「えい!」
「それ!」
「ふっ!」
「くっ!」
「はっ!」
「ていっ……あぁっ!」
「……悠二、どこに飛ばしてるのよ……でも、また私の勝ち」
年が明けてまもなく。坂井家の庭では、悠二とシャナが羽子板をしていた。
最初の1回こそ、勝手がわからず悠二に不覚をとったシャナであったが、罰ゲームと称して顔に墨で落書きされたのが気にくわなかったらしく、2回目以降はあっさりとコツをつかみ、なおかつ絶対に負けない程度に力をセーブして勝負にのぞんでいた。
今し方の勝負も、悠二があらぬ方向に羽を飛ばしてしまい、シャナの勝ちとなった。
「悠二のせいで、続けられないじゃない」
「僕だって狙ったワケじゃないんだからしかたないだろ……」
おそらくは庭の木にでも引っ掛かっているのだろうが、羽が見あたらなくなったことに不満を口にするシャナ。
「でも、羽はあれしかないし、何か代わりになる物でも……」
思案する悠二とシャナ。と、シャナは何気なしに自分の胸元を……コキュートスを見る。
「ん? ななななまままままさか?」
「なに慌ててるのアラストール?」
「しかたない、今日はもうおしまいにしようか、シャナ」
「わかった。……でも、最後に悠二の顔に書いてから」
そういうと、傍らに置いてあった墨と筆で、悠二の顔に落書きをする。
「……ん……ふ……は……は……はくしょん!!!」
「っ!」
鼻の下に落書きされ、我慢できずに大きなくしゃみをしてしまった悠二に驚き、シャナは思わず墨を放り投げてしまった。
その墨は、見事に二人を墨汁まみれにする。
「うわあぁぁぁっ!」
「きゃあぁぁぁっ!」
「あらどうしたの二人とも……まあ大変」
二人の悲鳴に、千草が慌ててかけよる。
「墨はシミになっちゃうから、早く洗わないと……」
千草は、二人を脱衣所へ連れて行き、衣服を手早く脱がせ、
「せっかくだから、二人とも身体洗っちゃいなさい」
と、二人揃って浴室へ放り込む。
あまりの手際の良さに、なすがままになっていた悠二とシャナは、浴室に放り込まれてようやく抗議の声を上げはじめたが、
「二人とも、仲良く身体を洗うのよ。着替えは、しばらくしたら置いておくから。さ、お洗濯お洗濯」
そう言い残し、千草はその場をあとにした。