その日も変わらない一日だった。
御崎市の巡回、日々送られてくる外界宿からの書類の整理。
“零時迷子”のトーチ、坂井悠二の失踪から既に二年。
[仮装舞踏会]とフレイムヘイズの戦争は激化の一歩をたどっていた。
戦いの中で外界宿の統率もとれていき、シャナも情報を元に何人もの紅の王を討滅した。
日夜続く戦闘、しかし悠二の情報は皆無だった。
おそらく蛍光灯を替えてはいないであろう、発光の弱いライトの下、シャナは書類に目を通す。
そして呟く。
何度この名前を呼んだか。
「――――――悠二」
彼女の保護者であり兄である、コキュートスの中の王アラストールは黙ってその呟きを聞く。
「一人は嫌。嫌だよ悠二」
少女はまどろみの中に居た。二年前の御崎市を思い出す。
辛いことはたくさんあった、だけど傍にはあの少年がいた。
だから辛いことなんて今思えば何一つ無かったのかもしれない。
ゆっくりと眠りに堕ちる。少年がいる夢の中へ。
しかし、突然の気配がそれを許さなかった。
御崎市に広がる暗黒の気配。
夜の街を一層深い闇に染める漆黒の気配。
シャナは窓を飛び出す。
街を覆う危険から急くのではない。
この暗黒の気配の中に、どこか懐かしいあの少年の気配を感じ取ったからだ。
この出会いがあってはならないものだとは分からずに、少女は夜の街を飛ぶ。
「――――――――――――ッ !」
少女は目の前の光景に声が出なかった。
時刻は深夜、場所はいつか見た川原。
炎髪灼眼の討ち手、シャナと呼ばれている少女の目の前に居るのは、紛れも無く二年前に目の前から消えた少年。――――――坂井悠二だった。
少年はまるで氷湖に立つかの如く水面に佇んでいた。
黒いコートを足元まで羽織り、少女を見据える。
「悠二…なんだよね?」
少女は嬉しさと戸惑いが邪魔をしつつも、焼けるような言葉を喉の奥から振り絞る。
「悠二……悠二悠二悠二!今までどこに行ってたの!?千草も、学校のみんなも心配してる!…一美だって!心配してる!!!」
堰を切ったように感情が言葉となって紡ぎだされた。少女は言葉を続ける、自分も心配していた、と。そう言いたかった。
しかし、その言葉は少年の一言によって遮られた。絶望の一言で。
「――――炎髪灼眼の討ち手よ。聞け、我が名は祭礼の蛇、坂井悠二」
瞬間、黒き炎が水面を走り少女の立つ河川敷へと伸びる。
―――封絶。
少女は思う、ああそうだ、この気配を追ってここまで来たのだ。漆黒と暗黒をどろどろに溶かし、闇を闇で覆い尽くすようなこの気配を。
少女は瞬きもせずに少年を見つめる。その瞳からは頭上に浮かぶ満月のような涙が零れていた。
「炎髪灼眼よ。余は無用な争いをするためにここへ来たのではない」
少年のようで、深い男の声。
「先じて申そう。余は主と契約に来たのだ。炎髪灼眼よ」
少女は言葉を返す。見当違いの言葉を。
「………う。 …の…は………ナ…」
少女は声を振り絞り、蛇に向かい、己の名を言う。
「…違う。 私の名前は…シャナ…」
かつて少年が自分につけてくれた名を。
「悠二、お前が私につけた。悠二、どうして…」
蛇は笑っていた。
二つの人影が空を跳ぶ。一人は長髪を後ろで結わえた男、
もう一人は短髪を綺麗に眼の上で切り揃えた女。
二人の向かう先は同じ、御崎市河川敷。
突如として現れた禍々しい紅世の王の気配を追い、足を早める。
「――この気配、どうやら本命だな」
長髪の男が聞こえるように呟く。
「そうですね。炎髪灼眼の打ち手が先に接触しているようですが…」
信号機を踏み台にし、短髪を揺らしながら女が答えた。
「みてぇだな。あの譲ちゃんにも困ったもんだ。ちょっとはチームワークってものを考えて欲しいんだがねぇ」
「あなたが言うと、冗談にしか聞こえませんが…」
そうか?とケラケラと男は笑う。
二人は数ヶ月前からこの街に外界宿からの依頼で配属された打ち手だった。
普段であれば動きが遅く、実りの少ない下界宿からの依頼など鼻にもかけなかったのだが、
最近の外界宿は違っていた。それというのも鳴り物入りで加入してきたあの少年の存在が大きいだろう。
その少年は持ち場に配属されるや否や、的確な情報処理、戦力配置を上司に進言し、
今の外界宿にならなくてはならない存在にまでなっていた。
この二人の配属依頼もその少年からの依頼と言っても過言ではなかった。
「そろそろ着くぞぉ! 金星貰い、だな」
「油断は禁物です。この存在の力…未知数…」
近づくにつれて膨らみ続ける存在の力を、二人は六感で読み取る。
いつの間にか男から笑いが消えているのを女は気付く。
今までに経験した事がない戦闘がきっとこの先にあるだろう。
自然と体が強張る、息が乱れ嫌な汗が出る。
「おい」
男が不意に声をかける。
「俺達なら、大丈夫さ。今までもそうだったろぉ?」
続けてニッと笑って見せる。
――――強がりだ。女は分かっていた。
しかしその笑いに自然と緊張が消える。
そう、大丈夫。この人と一緒ならきっと…。
「見えました。目標視認」
「おう!!」
二人のフレイムヘイズは蛇に挑む。
シャナと蛇は無言で見つめ合う。
一方は商品を品定めするかのような視線で。もう一方は困惑と悲壮で少年を見つめる。
「……シャナ。聞いて欲しいんだ。僕の考えを」
その声は紛れも無くシャナが想った少年、坂井悠二のものだった。
「…嫌、聞きたくない。……お前は悠二じゃない」
「僕は坂井悠二だよ、シャナ。落ち着いて、僕の考えを聞いて欲しい」
シャナは思考を廻らせる、目の前の少年について、操られているのか、はたまた悠二の皮を被った蛇なのか。
シャナにはもう何も分からなかった、願わくは悠二で無ければいい、本当の悠二は別の所に閉じ込められていて、助けを待っている…。
考えた先は単なる安っぽい“願い”だった。
「シャナ、僕はね、この戦争を終わらせたいんだ。フレイムヘイズも紅世の王の線引きもない、人間もトーチもフレイムヘイズもない」
「シャナだって言ってくれたよね?僕達なら出来るって」
「シャナ…」
「うるさいうるさいうるさい!それ以上喋るな!お前の口から悠二の言葉を出すな!!」
固く目をつぶり、外からの情報を遮断する。
「――やれやれ、名を呼べやら喋るなやら未だ不安定要素は多い、か」
コインを裏返したかのように少年の声が蛇へと変わる。
ぐらりと体を揺らしたかと思った瞬間、蛇はシャナの目の前に立っていた。
コキュートスからアラストールの声が響く。
「―――――シャナ!!目の前だ!」
シャナが反応を見せる前に蛇がコキュートスに手をかざした。
「ぐおぉ!?これは…!?ぬうううう」
「アラストール!?」
アラストールの声が遠のく。
「ぬううううぅ……シャ……ナ……!」
声が消える、コキュートスからは何の反応も無くなった。
「ア、アラストールに何をした!?答えろ!」
「落ち着け、飲んではいない。単にこの世との繋がりを一時的に絶っただけの事…」
シャナが夜傘から贄殿遮那を引き抜こうとする。が、その行為は失敗に終わった。
「体…が…?」
「主の体にも細工をさせてもらった。主を我が手にするには少々難儀しそうであろう?」
「少し、やり方を変えさせてもらおう」
蛇が冷酷に口元を歪める。
「ふ…む…、はっ…」
闇夜で絡む二人の男女、シャナは考える暇もなく蛇に唇を重ねられていた。
体を縛る自在法のせいで抵抗しようにも体に力が入らない。
蛇はそれをいいことにシャナの腰を引き寄更に体を密着させる。
「う、は…ん…」
己の唾液と共に存在の力をシャナの口内へ送りこむ。
シャナが少年としようと思っていた行為、誓いの行為。
(これが…キス…、想像と全く違う…)
幾度の夜この瞬間を想っただろう。例え心が変わっても、紛れも無く目の前にいるのはシャナが想い続けた少年、坂井悠二なのだ。
拒絶と欲求がせめぎ会う。フレイムヘイズとしてある自分、シャナとしての自分。
口内を侵し続ける甘い誘惑を感じつつ、流されないように何度も自分を戒める。
しかしその努力も長くは続かない。
蛇の手が夜笠の中へと伸びる。
「―――――!!」
服の上からシャナの申し訳程度の膨らみを探り当て、その中心を刺激する。
「う、アア!」思わず意図せぬ声が出る。
「…ふむ、よい反応だ。これは思ったより楽しめそうではあるか…」
蛇は口元をうっすらと歪めると、シャナの首筋に口付けをする。
無論、手は休めない。
「ふ…あ…嫌……、やめて…気持ち…悪い…」
「そうかね?余には主も十分に楽しんでいるように見えるが」
シャナは背筋に走る電撃のような快楽を懸命に拒絶する。
しかしこの行為の継続を望むもう一人の自分が言う。
(体が熱い、もっとしてほしい、もっと悠二と…誓いたい…)
両脚の間に蛇の指が入り込む。
「!!!!」
体を更に強い電撃が走る。
「く…!うあっ…!」
「ほう…濡れるか、予想以上に効くようだ…」
接吻の際に流し込んだ自在法なのか、蛇は己の使った自在法の出来に顔を綻ばせる。
シャナが胡乱な瞳で蛇をみつめる。
その眼にはフレイムヘイズとしてのプライドも何もない、情欲に溺れかけた少女だった。
「主に極上の快楽を与えよう」
「極…の…?それって今よりもっと…気持ちいいの…?」
――――堕ちた。蛇がそう確信した瞬間。
蛇は己の腹から奇妙な金属が生えているのを見る。
その金属は磨きぬかれた鏡のような刃。月明かりを怪しく反射させている。
音もなく気配もなく蛇の背後を取り、
自身の契約者でもあり武器としての絶大の信頼を置いている短剣を握るのは、
この街に外界宿からの依頼で配属された短髪の女フレイムヘイズ。
彼女の得意技は気配絶ち――闇に紛れての討滅。
彼女にとって今の状況は既に戦闘の後、彼女が背後をとった時点で全てが終わる、はずだった。
「ほう…余の感知能力の外をつくとは、やりおる」
腹から突き出た金属をなぞりながら、紅世の王は冷ややかに喋る。
「それで…この後はどうするつもりだ?」
ゆっくりと振り返り己を突き刺している女をみやる。
「………ッ!!!」
生まれたのは恐怖、眼を見た瞬間にわかる達人同士の意思の疎通。理解する、この“王”には“勝てない”。
短剣を引き抜き、距離をとろうとする。が、体がそれを拒む。この眼か、覗いた瞬間に行動を止める自在法なのか、はたまた純粋な恐怖か。女は目の前の蛇から目を逸らせない。
蛇はシャナから手を離し、背中の女へと伸ばす。
女は思う。殺られる。その瞬間、怒声が響く。
「伏せろおおおおおおお!!」
考える前に体が動く、女は一瞬で短剣を引き抜き、地面へ体を預ける。
ヒュウと空気を切り裂く音が頭上で鳴る。
女のパートナーである長髪のフレイムヘイズが放った斬撃はシャナの体には一寸の傷もつけず、ただ蛇のみを斬りつける。
蛇は数メートル飛び、地面へと転がる。
長髪の男が放った一撃は必殺の一撃。あらゆる物質を切り裂き、更には自在法にすらその威力を発揮する。
地面へ転がるターゲットを一瞥し、もう一人の地面へ伏せる相棒に声をかける。
「なぁに、びびってんだヨ」
クカカと男は女に笑いかける。女はこのままでは悔しいので稚拙な言い訳を考える。
「別にびびってはいません。…ただ、予想外の事態に驚いただけです。」
それがびびってるっていうんだよ。と男は再び笑う。女は身を起こすとふて腐れた様に男を上目使いで睨んだ。
その時、女が気付く。
封絶が、解けていない事を。
「慢心か、真、恐ろしいな」
漆黒の炎の中、蛇が何事も無かったかのように立っていた。
「何…故…?」
女は単純に思った事を口にした。男が放ったのは文字通り必殺。あらゆる物質自在法を切り伏せる必殺。
蛇は薄く笑うと虚空へと手を伸ばす。
伸ばした手の先に黒い炎が生まれ、その炎より一振りの宝具を取り出した。
それは片手で持つように作られてはいるが余りにも刀身は巨大な剣。
蛇はまるで羽ペンのようにそれを振り回すと地面へと突き刺す。
「剣舞が得意なのであろう?余も主等の趣向に付き合ってやろう」
挑発に乗ったのは男のフレイムヘイズだった。女が止める暇もなく地面を蹴る。一瞬で間合いをつめ再び必殺の一撃を敵へ叩き込もうと長刀を握る。
蛇は地面へ突き刺した大剣の柄を、指ではじくように存在の力を込める。
動作は最小、だが込めたる存在の力は果てしなく絶大。
その力は宝具を介して地面へと伝わる。
力の先が目指す最終地点は目の前のフレイムヘイズ。
女のフレイムヘイズは見る。共に闘ってきた友の最後を。
ズバァ!と男の体に斬撃が走ったかと思った瞬間、男は鮮血に倒れていた。
体は少しも動かない、女は最悪の結末を確信した。
「やれやれ、やはりまだ力加減が出来ぬな。跡形もなく切り刻むつもりだったのではあるが…」
まるで実験動物を扱うかのような物言いに女の思考が沸騰する。
「きさ…ま…、きさまあああああああああ」
「来るか?名も知らぬ討ち手よ。適わぬと知った上で挑むか」
敵との距離まで数メートル、相手の獲物とのリーチ差、自分の不得手な真っ向勝負の状況、結果は見えている。それでも女は刃を向ける。
「復讐の炎にて生まれ、復讐の炎で身を焼き滅ぼすか。フレイムヘイズとは実に悲壮な生き物だ」
敵が何か言ったようだが、女の耳には届かない。
人間を超越した足裁きで歩を進め、敵の喉下に短剣を突き入れる、目にも止まらぬ疾さで己の“殺し”を虚に混ぜ入れ、放つ。
しかしその神速の剣技も蛇には届かない。
蛇は大剣を手首の一部の如く動かし、嵐のような攻撃を受け流す。
相手の“殺し”を感じ、それを避ける。そして己の“殺し”を相手の流れに組み込む。
勝負が決するのは一瞬だった。
何が起こったのかすら理解できずに女は地面に伏していた。体が燃えるように熱い。どこを斬られたのか確認も出来ない。
自分の“殺し”が空振りに終わり、体制を立て直そうとした瞬間、ごく自然に敵の刀身が体に突き刺さっていた。
―――――強い。この敵は、強すぎる。
蛇は大剣を黒炎へと飲み込ませると、もうじき事切れるであろう女のフレイムヘイズに向かい、言う。少年の顔で。
「…だが、その悲壮さもまた、余が好む生き方、か」
その顔に陰りも暗黒もない。年相応の少年の顔で微笑む。
女は思う。
この紅世の王は間違いなく敵の中心。だがそれで割り切るにはあまりにも――――。
思考はそこで止まった。女の視線の先には友であり最愛の人である男が横たわる。
無意識のうちに伸ばした手は、男へと届くことは無かった。
シャナは目の前で起こった事を未だ理解出来ずにいた。先日配属されたフレイムヘイズが目の前でやられたという現実。その現実を一部始終目撃してなお、思考が追いつかない。蛇によりかけられた自在法のせいか、ある一つの事にしか興味が向かない。
それは蛇により植えつけられ、悠二により望まされた感情。快楽。
「待たせちゃったね、シャナ」
悠二はシャナへと近づき、気付く。彼女が泣いている事を。
無意識のうちに目の前の自体へ手をかせなかった自分を悔いているのか。
「シャナ、泣かないで。僕だって戦いたくはないんだ。だけど分かって欲しい。」
「今は戦う時だって事を…、作ろう?僕とシャナの望んだ世界を」
蛇から悠二へと裏返る。
悠二はシャナの涙をすくい、頭を撫で、抱きしめる。
「悠二、私怖い。このまま流されると千草にも一美にもヴィルヘルミナにも会えなくなる気がする」
「大丈夫だよシャナ。みんなは居なくなったりなんかしない。いつか僕達がした事に感謝さえするはずだよ」
悠二はシャナの顎を引き、唇を再び重ねる。
「ん……」
悠二のいつもの優しい声で、何も不安が消えていく。それは消えてはいけない不安。しかし今のシャナにとってこの状況が全てになりつつあった。
故に、目の前の相手に、悠二に全てを預ける。
「シャナ、いくよ」
漆黒の封絶の中、シャナを仰向けに寝かせ己自身をあてがう。
シャナから見えるのは巨大な満月と、いつも通りの悠二のどこか優柔不断で情けない、優しい顔。
「まって」
「?」
「もう一度キス…して」
悠二は少しはにかむとシャナに口付けをする。同時に己自身をシャナの中に沈めていく。
「――――――ッ!」
知識では知りえない痛みがシャナを襲う、だけど。耐えられる。耐えないといけない。そんな気がした。
「ごめん、痛かった?」
「ん…大丈夫。続けて、悠二」
悠二は何度目かのキスをするとシャナの奥深くを目指して腰を突き入れた。
シャナの中は想像以上に押し狭かった。突き入れる度に膣内が悠二を外へ追いやろうとする。負けじと悠二も力を込める。
「くう、シャナ…!狭い!」
「はっ、う……んん!」
シャナの衣服の中へ手を伸ばし、小ぶりな胸を弄ぶ。
「アア……胸は…駄目……!!」
悠二はその言葉を歓喜の嗚咽ととり、胸の先端をしごく。
「ふううう――――――!!」
シャナを背中をしならせ、悠二に抱きつく。
「シャ、シャナ。そんなにきつく抱きしめられると動けないよ」
「う、うるさい!今のは悠二が悪い!悠二が胸ばっかり触るから!」
悠二はくすりと笑うとシャナへ快楽の輸送を再開する。
緩急をつけ、角度を変え、少女の中を責める。
少女の膣内は自然と少年が進みやすくするように一層潤滑油を分泌させる。
「なんか…変…!ふ…ああ!…」
汗ばんだ体をくねらせ、未知の感覚に頭の中がかき乱される。
自身の道を求め、漆黒の道を進み始めた少年。
少年への想いと、絶大なる力により正しい光が見えなくなった少女。
少年の腰の動きがリズミカルになり、高みを目指す。
「ンッンッンッンッ…」
シャナは悠二を迎えるために体を任せる。
「シャナ…!いくよ…!!」
「うん!悠二ィ!!」
蛇は少女の中へ欲望を刻む、自身の巨大な存在の力と共に。
「シャナ。聞こえてるかい?」
行為が終わり二人は体を寄せ、流れる水面を眺める。
「うん、聞こえてるよ。悠二」
「それじゃあ…」
悠二は少女に笑いかける、そして言う。
「余と共に歩んでくれるな?“炎髪灼眼”の討ち手よ」
少女は満面の笑みで答える。
「仰せのままに、“祭礼の蛇”坂井悠二――――――」
御崎市から遠く離れた空を彷徨う要塞、『星黎殿』。
その最深部の大ホール。そこに作られた純白の祭壇に“頂の座”ヘカテーは跪いていた。
御前に座る、自身の神への祈り。
彼女の前に居るのは坂井悠二であり“祭礼の蛇”であり、[仮装舞踏会]の首領。
漆黒の粉塵を巻き上げ、静かに王座に鎮座する。
巫女の閉じられた目蓋がゆっくりと開く。
「お帰りなさいませ。我らが盟主“祭礼の蛇”坂井悠二様」
「うむ」
王が答える。
「どうでございましたか」
「うむ、堕ちた」
「………」
望んだ結果ではなかったのか、巫女が珍しく眉を寄せる。
「思いの外、“探耽求究”のドールの出来がよい」
「そぉーれは、ぁあーりがたーきおぉ言葉ぁー!!」
暗闇から科学服に身を包んだ男、“探耽求究”が現れる。
「あぁーのドールはぁー!存在の力をーこぉめた者とそぉーくっりになるばかりでなくー!」
「その者のぉー力すらコピーするっというーま、さ、さにエ――――クセレェェント!」
「ただぁっ一つ問題なのがぁーー、未だ存在の力をぉー込めたオリジナルにはー程遠い力しかっ、だぁせないということでっすかねー!!」
「しかぁぁし!今回のデータを元にぃ!プログラムをちょぉいと弄るだけでぇ!既存の1,7倍のぉぉ存在の力が――――」
「喋り過ぎだよ、教授」
“探耽求究”の逆側の闇より、三つ目の女“逆理の裁者”ベルペオルが現れる。
「人形の出来なんてどうでもいいことじゃないか、大事なのは炎髪灼眼が持つ情報だよ」
「うむ、その事であるが……“壊刃”―――――」
「―――は」
中央の闇より、現れる殺戮者。
「よい知らせだ」
王の口元が歪む。
「『万条の仕手』の所在がわかった」
王の言葉の瞬間、“壊刃”の体がぶるりと震える。
戦いが動く、一人の少女が堕ちた事によって。