え?あ、ああ…うん」  
悠二の生返事を了承と見たシャナは、早速彼を寝室に連れていった。  
ヴィルヘルミナもそれに同行する。  
 
 
シャナは悠二をベッドに寝かせると、ゆっくりと服を脱がしていった。  
「シャ、シャナ…やっぱり、僕は…」  
「まだ恥ずかしがってるの?大丈夫。ヴィルヘルミナのことは考えないで。いつもみたいに私を、愛して」  
シャナは悠二を下着一枚にすると、自分も巻いていたバスタオルを取り、幼くも艶やかな裸体を晒す。  
そしてシャナは自分の腰が悠二の下腹部に当たるように跨り、トランクス越しに悠二のモノを刺激した。  
「う、うっ……」  
「んっ、どう、悠二?気持ちいいでしょ…」  
言いながらもシャナは腰を揺すり続ける。  
ようやくその気になった悠二は、お返しとばかりにシャナのなだらかな胸を手で覆い、乳首を中心にしてさすり始めた。  
 
「ん…。ふぅん…はぁ……あぅん…」  
シャナはくすぐったそうに身をよじり、熱っぽい声をあげる。  
それを見ているヴィルヘルミナは少々驚いていた。  
(自分からあのような行為を…。普段からは想像がつかないでありますな…)  
そんな彼女をよそに、二人の交歓は続く。  
シャナは悠二をもっと感じたくて、トランクスをずりおろし自分の秘部を悠二のモノに押し当て、再び擦り始めた。  
にわかに溢れた蜜が淫らな水音をあげる。  
クチュ、クチャッ、クチュッ…  
「んぁっ!はぁ…はぁ…はぁ…、はぁぁ……!」  
「うくっ……う…うぅ…」  
呻きながらも悠二はシャナの乳首を摘み、親指と人差し指で擦ったり弱く抓ったりしていた。  
「あんっ!ん…ぁ…そ…こぉ…はぁぁ…ん、いいよぉ…ゆうじぃ…」  
「ここ…弱いもんね…。シャナは…」  
悠二は乳首の愛撫を続けつつ、シャナの尻を撫でた。  
そこはすべすべしていてほのかに暖かく、抜群の触り心地だった。  
「うんっ…ふぁ…あん……あっ!…」  
尻を触られピクリとはねた拍子に、悠二の肉棒の先端が敏感な秘豆に触れ、シャナは腰を浮かせてしまう。  
 
「あっ……ん、んっ…んっ…ん…」  
シャナは浮いてしまった腰を再び降ろし、悠二のモノに擦りつける。  
悠二はシャナを抱き寄せ、自分も腰を振り始めた。  
ヴィルヘルミナは完全に二人の世界に浸ってしまっている二人の様子を見て、思った。  
(ふむ…この激しさと熱さ、正に“炎”。真名に恥じない情熱的な性交であります…)  
ふと、自分の下腹部も熱くなっていることに気づくヴィルヘルミナ。  
二人が放つ情熱の炎は、彼女をも焦がしていた。  
自然と下腹部に手が伸び、そこをゆっくりと擦る。  
(く…、私は…二人を、見届け、なければ…ならないと…いうのに…!)  
しかし手は止まらず、自らの秘部をまさぐる。  
二人の嬌声が聞こえる度熱さは増していき、自分でも抑えられないほど燃え上がっていた。  
「く……ぅ……」  
くぐもった声をあげ、自慰をするメイド服の女性、というというのは実に扇情的で、目の前の二人にも負けず劣らずと言った風情だった。  
その二人はといえば───。  
「シャナ、僕、そろそろ…」  
「まだ…だめよ、悠二…。我慢して…」  
悠二は襲い来る快感を必死に堪え、絶頂に至るのを遅らせていた。  
 
シャナも自分の言葉で戒め、快感に必死で堪えていた。  
以前シャナは千草に「焦らした方がイッた時の気持ちよさが違うわよ」と教えられていたためである。  
シャナは緩急をつけて腰を振っていたが、もう限界だった。  
「ゆう…じ……もう…、いいわ…。きて…イッて…いいから…っ」  
激しい痙攣と共に、二人は絶頂に至る。  
「あぁぁぁ………っ!」  
「う…っ!」  
痙攣が収まると、シャナは息を荒くしながらも、悠二のモノとその周辺についている白濁液を舐めとった。  
悠二はその刺激でますますモノを硬くする。  
ヴィルヘルミナはというと、まだまだ絶頂にはほど遠いが秘唇からは愛液が溢れ出ており、相当な快感を得ている。  
(くぅ……確か…“零時迷子”の効果発動は、午前零時…それを、見届け…なければ…)  
彼女は時計の針と二人を見つつも、くぐもった声を上げ自慰に耽ってしまっていた。  
そんなヴィルヘルミナの様子にも気づくことなく、二人の交わりはさらに深まる。  
シャナは悠二の肉棒に手を添え真っ直ぐ上に向かせ、自らの秘唇を開き腰を落とした。  
「あぁ…あっ…!」  
悠二の肉棒の半分ほどを咥えこみ、シャナは腰を揺すり始めた。  
 
「あぁっ…はぁっ、ふぁっ…うぁあ…っ!」  
「うぁ……くっ、うぅ…」  
悦びの声を上げながら交わる二人。  
まだつながって間もないというのに、凄まじい快感が襲ってくる。  
(シャナにされてばかりじゃ、だめだ…)  
頭でそう思っても身体が言うことを聞かない。  
悠二はシャナのなすがまま、快感の波に身を委ねていた。  
(悠二…悠二…!)シャナはただ、悠二を求めていた。  
自分の気持ちを、好きだという気持ちを、ただぶつけていた。  
伝わらなくても構わない、自分は悠二が好きなんだと自分に言い聞かせ、身体を動かしていた。  
その気持ちに呼応するかのように、快感はどんどん高まっていく。  
(悠二……!)  
二度目の絶頂も間もない。  
 
二人の腰の動きが早まり、絶頂への階段を一歩ずつ上がっていく。  
「悠二…悠二…ゆうじぃっ!」  
「シャナ…シャナ…ッ」  
彼がくれた、名前。  
大切な、名前。  
それを呼ばれる度、自分の中に『どうしようもない気持ち』が溢れ出す。  
(大好き……)  
その気持ちと共に、シャナは二度目の絶頂へ至った。  
ほぼ同時に、悠二もシャナの膣内に多量の精を放っていた。  
 
同じ頃、ヴィルヘルミナも絶頂を迎えようとしていた。  
(く…っ、もう、限界であります…!)  
「…………っ!!」  
ビクビクと大きな痙攣が彼女を襲い、彼女の思考は真っ白になった。  
 
そのとき、悠二の身体に変化が起きた。  
零時を回ったため、失われた体力と精力が回復したのである。  
「零時か…」  
「ここからが本番よ。悠二♪」  
喜々としてシャナは悠二に抱きつき、交わりを再開したのである。  
 
 
▽   ▽   ▽  
翌日。  
ヴィルヘルミナは自分があのまま眠ってしまったことに気づき、愕然とする。  
しかし、二人が愛し合っていることはよく分かったから不幸中の幸い、と自分を励ました。  
二人はまだすやすやと眠っている。  
ヴィルヘルミナはキッチンに置き去りになっていたペンダントを拾って呼びかけた。  
「…“天壌の劫火”?」  
『何だ』  
「貴方がよく二人の仲を認めたでありますな」  
『ふん、シャナが自ら選んだのだ。認めざるを得まい』  
「なるほど。保護者公認というわけでありますな」  
『しかも、双方のな』  
「なんと…」  
驚くヴィルヘルミナ。  
「寝顔も幸せそうでありましたな。それなら納得であります」  
 
『ほう』  
「…“天壌の劫火”、これからもあの二人を見守っていて欲しいであります」  
「当然だ。任せておくがよい」  
「では。私はこれで失礼するであります」  
「もう行くのか?」  
ヴィルヘルミナは黙って頷いた。  
そして、こう言い残して去っていった。  
「愛し合う二人に、無上の幸せを。そして天下無敵の幸運を。因果の交叉路で、また会いましょう」  
 
 
幸せな日々。  
それはどこまでも続いていくものなのだろうか。  
それは誰にも分からない。  
しかし彼らは続けていくだろう。  
世界は、今日も明日へ、続いていく。  
〜Fin〜  
 

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