――――なに・・・・? コイツ――――  
 
どぎついピンク色の炎が支える封絶の中、シャナは灼眼を戸惑いの色に染め、目前の紅世(ぐせ)の徒(ともがら)を向き合っていた。  
 
「コラ、ごっつう可愛らしい討滅の道具でんな」  
 
気配からして王ではない。そして近年のほとんどの徒は人の形を取る。  
しかし徒の多くは人と紅世の徒間の美的観念が近いこともあって、美女美青年と言った美形の類の姿を取る。  
しかし、その徒は一見してよく言えば肥満体、悪く言えばブサイクと言っていい容姿に体型をしており、何の意味があるのか怪しげな方言まで使っている。  
 
「お見受けしたところ、天壌の業火はんの契約者。炎髪灼眼の討ち手でんな? お初にお目に掛かります」  
「・・・・ええ、そうよ」  
 
容姿というだけではない。舐めるようにこちらの全身を見つめる視線にシャナは嫌悪を隠せない。  
 
(油断するなシャナ・・・・)  
「・・・・解ってる」  
 
首に下げた神器コキュートスからのアラストールの忠告に短く答え大太刀 贄殿紗那を握る手に力を込める。  
 
「私から言いたいことは一つよ。この世界から大人しく去り紅世に戻るなら良し。そうでないならば双方の世界のバランスを守るためお前を討つ!」  
 
灼眼を煌めかせ、炎髪を燃えあがらせながらシャナは徒に向け鋭くいい放った。  
 
「ええですよ」  
「・・・・は?」  
 
あっさりと返ってきた意外な返事にシャナは呆気にとられたように目の前で太った腹をぼりぼりと面倒くさげに掻く徒を見つめた。  
 
「わいは別にこの世界に執着なんておまへんねん。人も喰った事らあらしまへんしね」  
「・・・・本気なの?」  
 
不真面目な徒の態度に苛立ちを感じながらもシャナは油断無く構える。  
もし男の言葉が事実でこのまま紅世に返るというなら討滅する意味はない。しかしこれまで出会った徒の多くは自ままに生きる事を貫き討たれていったのに・・・・  
 
「ホンマ、ホンマ・・・・けど代わりと言ってはなんやけど・・・・」  
 
ひょいっと好色げな瞳をシャナの方に向けニヤニヤと笑う。  
 
「炎髪灼眼はん。わいに一晩つきあってもらえまへん?」  
(な・・・・っ!?)  
 
男のあまりの提案にアラストールは絶句する。  
 
(ふ、ふざけるな! 貴様いったいどういうつもりだ!)  
「なんや、アラストールはん、別にあんたには言うとらんがな、うちはその可愛らしい契約者はんに言うとんのや」  
 
激昂して喚き散らすアラストールを意にも介さずにその徒は飄々とした態度を崩さない。  
 
「つき合う・・・・? 何につき合うというの?」  
 
当のシャナはというとさっぱり理解していなかった。  
 
「なんや、見た目えっらい幼いフレイムヘイズや思うとたけどそんな事もし知らへんのかい。アラストールはんもきちんと教えとかなあかんよ」  
(ぐ・・・・き、貴様に言われる筋合いはない!)  
 
コキュートスから紅蓮の炎を吹き出さんばかりに猛り狂うアラストールへ向けてシャナは純粋な疑問をぶつける。  
 
「ねえ、アラストール。一晩つき合うって何?」  
(い、いや・・・・そ、それはだな・・・・)  
 
シャナの純粋な眼差しと疑問に追いつめられるアラストールを眺め、クックックと忍び笑いを漏らしながら徒がシャナに向かって言葉を放った。  
 
「それはなお嬢ちゃん。お嬢ちゃんの可愛い身体を一晩わいの好きにさせてもらうゆうこっちゃ。まあぶっちゃけエッチなことをさせてもらうんやな」  
 
男の言葉にしばしきょとんとしていたシャナが灼眼や炎髪もかくやと言うほどに顔を真っ赤にして喚き出す。  
 
「ふ、ふ、ふざけないで! 誰がそんなこと!!」  
「なんやそない怒らんでもええやんか。嬢ちゃんが知らんいうから教えてあげたゆうのに・・・・」  
「うるさい! うるさい!! うるさい!!!」  
 
地団だ踏まんばかりに怒り狂うシャナが贄殿紗那を女の敵に向けて突きつけ吼える。  
 
「そんな条件なんて飲まない! 飲んでやる必要もない! お前が大人しく帰るなら良し、断るなら・・・・」  
「断るなら・・・・?」  
 
ニヤニヤニヤ笑う男に向けて怒りに燃えさかる灼眼を向け、シャナは堂々と宣言する。  
 
「・・・・お前を討つ!」  
「ま、ええやろ・・・・」  
 
スッと落ち着きを取り戻した殺気混じりのシャナの視線を何処吹く風と男は肩を竦める。  
天罰狂いの魔神、紅世の真正の魔神・・・・アラストールの力もあるが炎髪灼眼の討ち手の名に違わず、この強大な討ち手に対抗する術は並の徒にはない。  
それなのに相手の奇妙な自信に警戒を抱きながらもシャナに退却はない。  
 
「そういや、自己紹介がまだでしたな。わいはコズフール。真名は淫魔っていうねん」  
「天壌の業火 アラストールのフレイムヘイズ 炎髪灼眼の討ち手 名前はシャナ」  
 
相手の真名の意味など気にもとめようとせずにシャナは贄殿紗那を構えそのままつっこもうとして・・・・膝から崩れ落ちた。  
 
「・・・・え?」  
「なんや・・・・ようやく効いてきたんかいな。えろう時間掛かったな。ま、さすが炎髪灼眼いうところかいな」  
 
地面に突き立てた贄殿紗那にすがり、力の入らない足腰にシャナが戸惑う。  
しかも、こんな時に声をかけてくるはずのアラストールの声が聞こえない、こちらからの呼びかけにも応えない。  
 
「ああ、無理無理。わいの封絶は特別製でな。夜淫の寝具ちゅう宝具を中心に展開するんやけど、その効果は・・・・あんさんの方がようわかっとるかな?」  
「な、なんです・・・・って?」  
 
贄殿紗那を杖代わりにして震える足で立ち上がろうとするシャナ。以前戦った愛染の姉弟のピニオンの様な特殊な自在式だろうか? いつの間にか吐息が荒く乱れ、身体が奇妙に熱い。  
これは、いつもの戦闘の際の燃え上がるような昂揚感では断じてない。  
 
「はぁ・・・・はぁ・・・・い、いったい・・・・こ、これって・・・・くっ」  
 
体の芯から焦がされるような未知の熱感。  
腰の奥深くから脈打つような熱い疼きが沸き上がり足腰に力が入らない。  
 
「フレイムヘイズにしろ徒にしろ、女にしか効果がないけどな。ま、エッチな気分にする自在法ちゅうこっちゃ。」  
「な・・・・な、なんてふざけた術・・・・あっ!」  
 
何という自在法に捕らえられたのだろうか? いや自在法と呼ぶもおこがましいふざけた術。  
シャナはそんな卑劣な罠に掛かってしまった自分に無性に腹が立ち、苛立つが現に身体には力が入らず炎すら顕現する事もできない。  
 
「ほんまほんま、ま、時間も掛かるは、限定厳しいけどな。わいの趣味にはぴったりの力ちゅうわけや」  
「こ・・・・この・・・・く、来る・・・・な」  
 
ゆっくりと刀を杖代わりにようやく立っているだけのシャナの前に立ち、その太った手で少女の顎を掴み仰がせる。そんな徒をシャナの灼眼が睨み据えた。  
 
「ええ目や・・・・ゾクゾクするわ。わいわなこっちの世界になんて興味ないんや」  
 
身体の奥から沸き上がる熱感に僅かに揺らぐ灼眼を覗き込み太った徒が愉快そうに笑う。  
 
「わいわな。お嬢ちゃんみたいな可愛い討ち手やら小生意気な徒や高慢ちきな王やら、まあそういう女を捕まえてねじ伏せて、屈服させるんが好きでこっちの世界におるんや」  
「くっ・・・・あっ・・・・さ、最低な・・・・あっ・・・・奴ね・・・・」  
 
気丈に言い返し、睨み据えるも既にシャナの全身を駆けめぐる鮮烈な感覚は止まることを知らず、力を奪い、意思をくじき、脳を痺れさせる。  
 
「あはは・・・・よう言われるわ。さ、そないな物騒なモノ離しちまいな」  
「こ、この・・・・あっ!」  
 
そのまま力の入らない小柄な身体をあっさりと横抱きにされる。  
その細い指から離れた贄殿紗那が甲高い音を立てて地面に落ち転がった。  
 
「う〜ん、ちっこい身体やなぁ。えろう軽いし」  
「あっ、くっ!は、離せ・・・・っ」  
 
力の入らない身体を捩り、必死に足をばたつかせて腕の中から逃れようとするが・・・・  
 
ズクン・・・・  
 
「ああうっ!」  
 
その僅かな動きがもたらす衣擦れさえ、身体の奥から甘美な痺れを響かせる。  
 
「安心せえな、なにも命までとらへん。言うたやろ? その美味しそうな身体を一晩自由にさせてくれたらええねん」  
 
迸る疼きに堪りかね男の服の胸元をきつく握り締める。  
自分を罠に嵌めた憎き敵の腕の中で、細身の体をさらに縮めて喘ぐしかない炎髪の少女を眺め男が愉快そうに笑った。  
 
「だ、誰が・・・・うっ・・・・お、お前・・・・なんかに・・・・あぐっ!」  
 
必死で嫌悪の声を張り上げるが、徒から感じる存在するはずのない生活臭。わざとそうしているのだろう。  
汗臭く、男臭い臭気。むさ苦しいまでの肉のもたらす熱気・・・・本来なら何処までも不快なはずのソレさえ怪しげな術で狂わされたシャナの肉体を熱く焦がす。  
 
「あっ・・・・くっ・・・・こ、こんな・・・・事・・・・」  
「強情な子やな・・・・ま、その方がわいも燃えるちゅうもんや」  
 
醜い男に横抱きにされたまま何処と知れず連れ去られる小柄な少女  
僅かな動きさえ命取りになる為、きつく目を閉じると憎き敵の胸に縋るようにしがみつく。悔しいがこの感覚が収まるまで今は耐えて機を待つしかない。  
 
「ほら・・・・着いたで」  
 
シャナの熱く燃える身体を抱きかかえ、徒はやがて封絶の中心で足を止めた。  
そこに置かれているのは無駄な程に豪華で、場違いなほどに絢爛な天蓋付きのベッドだった。  
陽炎に揺らぐ封絶の中でそのキングサイズのベッドだけがはっきりと存在感を示している。  
 
「ま、まさか・・・・はぁ・・・・こ、これが・・・・うっ!」  
 
霞の掛かった灼眼をそれに向け、荒い息を付きながら炎髪の少女が喘ぐように呟いた。  
既に淫らの熱は幼いシャナの身体の全身に回り、熱く漏れる艶やかな吐息が少女の身体を焦がす感覚の激しさを物語っている。  
 
「そや、これが夜淫の寝具。タンダリオンはんの作やで」  
「な・・・・んですって・・・・探眈・・・・究求の・・・・?あっ・・・・くっ」  
 
ズクン・・・・  
封絶の中心。宝具に近づいた影響なのだろう。  
意識に浮かんだ僅かな疑問さえ、激しくなる腰の奥の疼きに遮られシャナは堪えきれないように目を閉じて首を激しく振った。  
その細い首の動きに合わせ、腰まで伸びる炎髪が左右に揺れ、紅蓮の火の粉を僅かに周囲に散らした。  
 
「ほな・・・・楽にしてあげるさかいな」  
 
ポスン  
小柄な身体をスプリングの効いたベッドが軽い音を立てて受け止める。  
既に少女には抵抗する力もなく、息も絶え絶えにベッドの上で身を捩り、白いシーツの上に炎髪が鮮やかに広がって、美しい真紅の花を咲かせた。  
 
「はぁ・・・・あぁ・・・・い、いや・・・・よ」  
 
性的な知識などシャナにはほとんど無い。  
しかし少女の本能が男の行為に穢される自分を察知し、恐怖と嫌悪に必死にベッドの上を後ずさる。しかしそれは蜘蛛の巣に捕らえられた蝶の様な儚い足掻きに過ぎない。  
 
「ほら、怖がる事なんて無い。今から天国見せたげるさかいな」  
「だ、誰・・・・がっ!」  
 
ベッドに上がり、近づいてくる男に噛みつくように吼えるシャナの目前に、太い人差し指が突きつけられた。その先端にどぎついピンク色の炎が灯る。  
 
「わいわな・・・・戦闘用の自在法ゆうんはてんであかん。けどその代わりちゅうか、こういう小細工はとくいなんや」  
 
灼眼が鏡のように映すピンク色の光・・・・知らずシャナの紅蓮の瞳はそれに惹き付けられていた。  
指がゆっくりと左右に揺れ、つられるように灼眼がその中心にピンクの光を映したまま左右に動く・・・・。  
 
「はぁ・・・・はぁ・・・・こ、小細工って・・・・」  
『気にすることあらへんで・・・・肩の力抜いて楽になり・・・・』  
 
振り子のように振られる指の動きが大きくなり、頭の中に反響するように男の言葉が脳に浸透してゆく。  
強張っていた体から緩やかに力が抜けてゆき、硬さがとれ、動きが緩慢になっていった。  
 
「はぁ・・・・はぁ・・・・ら、楽に・・・・」  
『せや・・・・身体が熱いやろ? 苦しいやろ? 切ないんやろ?』  
 
催眠術の様なちゃちな術ではないが人の意思をねじ曲げてまで操るような強力な術ではない。  
ただ抵抗とか反抗とか羞恥とか・・・・そう言った心の防壁や枷を緩め取り払う自在法。今の状態のシャナには致命的とさえいえる類の術。  
 
「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」  
 
いつしか霞んだ瞳でぼんやりとベッドの上に両手をつき座り込むシャナ。  
ベッドに上がってきた男の腕に引き寄せられ、足の間にぺたりと両足をつけ座らされた。  
 
「あ・・・・」  
「これ炎髪ゆうんかい。ほんま綺麗な髪やな」  
 
普段の気の強さが想像も出来ない気怠げな表情で、脂肪の塊の様な気味の悪い腹に力なく背中を預ける。  
男はそんなシャナの炎髪を一束掬うと片手で弄びながら、背後から髪の中に顔を埋め、少女の香りを楽しむかの様に鼻を鳴らす。  
 
「はぁ・・・・やめ・・・・っ。・・・・うくっ・・・・」  
 
男の腕に細い肩を抱きすくめられ、小さく身を震わせそれでも拒絶の言葉を弱々しく呟く  
しかし、初めて体感する興奮した男の身体が発する熱気。初めて嗅ぐ咽せるような男の体臭。それらさえ脳を痺れさせ、術に掛かった意識に霞が掛かってゆく。  
 
「まだ抵抗できるんかいな。・・・・大人しゅうしときな・・・・ほら気持ちええやろ?」  
「あああぁっ!」  
 
耳元で囁かれ、細い首筋に口づけられると堪らず高い鳴き声を上げて喉を反らした。滑るように白い肌の上を這うおぞましい唇の感触に身を戦慄かせて媚熱に紅潮した顔を背ける。  
 
「ほら・・・・脱ぎ脱ぎしような」  
「はぁ・・・・う・・・・ん・・・・」  
 
男の手がそっとシャナのフレイムヘイズとしての漆黒の戦闘衣 夜笠にかかる。  
熱に浮かされたような表情で、潤んだ灼眼がぼんやりとその様を見つめるが、為すがままといった感じでゆっくりと脱がされていった  
 
「おほ、女子高生の制服かいな。ほんまシャナはんはわいの好みジャストミートちゅう感じやな」  
「はぁ・・・・はぁ・・・・?」  
 
夜笠の下から現れた御崎高校の冬服姿に手を叩いて喜ばんばかりの男。その様を理解できないシャナは、虚ろな瞳でそれを眺めていたが、不意に胸から沸き上がった感覚に不意に小さく身を反らす。  
 
「はっ・・・・んっ・・・・」  
 
脇の下を通った男の手が、少女の胸に回されその手の平にまだ薄い胸の膨らみをすっぽりと収めていた。  
 
「小さいし、まだ芯も抜け取らん硬い胸やな。けどこれはこれで感慨深いわ。」  
「こ・・・・の・・・・っ・・・・やめ・・・・はっ、くっ」  
 
制服の上からゆっくりと円を描くように掌に収めた胸の膨らみをこね回してゆく。  
 
「ふふふ・・・・それにしてもわいら徒を怖れさせた炎髪灼眼の討ち手ゆうんもこうなってしまうと可愛いもんやな」  
 
シャナの小さな胸を服の上から丹念に責め立て感触を楽しみながら、少女の柔らかな耳たぶを甘噛みしながら感慨深げに呟いた。  
 
「ふぁ・・・・っ」  
 
耳が弱いのだろう。耳たぶを優しく噛まれ、吐息を耳穴に吹き込まれて甘く鳴く少女の姿に薄く笑う。  
王どころか徒の中でも弱い方に属する自分があの天壌の業火のフレイムヘイズを良いように弄ぶと言う暗い情念が満たされ驚くほどに興奮してしまう。  
 
シュルリ・・・・  
 
胸元のリボンを解き、制服をたくし上げる。  
白いお腹、お臍、そして坂井 千草に買いそろえてもらった純白のブラまでが露わになった。  
 
「眼福眼福・・・・ほな、そろそろ炎髪灼眼はんの唇を味合わせてもらおうかいな?」  
 
左胸をブラごとゆっくりこね回しながら、空いた手をシャナの顎にかけ、仰がせる。  
 
「・・・・?」  
 
焦点の失われ霞んだ灼眼に映る男の顔が近づいてくる。  
抵抗も忘れそれをぼんやりと眺めていたシャナの脳裏に不意に坂井 千草の言葉が蘇った。  
 
――――シャナちゃん口と口でするキスというのはね――――  
 
過分に千草の偏見というか、強すぎる貞操観念の入った言葉。  
しかしシャナにとってアラストールやヴィルヘルミナと同じか下手をすればそれ以上の信頼を寄せる千草の言葉。  
 
「い、いやっ!!」  
 
瞳に力が戻り、それまでの無抵抗が嘘のように男の唇から逃れるようと必死に首を横に背ける。  
力なく身を捩り、虚をつかれた男の手を逃れると、乱れた制服もそのままに両手と両膝をベッドの上につき、荒い息を吐く。  
 
「なんやなんや・・・・?」  
「き、キスは・・・・キスは・・・・だめ」  
 
辛うじて腕の中から逃れたモノの未だ術中にある少女の身体は逃亡さえ出来ない。  
そのまま崩れ落ちるように両手をベッドにつき俯くと、力なく首を左右に振った。  
 
――――私の傍に立たせたいのは、ずっとともに居ると誓いたいのは――――  
 
一人の少年の困ったような笑顔が脳裏に浮かんで消える。  
 
「ふぅ〜ん、キスはあかんのか・・・・」  
 
驚いたように、そんなシャナの方を見ていた男の顔がすぐに笑みの形にゆがむ。  
どのみちこの可愛らしい獲物は自分から逃れられない。ならここで無理を通してリスクを高める必要はないだろう。  
 
ツツゥ・・・・  
 
「あ・・・・う・・・・」  
 
制服を捲り上げられ剥き出しの無防備な背中を男の人差し指が走り、堪らず高く鳴いた。  
 
「気持ちようなっとったらええのに・・・・・」  
「やっ・・・・め・・・・はっ・・・・」  
 
両肘を男の手に掴まれると小さな背中の上に被さり唇が押しつけた。  
唾液の跡を残し背中を這い上ってゆく男の舌の感触に身体が小刻みに震え、身体が反り返ってゆく。  
抵抗が出来ない。嫌悪が薄れていく。嫌なのに、こんな奴に触れられて気持ち悪いはずなのに・・・・霞んだ心が燃え上がれない。  
 
「ま、でもしゃあないな。シャナちゃんが嫌やゆうんならな・・・・ほら、逃げたらあかんよ」  
 
ベッドに両手両膝をつき、這ってでも逃れようと前に進むシャナの背中にのし掛かる。  
背中がだぶついた脂肪と密着し、男の肉の重みがシャナの細い両腕にズシリと掛かった。その小さな手に男は手を重ね、指の間を握る。  
 
「可愛い手やな・・・・こんな小さい手であんな大太刀握っとったんかいな・・・・」  
 
獣背位の体勢でシャナの体を背後から完全に拘束した男が炎髪から覗く耳朶に唇を寄せて囁く。無言で男から顔を背けるシャナはお尻の方に奇妙な違和感を感じた。  
 
――――な、なにか・・・・お、お尻に当たって・・・・る?――――  
 
逃れようと足掻きながらぼんやりと意識の端で思う。  
背中に感じる男の重量と淫卑な熱感。シャナの細い腰に押しつけられた剥き出しの醜い尻。盛んに硬く熱い欲望の肉塊がスカートの布越しにさえその存在を主張していた。  
 
「わかるかいな? 炎髪灼眼はんをいっぱい愛したいって、わいの息子が元気いっぱいや」  
 
グイグイっと汚い尻を押しつけてくる。その硬いモノがなんなのか性の知識に乏しいシャナには解らない。  
ただそれでもシャナの身体は女性の本能としてその存在を察知し、狂わされた情欲が、さらに身体の奥を熱く疼かせ、内なる芯を燃え上がらせる。  
 
「む、息子・・・・? あ、愛す・・・・る?」  
「せやで・・・・可愛い討ち手のお嬢ちゃん。あはは・・・・なんやまるでワンちゃんの交尾みたいやな」  
 
調子に乗った男は獣背位の姿勢のまま、ヘコヘコと盛りのついた犬のように腰を振り、制服のスカート越しに欲望の肉根をシャナのお尻にぶつけ続けた。  
 
「このっ・・・・やっ・・・・く、くう・・・・」  
 
――――炎髪を掻き分けて、うなじに口づけられると背筋が痺れる。  
お尻に当たるなんか熱くて硬いのに、腰の奥が変な気分になってきて・・・・――――  
 
「わ、わたし・・・・も、もうな、何が・・・・なんだか・・・・あ、あぁ・・・・」  
 
力なく首を振った。思考が纏まらない。意思が奮い立たない。無意識のレベルにまで昇華していたフレイムヘイズとしての使命さえ霞の彼方に隠れてしまって見る事が出来ない。  
 
「ええでええで、せやキスの代わりゆうたらあれやけど・・・・シャナはんにええもんあげるわ」  
「はぁ・・・・はぁ・・・・え?」  
 
嫌らしい笑みを顔に貼り付けシャナの耳元に唇を寄せて囁くと、小さな顎を掴んで正面を向かせる。  
だぶついた脂肪の塊がグネグネと変形し一本の肉色の触手を生み出した。グネリと蠢いたそれがシャナの死角から近づく。  
 
「・・・・・・・・」  
 
潤んだ灼眼が背後の男の歪んだ笑顔を見る。  
心理に働きかける自在法が反抗する意思を薄れさせ、疑問は抱けてもそれが警戒にまで昇華しない。肉の触手がそんなシャナの不意をつき、その桜色の唇の中に滑り込んだ。  
 
「んっ、ううんん〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」  
「シュドナイはんほど自在とは行かんけど触手の一本もだせんで淫魔の真名はもらえんわな」  
 
喉の奥を肉触手の先端で小突かれ声にならない苦鳴を上げるシャナに、男はなにが楽しいのか大笑いする。  
触手は可憐な唇を貫き、この行為が何を意味するのかはシャナには解らない。それでも本能的な恐怖と嫌悪に首を振って触手から逃れようと足掻くが深々と咥え込まされ吐き出すことも出来ない。  
 
「なんや・・・・こっちもあかんてか。我が儘な子やなぁ」  
 
この期に及んでも抵抗できるシャナの意思の強さに舌を巻きながら、男は美しくも凛々しい少女の唇を犯した喜びに身を震わせた。  
 
「ん・・・・ぐぅ・・・・」  
 
――――な、何コレ? 気持ち・・・・悪い――――  
 
ゆっくりと口内で蠢き始める触手。  
奇妙な熱と弾力を持つ肉塊に口内を犯され、喉奥を突かれ、汚され、気持ち悪さに吐き気がこみ上げるが口を塞がれてソレすらままならない。  
 
「ああ、気持ちええわ。たまらへん。口の中気持ちよすぎやでシャナはん」  
 
肉触手には感覚があるのだろう。男が興奮に吐息を荒げ、欲情した声でシャナの背後で呻く。  
俄かに蘇ってくる恥辱と屈辱。忌々しさに口内にある触手に歯を立てようとするが強靱な弾力を持つ触手はかみ切る事は愚か、歯を立てる事さえ出来ない。  
 
「うははは、こそばゆいやん。まったく元気な子やな。」  
「ん・・・・くっ・・・・んん・・・・」  
 
それどころかソレさえ男は快楽とし、唾液に濡れた肉触手は蠢きながらシャナの唇から抜き差しを繰り返す。男の手と重なる両手が男の指ごと白いシーツを握り締めた。  
 
「わいはもう堪らんわ・・・・あんさん可愛過ぎや。」  
 
唇からは濡れた唾音とくぐもった声が漏れる。  
欲情した自らの分身をシャナの小ぶりな尻にぶつけるように男は腰を振り続けた。四つ這いの姿勢で唇を触手で貫かれ悶える少女。その背に被さり剥き出しの尻を振る男。  
豪華煌びやかなベッドの上の光景だからこそ、それはあまりに淫卑で背徳的な図であった。  
 
「出る・・・・出るで・・・・い、いっぱい・・・・いっぱい注いであげるさかい。飲んでや・・・・飲むんやで・・・・」  
 
上擦った男の言葉の意味はまるで理解できない。しかし口内で太さを増す触手と共に訪れる破滅の予感。  
 
「おおうっ!!」  
 
ドクン!!  
 
背後の男の気味の悪い呻き声。ブルリと震える体。重ねられた手が強く握られる。  
口内になにか灼熱の粘塊が解き放たれ、同時に背中と尻にも何かがぶちまけられた。  
衝撃に腰が跳ね上がり、背中を背後の男の胸に強く打ちつける。仰け反ったシャナの喉の奥の粘膜にビチャリと気持ちの悪く、熱く、臭く、粘ついた何かが着弾した。  
 
ドクン・・・・!!ドクン・・・・!!ドクン・・・・!!  
 
――――な、何なの・・・・コレ? あ、熱・・・い。それに凄い・・・・匂い――――  
 
一度ではすまない。立て続けに口内に送り込まれるソレは触手自身によって喉を栓されてしまっているシャナに吐き出す術もなく。  
 
「んん・・・・ぐうう・・・・んんんん〜〜〜〜〜っ!!」  
 
シャナの尻に強く押しつけられた男の腰も断続的に痙攣し、背中と制服のスカートを白濁を断続的にぶちまけながら汚してゆく。  
 
――――粘・・・・ついて・・・・あ、味も・・・・へ、変――――  
 
身体を喉を震わせながら食道へ、胃へ、その体内へ無理矢理注ぎ込まれてゆく。  
喉が胃が灼けるように熱い。粘つく液体が喉に絡んで気持ちが悪い。その正体も意味もわからないままシャナは、白濁に濡れた背を震わせながらそのおぞましい液体を体内へと浴び続けた。  
 
「んんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」  
 
そして浅ましく淫らな術に開花させられた身体はその衝撃さえ快楽に転換し、シャナを絶望の淵へと立て続けに突き落としていったのだった。  
 
「ふぅ〜、あ、あんま気持ちええから触手だけやなくてこっちからも射精(でて)もうた。スカートべとべとや」  
 
ズルリ・・・・  
 
情けなげな言葉とともに唇を触手に引き抜かれ、唇の端からドロリと嚥下し切れなかった白濁が零れ落ちキスさえ知らない少女の唇を汚す。ようやく口を開放されシャナは口元を抑え激しく咽込んだ。  
 
「ゲホッ! ゲホッ!! はぁ・・・・こ・・・・このっ!」  
 
得体の知れない気持ちの悪いものを無理矢理飲まされた。  
その怒りに催眠の自在法から覚醒したシャナが燃える様な灼眼を取り戻し、自分の背中にいまだ脱力してもたれ掛かっている男を涙目で睨み据える。  
 
「わ、私にな、何を飲ませたの?」  
 
また怪しげな効果のある薬か何かだろうか?  
徒の腕を振り払う力は未だ戻らないものの白濁に汚れる唇を乱れた制服の裾で乱暴に拭い、精の混じった唾液を吐き棄てた。  
 
「ほんまもうちょい男女の営みいうもんを勉強した方がええな灼眼の嬢ちゃんは・・・・」  
 
射精と言う行為はおろかフェラチオ、ましてや触手プレイなどと言う言葉さえ知らず、ただ純粋な怒りを叩きつけてくる少女に男は薄ら笑いを浮かべる。  
 
「ええか? 灼眼のお嬢ちゃんが飲んだんはわいのおチンチンから出たおツユや」  
「お、オチンチン?」  
 
おチンチン、ペニス、男性器・・・天道宮での教育にはさすがに人間の部位への教育は含まれる。しかしそれはあくまでシャナの中では排尿に使われる男性の肉体的器官。  
 
「お、お前!ま、まさか私ににょ、尿を飲ませたの?」  
「はぁ?」  
 
怒りと恥辱に猛り狂い、淫熱に浮かされ自由の利かないはずの身体で暴れようと足掻く少女に男はあきれ返る。  
 
「あははは、最高やシャナはん。最高のボケや! ええでええで、これからたっぷり何も知らんあんさんに一からエロイことを教えてあげるさかいな」  
 
<続く>  
 

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