第二章「避難」
家のほうに帰ると、悠二の家の窓ガラスが割れているのが見えた。
それ以外は大丈夫そうだったが、家の中はひどい有様だった。
割れた食器が散乱し、家具も多くが倒れている。
幸い、千草とアラストールは出かけていたために無事であった。
「うわ・・・」
悠二は絶句した。これが大地震の被害。相当な揺れだった、自分が生きていることが信じられないと思っていた。
「ってもう死んでるんだっけ」
悠二は誰にも気づかれないようにつぶやいた。
シャナは呆然と玄関に立ち尽くしていた。
悠二の家はまだマシなほうだった。
周りの家は崩れたり、壁が剥がれ落ちたりで、とても住めるような物ではなかった。
とりあえず、避難勧告がでているため、一行は学校へ避難することにした。設備の多くは使い慣れてるし、施設の場所も覚えている。
そして、なにより、クラスメイトの安否を直接知ることができるからだ。
学校へ入って最初に会ったのは、佐藤と田中だった。"弔詞の詠み手"も一緒だった。
「おお、坂井と平井ちゃん!無事でよかったよ!」
「うっす!」
佐藤と田中はどこか安心した声で話しかけてきた。
「よぉ!佐藤たちも無事だったんだな。」
悠二は
その後ろから、吉田一美が姿を現した。
「あ・・・坂井くん!心配でした・・・」
「お、吉田さんも無事だったんだね!」
後ろから、先ほどの地震よりも怖く鋭い視線を感じた悠二は、吉田との会話を中断して、校舎に入っていった。
この間も、数回の余震が十数分おきに発生していた。そのたびにシャナは悠二の袖につかまり、泣きそうになっていた。
合流した仲間とともに体育館で待っていると、"弔詞の詠み手"がシャナと悠二を呼んだ。
「さっき、向こうのほうで封絶が見えたんだけど、あれはどーゆーことよ?」
「桜色だったから"万条の仕手"じゃねぇか?何やってたかは知らねぇけどよ!ブハハハハハハ!」
不気味な笑い声を上げる"蹂躙の爪牙"マルコシアス。
「いや、あの・・・それは・・・」
悠二が戸惑っていると
「あたしたちが階段に閉じ込められたから、ヴィルヘルミナが助けに来てくれたのよ!」
シャナが半分怒ったような声で返す。そして、何かを思い出したような顔をする。
「ねぇ、悠二。そういえばヴィルヘルミナってどこにいったの?」
あたりを見回す悠二とシャナ。
「いないね・・・どこに行っちゃったんだろう。」
その時だった。
グラグラグラグラッ!
「うわっ!」
悠二が思わず声をあげた。
さっきよりかなり大きな余震がきた。シャナはまた無意識に悠二の腕につかまる。
体育館にいる人たちも悲鳴をあげてうずくまっている。
シャナの脚は震えていた。あの地震がよほど怖かったのだろう。ほとんど泣きながら揺れに耐えている。
それを見たマージョリーとマルコシアスは、からかうように声をかけた。
「あんたたち、いつもと立場が逆転してない?」
「イーッヒッヒヒ。こりゃおもしれぇ!」
(ハッ!)
その声で我に返ったシャナは顔を真っ赤にしながら、悠二の腕から離れた。
そして、マージョリーをにらみつけ
「今度変なことを言ったら、ただじゃ済まないからね!」
恥ずかしさと恐怖であまり迫力がない声だった。
体育館に戻ると、今度は佐藤と田中の質問攻めである。
「坂井、いまマージョリーさんと何をはなしてたのさ?」
「平井ちゃん。さっき顔真っ赤だったけどどうしたんだい?」
ニヤニヤしながら聞いてくる佐藤に、二人は冷静に答えた
「いや、封絶が見えたって言ってたから。」
「あなたたちには関係ないわ。余計なこと聞かないで!」
そのとき、千草が二人を呼んだ
「悠ちゃ~ん、シャナちゃ~ん。こっちにきてちょうだ~い。」
地震で家がつぶれたというのに、何なのだろうか、この笑顔。
「はい、シャナちゃん。」
そう言われて渡されたのは、コキュートスだった。
シャナは地震のせいでコキュートスの存在をすっかり忘れていたようで、あわてて首にかけなおす。
「ありがと、千草。」
「ああ、そうだ。私、ちょっと用事があるから出かけるわね。」
「分かった。」
シャナはそう言って悠二と一緒に千草を見送った後、アラストールに話しかけた。
「ごめん、アラストール。心配だったでしょ・・?」
「当然だ。それより坂井悠二。この子には何もしとらんだろうな?」
アラストールが悠二に訊く
「いや、そっちの心配はしなくていいんだけど・・・」
シャナはすこし困った声で返した。
「我は坂井悠二に訊いているのだ。シャナは答えなくてもよい。」
悠二はあわてた
「い・・・いや、何もしてないよ。安心して。」
その間、シャナは非常階段での出来事を思い出して、顔を真っ赤にしていた。
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