シャナと悠二が町から居なくなってから数年がたった、  
調律師が行った調律の影響でシャナや悠二の事は誰も覚えていなかった  
数年後  
一美は少年に出会った  
「今日は、最近引っ越してきたんだけどこのあたりは何年たっても変わらないね」  
少年は親しそうに笑顔を浮かべ、挨拶をした  
「?今日は、前に住んでいたんですか?」  
何か記憶に引っかかっているのに誰だかわからずに挨拶を返す一美  
「うん、僕も以前この町に住んでたからね・・・」  
少年は優しい笑顔を浮べながらそんな挨拶を返されたとき淋しそうな笑顔を浮べながら去っていった  
 
家に帰り、今日始めてあった少年を思い浮かべる一美  
「何だろう、何か大切なことを忘れてる気がする、ねえ、この気持ちは何だろうね?」  
ピンポーン  
そんな時チャイムが鳴る、  
びっくりしながら玄関を開ける、回覧板だった、  
”ミサゴ祭り”大きくそんな見出しが一美の目に飛び込んでくる  
「何だろう、行かなきゃいけない気がする・・・」  
 
 
数日後、ミサゴ祭り  
(何でだろう、何でこんなところに来たんだろう)  
一美は少年に逢ってから自問自答を繰り返していた  
今居る場所は参道から離れた林の中、祭りに着いてから足の向くままぼんやりと歩いていたらこんな所に来てしまった  
「おっ誰か居るジャン」  
「本当だ」  
「女?」  
いきなり近くに柄の悪そうな3人が居た、考え込んでいたので気が付かなかったらしい、  
「女じゃん、結構かわいいな」  
「犯っちまうか?」  
「良いんじゃないか?こんな所に居るんだ、そのつもりだったんだろう?」  
どうやら私を襲うつもりらしい、危ない、そんな思いに刈られて走り出そうとする、  
だが、動けなかった、何時の間に回り込んだのか振り向いた先には、その3人の内の一人が居た  
どうすればいいのか、どうすれば助かるのか、こんな状況に慣れていないせいかまったく思い浮かばなかった、  
「何処にいこうって言うんだ?」  
そいつが下衆びた笑いを浮かべながら振り向いた先にいた男が言った  
後の二人は後ろから、ゆっくりと近づいてくる  
一美は絶望に頭が真っ白になった  
 
ビュン  
そんな音が耳元に響いた気がした、同時に、  
ガッ  
何かがぶつかる音が響いた、  
カラカラカラ  
続いて鈴を転がすような音が響いた  
目の前にいた男がふらついている、ふらふらと一美の方に向かって傾いてくる、  
一美は倒れてくる男を横に避けた  
バタッ  
目の前に居る男が倒れた、男のすぐ横にラムネのビンが転がっていた、瓶の中でビー球が転がった音だったらしい  
「まったく、徒じゃ無くてもタチの悪い奴は何処にでも居るんだよな」   
場違いな軽い声が響いた、  
それは、つい最近初めて聞いたのに、それよりもずっと前に聞いた事があるような、そんな不思議な感じがする声だった  
「んアナンダヨオメエはヨォ」  
後ろにいた男が謎の訛りが付いた奇声を発する  
「ただの通りすがりだよ、その人の知り合いだからね、少し邪魔させてもらうよ」  
 
そう言って一美のすぐ横にきた、  
一美はその少年を驚き、戸惑った様子で見つめていた  
「間に合ってよかった」  
少年は、優しく微笑みながらそう呟いた、そして、残った2人に視線を向ける  
「それじゃ、僕は行くから、行こう」  
少年は二人から視線をはずし、一美に手を伸ばした、一美はその手を握ろうといて  
「調子こいてんじゃねえ!」  
そんな叫び声に妨害された  
二人組みの方を見ると片方が肩を怒らせていた、  
少年は、ふうとため息を吐いて  
「それはそっちだろ?」  
核心を突いた、  
「うるせんだよこの餓鬼が!」  
男は叫びながらすごい形相で走り出した  
少年は、それを見て、一美を軽く押して移動させ、体を左に半歩ずらして飛び掛ってきた男に向かって軽く足を突き出した  
ズザッ  
そんな音を立てながら地面に転がった  
「大丈夫?気をつけなよ」  
そう声をかけて、一美の方に向き直った、また手を伸ばそうとして、  
「ふざけんじゃねえ!」  
また、そんな声に妨害された、  
さっき倒れた男が立ち上がっている、手にはナイフを持っていた、一美はその刃物に恐怖を感じた  
 
「足が震えてるよ?」  
少年には恐怖は無いらしい、確かにさっき転がったせいか男の足は震えている、  
「この餓鬼がぁ!」  
そう叫びながらナイフを構えて飛び掛ってきた、  
少年は今度は一歩下がり、男は真っ直ぐナイフを持つ手を伸ばして、少年に届く前に手が伸びきった、そのまま足だけで飛び掛ってくるがもう勢いは本来の半分も無かった  
少年は無造作にナイフを持つ手を掴み、体ごと回転してひねり上げた。  
ナイフが手から落ち、少年の手がそれを受け止めた、そして、そのナイフを男の顔の辺りに軽く押し当てた、  
「このぐらいにしておかないか?そうでもしないとこの手が滑るから」  
一瞬、少年から笑みが消え、息が詰まりそうな殺気が漂った、  
「ひっ」  
捻り上げられていた男から一瞬息が漏れ、首をカクカクとたてに振った。  
ドサッ  
少年が手を離した瞬間、男は地面にへたり込んだ  
「それじゃ、これで終了」  
少年が最後の一人の方を向いたときには、最後の一人は居なくなっていた  
「ふぅ」  
少年が息を吐くと、一瞬で元の優しい感じの顔に戻った。  
「大丈夫?さっきの奴らに何もされてないよね?」  
一美が頷くと、少年は安心した様子で  
「よかった」  
そう小さく呟いた  
 
「ありがとう」  
一美は少年に向かって礼を言った、少年は、照れたように笑った  
「ところで何でこんな所に居たの?」  
少年は聞いてきた、だが、ここに来たのはただなんとなくの偶然だ  
「なんとなくです」  
少年は一瞬驚いたようだった、いまさらだが少年の外見は見た感じ中学生か高校生と言った所だ。  
現在高校生である一美と比べて背丈もあまり差が無い  
「あなたも何でこんな所に?」  
一美が聞き返すと、少年は少し考える様子を見せてから  
「昔ここで大事な事があった所だから」  
少年はポツリと呟いた、一美は聞いてみたかったが少年は話したく無さそうだったので聞くのをやめておいた  
「処であなたの名前は?」  
とりあえず名前を聞いてみる事にした  
「・・・こんな所に何時まで居ても、如何しようもないから、行こう」   
そう言って一美に手を伸ばした、名乗りたくないらしい、一美は一瞬ためらってからその手を掴んだ  
 
(あっ、この感触、この感じ、確かに何処かで)  
少年に手を捕まれた時、一美は言いようの無い懐かしさに囚われた  
だが、どうしても何時の事なのか、何処でなのか、何も思い出せなかった、  
「じゃあ、この辺りまでくれば安心だから」  
考えているうちに参道まで着いてしまった、祭りはまだ続いている、  
ドォン  
花火が上がった、  
「僕は行くから、気をつけてね、吉田さん、これからも元気で」  
少年はそう言うと、一美の手を離し、人ゴミの中に消えていこうとした  
それを見た瞬間、何時か見た光景に重なり、何かが繋がった。まるで、今まで無かったパズルのピースが繋がったように。  
「待って!悠二君!」  
一美は、全力を振り絞って声を上げ、少年の名を呼んだ。  
周りにいた人々が振り返り、一美の方に視線を向けた、  
人ごみにまぎれようとしていた少年(悠二)は驚いたように動きを止め、こちらを振り向き、悲しそうな笑顔を浮かべ、口を動かした  
(さよなら)  
 
声など聞こえ無い筈なのに、唇の動きだけで一美には悠二の言っていることがわかった、  
わかった瞬間、言い様の無い悲しみと、生まれてからこれまで感じた事がが無いほどの怒りが噴出してきた  
悠二は、人ごみの中に紛れ込み、もう見えなくなっていた、  
「待って」  
そう言いながら、一美は全力で走り出した、悠二を捕まえるために、  
だが、ただでさえ人ごみの多い祭りの出店街では、まったく進めない、悠二も同じ様子だがそこは体力の差、どんどん引き離されていく  
「待って」  
悠二が見えなくなると言う瞬間、一美の頭には一つの名案が浮かんだ、  
いや、名案かどうかは不明だが、このままでは逃げられてしまう、一美はその案を実行することにした  
「あの人を捕まえてください!痴漢です!」  
悠二のいる方を指差し、力いっぱい叫んだ、  
ギロリ、そんな風に表現するのが的確なほど、一帯の空気が豹変した、  
指差した方向にいた人が左右に割れ、一美と悠二までの道が開く、  
一美の指す先にいた悠二が動きを止め、  
「なんでいきなりそう成るんだ!?」  
叫んだ  
「身に覚えがないとでも?」  
一美が叫び返す、  
「・・・・・」  
悠二は答えにつまり、走り出す、細かいことは考えずに全力で逃げることに集中する  
一美は悠二を追う、今まで一美の道を塞いでいた人々が居なくなり、今度は悠二の進行方向を塞ぎにかかる、  
結果は明白だった、今まで苦労していた追いかけっこがほんの数十秒で決着が付いた  
悠二を射程距離に補足した一美は悠二に全力で抱きついた(タックルした)  
抱きつかれた悠二は、器用にも咄嗟に向きを変え、一美を抱き抱え、一美に怪我をさせないように、必死で受身をとった、  
ズデン、ゴロゴロ、  
そんな擬音が似合うほどのオーバーアクションで二人は道に転がった  
 
一瞬の間が開き  
ワー、パチパチパチ  
一帯が歓声と拍手に包まれた、これだけの大捕り物を繰り広げたのだから当然だ、  
悠二は受身の最後の部分を失敗して、起き上がる事ができなかった、  
だが、一美に怪我一つ負わせる事が無かったので成功と言った所だろうか  
(なんだ、最初からこうすればよかったんだ)  
一美は悠二を捕まえたことと作戦が成功したことの喜びをかみ締めていた  
「処で、僕はこれからどうすれば」  
下になっていた悠二が声を上げる、  
「敗者は勝者の言うことを聞くものです♪」  
悠二を捕まえた喜びと、全力で走った後の高揚感で、一美はある意味いい感じに出来上がっていた。  
 
「ご協力感謝します、皆さんのおかげで捕まえることができました」  
一美は、悠二と一緒に立ち上がり、ペコリと一礼をした。  
そして、悠二をつれて、祭りから去っていった、  
 
 
「この辺りにくれば平気かな?」  
祭りから離れた場所にある公園で、二人は足を止めた、一美は、今まで捕まえておいた悠二に、改めて抱きついた、  
久しぶりに抱きしめた悠二は以前とまったく変わっていなかった、そして、万感の思いを込めて、ただ一言言った、  
「お帰りなさい」  
後はもう言葉は要らなかった、ただ悠二は腕の中にいる一美を、壊れないように優しく、力いっぱい抱きしめた。もう二度と離さないと誓うように。  
そして、同じように、万感の思いを込めて、その言葉と対になる言葉を返した  
「ただいま」  
たとえ、こうしていられるのが一瞬の幻だとしても、この愛しい人と時が許す限り一緒に居よう。二人はただそう思っていた  
 
 
「本当に此処に留まるつもりか?」  
アラストールが言った  
「此処にはもう私たちの居場所は無いのよ」  
シャナが言った  
「でも、この町には大事な人が居るから、でも何時までもってわけじゃない、しばらくたったらすぐにシャナのことを追いかけていくから」  
悠二は申し訳無さそうに言った  
「まったく、すぐに追いかけてきなさいよ」  
シャナはあきれた様子で言って、歩き出した  
「此処には、もうお前の事を覚えている者は居ない、その事を忘れるな」  
アラストールは最後にそう言い残した  
「それでも構わないさ」  
悠二はそう言って、一美の居る方向に向かって歩き出した  
 
これが一美が少年に会う前に交わした3人の会話だった  
 fin  
 

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