「あれ? 池君、一人?」  
ミサゴ祭り会場。  
アテもなく人混みの中を歩いていた池速人は、クラスメイトの緒方真竹に声をかけられた。  
「……ああ」  
沈んだ声。  
「ホントは来るつもりなかったんだけどさ、何となく」  
冗談とはいえ、誘いを断ってた手前、少しばつが悪そうに池は答える。  
「ふーん」  
池に会う少し前、緒方は二人で並んで歩く坂井悠二と吉田一美を見かけていた。  
沈んでいる原因がそれであろうことは、容易に察しが付いた。  
「何だ、約束があるのかと思ったら、実は浮いちゃってたんだ」  
「ねぇ、せっかくだから一緒に回らない?」  
「そうよ、どうせ一人じゃ寂しいでしょ?」  
そんなクラスメイト達の誘いに、池は首を縦に振った。  
 
「話って?」  
祭りも終わりに近づき、人通りもまばらになった神社の境内を。  
池は、緒方と並んで歩いていた。  
二人きりで。  
花火が終わったあと、緒方が「池に話がある」といい、クラスメイト達に別れを告げていたからだ。  
祭りの途中、突然涙声になっていた緒方を心配していたクラスメイト達も、「池ならば」とその申し出に従った。  
「話っていうほどのものはないんだけどさ、ただ……」  
池の問いに、曖昧に答える緒方。  
「もしかして、田中のこと?」  
「ははっ、さすが正義のメガネマン、お見通しですか」  
「なんとなく、ね」  
寂しい笑いを浮かべる緒方と、沈んだ声で返す池。  
そして、しばしの沈黙。  
「……やっぱ男ってのは、胸がデカい方がいいのかな?」  
「え……」  
先に口を開いた緒方の言葉は、池の予想だにしていないものだった。  
「いや、一美がどうとかじゃなくてさ。一般的に」  
「……どうだろうな……」  
考えながら池は言う。  
「人それぞれ、じゃないのかな」  
「そっか……ま、そうだよな……」  
再びの沈黙。  
「ちょっと、休んでいかない?」  
しばらく歩いた後、緒方はそう提案した。  
「あまり、人のいないところへ……」  
しばしの逡巡の後、池は。  
「うん」  
首を、縦に振った。  
 
 
「うぐっ……ひっく……うう……」  
緒方の嗚咽が、誰もいない境内の暗がりに響き渡る。  
周りから人の気配が消えたとたん、緒方は池の胸で泣き出した。  
「……」  
池は、励ましも、慰めも、何も言わず、ただ彼女を抱きしめた。  
 
どれほどの時間、そうしていただろうか。  
緒方が、ようやく泣きやみ、口を開いた。  
「ごめんね、池君。泣かないようにしてたんだけど、やっぱり、ダメだったみたい」  
言って顔を上げ、ほほえむ緒方。その目には、涙がにじんでいた。  
「いや、いいよ、このくらい」  
「そっちもいろいろあるのにさ、私ばっかり……ごめんね」  
ふと。  
二人の目が合う。  
しばし、見つめ合う二人。  
そして。  
同じ傷を持つ池と緒方は、どちらからともなく惹かれあい、そして口づけを交わした。  
 
芝生に仰向けになり、豊をはだけさせた緒方に覆い被さるような体制で、池は緒方の胸を愛撫する。  
「……あっ……私……結構……スタイル、いい……でしょ?」  
「ああ、綺麗だ」  
バレー部で鍛え、引き締まった身体は、お世辞抜きでそう思わせるほどのものであった。  
「んっ! ああぁっ!」  
池は、愛撫を胸から秘所へと移す。  
そこは、下着の上からでも十分にしめっていることを確認できた。  
「ひ……や……はぁ……ん……」  
池の手つきは、ぎこちないながらも確実に快感を与えていた。  
「だめ……下着……ああっ!」  
「え……あ、ああ、ご、ごめん……」  
抗議の声に、慌てて愛撫をやめる池。  
「じゃ、じゃあ、ぬ、脱がすよ……?」  
「……うん……」  
池は、ゆっくりと下着をおろす。  
そして、池は。月明かりに照らされたそこに、ゆっくりと口づけた。  
 
「うっ……ひあああぁっ!」  
他者に秘所を舐められる。その初めての感覚に、嬌声を上げる緒方。  
「え? あ? ご、ごめ……い、痛かった?」  
相手の反応にとまどう池。  
「あ、いや……その、き、気持ちよくて……」  
「そ、そう……じゃじゃあ、続けるね……」  
初心者故、どうしてもスムーズに進まない。  
池は、緒方の反応を確かめながらクンニを続けていた。  
だが、緒方にはそのもどかしさがさらなる興奮へ繋がっていく。  
「くぅ……ひっ……あ、あああっ!」  
そして、軽い絶頂。  
「はぁ、はぁ……ねぇ池君……私も、してあげるよ」  
「え、あ、ああ……」  
体制を入れ替え、シックスナインへ突入する二人。  
互いの喘ぎ声と、唾液の音だけが夜の境内の隅で響き渡る。  
「ひぁっ……うん……そこっ、そこが、いいっ!」  
相手の弱点を見つけ、其処を中心に攻め続ける池と。  
「うっ……ああ……はぁ、はぁ……」  
舌と手を使い、全体をまんべんなく愛撫する緒方。  
そして程なく。  
「も、もうそろそろ……で……」  
「はぁっ、はぁっ、わ、私も……もう……」  
「ふぅっ……はぁ。はぁ……」  
「池君、一緒に、一緒にぃ!」  
「ぁああああああああああっ!」  
「やっ、はっ、い、いいっ、ああああああああああっ!」  
池は一度目の、緒方は二度目の絶頂を迎えた。  
 
池は、緒方の顔にかかった精液をハンカチで拭う。  
そして。  
「続き……いい?」  
「え……? ……うん」  
池の申し出を、ためらいながらも受け入れる緒方。  
「はじ……めて?」  
無言で頷く緒方。  
「じゃあ……最初は、上になるといい。その方が……自分で調整できるし……」  
「池君、詳しいんだね……」  
「僕だって……初めてだよ……ただ、本で……」  
「あ、そ、そうなんだ……」  
言って、思わずうつむく二人。だが。どちらからともなく顔を上げ、そして。  
芝生に横たわった池の上に、緒方がまたがる。  
「ゆっくりと、降ろすといい。辛かったら、やめればいいから……」  
自分も極度の緊張状態にあるのにもかかわらず、相手を気遣うことを忘れない池。  
一方緒方は、無言のまま、ゆっくりと腰を降ろしていく。  
「いぁ……っ!」  
「あぁぁ……」  
緒方の秘所に池の分身がわずかに包まれた瞬間、緒方は苦痛の、池は快感の声を上げた。  
そして、緒方は動きを止める。  
「だ、大丈夫かい……?」  
「うん、平気……」  
目に涙を浮かべながらも笑顔でそう答えた緒方は、そのまま、腰を一気に降ろした。  
「ああああぁぁぁっ!」  
「緒方さん!?」  
破瓜の痛みに耐えきれず、悲鳴に近い声を上げた緒方に驚き、思わず身体を起こそうとする池。だが。  
「動か……ない……で……今、ちょっと辛い……から……」  
しばらくの間、痛みに耐えて微動だにしない緒方。  
そして、どれほど経ったろうか。意を決して、緒方は腰を少しずつ前後に動かし始めた。  
 
「ねぇ……池君、気持ち、いい……?」  
結合部に未だ赤いものが混じる状況で、緒方は池に聞く。  
「……あ、うん……」  
池は、初めての体験に、とまどい混じりの声で答える。  
未だぎこちない緒方の動きにも、池のそれはいちいち反応していた。  
池を受け入れた緒方は、その動き一つ一つを感じていた。  
「ああっ……池君……」  
そして、その池の反応はさらに緒方を高ぶらせた。  
――池君……私で、感じてる……――  
高ぶりとともに、嬌声も、腰の動きも、激しさを増していく。  
すでに、破瓜の痛みはなくなっていた。  
「あっ! はぁっ! はっ! ああっ! ああぁっ!」  
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」  
甲高い声を上げ続ける緒方と、荒い息をつく池。  
ふらふらと、アテもなく上げられた池の両の手を、緒方は自らの胸へと導く。  
無意識のうちに、池は緒方の胸を揉みしだく。  
それと同時に、コツを掴んだ池が緒方の動きに合わせ腰を上下に動かし始める。  
より高まる快感。池は、あっという間に限界を迎える。  
「待って! もう、出そう……」  
「駄目ぇっ! もっとぉ! もっとぉ!」  
「ま……まずい、って……」  
「はぁっ! はぁっ! もっとしてぇ!」  
「う、ああぁっ……!」  
緒方の激しい動きに、池は抜くことすらままならず、緒方の中へ精を放っていた。  
 
「ゴメン……」  
「ううん……いいよ……」  
謝る池を、優しく許す緒方。遠くで花火の音が聞こえる。  
「フラれた者同志、お似合いかもね」  
「そうなの、かな?」  
そして二人は、どちらからともなく、口づけを交わした。  
花火の向こうの、それぞれの想い人であった友人達に待ち受ける運命を知らぬまま。  
 

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