午後11時36分。深夜の就労者、若しくは夜更かしの習慣でも持たない限り大抵の人間は眠りに就いている時刻。  
「……ちっとも眠れやしない」  
『炎髪灼眼の討ち手』シャナは全くもって来ない睡魔を待つのに飽きていた。いや苛立っていたと言っても良いだろう。  
原因は判明している。だが全く持って面白くない。  
(あいつの寄越したコーヒーが濃過ぎるのが悪いのよ!!)  
自分の知識の中に対処法は無く、原因を齎したあいつ ── 悠二は人の気も知らずに暢気に寝ている(これは完璧八つ当たりだが)。  
「恨み晴らさで置くべきか…」  
(結果的に)一糸纏わぬ姿を覗かれた怒りも相俟って更なる懲罰を課すべく寝床から抜け出し罪人の元へと赴く。  
が、3歩目ではたと気が付く。  
(どんな懲罰を課せばいいんだろう?)  
真っ先に思いついた『峰打ちと鉄拳でタコ殴り』は、悠二の母親が起きたら隠れなければならず、最悪雨の降る屋外に出なければならない。静かに遂行出来ないのでしぶしぶ却下。  
くだらな過ぎるので『アラストールに説教してもらう』のは無し。  
しばらく考えたらかつて読んだ書物の一文、正確には込められた意味を思い出した。  
 
『目には目を、歯には歯を』  
男の体の造りは医学書の消えかけた挿絵でしか見たことはないし、良い機会なので外見だけでも確認がてらやってしまおう。  
そうと決めたらすぐ実行に移すのが自分の流儀、躊躇わずに悠二の服を脱がし始める。  
 
ジャージのジッパーを下ろしシャツをたくし上げる。寝転がった体勢なのでやりにくい事この上ない。だが手間取りながらも上半身は露わに出来た。腰のやや上側に跨りながらつぶさに観察してゆく。  
「ふーん、こうなってるのか」  
全体を視ると華奢な印象を受ける。でも胸板は薄いがちゃんと有るし、腹筋も割れてはいないが脂肪も少なく意外と引き締まってる。腕も細めだが筋肉も程よく付いてて悪くはない。  
意外に肌理の細かい肌を触りながらそんな事を考えると、なんだか胸が苦しくなってきた。  
よくわからない気持ちは置いておく。上半身は十分視たので次は下半身に狙いを定める。座る位置を足の間に変える。  
下着ごとズボンに手を掛ける……のだが、どういう訳か手が止まってしまう。更に胸の苦しみが増したせいで息も荒くなってきた。こいつと一緒の時に感じたのに似てるような……  
 
(って、こいつはミステス。只の道具のなんか見たって感じるものなんか無い!!)  
抱きかけた、理解できない気持ちに対し暗示のような事を呟くが全く効果は無し。  
(落ち着け私。大丈夫、私はなんでも出来る!!)  
視線を逸らし2、3度深呼吸。そしたら幾分平静を取り戻した。再び鈍る前に意を決し一気に下ろす。  
(うぁ、なにこれぇ……)  
初めて目撃するモノに心中で静かに動揺する。そこには自分の知らない物体が小さく鎮座していた。  
まず眼に入るのは親指より二廻りは大きい肌色の棒。次が根元の手前側にある二つの玉で最後がその逆位置にある少なめの毛の塊。  
それらが右左の足の付け根を結んだ線の中間にある。  
見ようによってはグロテスクなそれを一分ほど見つめ、僅かに震える手を伸ばし玉に触れる。  
(あ、柔らかいのに固い)  
柔らかい皮と固い中身の意外な感触に驚き手を引っ込めるもすぐに触りなおす。  
(こっちも、柔らかいのかな?)  
興奮に息を荒げながらその手をそのまま棒の方に伸ばし軽く握り締める。  
(こっちも柔らかいん……って うぁ!? 固くなってきたぁ)  
 
触っていたら棒が、少しだけ被っていた皮を剥ぎながら段々と膨らみ固くなってゆく。  
(こんなになるんだ。しかもすごく熱くなってる)  
膨らみきった肉棒をもっとよく観察する為に顔を近づけた。  
(大きさは掌2つ半か。結構大きいな。妙な匂いもする…)  
蒸れた汗の匂い。チーズのような、すえた感じ。でも不思議と不快と思わない。いや違う、もっと嗅ぎたくなる悠二の……  
最後辺りの思考が、別の変化に取って代わってしまう。その変化に思わず身を捩る。  
「んふぅ…な…んで……こすれる…のが気持ちい……のぉ」  
普段なら何も感じない衣擦れの感触が急に心地良く感じる。その感触に悶え更に身を捩る。そしてまた感じる、の繰り返し。貪欲に快感を欲する心が物足りなさを感じだし、空いた手で直接快感の中心である胸の突起に人差し指で触れる。  
「んん…ふぁ…ひうぅっ!?」 衣擦れの十数倍は強い快感で出そうになる声を必死で抑える。桜色に染まる突起を人差し指と中指で挟み掌全体で絶えず揉み続け快感を貪る。無意識の内に服をはだけさせ更に大胆に愛撫をする。  
 
しかし、すぐに胸だけでは足りなくなり、本能に従い肉棒を握っていた手をさっきから変な感じのする自分の股間へと動かす。そこを覆う換えたばかりのショーツを悠二から借りたジャージの下ごと脱いでおそるおそる手で触れる。  
「んぁ…凄い濡れてる…」  
悠二の匂いを嗅いだ時からか、すっかり濡れそぼっていた。この分ならまたショーツを換えなきゃならないだろう。  
「んはぁ……すご…いよぉ」  
体を拭くときにさわったことはあるが全く違う。強くこすっても何も感じなかったのに今はとても敏感になっている。正直胸より気持ちいい。  
「あ、ひぅ、きゃう、はぁん」  
胸の方の動きは更に激しく。声を抑える労力を秘裂をいじり倒すのにまわす。  
「ふああん、んふぁ、ひくぅ」 くちゅっくちゅっと、いやらしい音を薄暗い室内に響かせる。  
いつの間にか悠二に寄りかかって肉棒に頬摺りしていた。固くて熱い自分のとは違う肌触りに、すっかり頭の中がとろけていたようで。  
先端から分泌されていた透明な粘液が頬に付いてもかまわず、寧ろ自分から臭いがとれなくなるようにと塗り込んでいた事に気付いたが止める気はない。  
 
最初は割れ目をなぞるように中指だけで触れ下から上にゆっくり動かす。  
「ふくぅっ、はぁ、あ、くぅ」  
ぬめりのおかげで痛くはなく逆に気持ちいいくらいだ。割れ目の上端まで動かすと指先に何かが当たり体が凄くひくつく。その原因を探り当て押し潰すように触る。良すぎて気が遠くなりそうになる。  
次は親指と人差し指でコリコリと挟んで揉みしだく。  
「あ、そこ…いい、いいよぉ」 ひとしきりいじるとしこりを見つける前に探り当てていた更なる奥へと指を進入させる。  
尻を軽く突きだし股の間から、秘裂の中程にぱっくりと空いた肉穴に人差し指を一本だけ。  
「んんぅ、ふはぁぁ、あふぅ」  
膣内のヒダに隠れた、良い処を引っかき擦る度にせつない声が漏れ出る。つい指の動きも早くして、指の数も3本まで増やしもっと深い処まで入れてしまう。  
「あっ、あっ、あっ、あっ」  
断続的に送られる快楽の波に合わせて出す艶を含めた喘ぎと、ぐちゅぐちゅと響く粘液の泡立てられる音。それを聞きながら絶頂に震えるシャナの叫びがフィナーレを告げる。  
「ぅんああぁぁぁぁぁぁ!!」  
 
 
「はぁ…はぁ…はぁ…ふぅ…」  
かなり叫んだが悠二はまだ起きてない。絶え絶えな呼吸を整えつつ、顔に付いた悠二の汁を指で拭い舐め取る。  
(しょっぱい。けど美味しい)  
悠二の味でまた興奮したのか濡れてきた。匂いであれだけ気持ちよくなれるならもっと強く感じれたら、もっと気持ちよくなれるだろう。  
もはや仕返しのことは頭の片隅にすら無く、どうすれば気持ちよくなれるのか、それしかなかった。  
そびえ立つ肉棒を両手で軽く握り締め顔を近づけながら、小さく可愛らしい舌を伸ばす。先端の穴から出た粘液が溢れ自分の手を汚してるいくのを感じながらゆっくりと舌先を触れるか触れないかまで近づける。  
さっきまで嗅いでいた匂いが味覚として感じ取れるような気がした。  
(もうすこし、もうすこしで)  
味わいたい。味わってもっと気持ちよくなりたい。そして……  
 
「なに……してるんだ?」  
時が凍りついたように全ての動きが静止した。  
またもや思考が最後まで至るる前に、その一言でシャナは我に返りこの状況を振り返る。  
半裸の悠二。同じく半裸の自分。股間を濡らし、握った肉棒に舌を伸ばしている。そして全部見られている。  
 
「ぐはぁ!?」  
そこまで至った瞬間、タイミング悪く起きた悠二の腹に拳を一発叩き込み再び昏倒させ、封絶内を修復する時と同じ早さ正確さで行動前の状態に戻し隠れるようにベッドの中に飛び込む。  
 
何をしていたのか。  
何をしようとしたのか。  
何故したいと思ったか。  
 
しかし羞恥心に掻き乱され全くわからない。終わりのない問に心も疲れ果て、いつの間にか眠りについていた。  
故にシャナは気付けなかった。  
 
今まであった今日が昨日となって去り行き、これから来る明日が今日となって訪れた瞬間を。  
自分のこれからを変えてしまう大切な、とても大切なその現象を。  
 
次の日の朝、変わらずに自分の前に在る坂井悠二の姿を見て。  
彼の内の危険極まりない秘宝の存在をその時に。  
己の望みの一つが叶うことを知るのは、後にそれを自覚してから。  
 
しかし今だけは心地良い心の高鳴りと、深い部分の疼きをただ感じる事に専念するのみ。  
 

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