シャナが目を覚ましたのはかろうじて周囲の状況を認識できる程度の仄かな明るさを持った、一面が白い部屋だった。  
 白いシーツのベットに寝かされ、常人が見たならあたかも病院に運ばれたような光景だった。  
 だが、そうではないことをシャナは知っている。なぜか自分は服を着ていないし、何よりフレイムヘイズが人間の医療  
機関などを頼るはずがない。そして、あの少年に剣戟において負けたことを確かに体が覚えているのだ。  
「おはよう、シャナ」  
 突然、後ろからかけられた声にシャナはビクっとし、反射的に自分の裸体を隠す。  
「悠……二?」  
 ゆっくりと後ろを振り向くとそこには、最早敵となり、自分を選んで切り伏せた少年が笑顔のまま椅子に座っていた。  
「ちゃんと知識の上では死なないようにしたんだけど心配したんだよ」  
 いつもと、ほんの一ヶ月前とまったく変わらない声色で最悪の王を宿した少年は言う。  
「傷はすぐに癒させたんだけどね、やっぱり心配だったよ。――シャナが大切だから」  
「アラストールはどうしたの?」  
 いつもなら赤面して何も言えなくなるだろう言葉だが、シャナは無視して一番の案件を問いた。目を覚ましてからいつ  
もなら感じていた何か、漠然としたアラストールの気配や感覚というものを感じなかったからだ。  
「今は眠ってもらってる。シャナと二人きりで話とかしたかったからね」  
 悠二は会話を無碍にされていても気にしない様子で質問に答えた。その落ち着いた様子がシャナをさらに警戒させる。  
「私を、どうするつもり?」  
 下らない会話などするつもりはないと意思を籠めてまた自分の要件だけを口にする。それでも悠二は怒った素振りも見  
せず、ゆっくりと立ち上がってから答えた。  
「シャナに、僕と一緒に生きていく決心をしてもらうだけだよ」  
 そう言って悠二はシャナに近づく。シャナは自分が全裸だということを思い出し、怯えるようにキュッと身を縮めた。  
「来ないで」  
 それでも近づく悠二にシャナは明確な拒絶を伝えようとする。しかし次の瞬間、それは無意味に終わる。  
「っ!?」  
 近づくといってもわずか数メートルの距離だ。一気に距離を縮めた悠二はそのままシャナをベットに押し倒し、自分の  
唇をシャナの唇と重ねた。  
「んん!」  
 一瞬遅れて何が起こったか理解したシャナは思い切り――それこそフレイムヘイズの怪力で――悠二を突き飛ばそうと  
するが、まったく功を成さない。そんなシャナの両腕を悠二は優しく左右に広げると絡めるように両手を握った。  
「っんん!! んんん!」  
 シャナは力一杯暴れる。それでも悠二はビクともしない。  
 次第にシャナの抵抗も抑え込まれていき、静かになり始めたところでさらに驚くべき事態がシャナに降りかかった。  
 口の中に何かが進入してくる異物感。予想すれば、いや予想するまでもない。それは悠二が舌をシャナの口内に入れて  
きたのだ。  
「んんんん!」  
 歯茎をなぞるように舐め上げ、執拗にそれを繰り返す。そして呼吸の苦しさのために一瞬、シャナが口を空けた瞬間に  
その中へと舌をねじ込み、シャナの舌を味わうように舐め尽す。  
 シャナはこの行為を誓いだと思っていた。しかし、それは本人のまったく予期しない形で行われることとなった。だが  
その事実はシャナは心を締め付けられる。  
 しかもその行為は考えていたような軽いものではない。もっと深い、誰も教えてなどくれなかった濃厚なものであるこ  
とはさらに悠二の意思も読み取ってしまった。  
 ――悠二が何をするつもりかわかってしまったのだ。  
 
 誰も教えてくれないような、その事実がわずかに教えられていた知識からシャナにこの予想を齎した。そしてその予想  
は見事に的中することとなる。  
 数分か、数時間か、はたまた数秒か、長くとも短くとも感じられる奇妙な時間が過ぎ、シャナは悠二から解放された。  
 口の周りはお互いの唾液でベトベトとなり、シャナはまさに火が吹き出そうなほど赤面して荒い息を繰り返す。  
 シーツなどのベットを構成するものはすべて乱れ、シャナの一糸纏わぬ裸体もところどころから見え隠れしている。  
 悠二はそれにも気づかず、今の事実を必死に頭の中で整理しようとしているシャナの体を隠す、最後の布を取り払おう  
と手をかけた。  
「待って」  
 シャナの制止に一瞬、悠二の手が止まるが、それだけだった。すぐにシーツを剥ぎ取るとシャナの裸体が悠二に晒され  
る。  
「やっ!」  
 シャナはまるで普通の少女のように自分の体を丸め、抱いて隠す。悠二は間髪いれずに胸を隠す両手や丸まった体を解  
き、余すところなくシャナの美しい体を眺める。  
「やめて……悠二……」  
 ほとんど懇願のような声でシャナは言う。悠二はそれに応えるように、もしくは無視するように、言った。  
「シャナ、好きだよ」  
 

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