第一章「極限状態」
ある晴れた日。
その日はテスト明けで、暇だったからシャナとゲームセンターに行っていた。
アラストールは千草と一緒に買い物である。
とある雑居ビルの3階にあるそのゲームセンターで、シャナは初めて見るクレーンゲームに興味津々だ。
「シャナ、これやりたいの?」
「え?あ、うん!」
シャナはうれしそうな顔をしながらうなずいた。
だが・・・・
「あ〜もう、全然とれないじゃない!」
「ああ、違うよシャナ。ここはこう・・・」
「うるさいうるさいうるさい!集中してるから喋らないで!」
いつの間にか熱中しているシャナ。しかしなかなか取れない。
仕方なくその場で見ていたら、なにやらコツをつかんだらしく、メロンパン(ぬいぐるみ)をキャッチ。
見事に手に入れた。
「はぁ〜、やっと取れた〜。」
幸せそうな笑顔。しかし、その笑顔も、長くは続かなかった。
メロンパンのぬいぐるみだけで満足したのか、シャナはクレーンゲームから離れ、奥のほうにあったストラックアウトの方へ直行。
ほかの人がまだやっていたので、見ていることにした。
防球ネットにかこまれた空間の中で、その人は振りかぶって投げる。
次々とボールで数字を打ち抜き、その姿をシャナはうらやましそうな目で見る。
その人が終わったあと
「あれやってみたい!」
シャナの目は輝いていた。
「はいはい。・・・12球が300円か・・・高いけどいっか。」
300円を入れ、ボールがひとつ転がり落ちてくる。それを掴み、投げようとしたそのときだった。
ゴォォォォォォォ!!!
轟音とともに大地が揺れる。地震だった。それもかなり大きな地震。
天道宮で過ごしたシャナにとっては、このような大規模な地震は初めてだった。
一瞬で笑顔が消え、悠二の腕にしがみつくシャナ。悠二はシャナを連れてとっさに非常口の方へ逃げようとした。
しかし揺れがひどくて歩くどころか立つこともままならない。
やっとの思いで非常口のそばにたどりついた。
どれぐらい経っただろうか、揺れは少しだけおさまった。だが、建物が嫌な音をたてている。
ほかの人は出入り口に近い場所でゲームを楽しんでいたため、とっさに外に逃げ出し無事だったが、悠二とシャナは奥にいたため、逃げ遅れてしまった。
二人はとりあえず非常口を使うことにした。階段を降り、非常口の出口。
「やっとついた。これで助かる。」
悠二はそう言ってドアノブに手をかけた。そして、凍りついた。
・・・変形したのか、ドアはびくともしない。
そうこうしている内に大きな余震。上のほうで何かが崩れる音がした。
「何が・・・あったんだろ・・・。」
悠二は腕にしがみつくシャナを連れて上へいった。そこで悠二とシャナが見たものは、二人を絶望に陥れるには十分なものだった。
3階の天井が崩れて、非常口をふさいでいる。一階のドアは開かない。すなわち、孤立したのだ。
その事実に気づいて、非常階段の踊場にへたりこむ二人。シャナは恐怖で震えている。
「悠二・・・あたしたち、どうなっちゃうの?」
半泣きでシャナが口を開いた。
「大丈夫、助かるよ。きっと。」
悠二は助かる可能性を信じて、シャナを励ました。
その直後に2回目の余震が来た。先ほどよりは小規模だったものの、二人は恐怖のどん底に落ちていた。
3階の天井がさらに崩れる。光は入ってこず、非常階段は暗闇になっていた。
思わず泣き出してしまうシャナ。
「グスッ・・・・怖い・・・怖いよぉ、悠二ぃ・・・」
いつもは強気なシャナも、ここまで強烈な恐怖には勝てなかった。
「と、とにかく、助けを呼びに行こう。」
悠二はそう言って立ち上がろうとした。が、シャナがそれを引き止める。
「どうしたんだよ、シャナ。」
「・・・・だめ。行っちゃだめ!」
「何でだよ?このままだと助けがこないよ!?」
シャナは悠二の言葉にひるんだ。理由はちゃんとある。だけどうまく言えない。
「だって・・・・」
「だって?」
「だって・・・・悠二が・・・・」
「・・・僕がどうしたの?」
悠二により強くしがみつき、シャナは泣きながら言った。
「・・・悠二が好きだから!悠二と離れたくないから!悠二と一緒にいたいから!」
悠二はどう答えればいいか分からなかった。
「・・・わ、わかったよ。ここにいるよ。」
シャナは安心した。それと同時に、涙が溢れ出してくる。
「・・・ありがと。」
「いやいや、こちらこそだよ。シャナの気持ちは素直に嬉しいしね。」
そのとき、悠二は唇に暖かく、やわらかいものを感じた。
「!?」
それは、シャナの・・・唇。
「ん・・・むふ・・・んぅ・・・」
暗闇でお互いが見えなくても、心は通じ合っている。
だから、シャナは悠二の唇の場所がわかり、悠二は唇に当たっているのがシャナの唇だと分かった。
「んむ・・・ぷぅ・・・。はぁ・・・はぁ・・・」
自然と体の中心からこみ上げてくる熱で火照る。シャナと悠二はその心地よさに浸っていた。
その時だった。
封絶が発動する。
ビクッ!!
悠二とシャナが凍りつく。
だが、その色を見て二人はホッとした。
炎の色は桜色。そう、ヴィルヘルミナとティアマトーである。
「ここにいたのでありますか。」
「救助」
「了解。」
ヴィルヘルミナは器用にリボンを操り、瓦礫を一つ一つ取り除いていく。
非常階段に光が差し込み始めた。といっても、封絶の光。しかし、それでも助かるということがわかって安心する二人。
今まで暗くて見えなかったお互いの顔も見えた。それを見てさらに安心した。
ヴィルヘルミナがほぼ全ての瓦礫を取り除き、二人は救出された。
「ありがとう、ヴィルヘルミナ・・・」
「いえ、当然のことをしたまでであります。」「救助完了」
「でもさぁ・・・シャナ・・・ちょっと・・・」
相変わらずシャナは悠二にしがみついて離れようとしない。
ヴィルヘルミナは嫌そうな顔をしながら見ていた。