〜愛染兄妹の淫靡な日常〜  
 
夜の香港の街並みを流れる雑踏の中、3つの人影が歩を進めていた。  
先頭に立ち、物珍しそうに首を巡らせているのは、臙脂色のジャケットを着た、十代半ばに見える金髪の少年。  
その脇で少年の言葉に相槌を打っているのは、彼に良く似た面立ちの、典雅なドレスを身に纏った少女。  
二人の背後には、サングラスで視線を隠したダークスーツ姿の男が、口の端に咥えた煙草を燻らせてそれに続く。  
観光都市たる香港に於いても、その取り合わせは多少の違和感を見る者に与えるが、そもそも彼らは人ではない。  
彼らの名は、"愛染自"ソラト、"愛染他"ティリエル、そして"千変"シュドナイ。  
こことは違う世界から来訪し、人から"存在の力"を喰らって秩序を乱す、"紅世の徒"と呼ばれる者達だった。  
「それで、"愛染自"ソラトよ。『贄殿遮那』はまだ遠いのか?」  
「うん、あっち! もっとずっとあっち!」  
シュドナイが気の無い声で問い掛けると、ソラトは後ろを振り返りながら、嬉々として一方を指差した。  
ソラトは『欲望の嗅覚』という名が示す通り、求める物との間に絆を結び、その存在する方向を正確に捉える。  
しかし実際の嗅覚にも似て、ある程度まで近づかなくては、欲望の対象とのおおよその距離までは測れない。  
彼の能力しか頼る物が無いとは言え、曖昧に過ぎるソラトの返答に、シュドナイは軽く鼻を鳴らした。  
「ふん、やれやれ。この分じゃ、どこまで引き回される事やら」  
「……何か、文句でもおありかしら?」  
はしゃぐ兄を軽侮するような口調のシュドナイに、ティリエルは形の良い眉をひそめて冷厳に言い放った。  
『溺愛の抱擁』の名を持つ彼女にとっては、ソラト以外の存在など、全て取るに足らないものでしかない。  
それは、自分達の護衛でもある強大な"紅世の王"にして仮装舞踏会の将、シュドナイであっても同様である。  
強い意志を込めた視線で横目に睨み付けられ、シュドナイは取り成すように肩を竦めた。  
 
「いいや、別に。俺はただ、襲って来るフレイムヘイズを追い払うのが仕事だからな」  
「そう。でしたら、余計な差し出口を挟まないで下さいな」  
もはや興味さえ失ったように、ティリエルは素っ気無く呟いて、視線をソラトへと戻した。  
その途端、陶器人形のようだった顔には柔らかな微笑みが浮かび上がり、瞳に濡れ光る情愛の色が宿る。  
妹の投げ掛ける秋波を気にも留めず、ソラトはふらふらと香港の夜景を眺め渡す。  
だがしばらくして、何かに気付いたようにその歩みを唐突に止めると、彼は我侭な子供そのままの声を上げた。  
「ティリエル! ボク、きょうはあそこでねたい!」  
ソラトの指し示す先には、華美な装飾を施された高級ホテルが聳え立っていた。  
外国の要人や映画スターなどが定宿とする、香港でも有数のホテルだ。  
彼らの『贄殿遮那』探索が遅々として進まないのも、ソラトのこうした気紛れが原因の一つである。  
けれど、ティリエルはおもねるように身を寄せて、兄の手へするりと指を絡めると、その言葉に大きく頷いた。  
「ええ、それは良い考えですわね。では、今宵はあちらで休む事に致しましょうか」  
「うんっ!」  
妹の同意に満面の笑みで答えると、ソラトは弾む足取りでホテルに向かい出した。  
兄に手を引かれたティリエルも、それに引き摺られるようにして後に続く。  
「お兄様、そう急がれなくとも宜しいのですよ?」  
「はやくいこうよ、ティリエル!」  
一見すれば普通の仲の良い兄妹に見えなくはないが、その様子にはどこか妖しい雰囲気が付き纏っている。  
ティリエルの声も耳に入らない様子で、ソラトは目指す建物へと早足で進んでゆく。  
自分の存在すら忘れたらしい『愛染の兄妹』の後を、シュドナイが再び肩を竦めつつ、影のように付き従う。  
その口元に浮かぶ皮肉げな苦笑が更に深まっている事も、先を急ぐ二人の意識には届いていなかった。  
 
                    ◇  ◇  ◇  
 
ティリエルはホテルの最上階にあるロイヤルスイートへと続く廊下を、一人でゆっくりと進んでいた。  
シュドナイを下の階に追い払っている間に、待ち切れなかったソラトが先に駆け出してしまったからだ。  
すでに『揺りかごの園』はホテル全体を覆うように広げており、フレイムヘイズに感付かれる心配はない。  
鍵の部分を切り裂かれて、開け放たれたままの扉を潜り抜け、ティリエルは一際豪華な室内へ足を踏み入れる。  
だが、リビングには高級そうなデキャンタとグラスが置いてあるだけで、人の姿はどこにも見当たらなかった。  
「……お兄様?」  
愛する兄の姿を求めて、ティリエルは無邪気な歓声が洩れ聞こえる奥の寝室へと歩み寄った。  
ティリエルが中を覗き込むと、そこではソラトが広大なベッドの上で楽しげに飛び跳ねている。  
顔を出した彼女に気付いたソラトは、妹に向かってどこか誇らしげな笑みを返した。  
「ねえティリエル! みて、これすごくふかふかだよ!」  
「まあ、それはよう御座いましたね?」  
ティリエルはやんちゃな愛し児に対する母親にも似た態度で、そんな兄ににっこりと微笑んだ。  
けれど丁度その時、浴室の扉が大きく開くと、中からバスローブを着た中年男性が姿を現す。  
「何だね君は! 一体どこから入ったのかね!?」  
男はティリエルの姿を見咎めると、居丈高に怒鳴り付けながら彼女の方へ大股で近づいていく。  
ベッドの上にもう一人の少年がいるのを確認し、男の眉が苛立たしげに吊り上った。  
「ここは君達の入れるような場所ではないんだぞ! 全く、このホテルのセキュリティはどうなっとるんだ!」  
男の怒声を受け、ティリエルは冷ややかに、ソラトは呆けたように、無言のまま無粋な乱入者を眺めやった。  
恐れ入るそぶりすら見せないそんな二人の態度に、男はますます激昂する。  
しかし、男が再び声を上げる寸前、ソラトはティリエルに対して、ねだるような声色で口を開いた。  
 
「ティリエル、こいつ、きって、たべてもいい?」  
「ええ、よろしいですわよ、お兄様」  
「君達、一体何を言っているのだね!? いいから早く出て行きたまえ!」  
自分の身に下された破滅の宣告を知る由もない男は、犬でも追い払うかのように大きく腕を振った。  
だが次の瞬間、ベッドの上にいたソラトの姿が掻き消えて、男の前に忽然と現れる。  
「な……?」  
ソラトは中世の騎士を思わせる甲冑姿に転じ、大きく横に振り上げた手には、一振りの刃が握られている。  
その不可解さに疑問を述べる猶予も無く、『吸血鬼』に両断された男の身体が、瞬時に炎の塊へと散華する。  
口を窄めてその炎を一片残らず吸い尽くすと、ソラトは元のジャケット姿に戻り、満足げな笑みを零した。  
「あはは! ティリエル、こいつ、いっぱいちからをもってたよ?」  
「……お兄様、以前から申し上げておりますでしょう? 全部食べてしまってはいけません、と」  
「だってボク、おなかがすいてたんだもん!」  
"存在の力"が消失する際の歪みを全く考慮していないソラトの言動に、ティリエルは小さく眉をひそめた。  
『揺りかごの園』の効果で歪みの気配が外部に洩れる事はないが、ここから離れればその痕跡は明白になる。  
もしこの近辺にフレイムヘイズがいれば、その反応から自分達の存在を気取られる事も充分に考えられる。  
上品に頬へ手を当てて嘆息しながら、ティリエルは教え諭すような口調でソラトに語り掛けた。  
「いいですかお兄様。これからは出来るだけ、トーチを作れるだけの欠片は残す癖をつけなさいませ」  
「だって……」  
妹の言葉に不満そうに呟いて、ソラトは駄々をこねる子供のように表情を曇らせた。  
兄を落ち込ませるのはティリエルの本意ではないが、彼の最大の望みを叶える為には必要な事でもある。  
俯いたソラトの頭を優しく撫で、ティリエルは兄にとって一番効果的な台詞を紡ぎ出した。  
 
「そうしないと感付かれますわよ? 『贄殿遮那』を持つ者に、逃げられても良いのですか?」  
「えっ、そんなのいやだよ! ボク、はやく『にえとののしゃな』がほしいんだ!」  
最悪のミステス"天目一個"と共に名高い一振りの刀の名を告げられると、ソラトは慌てて顔を起こした。  
欲望を剥き出しにしたソラトの言に、ティリエルの小悪魔めいた笑みが更に深くなる。  
「でしたら、私の言う通りにして頂けますわね? そうしたら、必ず『贄殿遮那』を手に入れて差し上げますわ」  
「うん! ボク、ティリエルのいうとおりにするよ! だから、ぜったいてにいれてね!」  
「ええ、ええ。それでこそ、私の愛するお兄様ですわ」  
自分の望む返答を引き出したティリエルは、ソラトの頬を妖しく撫でながら何度も頷いた。  
兄に頼られ、兄の期待に応え、兄の喜ぶ顔を見る事こそ、彼女にとって何よりの至福である。  
いびつな絆で結ばれた兄の肌を指で辿りながら、ティリエルは見た目の幼さにそぐわぬ淫らな表情を形作る。  
媚びを隠そうともしない甘ったるい声で、彼女は機嫌を直したソラトの耳に唇を寄せて囁いた。  
「ところでお兄様? 私、今のおすそ分けをして頂きたいですわ」  
「あ、うん! だったらボク、ティリエルときもちいいことしたい!」  
「まあ。ふふふ、気が合いますわね。私も丁度、同じ事を考えておりましたのよ?」  
あけすけな要求に艶然と微笑み、ティリエルはソラトの股間へ手を伸ばした。  
スラックスの中で兄の性器が急速に頭をもたげてくるのを確認し、紅い唇をちろりと舐め回す。  
彼女の秘部も同様に、これから始める愛の営みへの期待から、早くも熱と潤みを帯びてくる。  
「それではお兄様、まずはあちらへ参りましょうか」  
「うんっ!」  
兄の肩にしな垂れかかったティリエルは、軽く背を押してベッドの方へと促してゆく。  
寄り添って歩を進めながら、彼女の片手はソラトのシャツのボタンを、慣れた手付きで一つずつ外していった。  
 
                    ◇  ◇  ◇  
 
「ティリエル、はやくはやく、はやくしようよ!」  
妹の手で一糸纏わぬ姿にされたソラトは、シーツの上でじたじたと飛び跳ね、もどかしげに急かした。  
中性的な身体はまるで天使像のようでありながらも、股間にそそり立つ逞しい剛直がその印象を裏切っている。  
爛々と輝く瞳は、ベッドの脇で優雅にドレスを脱いでゆく妹の姿を、熱望の込もった視線で射抜く。  
そんなソラトを焦らすように、ティリエルは殊更ゆっくりとした動きで、背中の合わせを外していった。  
「ええ、もう少々お待ち下さいましね……」  
縛めを解かれたドレスが衣擦れの音を立てて滑り落ちると、蝶の羽化の如く密やかに、白い裸身が姿を現した。  
華奢な肢体を隠すのは、淡いピンクのレースの上下に、同色のストッキングとそれを吊るすガーターベルト。  
大人びた装いと発達途上にさえ見える体つきとの差異が、妖艶な表情と相まって、匂い立つような色香を放つ。  
「さぁ、もういいですわよ……?」  
「うんっ!」  
「あ、んむっ!」  
ティリエルは足元にわだかまるドレスから抜け出ると、身体をくねらせて兄の待つベッドに乗り上がった。  
彼女が這い寄りながら許しを与えるや否や、ソラトが飢えた肉食獣の動きで柔らかな獲物に飛び掛かる。  
強引な抱擁と共に荒々しく唇を奪われ、ティリエルはくぐもった声を上げた。  
「ううっ、ん……うぅ!」  
「ん、んふぅっ、んっ、ふ……」  
ソラトは遠慮も気遣いも無く、細い肢体を両腕で強く締め上げながら、妹の口腔に深々と舌を差し入れた。  
温かな口内を舌先で乱暴に掻き回し、自分本位の動きでティリエルの唇を貪るように味わう。  
陵辱にも等しいソラトの口付けに、けれどティリエルは蕩けたように表情を緩め、兄の首筋にしがみ付く。  
激しく求められれば求められるほど、彼女の胸には兄の望みを果たしているという悦びが巻き起こっていた。  
 
「ん……っ、ティリエル……。むぁ、ぴちゅ……」  
「ふぁ、あむ、んっ……。んもっ、あふ、っぷぅ……」  
しっかりと舌を絡めたまま、ソラトは少しだけ顔を離し、ティリエルの舌を外に引き摺り出した。  
そのまま互いの顔の間で妖しく舌を蠢かせ、大きな水音を立てながら嬲ってゆく。  
口を半開きにしたティリエルも舌先に力を込めて、突き出し、絡め、押し返し、兄の動きへ的確に応じる。  
再び唇を強く押し付け、喉を鳴らして混ぜ合わせた唾液を吸い上げ、ソラトは執拗にティリエルの口と舌を犯す。  
しばらくして、ようやくソラトが腕を緩めて解放すると、二人の舌の間に粘ついた水の糸が橋を架けた。  
「はぁ……。ティリエル、いつもみたいに、ボクをもっときもちよくして……?」  
「んふふっ……。ええ、いいですわよ……」  
ソラトの更なる要求に、ティリエルは含み笑いを洩らして、兄の耳朶を軽く甘噛みした。  
耳元を起点に濡れた唇をそっと這わせ、首筋をゆっくりと伝い降りていく。  
僅かに腰を引きながら頭を下げ、薄く浮き出た鎖骨の線を乗り越えて、右の胸板に顔を寄せる。  
薄い胸筋の中央に鎮座する乳輪に辿り着くと、ティリエルは小さな呼気と共にその場所へ吸い付いた。  
「あっ……!」  
「んっ、ちゅ……。んむ、んんっ、ん……」  
乳首に優しくキスをされたソラトは、身体をぷるっと震わせて、少女のような声を上げた。  
ティリエルは舌の腹をぴったりと胸の頂点に貼り付けると、円を描くようにしてそこを舐め回す。  
刺激を受けた肉芽はすぐに起き上がり、彼女の舌の上でころころと転がり始める。  
「んむっ、む、むふぅ……。ちゅっ、ちゅ、ん……っ」  
硬くなった乳首を唇で挟み、もむもむと食むように揉み解し、ティリエルは兄の快楽を引き出してゆく。  
舌を鳴らして軽く吸い上げると、その度にソラトの肩がピクンと反応する。  
兄の胸板に顔を埋めながら、ティリエルの片手は胴体を滑り落ち、彼の下半身へと伸びていった。  
 
「っはぁ……。んーっ、ん、んふっ……」  
熱い息を吐いたティリエルは、舌先でソラトの胸板を左へと伝い出した。  
兄の顔をちらりと上目で窺ってから、乳首を避けて斜め上に動きを転じ、脇の下を目指してゆく。  
若々しい汗の匂いを吸い込み、悪戯な艶笑を浮かべると、腕と脇の間に舌を差し入れる。  
うねうねと脇の下へ潜り込む舌の動きに、ソラトがむずがるように身体を捩じらせた。  
「ティリエル、くすぐったいよ……」  
「ふふっ、お兄様の身体が、あまりに愛おしいのがいけませんのよ……?」  
言い訳めいた返答をしつつも、ティリエルは素直に脇から舌を抜き、今度は胸筋の下端を唇で辿り降りた。  
左の胸でゆっくりと内向きの螺旋を描き、中心の乳首へ至ると、硬く尖らせた舌の先端でそこを弄ぶ。  
下半身に伸ばした手は、内股から下腹部にかけてをさわさわと撫で回し、時折屹立した剛直を軽く掠める。  
ささやか過ぎる刺激に焦れたソラトは、妹の頭に手を掛けると、ぐっと力を込めて押し下げた。  
「ねえ、ボク、したのほうをもっとしてほしい……」  
「あらあら、せっかちですのね、お兄様……」  
ソラトの手の導くままに、ティリエルは兄の前に跪き、そそり立つ肉棒と顔を合わせた。  
彼女がお気に入りの縫いぐるみにするようにそっと頬擦りすると、紅潮した肌に先走りがぬめった線を残す。  
柔らかな頬肉に撫でられた剛直が小さく跳ねるのを、ティリエルはうっとりと眺めやる。  
「ここが良いのですね……?」  
「うん……。そこ、なめたりこすったりして……」  
「分かっておりますわ。お兄様の望まれる事は、何でも……」  
立ち昇る淫臭とソラトの赤裸々な要求に、ティリエルの背筋が歓喜にわななく。  
薄桃色の舌先で唇をくるりと湿らせてから、彼女はそのまま硬く熱を帯びた肉茎へと口元を寄せていった。  
 
「んっ、んんん……っ、ちゅっ!」  
「あぅっ!」  
ティリエルは、横に広げた舌で根本から先端近くまでをぞるりと舐め上げると、鈴口を音高く吸った。  
最も敏感な部分に強い刺激を受けて、ソラトの口から情けない悲鳴が飛び出す。  
先端に満ちていた液体を抜き取られた肉棒が、びゅくんと驚いたように脈動し、その体積を一回り大きくする。  
「ん……んっ、んくっ。はぁっ……」  
ティリエルは口中で舌をもごもごと動かし、兄の先走りを己の唾液と混ぜ合わせ、喉を鳴らして飲み下した。  
満足げな吐息を照り光る亀頭に吹き掛けてから、軽く頭を振り上げると、彼女の豪奢な金髪が一方の肩に流れる。  
今度は首を傾けたまま傘の直下を唇で横咥えにし、ティリエルは根本に向かってゆっくりと下り始めた。  
「ん、っ……、んふぅ……。あ……はむっ、ん……」  
「ティリエルっ、ボク、すごくきもちいい……」  
「むぷ……っ、ふふ、もっと感じて下さいませ……。あもっ、んっ、んん……」  
ソラトの薄い陰毛に顔を埋めたティリエルは、口を開いて大きく舌を伸ばし、幹の下にある肉の袋を掬い上げた。  
すんすんと鼻を鳴らして兄の体臭を嗅ぎながら、片方の玉を頬張って、皺の一つ一つを丹念に舐め広げる。  
睾丸を交互に口へ含んでは揉み解し、同時に頬や鼻先を意図的に擦り付け、剛直にも刺激を与えてゆく。  
欲望を滾らせたソラトは妹の身体の下に両手を回すと、桃色のレースに包まれた乳房をぎゅっと鷲掴みにした。  
「はんっ、く! あ、お兄様っ、ん、んぅっ!」  
「ティリエル、もっと、もっといっぱいして……」  
小振りな柔肉を乱雑に揉みしだきつつ、ソラトは掠れた声で奉仕をせがんだ。  
双丘を強く握り締められ、ティリエルの口技が途絶えると、自ら腰を動かして肉棒を妹の顔に押し付ける。  
自分の行為のせいで愛撫の手が止まったのにも気付かず、ソラトは苛立ったように指先へ力を込めた。  
 
「はいっ、んっ……! お兄様、すぐ、致しますわ、……はぷっ! ん、んふぅ……」  
「ううっ!」  
痕が残るほど強く乳房を捏ね回されながら、ティリエルは首を伸ばして充血した亀頭をぱくりと咥え込んだ。  
温かな唇が雁の周囲を包み、湿った舌が皮の継ぎ目に這わされると、ソラトは快楽の呻きを洩らす。  
片手を根本に絡め、親指で剛直の腹を上下に擦りつつ、ティリエルはゆっくりと舌を蠢かせる。  
敏感な急所を丁寧に辿るざらついた舌の感触に、ソラトの腰がビクンと痙攣した。  
「んも……っ、ぷぁっ! お兄様、気持ち……んんっ! いいっ、ですか……? あむっ……」  
「うんっ、いいよっ、きもちいいよ、ティリエル……」  
「んふぅっ! あっ、私も、ですわっ……、んぷっ、むふぅっ、ん……!」  
亀頭全体をくるりと舌で一周すると、ソラトの指先がレースの上から、興奮に尖った乳首をぎりっと抓った。  
苦痛と一体化した鋭い悦楽が両の乳頭から駆け抜けて、首を反らしたティリエルの唇が剛直から離れる。  
声を震わせ兄に感想を問うてから、再び大きく口を開けると、彼女はまた唾液に濡れた先端にむしゃぶりつく。  
ソラトは舌足らずな口調で答えつつ、妹の胸を覆う布地を引きずり上げ、柔肌に直接指を立てる。  
まろび出た乳房は彼の指の動きに従ってぐにぐにと歪み、締まった肉の弾力を返す。  
白い背の向こうで妖しく揺らめく尻肉に目を留めて、ソラトは素直な欲求を口にした。  
「ねえ、ボクも、ティリエルのあそこ、いじりたいよ……」  
「っぷぅ……はぁ、いいですわよ……。そのまま横になって下さいますか……?」  
「うん、こう……?」  
ソラトは妹に指示された通り、後ろ手を突くとベッドの上でころんと仰向けに寝転がった。  
するとティリエルは静かに身を起こして体勢を入れ替え、兄の身体を大きく跨ぎ、四つん這いの姿勢をとる。  
そのまま腰を後ろに突き出すようにして伏せると、互いの股間が相手の眼前に位置する形になった。  
 
「これで宜し……あ、んあぁぁっ!?」  
ソラトの方へ振り返りかけたティリエルは、途中で言葉を途切れさせ、悲鳴にも似た甲高い声を上げた。  
ショーツの股布が脇に寄せられると同時に、ソラトの人差し指が濡れた秘洞へ一気に突き入れられたのだ。  
無遠慮に力の入った指は、重なりあった肉襞を強引に割り開き、ぬぷぬぷと自らを埋め込んでゆく。  
いくら乱暴な愛撫に慣れているとはいえ、いきなり過ぎる侵入にティリエルの膣内が強く収縮した。  
「ティリエル、やめないでよ……。はやく、ボクのも……」  
「んっ、く、はいっ……! んっ、ん、んんっ、んぷ、んぅっ!」  
膣道を広げるようにぐりぐりと指を回すソラトに催促され、ティリエルは狂おしげに剛直を咥え込んだ。  
舌を絡め、リズミカルに頭を上下に揺り動かし、愛する兄の肉棒へ熱烈に奉仕する。  
頬の内側の粘膜に亀頭を擦り付け、唇で幹の半ばを扱き立て、口腔に溜めた唾液に先端を浸していく。  
じゅぽじゅぽと淫らがましい音を立てながら、膣の締まりを意識して緩め、兄の荒々しい愛撫に身を任せる。  
攪拌された淫穴の奥からはトロトロと芳しい蜜が溢れ、ソラトの指から手首へと伝い落ちていった。  
「……ぷはぁっ! んっ、お兄様……。少々、腰を上げて下さいな……」  
「ん、うん……」  
股間全体に唾液をまぶし終えると、ティリエルは兄の腰に片腕を廻し、下半身を大きく抱え込んだ。  
そのまま背を起こし、ソラトに後転の途中のような、天地を逆にした体勢を取らせる。  
足を両肩に担ぎ上げると、斜め下に垂れた肉の袋の向こう側に、薄茶色の窄まりが姿を現す。  
「こちらも、愛して差し上げますわ……。んっ……」  
ティリエルは兄の身体を片腕で支え、少女のように滑らかな尻肉の間に顔を寄せる。  
途中で大きく舌を突き出し、先端を硬く尖らせながら、首を前に伸ばしてゆく。  
不浄の穴の上に口元を近づけると、彼女は微塵も躊躇いを見せずに、皺の周囲をくるくると舐め回した。  
 
「あくっ! ティリエル、それっ、むずむずするよっ……!」  
「ん、ふふっ……。愛していれば、こんな事も出来ますのよ……?」  
排泄を誘うような妹の舌使いに、ソラトの菊座がきゅっと縮こまった。  
ティリエルは兄の声を半ば聞き流し、滴る唾液を皺の間へ丁寧に擦り込んでいく。  
愛撫と湿り気を与え続けると、次第にそこは呼吸するように収縮と弛緩を始め、最初の硬さが和らいでくる。  
充分に入り口を解してから、ティリエルは力を込めた舌の先端を中心に押し当て、体内に潜り込ませていった。  
「うぁ……っ! ティリエル、ボク、もっ……!」  
「んんぅっ!? んっ、んん、んふぅ!」  
妹の舌が後ろの窄まりに侵入すると、ソラトは対抗するように首を持ち上げ、眼前の肉の花弁に齧り付いた。  
左右の尻肉を強く割り開き、頭をその隙間にこじ入れ、ティリエルの動きを真似て濡れた秘裂を舌で抉る。  
あぐあぐと顎を動かし、下の歯で勃起した陰核をこそげ取るように擦り、強烈に刺激していく。  
どっと溢れ出して来た愛液に溺れそうになりながら、ソラトは妹の股間へ喰らい付いていった。  
「んぐっ、ふぐ、あぷっ……んはぁ! はっ、はぁ、んっ……んじゅるっ!」  
ソラトは歯ではみ出した陰唇をコリコリと噛み、大きく喘いで息を継ぐと、とろみのある雫を音高く啜った。  
粘液を吸い出すその行為が、新たな潤いを生み出すきっかけとなり、彼の口元をべったりと濡らしていく。  
薄い尻肉にしっかとしがみ付き、白い肌に紅い指痕を刻みながら、ソラトは獣さながらの荒い愛撫を重ねる。  
「ふぁ、んっ! んむ、るろっ、ん、んぁ、んっ!」  
ティリエルも熱心に兄の腸壁をほじくり返し、膣を犯す男根のように細めた舌を激しく出し入れした。  
同時に空いた手で顎の下に垂れた剛直を扱き立て、汗の浮いた胸元に亀頭をぐりぐりと押し付ける。  
濃い淫臭を辺りに振り撒きつつ、二人は狂ったように互いの淫欲の炎を燃え上がらせてゆく。  
そうしていく内に、いきなり力尽きたソラトの首がベッドに落とされ、全身がぐったりと脱力した。  
 
「はぁ、ティリエル……。この、かっこうは、つかれるよぉ……」  
「ぉふぅ……、そう、ですわね……。んっ、もう、宜しいですかしら……」  
仕上げとばかりに内股へ軽くキスをしてから、ティリエルは兄の身体を元通りに寝かせ、ゆらりと立ち上がった。  
レースの上下をもどかしげに脱ぎ捨て、薄いピンクのストッキングとガーターベルトだけをその身に残す。  
全裸よりも扇情的な姿になったティリエルは、そのまま今度は正面からソラトの腰を跨ぐ。  
用を足す時のように大きく膝を広げて屈み込むと、開いた秘所から糸を引いて愛液が零れ落ちた。  
「お兄様、そろそろ、私のここ……に、お兄様のこれを、入れたいのでしょう?」  
「うっ、うん。いれたいよ、ボク、ティリエルのなかにっ……!」  
「んふふっ、良いお答えですわ……」  
ティリエルは中指でくちくちと陰裂を弄って見せつけながら、もう一方の手でソラトの剛直を捕えた。  
すぐさま望む言葉が返って来ると、ティリエルは軽く腰を浮かせて、反り返った肉棒を垂直に起き上がらせる。  
左右に添えた指で肉の花弁を割り開き、中心に張り詰めた亀頭を宛がうと、そのまま一気に腰を下ろす。  
「ん、は……あぁぁん!」  
濡れそぼった膣道は硬い異物の挿入を容易く受け入れ、先端から根本近くまでを柔らかな肉襞で包み込んだ。  
「あっ、う……。ティリエルのなかっ、すごくあったかくて、ぐちゅぐちゅしてるよっ……!」  
「んぅっ、お兄様のも、いつものように逞しくて……、んふ、素敵、ですわ……」  
緩やかに腰を使い出した妹に向けて、ソラトはうわ言のように頼りない声を上げた。  
ティリエルが深く腰を沈める度に、泡立った快楽の雫が内部から押し出され、二人の間で淫猥な水音を立てる。  
十重二十重に取り巻いた微細な襞の連なりが、剛直全体を舐め上げ、扱き下ろし、ソラトの悦楽を呼び覚ます。  
兄の肉茎の力強さを褒め称えながら、ティリエルも秘洞を出入りする強張りの感覚に没頭する。  
微妙に動きの角度を変え、強く擦れ合う場所を次々と移ろわせてゆくその手管は、熟練した娼婦さながらだった。  
 
「あっ、ん……。どう、ですっ……? 私の中は、んっ、気持ち、良いですか……?」  
「うんっ、うん……。すごく、すごくきもちいい……。いいよぉ……」  
「そう、でしょう……? 私の身も心も、んふっ、お兄様の為だけの、あっ、ものなの、ですものっ……」  
奥まで咥えて腰で水平に円を描きながら、ティリエルの唇は淫らな睦言を囁き続けた。  
子宮口で鈴口を押し潰すように刺激されて、ソラトの剛直がびくびくと跳ね、彼の返答を裏付ける。  
その反応をもっと確かに感じようと、彼女の膣内がきゅんっと締まり、硬い肉棒を甘く抱擁する。  
「あふっ、そして、お兄様の全ては、んぅっ、私のもの……」  
「うっ、あ、ティリエル……」  
「お兄様が、んっ、愛しても良いのは、私だけっ……! お兄様はっ、私、私っ、私だけの、ものっ……!」  
呪詛のように繰り返しつつ、ティリエルは段々とその律動を激しいものへと変化させてゆく。  
ほっそりとした肢体が妖しくうねり、豊かな金髪が振り乱されて、欲情に火照った顔の周りを舞い踊る。  
膣内の襞は別の生き物の如くざわりと蠕動しては、出入りする剛直に吸い付き、快楽を求める。  
ソラトの視点からは、大きく捲れ上がった深紅の陰唇が己の肉棒を上下する様子が、はっきりと窺える。  
その淫猥な光景に誘われるようにして、ソラトは妹の腰が沈んだ処を見計らい、自分の腰を大きく突き上げた。  
「はっ、はぁ、ティリ、エル……っ!」  
「あくぅん! あっ、ん、あ、お兄っ、さまぁっ……!」  
ソラトの先端がぐりっと最奥を抉り、ティリエルは歓喜の声を上げた。  
兄の胴に両手を置き、突き上げに合わせて腰の高さを調節し、抜け落ちない程度の大きな振幅を繰り返す。  
互いの腰を叩きつける都度、結合部からは濡れた布を打つような湿った音が響き、細かい飛沫が宙に散る。  
ティリエルは直線的なソラトの腰使いを補い、不規則に尻をくねらせて、動きの速度を早めていく。  
強い締め付けと火の点くような激しい摩擦に、彼女の中の肉棒がひくつきながら膨れ上がっていった。  
 
「あっ、ティ、リエルっ! ボクっ、もうっ、だしてっ、いいっ!?」  
「えっ、ええっ! 下さい、ませっ、お兄様のをっ、私の、中にっ、んんっ……あぁ、あ、あっ!」  
ソラトの切羽詰った声を受け、ティリエルはガクガクと頷いて、腰の動きを更に加速させた。  
自分の一番感じる場所が擦れるように角度を変え、兄の射精に追いつこうと、一心に快楽を追い求める。  
既に燃え上がっていた肢体は容易に登りつめ、膣道が絶頂の予兆にきつい収縮を起こす。  
「だすよっ、もうっ、く……でるうぅっ!」  
「おにい、さまぁっ、あっ、は……、あぁ──っ!」  
ティリエルが達するよりも僅かに早く、ソラトは彼女の中で弾けたように大量の白濁を撒き散らした。  
同時に剛直から先程得たばかりの"存在の力"を流し込み、妹の膣内に分け与える。  
肉の悦びと"紅世の徒"としての本能、二つの欲求を存分に満たされて、ティリエルの首が大きく反り返る。  
深々と繋がった結合部から洩れる山吹色の火の粉が、ちろちろと瞬いては虚空に溶けていった。  
「あっ、はっ、はぁっ……。お兄様、沢山、出して、下さいました、わね……」  
えずくような強い脈動が収まると、ティリエルは乱れた髪を掻き上げつつ、気だるげな様子で囁いた。  
止めていた腰を緩やかに動かし、軽く締めた膣口で幹を扱き、出し切れなかった分を全て内部へ搾り取る。  
彼女の中で粘度の高いソラトの精液が音を立て、愛液と混じって微細な襞の間へと擦り込まれてゆく。  
最後の一滴が鈴口から零れる頃には、萎えかけていた肉棒は再び硬度を取り戻していた。  
「ん、ねえ、ティリエル……。ボク、まだたりないよ……」  
「ふふ、ふふふっ……。ええ、いいですわよ。お兄様が満足されるまで、幾らでも……」  
お菓子をねだる子供のように不満をこぼす兄の声に喜色を浮かべ、ティリエルは淫靡な含み笑いを洩らした。  
身を起こそうとするソラトに手を貸すと、入れ替わりに背中をベッドへ横たえて、両足で腰を抱え込む。  
道を外れた愛に染まった兄妹は、欲求の赴くままに淫楽の宴を延々と繰り広げていった。  
 
                    ◇  ◇  ◇  
 
「……どうやら追いついたようであります」  
翌日、ティリエル達がホテルより立ち去ってからしばらくした頃、その建物を見上げる一つの人影があった。  
メイドのような漆黒のエプロンドレスに身を包んだ、穏やかな美貌を持つ妙齢の女性である。  
「前回までの歪みからほぼ一直線、十代半ばの少年少女と黒眼鏡の男性。外見情報も一致するであります」  
「是認」  
頭部を飾るヘッドドレスに軽く手を添え、彼女は風貌にそぐわぬ奇妙な口調で呟く。  
すると、彼女のぶっきらぼうな物言いより更に感情の欠落した平坦な女性の声が、姿を見せずに短く応じる。  
『揺りかごの園』で存在を探られる事を防いでいても、ティリエル達の出で立ちは相応に目立つ。  
大きな欠落の痕跡と、近辺で必ず目撃されている3人組の姿を頼りに、彼女はその後を追跡しているのであった。  
「歪みを気にも掛けない大胆な行動……。やはり分別を持たない若い"徒"と推測されるであります」  
「油断禁物」  
「承知の上であります。自在法にせよ宝具にせよ、これほど完全に気配を絶つ相手、舐めてはいないであります」  
諌める声に小さく首肯し、彼女はティリエル達が向かっているであろう方角へと足を速めた。  
表情には表さずとも、その瞳には歴戦の勇士を思わせる、苛烈にして鋭い闘志が燃え盛っている。  
「しかし、例え相手が幾ら手強くとも、世界の均衡を乱す"徒"は討滅あるのみであります」  
「然り」  
長い裾を翻し、奇異の目を向ける人波をすり抜けて、彼女はやがて一陣の烈風となる。  
彼女の名は"夢幻の冠帯"ティアマトーのフレイムヘイズ、『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメル。  
ヴィルヘルミナは倒すべき敵を求め、獲物を追う雌豹の如きしなやかさで、香港の街路を駆け抜けていった。  
 
〜END〜  
 

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