広い浴室。その一角で、少女が湯船につかっていた。  
少女の見つめる先。壁が見えないのは、湯気のせいだけではない。  
頭上を見上げれば、湯気の向こうに広がる星空。  
「このようなところに何の用ですか? "千変"シュドナイ」  
背後から突然現れた男に対し、少女は感情の起伏に乏しい声で問いかける。  
「俺だってたまにはゆっくり風呂につかりたいのさ、俺の可愛い"頂の座"ヘカテー。」  
言って、シュドナイはヘカテーの横に座る。  
「それに、裸のつきあいってのも悪くはないだろ?」  
「何度も言うように、私はあなたのものではありません。それに、零時迷子はどうするつもりですか」  
相も変わらず、抑揚のない声に、思わず苦笑するシュドナイ。  
「それと」  
とヘカテーが続ける。  
「ここは女湯です」  
「くっくっく……ここを使うのは君だけだろう? だったら別に構うことはないさ」  
苦笑するシュドナイ。  
「それに、あのミステスの戒禁と、周りにいるフレイムヘイズは厄介でね。一度退いて体勢を立て直してから、というわけさ。だから」  
湯船を移動し、ヘカテーの正面に回るシュドナイ。  
「それまでの間、君と愛の語らいをしようかと思ってね」  
 
「しません」  
言って、シュドナイに背を向けるヘカテー。  
「そういうなって。君も、嫌いじゃないだろ?」  
背を向けたヘカテーを、後ろから抱きしめるシュドナイ。  
小柄なヘカテーは、シュドナイの腕の中にすっぽりと収まった。  
「……」  
透徹な氷像を思わせる少女に、わずかに走った動揺を、シュドナイは見逃さない。  
「将たる身が、色事にうつつを抜かすようでは困ります。あなたは果たすべき大命をまだ一つも果たしていないのですから」  
変わらず抑揚のない声ではあるが、それが彼女の照れ隠しであることをシュドナイは十二分に理解していた。  
彼は、ヘカテーの胴に回していた手に少し力を込め、ヘカテーの右肩に顎を乗せる。  
「残念ながら、俺は君と違って盟約に忠実じゃないのさ」  
「煙草はやめなさい、と何度も言ったはずです」  
互いの距離が近づいたことで気付いた匂いに、ヘカテーはわずかに顔をしかめる。  
「ああ、今度こそやめるさ」  
心にもないことを言いながら、シュドナイは自らの手をヘカテーの胸へと移す。  
「……っ!」  
氷像を思わせる冷たさを持った声に、わずかながら熱がこもる。  
そしてシュドナイは、自らの両の手の熱で氷像を溶かすかのごとく、ゆっくりと、ゆっくりと、ヘカテーの胸を愛撫し始めた。  
 
決して大きくはないが、しっかりと自己主張するヘカテーの胸の感触を、シュドナイは楽しむ。  
「……っ! ……ぁ……」  
優しく、そして激しい愛撫に、ヘカテーの吐息は次第に熱を帯びていく。  
(そろそろ、か……)  
シュドナイは、右手をヘカテーの秘所へと動かす。  
「……ふぁっ!」  
先ほどまでとは明らかに違う、熱のこもった声。  
(くくく、そそるねぇ……)  
その声を聞いたシュドナイは、背筋を走る快感に身を震わせる。  
ヘカテーの秘所には、風呂のお湯ではない液体の感触があった。  
「あ……っ! いい……っ! ぁあ……!」  
普段の、抑揚のない声からは想像できないような、艶っぽい喘ぎ声。  
そこには、零下を思わせる透徹の氷像などはない。  
あるのは、身体を熱く火照らせた、一人の少女の姿。  
「実は、今日はもう一つ、君にとっておきのプレゼントを持ってきた」  
身体をくねらせ、愛撫に耐えるヘカテーに、シュドナイが囁く。  
「俺の道楽も、まんざら捨てたもんじゃないってことを、分かってもらえると思うんだがな」  
言いながら、自在法を繰る。物質転送の自在法。  
そして彼は、虚空から"それ"を取り出した。  
 
「なん……あっ……で……すか……?」  
喘ぎ声混じりで、ヘカテーが問う。  
シュドナイの左手に握られていたものは、黒光りするバイブであった。  
自分の知らない物体に、わずかに恐怖の色を見せるヘカテー。  
「怖がるなよ、俺の可愛い"頂の座"ヘカテー。天国へ連れて行ってやるぜ」  
シュドナイは、右手でヘカテーの秘所を広げ、左手でそれをヘカテーの中にゆっくりと挿入する。  
「ひぁぁっ!」  
初めて体験するその感覚に、今までにない、ひときわ甲高い嬌声が、ヘカテーの口から漏れる。  
(……何……これ……)  
バイブの振動が、彼女を快楽の高みへと誘う。  
「人間てのは、こんな便利な道具を使ってるんだとよ。ある意味じゃ、下手な宝具よりも貴重かもな」  
「ダメッ……やめ……ああっ……いやぁっ! 止めてっ!」  
恐怖のためか、強すぎる快感のせいか。拒絶を口にするヘカテー。  
だが、シュドナイはやめようとはしない。バイブが、ヘカテーの一番奥にたどり着く。  
「うああっ! ひぁっ! あっ! はぁっ! だ、ダメッ……ああっ!」  
シュドナイの腕の中で、快楽の喘ぎ声を上げながら、身もだえするヘカテー。  
「ああっ! かはぁ! ひっ! いやぁっ! も、もう……はぁっ! イクっ! ああっ!」  
「もうイキそうかい? 君には刺激が強すぎたかな?」  
追い打ちをかけるように、シュドナイはクリトリスへの愛撫を始める。  
「くはぁ! ひあっ! ああああああああああああああああああああああぁっっ!!」  
今までたどり着いたことのない、快楽の高みのさらに上へ、ヘカテーは登りつめる。  
「はぁっ、はぁっ……はぁ……」  
すっ、と、ヘカテーの身体から力が抜ける。  
「おっ……と」  
それを、しっかりと抱きとめるシュドナイ。  
「気絶したか……まだ、お楽しみはこれからなんだがな……」  
そう言うと、シュドナイはヘカテーを抱き抱え、浴室をあとにした。  
 
 
「……う……ん……」  
「目が覚めたかい? 俺の愛しきヘカテー」  
星黎殿にある、ヘカテーの寝室。  
ヘカテーが普段眠るベッドの横にはシュドナイの姿があった。  
「……ぅ……」  
身体を起こそうとして、快楽にも似た気怠さに襲われる。  
起きあがって初めて、ヘカテーは自らの着ている衣服に気が付いた。  
「何のつもりです? シュドナイ」  
「お似合いですよ、お姫様」  
ヘカテーが身に纏っていたのは、紺色の衣。いわゆるスクール水着と呼ばれるものである。  
ご丁寧に、胸の部分には「へかてー」の名前入り。  
浴室で気絶したヘカテーを連れてきたシュドナイが、目を覚ます前に着せたものだ。  
「何を考えているのです、と聞いているのです」  
わずかに怒気を含んだ声で問うヘカテー。  
「もちろん、さっきの続きさ」  
いいながら、ヘカテーの肩を抱くシュドナイ。  
「あっ……」  
ヘカテーも、逆らわずシュドナイへ寄りかかる。  
そして、軽い口づけを交わし。  
「ヘカテー、や ら な い か ?」  
「ウホッ……って、何を言わせるんですか」  
シュドナイのジョークに、赤面しつつ乗りツッコミで返すヘカテー。  
満足そうな笑みを浮かべ、シュドナイはヘカテーの水着の肩紐に手をかけた。  
 
水着の肩紐をずらし、ヘカテーの両の胸があらわになる。  
わずかに、シュドナイの手がヘカテーの胸の突起に触れる。  
「……はぁっ……」  
先ほどまでの余韻か、ヘカテーはいつも以上に敏感になっていた。  
程なく始まった胸への愛撫で、ヘカテーの秘所は男根を迎え入れるのには十分な湿り気を帯びていた。  
「く……ふぁっ!」  
水着の上から秘所を愛撫し、そのことを確認したシュドナイは、ゆっくりと衣服を脱いだ。  
シュドナイの男根もすでに、はち切れんばかりに膨らんでいた。  
「……いくぞ」  
正常位になり、秘所を覆う水着をずらす。  
あらわになったその部分に、ゆっくりと挿入する。  
「ひあ、やあっ、あ、あ、……ああああああああっ!」  
シュドナイを受け入れた、ただそれだけでヘカテーは絶頂を迎えていた。  
だが、シュドナイは止まらない。  
「最高だよ、俺の可愛い"頂の座"ヘカテー」  
激しい前後運動。  
「あっ、やあっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、あああぁっ!」  
次第に甲高くなるヘカテーの喘ぎ声。  
それに合わせるように加速していくシュドナイの動き。  
「シュ、ド、ナイ……! もっと! もっとぉ! はぁっ! はぁっ!」  
「ヘカテーっ! ヘカテーっ!」  
「あっ、あっ、いいっ! イクっ! イクぅぅぅぅぅーーっ!」  
ヘカテーの身体が大きくはねると同時に、シュドナイは自分の精――存在の力――をヘカテーの中に放っていた。  
 
 
「もう、こんなことはやめてください。"千変"シュドナイ」  
ひとしきり愛し合った後。ヘカテーは、そう告げた。  
「あなたには果たさねばならぬ役割が――」  
「8つある、だろ?」  
「だったら……」  
「つれねぇなぁ。君を喜ばせようと思ってアレを手に入れたというのに」  
と、シュドナイが近くのテーブルに目をやる。そこには、浴室で使われたバイブ。  
「あの時の君は可愛かったぜ?」  
「……!」  
思わず赤面するヘカテー。  
「ま、他ならぬヘカテーの頼みだ。盟主殿に言われた役割とやらも、頑張るとしますか」  
そういって、ベッドから立ち上がり、そのまま何処かへ消えていった。  
「役割が終わったら、また可愛い声を聞かせてくれよ」  
そんなセリフを残して。  
「シュドナイも、ああいうところさえなければ素晴らしい"王"なのですが……」  
呟くヘカテーの声は、元の、抑揚のないものに戻っていた。  
そして、しばしの間。  
ヘカテーは、シュドナイの残していった"それ"を見つめていた。  
(……身体が……熱い……)  
気が付けば、ヘカテーは。それを握りしめ、いつ終わるともしれない自慰を始める……。  
 

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