ここは、この世のから隔離、隠蔽された空間、どんな優れた自在師も
発見することのできない、異界『秘匿の聖室』。
そこでは日夜、新たなる『炎髪灼眼の討ち手』を育てるため、
この世の理から外れた四人が、一人の少女に日々英才教育を施していた。
「今日はどこを手当てするのでありますか」
無感情を装った優しい声に聞かれ、少女は悔しそうに答える。
「右の太股」
今日のシロとの勝負で打たれた場所を、給仕服を着た女性に見せる。
こうして立っていられるのはまだ良い方で、ひどい時には
天道宮のどこかで倒れていることもあるのだ。
「やはり鎧は動きが鈍るのであります」
他にも怪我がないか調べながら、ヴィルヘルミナは少女にアドバイスをする。
「ちょっと試してみただけ。明日からは普通の服で戦う」
少女は答えながら、明日のシロとの一戦を頭の中でシミュレートする。
「……確かに、太股以外は無傷のようでありますな。」
「うん、強烈な足払いだった。打点を外したんだけど、
鎧の中身が持たなかった」
最後のアサルトブーツを脱ぎながら、少女はぷーっと顔を膨らませる。
「明日もっと機能性の高い服を調達してくるのであります」
ヴィルヘルミナはこの可愛い少女に、秋葉原でチャイナドレスを
買ってやることを決意した。
少女が就寝前の『火繰りの行』を始めたので、現在彼女を中心に動いている
天道宮の一日も終わり。
ヴィルヘルミナは、天道宮の中に自力で増築したバーで、
久しぶりにワインでもと思い立って、そこに行くことにした。
(確か冷蔵庫にチーズがあったはずであります)
至福の一時を愉しもうとヴィルヘルミナがバーの扉を開けると、
「ぐー……」
そこには先客が眠っていた。わけあって『炎髪灼眼』の英才教育に携わっている
“紅世の王”『虹の翼』メリヒムである。そのメリヒムが、
バーのカウンターに突っ伏して、一升瓶を片手に寝息を立てていた。
「熟睡状態」
「可愛いのであります」
普段は見せない傲慢な剣士の失態に、ヴィルヘルミナは顔を綻ばせる。
食事によって“存在の力”を補給できるようになった彼はしばしばここに来て、
人間の姿に戻って呑んだくれているのであった。
(どうやらここが気に入ったようでありますな)
得意になりながらグラスを用意していると、
「……マティルダ・サントメール、愛しい女……」
想い人の口から、聞きたくない言葉が漏れてきた。
自分の愛する者が心を奪われているのは、自分ではない。
その事実を改めて突き付けられるような言葉に、つい向きになって
「ただの酔っ払いの寝言」に反論してしまう。
「マティルダはアラストールを愛しているのであります」
「すー……すー……」
当然、返事はない。さらに続ける。
「数百年前に振られたくせに、いつまでも女々しい奴なのであります」
「団栗背比」
「うるさいのであります」
ヘッドドレスの相棒を殴り付けたあと、カウンターでつぶれている
メリヒムを持ち上げる。
「全く……その女々しさを、い、戒めてやるのであります」
そのまま彼をバーの隣にある自室に連れ込み、ベッドに寝かせて服を脱がせる。
「こ……これはお仕置きなのであります。決して変な意味はないのであります」
あたふたしながら、必死で自分に言い聞かせる。
「強姦未遂」
「し、静かにするのであります!」
ヘッドドレスを外して遠くにやり、そのまま自分も全裸になる。
「で、では覚悟するのであります」
メリヒムに覆いかぶさってバードキスをする。真面目な彼女の持ちうる最大限の
性知識はこの程度のものであった。
(ど……どうしよう……)
これ以上先に進めない。これより先の知識は、数百年前に
本で読んだことしかない。男の身体をこんな近くで見るのも、初めてである。
「で、でも、やるしかないのであります」
眠っているメリヒムの肉棒を、そっと握り、手を上下させる。
「むぅ……おかしいのであります。確かにこれでよかったはず」
一物が全く反応しない。他にもあれやこれやと試してみるが、
やはり依然として立つ気配はない。
(うぅ……やはり私は受け入れられないのでありますか……?)
陰茎をいじりながら悲観的になっていると、
「ん……、うん?」
急にメリヒムが目を覚ました。
「…………」
「こ、これは違うのであります決して襲っていたのではなく
そうあれあの何ていうかそう!罰なのであります!」
寝呆け眼で自分を見つめるメリヒムに、ヴィルヘルミナは意味の分からない
一人合点の弁解をする。
「私の親友のことをいつまでも引きずり続ける、その女々しさを戒めてひゃああん!」
そんな弁解を続けていたら、急にメリヒムに抱きしめられた。
「負けた方が、勝った方の言うことを聞く……確かに、
俺が出した条件だったな……」
何かを勘違いしている酔っ払いは、いつのまにかヴィルヘルミナを
押し倒す形になっている。
「ひ、人違いで、ありま「ふふふ……、まさかこれがお前の望みだったとはな。
やっと俺の愛に気付いたか。まったく……どこまでも鈍いやつめ」
メリヒムは満足そうにヴィルヘルミナの頭を撫でながら、耳元で囁く。
「あ……、あ……」
いきなりの急展開とこれからする初めての経験に、ヴィルヘルミナは
すっかり怖気づいてしまった。
「どうした、震えているのか?……心配するな、戦闘時のように乱暴にはしない。
お前はただ、俺の愛を感じていればいい……」
いつもの彼からは考えられないほど、優しく抱きしめられ、唇を奪われる。
「――!」
先刻のバードキスとは比べものにならない快感が、
メリヒムの舌を通して伝わってくる。
「ん、んん、ちゅっ、ちゅ、くちゅ、くちゅっ」
すっかりなすがままにされてしまった。メリヒムに抱かれ、
舌を貪られたままぴくりとも動けない。そんな状況なのに、
ヴィルヘルミナは興奮している自分に気付く。
(メリヒム……勃起しているのであります)
下腹部のあたりから、メリヒムのモノが膨らんでいることを知り、
嬉しいような、悲しいような気分になる。
(でも、こいつはマティルダのことを想っ――!)
突如、抱きしめる力が強くなった。キスも、ただ優しいだけのものから
ねっとりとした情熱的なものに変わる。
「ん、ん――!」
ものの数秒で、ヴィルヘルミナはそのキスに耐え切れずに
絶頂に達してしまった。
「ふん、少しは思い知ったか……まだまだこんなものではないぞ」
唇を放したメリヒムは、悪態をつきながら、しかし嬉しそうに愛撫を再開する。
「しかし、この程度で達してしまうとは、先が思いやられるな……」
ヴィルヘルミナの秘部をいじりながら、耳たぶ、首筋、さらにその下……と
キスの雨を降らせていく。
「んっ、ん、んんっ、あっ……」
「声を出してもいいんだぞ」
鳴き声を必死で我慢するヴィルヘルミナの乳首の周りを、
メリヒムは焦らすように舐める。
「ん、ぁっ、ぁっ、あぁっ……」
乳首の周りを、円を描くように焦れったくねぶられ、
自然と声が大きくなった所で、
「よし、それでいい」
メリヒムは乳首に吸い付いた。
「あぁっ、ああああ!あああああ!」
同時に秘部を這い回る指の動きも、強くいやらしくなって、
ヴィルヘルミナの絶頂を促した。
「あぁ!だめっ、とんぢゃぅ、おかしくなっちゃぅのであぁあぁあぁ〜!」
語尾を言い終える前におかしくなっちゃったヴィルヘルミナは、
恍惚の表情で身体を仰け反らせる。
「――はあっ!はぁっ、はぁ、はぁ……」
「はっはっは……そんなに気持ちいいのか。
どうだ?あの紅世の魔神には、こんなことは出来まい」
そう言ってメリヒムは、今度は十分に濡れそぼった女陰に
自身の欲棒をあてがい、それを突き刺した。
「あああっ!」
今まで感じたことのない種類の痛みに、ヴィルヘルミナは思わず声を漏らす。
「始めはゆっくり動くからな」
「く、くっ、ぁあああ!
あっ、あっ、気持ち、いいっ!」
日々戦いに明け暮れていたフレイムヘイズである彼女は、並の痛みでは動じない
痛みはすぐに快感へと変わった。
「では、ここからが本番だ」
メリヒムもそれに気付いて腰の動きを早める。
「あっ、ああっ、メリヒム、あっ、愛して、いるので、あっ、
あります、ああっ……」
「何も言わなくていい……、すぐに、俺無しでは
生きていけないような、身体に、してやるから、なっ……!」
会話も億劫になった二人は、一つになるために、ただひたすら腰を、
欲望を、打ち付けあう。
「そ、そろそろ限界だ」
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
「はぁ、はぁ……行くぞ」
言ってメリヒムは、腰の動きをさらに激しくする。
「ああっ、あっ、ああ!あっ!ああっ!あああ!」
「くっ、だ、出すぞっ!」「ヴィルヘルミナ!大丈夫!?」
「うぁぁあっ!?」
突如表われた少女のドロップキックで、メリヒムは空中に
吹っ飛ばされながら射精するという荒技をするはめになった。
精液が、ヴィルヘルミナと少女両方に、大量にかかる。
「ヴィルヘルミナの叫び声が聞こえたから、何だろうと思って来てみたら
……ヴィルヘルミナ!しっかりして!」
少女はそれも気にせずに、ヴィルヘルミナを揺さぶり、意識を確かめる。
「…………」
しかし恍惚の表情でぼーっとするだけのヴィルヘルミナ。
少女はその傍らで酔いが覚めて混乱している白骨を睨み付ける。
「シロ!ヴィルヘルミナは普通の人間なんだから、いじめちゃダメでしょ!」
(なにっ、ヴィルヘルミナだと?ではさっきまで俺が抱いていたのは……!?)
咄嗟に白骨に戻ったメリヒムは、コミカルな動きで少女に謝ってみせた。
「もうっ、今日は絶対にシロに勝ってやるんだから!」
ぷりぷりと怒りながら、少女は部屋から出ていった。
「……済まない。酔っていたとはいえ」
傲慢な剣士は、白骨から戻って自分の狼藉を詫びた。
「そんなことはいいのであります。それより……」
「ん?」
「貴様無しでは生きていけないような身体にされたのであります」
「なっ!、そ、それは!」
確かにそれを言った覚えがある。今更になってメリヒムは
自分の泥酔ぶりを後悔した。
「責任を取るのであります」
「いや、それはだな、言葉のあやという奴で」
「…………」
「分かった!分かったから泣くな!」
紅世であろうと何であろうと、男が女の涙に弱いのは変わらないらしい。
「ふふ、今日のあの子の鍛練が済んだ後、この部屋で待っているのであります」
けろっと泣き止んだヴィルヘルミナは、給仕服を着ると、恋する乙女の表情で
朝食の準備に出ていった。
「あれは、ヴィルヘルミナだったのか……くそっ、何を考えているんだ俺は」
一人取り残されたメリヒムは、さっきまでの一戦を思い出して、一人複雑な気分になる。
「俺は、誘惑には負けんぞ……!」
「――っは!」
少女は、自分の身の丈ほどの棒を振り回している。
「ふふ、今日という今日は絶対やっつけてやるんだから」
まだダウンも奪ったことのない相手を思って、少女は一人闘争心を燃やす。
そんな少女の頭上に見える空は、今日も快晴。
『贄殿遮那のフレイムヘイズ』誕生まで、あと一週間――