風が吹き空を翔る。  
風というものもこの暑い夏の季節になれば心地よく感じる自然の冷房となる。  
「−−うん」  
そんな風にあおられて髪を押さえる一人の少女がいた。  
少女は公園の芝生にブルーシートを広げて座っていて腰元まであるストレートの黒髪は木漏れ日に当たり時折キラキラと輝いていた。  
それはさながら一枚の絵のように美しかった。  
そんな少女が近くに人影は見当たらないのに誰かに声をかける。  
「風が気持ちいいわね。アラストール?」  
すると彼女のの隣にある赤い宝石を中心に金色の輪が交差するペンダントから遠雷のような声が響いた。  
「うむ。そうだな」  
その答えに小さく頷き少女は恐らくペンダントが見ているであろう場所に視線をやった。  
視線の先には高校生ぐらいの少年が5歳ぐらいの女の子に追いかけられてる光景があった。  
(平和…)  
少女はその光景を見ながら思った。  
高校生のほうは外見こそ、そこらの高校生と変わらなかったが同級生には存在しないオーラというものがあった。  
子供のほうは少女と同じ美しいストレートの黒髪で走るたびに上下に揺れていた。美しかった。  
またその容姿は少女と瓜二つで少女となんらかの関係があると見て取れた。  
そんな二人が追いかけっこをしていた。  
「こらー!まてー!」  
「ほらー!遅いぞー!」  
 …ふぅ…  
その様子を見てため息をついた。  
(まったく…子供相手に本気で走って…)  
少女は呆れ顔を作った。が、そんな幸せな時間も思わぬ闖入者によって終わった。  
その闖入者とは銀色の長い髪をもつ青年だった。  
しかしその青年はそこらへんの若者と違い紳士さを持ち合わせていた。  
またその凛々しいといえる顔立ちからは一目で強者と分かる戦士としての風格が漂っていた。  
が、一点だけそれとミスマッチしている所があった。  
青色のTシャツ、ジーパン。  
これはまだいい。  
肩にバットを担ぎ左手に野球ボールを持っている。  
これもまだいい。  
エプロンをつけている。  
…こういう人もいる。  
エプロンに「マティルダは俺の嫁」と刺繍されている。  
……問題ありだ……  
紅世の王「虹の翼」メリヒムである。  
しかしさして驚いた風でもなく少年はメリヒムに声をかけた。  
「やあ、メリヒムさん。こんにちは。今お店あけていいんですか?」  
メリヒムは一瞬少年と目を合わせたあと口を開いた。  
「問題ない。この時間は客がこないからな。もし来たとしても万条の仕手が対応するから問題ない。それより坂井悠二お前の娘借りてくぞ?」  
「……借りてくって……野球の勝負するだけでしょ。まぁ、いいや。どうする?奈々」  
高校生くらいの少年ーー坂井悠二は自分の娘に聞く。  
坂井悠二の娘ーー奈々は既にメリヒムからバットを受け取っておりブンブンと振っていた。  
どうやらやる気のようだ。悠二はそんな娘の様子にクスクスと笑う。  
「とゆうわけでメリヒムさん。奈々をお願いします」  
「まかせておけ。夕方には返す」  
この場はメリヒムにまかせて悠二は少女と家に帰ろうと思い少女のほうを見る。  
が、向こうも察したらしく既に近づいていた。  
 
少女は悠二のの隣に立つとメリヒムに微笑んだ。  
「じゃあ、シロ。奈々のことお願いね」  
「おう。お前は先に帰って休んでいろ」  
そう言って少女の頭をなでる。気持ちよさそうに目を細めていた。メリヒムは上機嫌だ。が、  
「シャナ。こやつにあまり任せん方がよいぞ。馬鹿が奈々に移るからな」  
その一声で最悪になった。カッチン。メリヒムのこめかみに青筋がうかぶ。  
少女ーーシャナと悠二はまた始まったとため息をつく。  
メリヒムは声を一段低くして言った。  
「ほう。おぬしのほうこそ妙なことをふきこんでいるのではないか?  
おぬしの真名の意味は”全てをド変態にする”天壌に性癖だろ?」  
その声にアラストールもカッとなる。  
「”天壌の劫火だ”!!!ハッ!おぬしこそ頭がボケてきてるんじゃないのか?  
数百年も前から存在してたんだしな。なぁ?お・い・ぼ・れ!」  
「グヌヌ!言わせていけば!」  
二人の口論が始まった。  
シャナ達は当初こそ慌てたものの今はもう慣れたのでアラストールを奈々に預けてその場を後にする。  
((どうせ最後はあの一言で終わるんだろうし))  
シャナと悠二は帰り際同時に同じことを考えていた。  
 
…ハァ……  
奈々は一度ため息をついた後大きく息を吸い込んで二人を止める必殺の言葉を言う。  
「もう!止めてよ!メリヒムおじいちゃん!アラストールおじいちゃん!」  
「グワッ!」  
思わぬ不意打ちに二人が同時によろめく。  
うん♪いつも通り♪  
「なぁそのおじいちゃんというのはなんとかならないのか?」  
「そうだぞ、奈々。我は決しておじいちゃんなどでは……」  
奈々は悪戯っぽく笑う。  
「う〜ん?おじいちゃんはおじいゃんでしょ?ね、お・じ・い・ちゃ・ん!」  
「おわぁぁ〜〜〜」  
二人が同時にうめく。  
奈々はずっと「おじいちゃん♪」連呼していた。  
……シャナと悠二の娘は結構Sらしい……  
 
 
シャナと悠二は仲睦まじく手をつないで歩いていた。  
「今頃二人とも「うわぁぁ〜〜〜」とか叫んでる頃かな?  
……結構奈々酷いこと言うし」  
シャナは笑って返事をする。  
「フフッ。そうね。きっとまた精神破壊されて戻ってくるわよ」  
その意見に悠二も笑って同意する。  
「フフッ。そうだね」  
そこで悠二は寂しい顔になる。  
「……ずっと……ずっとこんな平和が続いてほしいよ……」  
「………。大丈夫。絶対に…」  
繋ぐ手に力を込める。  
二人は強く成長していた。  
 
 
「………」  
「………」  
「ヒマであります」  
「同意」  
カウンターで突っ立っている戦技無双の舞踏姫とその相棒の姿があった…  
 
 
 
 
 
紅の未来〜次回予告〜 
 
 
(ヴィルヘルミナ。まともなもの作って……)  
 
 
「カルメルさん…これパンですか…」  
「失礼なことを抜かすなであります。どこからどう見てもパン以外の何物でもないのであります」  
「節穴」  
「いや…てかコレって…」  
そこにあったものとはーー!  
 
 
 

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