シャナと悠二は、平和な日々を送っていた。  
最近は徒の襲撃も無く、これといった事件もない。  
もちろん、いつ何があってもいいように鍛錬だけは怠っていないが。  
そんな穏やかな日々は、吉田一美を発端としたささやかな出来事によって、粉砕されてしまうのだった。  
 
それは、ある日の放課後のこと。  
吉田一美は、今日こそ自分の思いの丈を打ち明けようと決心していた。  
最強の恋敵である平井ゆかりとの決着をつけることも考えていた。  
意中の相手、坂井悠二を呼び出そうと吉田一美は彼に声をかけた。  
「あ、あの、坂井君。ちょっと、いい?」  
「ん?」  
「あの…今から屋上に来てほしいの。大切な、とっても大切なお話があるから…」  
とっても大切な話とあっては聞かないわけにはいかないだろう、と悠二が肯定の返事をしかけたそのとき、彼の後ろから声がした。  
「とっても大切な話って?私も興味あるわね」  
声の主は、平井ゆかりことシャナである。  
シャナはわざとらしく話に割り込んだのだが、その後の発言には彼女も驚いた。  
「うん、ゆかりちゃんも一緒に来て。来てもらわなきゃだめなの」  
 
三人は屋上にやってきた。  
中に入って扉を閉めると、吉田一美はこう切り出した。  
「…坂井君。私は、あなたが、好きです。坂井君は、私を、どう思ってる…かな」  
ほとんど不意打ちのような言葉を受けて、悠二はその場に凍り付いた。  
「…え、と…」  
いきなりどう思ってる、と聞かれても答えが出せない。  
彼女のことは可愛いと思っていた。しかし、彼女に対する気持ちを言い表せる言葉が出てこない。  
悠二が返事に窮していると、シャナが言った。  
「なっ、いきなり何を言うのよ!お前にだけは絶対に言わせたくなかったのにっ!!」  
 
シャナの剣幕にも物怖じせず、一美は言い返した。  
「言ったでしょ。ゆかりちゃんには負けないって」  
「私だって、悠二が好き!大好きなんだから!!」  
「……えっ?」  
シャナの言葉を受けて、悠二は再び凍り付いた。  
(シャナが、僕を…?)  
戸惑う悠二に、一美は言った。  
「坂井君、私とゆかりちゃん、どっちが好き?坂井君に選んでほしいの…」  
いきなり選べと言われても、選べるわけがない。  
ただでさえ二人の告白を受けて戸惑っているというのに、選べと言われても困る一方だ。  
 
二人のことは好きだ。  
しかし、それは恋愛感情なのかと聞かれればそうだとは言い切れない。  
やはり悠二には答えられなかった。  
どちらかを選べば、どちらかが傷つくだろう。  
なんとかどちらも傷つけずに済む方法はないものか。  
(………)  
そんな方法などあるわけがない。  
どちらかを選ばなくてはいけないのだ。  
(吉田さんを選べば、シャナはどうするだろう…また泣いてしまうだろうか…  
シャナを選んだら、吉田さんは…)  
いくら考えを巡らせても、答えは出てこない。  
(ああ、もう!考えるのはやめだ!僕は、僕は…!)  
悠二は迷いを振り切り、一人の少女に歩み寄った。  
自分の命運を大きく変えた、その少女の名は───  
「シャナ…」  
無意識にその少女の名を呼び、抱きしめていた。  
思考の迷路を抜けた後、自分の脳裏に浮かんだのは小柄な少女の姿だった。  
抱き寄せられた少女、シャナは顔を真っ赤にし、瞳を潤ませた。  
もう一方の少女、吉田一美も瞳を潤ませていたが、彼女の目からは涙がこぼれていた。  
「そっか…。ごめんね、坂井君…迷惑だったよね…。じゃあ私、帰るね…」  
震える声で言うと、彼女は屋上から去っていった。  
 
(これで、いいんだよな…僕は自分に正直になった…その結果なんだ)  
また女の子を泣かせてしまった…と後悔に似たものを感じつつ、彼は帰宅の途についた。  
 
「…お前、どうして私を選んだの?」  
彼女の問いに、悠二はこう答えた。  
「難しく考えずに、単純に考えて…これからも一緒にいたいって思ったのが、シャナだったんだ」  
そのはっきりとした言葉に、赤面するシャナ。  
「……そう」  
シャナはやっとそれだけ言うと、また黙ってしまった。  
それから二人は無言のまま、自宅に到着した。  
「ただいまー」  
「…ただいま」  
二人が言うと、台所から母が返事をした。  
「おかえりなさい、二人とも。遅かったわね。晩ご飯できてるけど、食べる?」  
二人は肯定して手早く着替えを済ませ、夕食を取った。  
夕食の間、千草はシャナの様子がいつもと違うことに気づく。  
いつもなら他愛ない世間話などをするのだが、今日の彼女は口を開かない。  
それに、いつもは出された物を完食しているシャナも今日に限ってはあまり手をつけず、早々と夕食を終えてしまった。  
さては悠二と何かあったかと思い、悠二に訊ねた。  
 
「悠ちゃん、シャナちゃんに何か変なこと言ったり、したりしてないわよね?」  
変なこと、の意味を掴みかねる悠二だが、告白のことはなんとなく言いづらかったためとりあえず否定した。  
「し、してないよ」  
「そう?ならいいんだけど…」  
千草は続けて言った。  
「シャナちゃんみたいないい子、なかなかいないわよ。大切にしてあげなさい。お母さんも応援するから」  
母の激励を受けた悠二は、しっかりと返事をした。  
「うん。ごちそうさま」  
やがて悠二も夕食を終え、シャナの元へ向かった。  
食器の片づけをしつつ、千草は祈る様に呟いた。  
「悠ちゃんが、シャナちゃんとうまくいきますように…」  
 
悠二が部屋に戻ると、シャナがベッドに腰掛けて待っていた。  
彼女が身につけているはずのコキュートスは、携帯電話に偽装したままシャナの通学鞄の中である。  
悠二がシャナの隣に座ると、びっくりしたような表情を見せた。  
「…シャナ?」  
鈍感な悠二から見ても、シャナの様子がおかしいのは明らかだった。  
どうしたのか訊ねようとすると、シャナが口を開いた。  
「悠二…。さっきから私、何かおかしいの…。聞いてくれる?」  
 
悠二が頷くと、シャナは続けて言った。  
「さっきから頭がぼうっとして、何にも考えられないの…。それに、すごく胸が苦しくて…」  
訥々と言うシャナに悠二はこう答えた。  
「…それはきっと、シャナが僕を好きだからだよ」  
「そうなの?」  
「うん。僕も同じだから」  
自分も同じだと言われ、シャナはびっくりした。  
「悠二も?」  
「…うん。シャナといるだけで、胸がドキドキするんだ」  
つまり、悠二も自分が…。  
「好きだよ。僕も、シャナが好きだ」  
そう言われたシャナは、顔だけでなく全身が火照っているような感じがした。  
「悠二…」  
「シャナ」  
お互いの顔を見つめあう二人。  
自然と顔が近づく。  
そこへ、コンコン、とドアをノックする音が。  
二人は慌てて顔を戻し、背中合わせに向き直った。  
入ってきた千草はくすりと微笑(わら)って言った。  
「あら、お邪魔だったかしら?お風呂が沸いたわよって言いに来ただけだったけど…」  
「そ、そう。じゃ、私お風呂入ってくるね」  
「う、うん」  
悠二は心底残念そうにシャナを見送った。  
 
シャナはシャワーの軽い水音の中、悠二の言葉を思い返していた。  
 
『僕も同じだから』  
『シャナといると胸がドキドキするんだ』  
『シャナが好きだ』  
言われて嬉しかった言葉。  
それを離さないと言うようにシャナは自分の胸の辺りを抱いた。  
(悠二…今も同じ気持ち…?)  
そうあって欲しいと願って、シャナはゆっくりと入浴を楽しんだ。  
 
一方、置いて行かれた悠二はというと。  
(シャナ……)  
自分の気持ちを反芻していた。  
自分は、シャナが好き。  
どこが好きかと言われれば、迷わず答えるだろう。  
全部、と。  
『贄殿遮那』を振るう、強くて格好いいシャナ。  
時折、可憐な表情を見せてくれるシャナ。  
メロンパンを美味しそうに頬張るシャナ。  
全部ひっくるめて、彼女が好きなのだ。  
自分は、これからも彼女の役に立てるだろうか。  
自分は、これからも彼女に守られているだけなのだろうか。  
自分は、これからも───。  
あれこれと考えてしまう。  
人を好きになると言うことは、こんなにもいろいろ考えさせられることなのか、と悠二は感慨にふけっていた。  
そんなことを思っているうちに、シャナが入浴を終えたらしく、部屋に戻ってきた。  
 
シャナは母が買ってきたものとおぼしき新しいパジャマを身につけていた。  
いつのまにか泊まることになっているらしい。  
しかも、自分の部屋に寝ることになっているとか。  
先ほどのこともあって、悠二はかなりドキドキしていた。  
「悠二もお風呂入ってきたら?」  
「……」  
「悠二?」  
「…え?あ、ごめん。何?」  
シャナは呆れたようにため息をついた。  
「お風呂入ってくれば?って言ったの」  
「あ、うん。入ってくる」  
悠二はそそくさと部屋を出て浴室へ向かった。  
シャナは以前千草から聞いたことを思い出していた。  
先ほど未遂に終わってしまった、キスのこと。  
キスは誓いの証。  
相手を信頼できるようになるまでしないこと。  
ざっと思い出して、シャナは思った。  
(今の悠二となら、いいかな…)  
考えているうちに恥ずかしくなってきて、考えるのをやめた。  
(何考えてるんだろ…私…)  
ベッドに寝ころんで恥ずかしさを紛らわす。  
そんなことをしているうちに悠二が戻ってきた。  
「お待たせ」  
「あ、悠二…。今ちょうど、悠二のこと考えてたところ」  
「どんなことを?」  
「えっと……」  
シャナはすぐに答えられなかった。  
 
「ん?」  
「……前ね、千草からこんな話を聞いたの」  
シャナは悠二に千草から聞いたことの一部始終を話した。  
「キスは誓いの証、か…」  
「今の悠二なら、してもいいかなって思って…」  
「シャナ…」  
思わず赤面する悠二。  
「悠二は、誓える?」  
「もちろんだよ。シャナとなら…」  
「じゃ、して…」  
「う、うん」  
先ほどのように向かい合い、ゆっくりと顔を近づける。  
そして、唇が触れ合った。  
「………」  
唇を触れ合わせるだけの軽いキス。しかし、とても心地よかった。  
悠二はゆっくりと唇を離した。  
「…しちゃったね」  
「うん…」  
「…もう一回、したくない?」  
「…しようか」  
もう一度唇を重ねる二人。  
悠二は、啄むようにシャナの唇を吸った。  
シャナもそれに応える。  
「んっ、んっ…」  
お互いの唇を求めあい、やがて深いキスになる。  
「ふ、ちゅ…」  
「んっ、ふ…」  
そして、どちらからともなく唇を離した。  
「キスって、こんなに気持ちいいんだ…」  
「うん…すごく、いい感じ…」  
二人とも惚けた表情で言った。  
これほどまでにキスという行為が甘美だとは思わなかった二人。  
 
ふと、悠二が言った。  
「シャナ…これからもずっと、一緒にいられるって、誓える?」  
「え?」  
「これも、誓っておきたいんだ」  
「うん、きっと…ううん、絶対一緒にいる。悠二も、私から離れないって誓って?」  
「うん」  
誓いを交わした二人。  
しかし、その証をたてる方法はキスではなかった。  
「どうするの?」  
「お互いの…全てを見せ合うんだ」  
そう言うと悠二は服を脱ぎ始めた。  
「ほら、シャナも」  
「あっ、悠二…」  
悠二はシャナのパジャマのボタンを一つ一つ丁寧にはずし、上着を脱がせた。  
シャナも悠二の寝間着を脱がす。  
お互いの服を脱がし合い、いつしか二人は全裸になった。  
悠二はシャナの裸身に見とれてしまう。  
磁器のような白い肌。ほっそりとした肢体。それは今まで見た物の何よりも美しかった。  
「きれいだ…」  
自然に言葉が漏れた。  
「…ありがとう」  
シャナは率直な悠二の言葉に照れながらも、なんとかそれだけ言った。  
「それから、どうするの?」  
「僕に任せて、楽にして」  
シャナは悠二の言うとおり、身体の力を抜いて楽にした。  
悠二はシャナをベッドに横たえ、そっとキスをした。  
 
唇から首筋、胸元にもキスをする。  
「……ぁ……」  
悠二の唇がシャナの肌に触れる度、じぃんと何とも言えない心地よさがシャナを包んだ。  
悠二はなだらかなふくらみに触れ、さすってみた。  
「ん……ぁ……」  
(シャナが、感じてる…感じてくれてるんだ…)  
それを嬉しく思った悠二は、僅かなふくらみを揉むように手を動かした。  
「……ぁ、悠二……」  
「?」  
「悠二は、胸が大きい方が好き?」  
「嫌いじゃないけど…あ、もしかして気にしてる?」  
「う、そうじゃないけど、悠二は、どうなのかなぁって…」  
悠二はくすりと微笑して言った。  
「シャナくらいの胸だって、可愛くていいじゃないか」  
「……そうかな?」  
「うん。僕はシャナみたいな胸、好きだよ」  
そう言われると悪い気はしない、と思うシャナ。  
「じゃ、続けるよ」  
「うん」  
悠二は愛撫を再開する。  
揉んだりさすったりしているうちに、先端の桜色がしこっているのが分かった。  
それを指先で摘んだり軽く抓ったりして弄ぶ。  
「あっ、んっ、んぅ…」  
続けて悠二は、一頻り弄んだ乳首に口づけ、舌を這わせた。  
「ひゃっ、あっ…くぅ…」  
 
そこを吸われる度、シャナの口から媚声が漏れる。  
(何で…?声が、勝手に……)  
シャナはそれが不思議で仕様がなかった。  
悠二に恥ずかしいところを触られているというだけで、身体が反応してしまう。  
抑えようとしても、どうしても声が溢れてしまう。  
(なんで…?)  
分からないことばかりで戸惑っている間にも、悠二の愛撫は続く。  
悠二は乳首から口を離し、腹部から臍、下腹部にかけて唇を這わせた。  
「ん……ふ……くすぐったいよ、悠二…」  
「今から気持ちよくなるから、我慢して」  
そう言うと悠二は、シャナの中心に触れた。  
そこは温かく、僅かに湿っていた。  
「きゃっ!…あ、はぁ…」  
割れ目に沿ってそこをなぞると、サラリとした液体が漏れてきた。  
それを潤滑油代わりに、悠二はさらにそこを指先で擦った。  
「ひゃんっ!あっ、はっ、ふぁぁっ!」  
「ふふっ、敏感なんだね。シャナは」  
「ばかっ、言うなっ、あぁっ!」  
シャナの言葉を無視して、悠二はそっとそこに指を入れた。  
そこを傷つけないように慎重に指を動かす。  
すると、シャナの矯声もこころなしか大きくなった気がする。  
「くぅんっ!ふぁっ、うぁぁっ!」  
 
指を動かしているうちに、悠二は小さな秘豆を見つけた。  
それを指先で撫でると、驚くほど大きな反応が返ってきた。  
「はぁんっ!ふぅっ、あぁはっ!」  
「気持ちいいんだね、シャナ…。もっとよくしてあげるよ」  
悠二は割れ目に触れていた手を離し、代わりに口をあてがった。  
そして、そこから溢れる液を舐め取ったり、啄むように吸ったりした。  
「やっ、そんなっ、とこ、舐めちゃ…あぁっ!はぁ、汚いよぉ…」  
「大丈夫。汚くなんかないよ。すごく綺麗だ」  
羞恥に震えるシャナを宥めるように悠二は言う。  
「ここ、舐められたら気持ちよくない?」  
「よく…わかんない…」  
「嫌じゃなければ、それは気持ちいいってことだと思うよ」  
「そう、なの…?」  
「うん」  
言い切って、悠二は少し強めにそこを吸った。  
「あぁぁっ!ゆ、じぃっ!」  
ふと、悠二の愛撫が止まった。  
「……?」  
「ごめん、シャナ。僕も、もう…」  
悠二はシャナから顔を離し、一度身を起こした。  
そのとき、シャナの目に見たことのないモノが飛び込んできた。  
「なに……これ……?」  
興味津々な目つきで悠二の一物を見つめるシャナ。  
 
まじまじと見つめられ、照れながらも悠二は応えた。  
「それがシャナの中に入るんだよ」  
「ほんと…?」  
「うん」  
信じられないと思いながら、なおもシャナはそれを見つめる。  
「ねえ、悠二」  
「ん?」  
「これ、触ってみていい?」  
「えっ?い、いいけど…」  
悠二の一物に興味を持ったらしいシャナは、早速それに触れてみた。  
「わ……熱いんだ…それに固い…」  
「う……」  
自分の分身を触られ、思わず呻いてしまう悠二。  
悠二の呻き声に驚いたシャナは、とっさに手を離してしまった。  
「あっ、大丈夫?痛くなかった?」  
「大丈夫…むしろ逆だよ」  
「え?」  
「その…そこ、触られると、気持ちいいんだ…」  
恥ずかしげに言う悠二に、シャナはにっこりして言った。  
「じゃあ、もっとしてあげる」  
「えっ…でも…」  
「私ばっかりじゃだめ…悠二も気持ちよくなって…」  
そう言われて悠二は、シャナに一物を預けた。  
シャナはそれを撫でてみたりくすぐったりした。  
すると、ぴくりと動いてさらに固さを増した。  
「わ……おっきくなった…」  
「…そこはそういう風にできてるんだ」  
「ふーん…」  
さらにシャナはそこを撫で、反応を楽しんだ。  
 
「くすっ…なんかおもしろい」  
そう言いながらそこをさするシャナを見て、悠二は何だか妙な気分になった。  
(シャナ……本当にこれを見たことがないんだ…)  
でなければこんなことを言うはずがない。  
シャナの愛撫(?)は続く。  
(これ、触ると気持ちいいんだよね…それなら…)  
シャナは悠二の分身に口づけた。  
「わっ…」  
(ふふっ、やっぱり…)  
悠二の反応に気分をよくしたシャナは、それの先端を舐めてみた。  
「……っ」  
(ここがいいんだ……)  
悠二のいいところを見つけたシャナは、そこを舐め続けた。  
「れろ、れろ、れろ…」  
「う……」  
悠二が気持ちよくなっていることを確認すると、今度は口を一杯に広げてそこを咥えた。  
「わ……っ!」  
こんなにシャナが積極的だとは思わなかった悠二は、ただただ驚いていた。  
(悠二…ゆうじ…)  
シャナは『悠二に気持ちよくなって欲しい』ということだけで行為に及んでいた。  
そのためなら、どんなことでもできる気がした。  
「ん…ん…んむ…」  
「……っ!」  
そこをしゃぶると、悠二の反応が強くなる。  
もっと、気持ちよくなって欲しい。もっと、もっと。  
シャナはそんな気持ちを乗せて唇を動かした。  
 
「……っ、シャナ…」  
シャナのそんな気持ちを知らない悠二は、ただされるがままになっていた。  
やがて、悠二に限界が訪れようとしていた。  
「シャ、シャナっ、ちょっ、待っ…!」  
「?」  
「このままじゃ、シャナに…」  
悠二が言おうとしていることが理解できないシャナは、一旦口から悠二を解き放った。  
「何?」  
「このままじゃ、僕だけが…」  
「あ…そっか…」  
悠二も自分と同じ気持ちだったらしい。  
「シャナ、そろそろいくよ…」  
体勢を入れ替え、挿入の準備をする。  
(悠二が…来る…)  
シャナも悠二を受け入れる覚悟を決める。  
そして、それは来た。  
「っ、きつい…」  
「……ぁ…く…」  
なかなか挿入は進まない。  
だが少しずつ確実に、悠二はシャナの中に収まっていった。  
やがて、悠二の全てが収まった。  
「…入った…」  
「…はぁっ…入った…の…?」  
「うん。シャナ、大丈夫…じゃないか。なるべく早く終わらせるから」  
「うん…」  
愛しい人を労りつつ、悠二は律動を開始した。  
最初は、ゆっくりと。徐々に、早く。  
「ん…んっ、んっ、んうっ…」  
(悠二がいる…私、悠二と一つになってるんだ…)  
シャナはそんな充足感を味わっていた。  
 
「シャナ…シャナっ」  
愛しい人の名を呼び、激しく腰を打ちつける悠二。  
「悠二…ゆうじ……」  
シャナも悠二の名を呼び、自分の内を蹂躙する物に翻弄される。  
やがて、二人に絶頂が訪れようとしていた。  
「シャナっ…僕…もうっ…!」  
「わたしっ、もっ…なにかっ、くるっ…!」  
二人同時に、『それ』は来た。  
「うぁぁっ……!!」  
「はぁっ、あぁぁぁぁっ……!!」  
荒い息づかいを残しつつ、ぐったりとベッドに横たわる二人。  
眠りに落ちる直前、シャナはこう呟いていた。  
「大好き…」  
 
 
そして翌朝。  
『……ろ、……二』  
「?」  
『起きろ、坂井悠二!』  
悠二は聞き覚えのある声で目が覚めた。  
「わぁっ!」  
『ふん、起きたか』  
かなり不機嫌そうな声。  
声の主はもちろん、『天壌の業火』アラストールである。  
「え、と…その…昨日の、ことは…」  
『全て知っている』  
「やっぱり…」  
死を覚悟する悠二だが、彼(?)の次の言葉に悠二は驚いた。  
『合意の上のことだ。そう硬くならずともよい』  
「…はぁ」  
意外すぎる言葉に拍子抜けしてしまい、間抜けな返事をする悠二。  
 
アラストールは続けた。  
『シャナは心から貴様を愛している。貴様も同様…シャナを愛しているようだ』  
「…うん」  
『それを見込んで、貴様に頼みがある』  
「?」  
自分に何を頼むのだろう、と不思議に思ったが、アラストールの次の言葉を待つことにした。  
『…シャナを、これからも支えてやってはくれまいか。あの子が愛した男だ、こんなことはないと思うが…』  
「?」  
『…シャナを悲しませるようなことがあれば、貴様の存在はないと思え』  
重々しいその言葉は、決して冗談ではない、という迫力がある。  
「大丈夫。昨日誓ったから、絶対に大丈夫だよ」  
『うむ。これからもよろしく頼む』  
アラストールからこんな事を言われるとは思わなかったが、それに関しては十分に留意しているため問題はない。  
(僕も少しは認められたって事かな…)  
と、ちょっと自惚れた気持ちはあるが、アラストールの言葉は正直、嬉しかった。  
「ん、んん…アラストール…?」  
シャナが起きたらしい。  
『起きたか、シャナ』  
「ん…お早う、アラストール」  
まだ眠そうな声で言うシャナ。  
ふと、アラストールは悠二に声をかけた。  
『悠二、少しシャナと話がしたい。席を外してくれまいか』  
 
「う、うん」  
取り合えず悠二は居住まいを正し、部屋を出た。  
悠二がいなくなったことを確認すると、アラストールはシャナに言った。  
『シャナ、愛する者は、決して手放すでないぞ』  
「…うん」  
『これからも、奴の力になってやれ』  
「うん!」  
シャナも着替えを済まし、部屋を出る。  
そして、部屋に取り残されたアラストールはこう呟いていた。  
『ふ……我も甘くなったことだな…』  
 
こうして、二人の『日常』が始まる。  
一つだけ違うところは、二人の気持ちが通じあっていること。  
『日常』は誰にも平等ではない。  
少しずつ変貌を遂げ、違った『日常』になる。  
二人の『日常』も変化するだろう。  
しかし、二人はそれを受け入れ、新たな『日常』にするだろう。  
 
様々に『日常』を過ごす人々。  
人の数だけある、『日常』。  
世界は、それらを全てとして、動いていく。  
〜Fin〜  
 

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