【赤面のシャナ】
長く伸びたストレートの黒髪。ジャージ姿で瓦屋根に座り込んだ少女は、両手を足の前で組み体育座りの格好をしていた。
時刻は既に午前0時を回っている。先ほどまでこの上で封絶という結界が張られ、凄まじい鍛錬が行なわれていたとは
思えない静けさだ。
「アラストールと悠二の話、まだ終わらないの!」
イライラした気持ちを履き捨てるように言う。その姿は一匹の猫が、公園に取り残されて鳴いているかのようだ。
『炎髪灼眼の討ち手』の名を持つ少女、シャナ。少女は先ほどまで鍛錬をしていた相手、坂井悠二の事を想っていた。
世の中は人類が思っているほど平和ではなく、人類が絶望するほど悲観的ではない。
ただ、普通の人間は知らない。人では認知できないモノがこの世の中に存在している事を。それが人の存在を
喰らうという事を。そして、存在を無くした人間はこの世からいなくなり、その時世界は少しだけ歪んでいく事を。
人の存在を喰らいしモノ達。そのモノ達の事を紅世の従(ともがら)という。
従が歪めた世界はやがて人類に大災厄を与え破滅に導く。だが、それを阻止しようとする者も存在する。
フレイムへイズ……従はその者そう呼び、その存在を忌み嫌う。そして、今屋根の上で悠二を待っている
少女もその一人、フレイムヘイズと呼ばれる者だった。
「何よ、ちょっと前までは私抜きじゃ何も出来なかったくせに。守るとか一緒に戦いたいとか……
カッコつけちゃって」
ぷぅっと頬を膨らませたその顔は少し嬉しそうだ。本気で怒っている素振りではない。自分が照れているのを
否定し、それを押し殺すのに理由をつけているようだった。
「悠二を守るのは私なんだから。他の誰にも出来ないんだから。だから……もうちょっと……」
もうちょっとという言葉まで発した所で、慌てて次の言葉を飲み込む。
≪私の事を見て≫
そう言い掛けた自分をシャナは自責する。坂井悠二という少年。この少年の事を想う時、シャナはその
小さな胸の鼓動が少しだけ早くなる。ぞくぞくとした気持ちが体を駆け巡り、腰から下の部分が熱くなる。
ここ数日、その気持ちが特に強くなっている事をシャナは感じていた。女性特有の求める感情が高ぶる。
シャナの意図とは関係なく、女性特有の部分から粘り気のある粘着物が少しだけ溢れ出てくる。
「んっ……まただ。気持ち……悪い」
シャナは恐る恐る手を下着の中に入れ、その部分を確かめる。
「あっ!んっ……」
いつもより数倍も敏感になっている突起している部分に触れてしまい、思わず変な声を上げてしまう。
慌てて自分の手で口を押さえ、今度は慎重にその周りのひだになっている部分を触っていく。
ぬるっとした感触。熱い液体が指の先にまとわりついた。指の先を確認してみると、どろりとした
白い液体の中に赤い血が混じっている。
「また……生理とかいうやつがきたの?」
そういえば今日の鍛錬の間、少しだけ体がだるかった気がする。体温もいつもよりは少し高かったような
感じだった。
「こんなの、今まで全然なかったのに!どうして!」
世の中全ての女性を憂鬱にする現象をシャナは今まで知らなかった。知る必要もなかった。だが、悠二という
少年と知り合って何かが変わった。女性としての自分、女としての自分が目を覚ましつつある。
≪それは女性には誰でもあることなのであります≫
シャナの養育係だったヴィルヘルミナ・カルメルに聞くと、彼女はこう答えた。丈長のワンピース、
ヘッドドレスにエプロンという、メイドという職業が完璧に再現されたファッションの女性。その日は、
お祝いと称して赤飯という赤い米飯を食べさせられた。シャナがお祝いならメロンパンの食べ放題がいいと
抗議をすると、≪それがこの国の仕来りなのであります≫と言って取り合ってはくれなかった。
その後、膨れていたシャナに渡された1個のメロンパンとナプキンと呼ばれる細長いコットンのようなもの。
そのナプキンを下着につけなければならない。憂鬱な気持ちがシャナを包む。
≪いやだ……いやだ……いやっ……いやだ!いやだ!いやだ!≫
コンコンと湯水のようにおりものがこぼれる。ひだの部分にまとわりついていたそれは、陰唇だけでは
受け止められなくなり、薄いピンクに染まった内股に流れ出す。同時に、シャナの白いショーツにうっすらと
赤い染みが浮かび上がる。それに気がついたシャナは慌ててショーツを脱ぎ捨てた。
「これも全部、悠二がいけないんだ!悠二が私の心を惑わすから、こんなものが出てくるのよ!」
うっすらとした恥毛が生えた女性器には、まだそれが絡み付いている。
「馬鹿、馬鹿、悠二の馬鹿。今日もあいつにデレデレしちゃって!」
坂井悠二。シャナにとってそれは、単なる紅世の従に存在を食われた人間の一人に過ぎないはずだった。
だが、彼の中に零時迷子という紅世の秘宝があった為に、シャナの運命は大きく流転する。今までフレイムヘイズ
としての運命を甘受してきたシャナに、少しずつ人間としてのふれ合いを教えようとし、一人で何でも
やれてきた自分にお節介を焼き、あまつさえ自分より弱いくせに守りたいなどと戯言を吐く。迷惑な存在、
邪魔な存在、足手まといな存在。でも、最近少しずつ逞しくなっている存在。
「……悠二、早く強くなって」
シャナの胸の中に大切に仕舞い込んである本音がポツリとこぼれる。もう、悠二無しの生活は考えられない。
それはずっとこの先も変わらないと思う。
「んっ……くっ……ぅっ」
くぐもった声が屋根上に響く。この赤い血が流れると、シャナは弱気になる。悠二にすがりたくなり、
甘えたくなる。悠二に抱きしめられて、敏感になっている部分を慰めて欲しくなる。
「んんっっ……ぁっ、ふっ……うっ」
それは誰から教わった訳ではなく、シャナが自ら導き出した答えだった。
悠二に今、甘える事はできない。悠二を強くするためには、自分が悠二を頼るところを見せてはいけない。
この衝動はこうする事で一時的に抑える事ができる。ならば、それをすればいい。簡単な解決方法だった。
ただ、その姿を悠二に見られたくない。封絶も悠二には意味が無い。シャナの口を固く結び、快感で
打ち震えるその声を必死に抑える。
「ゆう……じ……がっ、……ぁっぁっ……悪いん……っっんん、……だからぁっっ、あっ」
体育座りをしたシャナの中指が恥丘の割れ目に沿って上下を繰り返す。赤と白のとろりとした粘液が、
先程とは比べようも無いほど流れ出てくる。
「んっくっ、、嫌っっ!」
ジンっと、胸の先に痺れたような電流が流れる。控えめな乳房に薄いピンクに尖った部分がシャージに
擦れて当たる。普段、胸に下着を着けないシャナは敏感になったそこが擦れると、どうしても声を抑えられない。
ジャージのファスナーを注意深く下ろし、胸をはだけさせる。胸に僅かに膨らみがある双丘があらわになる。
「悠二、こっちに来て」
イメージがシャナの脳裏に浮かび上がる。いつも見えない敵と戦う訓練をしてきたシャナにとって、イメージで
悠二を作り出す事は難しい事ではない。悠二は無言のままシャナの横に座り、シャナに優しく口づけをする。
口内にするりと柔らかな舌先が侵入してくる。シャナは口を閉じ、その侵入を拒もうとするが、その抵抗は
徒労のものに終わる。熱い舌がシャナの口内を嘗め回し、それに小さなシャナの舌が絡みつくように答える。
熱い唾液がトロトロと流れ込み、それをコクンと飲み干す。
イメージの中の悠二は現実よりずっとシャナに優しく従順だった。シャナの耳に息を吹きかけ、その細い腰に
手を回しはだけた乳首を優しく摘む。
「ひっっ、くっぅ……悠二、……駄目ぇぇっ」
イメージの悠二が何故シャナにそんな事をするのかは分からない。だが、シャナが望むように体の隅々まで
悠二は優しく刺激をしてくれる。胸を縁を描きながら撫で回し、小さく尖ったクリトリスを指で刺激する。
(くちゅっ、ちゅくっ……ちゅっ、、……くっちゅ)
「悠二のも触らせて」
そこにあるはずの無い膨らみをシャナは右手で包み、愛おしそうに触る。このイメージはまだ、シャナと
悠二が出会って間もない頃、シャナの着替えを見た悠二を見てそうなっていたのを具現化したものだった。
(しゅっ、、さわっ、しゅ、、さわっっ)
シャナが誇張したものに上下に刺激を与えると、それに合わせて悠二の指がシャナの陰唇を刺激する。
シャナが悠二の睾丸を指で刺激すると、悠二の指がGスポットに入り込みそこを刺激する。
「ひゃっ、うっ!んんっっ、、ぁぁぁっ、、あっんっっ!!!」
声が抑えきれない。自分の感情がコントロールできない。
「そこ、いい……もっと……んっ、、んんんっぁ、悠二。もっ、もう。我慢っ、、んんぁぁっっ、できなっっ」
ピン!と足が緊張する。
「あぁっ、ぁぁぁん、ぁっ、ぁっっ、んっっ!!んんんっっっっ!!!」
クリトリスを指で弾かれた時、シャナは軽い絶頂を感じた。体は赤く朱色に染まり、眼はとろんと焦点が
定まらない。
「悠二……悠二はやっぱり、大きな胸がいい?」
呼吸を整えながら悠二に聞く。だが、悠二はニコニコと微笑みかけているだけだ。
「悠二が望むなら……私、胸を大きくする努力をしてもいい……」
真っ赤になって蚊の鳴くような声で呟く。だが、それは本当の悠二には口が裂けても言えない台詞だった。
シャナは脱いだショーツをポケットにクシャクシャと丸めてしまいこんだ。そして、ジャージのフェスナー上げ、
身なりを整える。
暫くすると、下の方から音が聞こえた。悠二が屋根に上ってくる。
「シャナ、遅くなってごめん。アラストールが男の話はもう済んだって。あれ?カルメルさん、もういないんだ」
「遅い!何時まで待たせるのよ!」
「アラストールが誉めてくれたんだ。珍しい事もあるもんだね」
「あの程度で?まだまだ実戦じゃ何の役にも立たないわ」
「でも、もうそろそろシャナと実戦的な訓練もできそうだって……」
「うるさいうるさいうるさい。アラストールは悠二に甘いのよ。悠二なんて、ヴィルヘルミナに地面に
叩きつけられているのがまだお似合いよ」
「あれは……やだなぁ。……って、シャナ、ちょっと聞いていい?」
「何よ」
「それ、何?」
悠二はポケットからほんの少し顔を覗かしていた白い布を指差す。
「馬鹿!」
悠二は5秒後、地面とキスをしていた。
「これは非常にまずい事態なのであります」
「状況悪化」
数十メートル離れた電柱の影から白いカチューシャがひょっこりと顔を出す。美麗な顔にあるその目に笑みは無い。
『万条の仕手』と呼ばれるフレイムヘイズ、ヴィルヘルミナ・カルメルはかつて無い危機感を味わっていた。
「やはり、女性に二度と手を出せないよう、しっかりと教育しておくべきでありますな」
「事前予防」
万条の仕手が言った教育という言葉が何を指しているのか。悠二はまだこの時知る由もなかった。
おしまい