「ん、ちゅ、んちゅっ、ちゅっ……」  
 ベッドルームで、ディープキスの水音が響いている。  
 室内は天井の大型シーリングライトは点いておらず、フロアスタンドの間接照明が淡く  
照らしている。  
 入浴の後、バスタブの中と同じように、ダブルベッドの上で悠二を中心に、シャナがそ  
の右腕に、一美がその左腕に抱かれた状態で寝そべりながら絡み合っている。  
 今はシャナと悠二がキスを交わしていた。各々口を軽く開き舌を絡めあって、絡みつく  
唾液が艶めかしくぐちゅぐちゅと音を立てている。  
 その間にも悠二の両手は2人の乳房をまさぐるようにして愛撫している。  
「ぷは……」  
 シャナと悠二は数分の間、舌と唇を絡め合わせていたが、やがて銀色の糸を引きながら  
離れていく。ふう、とお互い軽く息をついた。  
「それにしても悠二って、胸が好きよね」  
 シャナは顔を紅く上気させつつも冷静な表情で言った。  
「え、そ、そう、かな?」  
 ぎくり、としたように悠二が聞き返す。  
 だが、その間も悠二の手は、シャナのなだらかな乳房を覆って揉むように圧し、一美の  
豊かな乳房を揉みしだき、それぞれの乳首を指で転がすように弄んでいた。  
「私もそう思う……んっ。あ、嫌って訳じゃないから、いいけど……ふぅ……ん……」  
 一美も穏やかな声でそう言った。  
「私も嫌じゃないけど、一美のはともかく、私のは触ってて楽しいの?」  
 シャナは僅かに唇を尖らせつつも、不快、不満というよりは純粋に疑問を投げかけるよ  
うに訊ねる。  
「えっ、そ、それは……その……えっと……」  
 真正面から訊ねられて、悠二は答えに詰まってしまう。  
「シャナのも触ると柔らかいし……吉田さ、……一美のとは違う触り心地があるし……」  
 悠二はシャナに怒りの様子が見られなかったのでとりあえずは素直に答えても良いかと  
思ったが、実際にそれを表現するのが難しかった。  
「それに……その……」  
 悠二はそれをシャナに伝えたかったが、この場で言ってもいいものか悩んでしまい、ち  
らちらと視線を一美に向ける。  
「うん……女の子自身の事が本気で好きだったら、大小とか関係無い…………ってことで  
しょ?」  
 一美はくすくすっと笑って、悠二が言おうとしていた事を代弁するように言った。  
「え……う、うん……」  
「そう、なんだ。……ふぁっ……」  
 悠二はドキリ、としながらも肯定の返事をする。  
 シャナはさらに顔を紅く上気させつつ、バストへの愛撫に声を漏らす。  
「悠二君、今度は、私と」  
「あ、うん」  
 
 一美が熱く潤んだ眼を悠二に向けて言う。  
 すると悠二は2人を抱きかかえたままもぞもぞと動き、それまでシャナの方を向いてい  
た身体を一美の方に入れ替える。  
「一美……ん……ちゅ……」  
「悠二君……ちゅっ……」  
 悠二は、軽く目を閉じた一美の窄めた唇に、まずは自分の唇をゆっくりと押し付ける。  
 お互いに薄く唇を開いて、各々の舌を相手の口腔にそっと差し込み相手の舌と絡める。  
まとわりついた唾液がくちゅくちゅと音を立てる。  
「ん……ちゅろ……れろ……」  
「ちゅぷ……んう、ゆうじくん……すき……だいすき……ちゅろ……れろ……」  
 一美は濃厚なキスを交わしながら、悩ましげな声を言葉にして漏らす。  
 シャナは乳房を愛撫されながら悠二の身体にに縋りつきつつ、言葉にまでして感情を露  
わにする一美を羨ましそうに見ていた。  
『23時55分デス』  
 ベッドの枕元に置かれたシャナの携帯電話が時刻を告げた。アラストールを収めた偽者  
ではない。シャナと同じ年恰好の少女が持つには質実剛健でシンプルな機種だったが、正  
真正銘、日本の大手第2位のセルラーの携帯電話である。  
 シャナは悠二にすがり付いていた腕を離し、アラームを鳴らしだした携帯電話を掴んで  
フリップを開くと、切断ボタンを押してアラームを止めた。  
 
 本来、高校生のはずの吉田一美が、こんな時分に自宅にいなければそれなりの騒ぎにな  
るはずだった。  
 親が放任してしまっている女子高校生というものは珍しくなかったが、少なくとも吉田  
一美はそういう境遇ではなかった。  
 では、なぜ今ここにいるのか。  
 答えは、今の一美がフレイムヘイズだからだ。  
 
 悠二と出会った時点でシャナは既にフレイムヘイズ、不老に限りなく近い存在だった。  
 悠二は『零時迷子』の“ミステス”。同様に不老と言っていい存在。  
 だが一美はただの人間だった。  
 それはこの3人の中で、一美だけが普通に老いていずれ死んでいくことを意味する。  
 あまりに不条理で不公平……と思ってしまったのは、シャナの方だった。  
 だからシャナはこう言った。  
「一美もフレイムヘイズになればいい」  
 
 
 本来悠二にとって、“非日常”の象徴であるシャナに対して、“日常”の象徴が吉田一  
美だった。  
 故に悠二は2人の両方を欲した。  
 その前提から言えば、一美のフレイムヘイズ化は本末転倒も甚だしいという事になる。  
 悠二も、それだけが目的のフレイムヘイズ化であれば反対していた。  
 ただ、もう1つ一美がフレイムヘイズ化する理由というか意義が出来てしまった為に、  
悠二は反対できなくなってしまった。むしろ、望みさえした。  
 その理由とは──。  
 
 
「そろそろ0時だね。悠二君、少し“存在の力”、使わせてもらうね」  
 キスを離した一美は、悠二の顔を見つめてそう問いかける。  
「うん」  
 一美は悠二の答えを待ってから、自在式を起動して悠二の持つ“存在の力”をくみ上げ  
る。  
 すると、“明るすぎる水色”の炎が陽炎の用に一美から立ち昇り、1人の少女をかたどっ  
た。炎は実際のリアルな人間の姿に変わる。  
「主……悠二、今夜もまた顕現の力を頂き、ありがとうございます」  
 現れた少女は静かに目を開け、穏やかな口調でそう言った。  
 顕現──と言っても、人から“存在の力”を喰らっていた時と異なり、トーチの亜種の  
ような一時的な“入れ物”を作り、それに彼女の情報を書き込んだだけの代物だったが。  
 
 これが悠二が一美のフレイムヘイズ化を認めざるを得なくなった要因だった。  
 悠二を──正確には悠二と“同一だった”存在を慕っていた“紅世の王”を、“存在の  
力”を人から喰らうことなく“この世”に留まらせる方法、それがフレイムヘイズの契約  
だった。  
 幸いと言うべきかは微妙だが、一美にも契約を受け入れるだけの因縁があった。  
 
「今でも僕のこと、“祭礼の蛇”として見てるんだ?」  
 悠二が蒼白の表情で、それでもなお苦笑しながら言う。  
「すみません、決してそういうつもりではないのですが……」  
 フレイムヘイズ・吉田一美の契約者たる“紅世の王”、“頂の座”ヘカテーは申し訳な  
さそうに視線を逸らして答えた。  
 悠二にシャナと一美の2人が必要だったように、ヘカテーは悠二を必要としていた。一  
時的にとは言え“祭礼の蛇”と同一の存在“だった”モノであり、今も幽かとは言え『零  
時迷子』にその残滓を抱える悠二を唯一の心の拠り所としていた。  
「あなた個人のパーソナリティーは認めているつもりです。たまに漏らしてしまう言葉は、  
その、容赦していただけたらと」  
 ヘカテーは、以前の彼女からは信じられないような取り乱した口調で言う。  
「うん……それは解ってるよ」  
 悠二は蒼白な表情のまま答える。  
 だが、次の瞬間悠二の顔に一気に生気が戻ってくる。  
「はぁっ」  
 悠二は反射的にため息をつく。午前0時を回り、『零時迷子』によってそのトーチとし  
て抱える“存在の力”が回復したのだ。  
「ヘカテーちゃん、少し悠二君に甘えてて良いよ」  
「私達はここまでもちょっと、抱き合ってたから」  
 一美が穏やかな口調で言い、シャナが少しだけ険しいが敵意を感じさせるほどの無い口  
調でそれに続いた。  
 シャナと一美の相互に比べると、まだ2人ともヘカテーに対しては若干の嫉妬心を持っ  
ていた。ただ、悠二がヘカテーの事を見捨てることが出来なかった事、悠二のそこに惹か  
れていた2人は、ヘカテーを自分達の輪に加えることに賛同せざるを得なかった。また、  
特に一美にとっては“シャナと対等になる”というプロセスに必要な存在だった。  
 悠二が腕を伸ばしヘカテーを抱き寄せる。ヘカテーは“入れ物”に入った時点で既に全  
裸だった。  
 素肌同士をすり合せながら、2人と違って緊張を残すヘカテーの顔を抱き寄せて唇を重  
ねる。  
「ん、んんっ……」  
 まずはしっとりと唇を重ね合わせる。ヘカテーの目がうっとりと細長くなる。  
 ヘカテーの方から腕が伸ばされ、悠二に軽く抱きついた。  
 その間にもぞもぞと、それまで悠二の左肩側にいた一美が、ヘカテーの背後を回ってシ  
ャナに覆い被さるように近づく。  
「ヘカテーちゃんて、ちょっと羨ましい」  
「うん」  
 一美がシャナに同意を求めるように言うと、シャナは頷いて短く返事をした。  
「いつまでも慣れない感じで、すごく可愛いよ」  
 一美は嫉妬交じりの口調で言いながら、しかしそんな2人に見とれていた。  
 
 こくりと頷いて同意したシャナもまた、2人に視線を向けていた。  
 だが、やがて正面の一美を見据える。  
「一美」  
「うん、いいよ」  
 一美の返答を待ってから、シャナは一美を抱き締める。  
「ちゅっ……」  
 たどたどしいリードで、シャナは一美の唇に自分のそれを重ねる。  
 一方。  
「ちゅ……ちゅろ……れろ……っ」  
「んんっ……れりゅ……れろぉっ……」  
 悠二が薄く唇を開きヘカテーの唇をちょんちょん、と軽くつつくと、ヘカテーもまた薄  
く唇を開いて、その舌を受け入れる。  
 ヘカテーの小さな口腔の中で、2人の舌が絡み合い、まとう唾液が交換される。ヘカテ  
ーは自ら舌を出してくる程には積極的ではなかった。  
 ヘカテーはディープキスを受けながら、うっとりと目を細めている。  
「ん……ふ…………れろ……くちゅ……」  
 悠二の左手がヘカテーの背中から胸元に移る。どちらかと言えば小さい部類に入るが、  
シャナのそれよりははっきりとしたカーブを描くバスト。それを悠二の左手が揺すり、掌  
で覆って優しく揉みしだく。指先が乳首を擦り、転がし、刺激する。  
「ちゅっ……ちゅっ……ちゅろ……れろぉっ……」  
「んちゅ……シャナちゃん……れろ……れりゅう……」  
 小さなシャナが、外見だけなら明らかに年上に見える一美をリードする。浴びせるよう  
なキスから、お互い口を軽く開いての舌の絡め合いへと移っていく。  
 しばしの間、寝室に淫靡な水音が響く。  
「んっく……やっぱり悠二、胸が好きなんだ」  
 やがて一美を軽く放したシャナが、ヘカテーのバストを優しく、しかし執拗に愛撫する  
悠二を見て、静かだが棘の無い口調でそう言った。  
「え……あ……う、うん」  
 指摘されて、悠二は決まり悪そうに視線を逸らす。  
「はぁ……悠二、別に私は構いませんが……」  
 ヘカテーは熱っぽい息を吐きつつ、上気した表情を悠二に向けてそう言った。  
「別に責めてるわけじゃないんだから、気にしなくて良いんだよ」  
「うん」  
 一美が言い、シャナも同意する。しかし悠二は自分の性的フェティシズムを暴かれてい  
るようで、気まずそうに苦笑するしかなかった。  
 もっとも、女同士で絡み合っていたシャナと一美も、お互い右手で相手の左乳房を弄ん  
でいたのだが。  
「悠二、そろそろ……」  
 一美と身体を離したシャナが、上気しきった紅い表情に潤んだ瞳で悠二に求める。  
 
「誰からでも良いから……悠二の好きな順番で」  
「うん」  
「ええ……」  
 シャナの言葉に、同じように熱く潤んだ目を見せながら一美とヘカテーが同意する。  
 既に時間は0時半を過ぎている。これから3人の少女を相手にして、明日に差し支えな  
い筈が無いのだが、悠二がこの状況で断れるはずも無ければ、実際断る意志も持っていな  
かった。  
「ふぅ……解った」  
 軽くため息をついて、悠二は言った。  
 

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