「シャクガンノシャナタソゲキジョウ〜ユウジノサイナン」 
 
吉田一美は危機を覚えていた。 
(あの二人は、私の知らない何かを共有してる・・・御崎大橋でのデートとか、真南川での事とか・・・) 
(ゆかりちゃんと悠二君って、どこまで行っているんだろう・・・) 
(まさかあの二人、もう、恋人みたいな事をしてるんじゃ・・・) 
そういう事を想像すると、顔がひどく赤くなるのを覚える。 
因みに彼女が想像しているのは18禁な事ではなく、キスとかである。非常に彼女らしい。 
(でも・・・池君ばかりに頼るのは、駄目。あの時、自分でやるって、決めたんだもの!) 
(そうだ、今度の日曜日、坂井君の家に行って見よう・・・) 
震える手で電話を取り、悠二の家に電話をする。 
「あの、坂井君いますか・・・」 
 
その頃の坂井家 
夕食後、いつものように秋子さ・・・ゲフンゲフン・・・千草とシャナは話をしている。たまにアラストールの話題も出てくる。 
「そうなの・・・今度の日曜日にでもまたアラストールさんとお話してみようかしら?」 
また携帯電話にいれとかなきゃ…悠二とシャナがそう思っていると突然電話が鳴り出した 
千草が取りに行く。 
「・・・悠二、電話よ。」 
悠二はお茶を啜ってのんびりしていると千草に呼び掛けられた。 
その隣でシャナは何時ものように坂井家に上がりこみ、夕食後のデザートと言わんばかりにメロンパンの 
カリカリモフモフを堪能していた。 
「誰から?」 
「吉田さんって女の子からよ」 
シャナのそれまでメロンパンを食べながら笑みを浮かべていた表情が凍りついた。 
「うん、すぐ出るよ」 
悠二は立ち上がり、電話の所まで行く。 
悠二に電話を変わると千草は洗い物をする為台所に行った。 
悠二が話している間、シャナは敵のようにメロンパンに食らいついていた。苛立ちを紛らわすかのように。 
「何を、話してたの?」 
勤めて平静を装って尋ねる。 
「ああ、吉田さんが、日曜日に遊びに来るって・・・シャナ?」 
「私も、日曜日、行くからね」 
そういい残してシャナは風のように去っていってしまった。 
「あれ、シャナちゃんは?」 
「いや、なんだか、急に帰るって。それと、今度の日曜日、吉田さんが遊びに来るんだってさ」 
「あら・・・それじゃ準備しないと・・・」 
悠二はシャナの挙措になんとは無しに不安を覚えたが、後に不幸が来るとは知る由も無い。  
 
そして、運命の日曜日。 
この日の一美の服装は、この日のためにわざわざあつらえた 
いつもなら絶対しない露出の高いフリルのついたシャツにミニスカートという出で立ちだった。 
胸元は派手に開いている。 
スタイルが良いだけに、周りの男性の目をやたらと引いてしまう。 
 
(うう・・・恥ずかしいけど、頑張らないと) 
 
その頃シャナは昔使っていたチャイナドレスをフレイムヘイズの黒衣から引っ張り出して着替えていた。 
あれからシャナは全く成長していないので、ピッタリと合う。 
・・・そこ、シャナのチャイナドレスは天道宮で燃えたとか言うな。替えがあったことにしておこう。 
アラストールに聞いたらそっけないが「良い」と言ってくれたし、 
千草にはとても可愛らしいと言われた。 
(わたし、あの子に、負けたくないもの!) 
いつもなら嬉しいはずの言葉もシャナの溢れる不安を拭い去る事は出来なかった。 
そして、シャナのチャイナドレス姿を見た当の悠二は・・・ 
「いつもと服違うんだ」 
「・・・それだけ?」 
シャナがむくれ千草がため息をつき掛けたときに悠二は言った 
「あ、いや、いつもより、可愛いかな?」 
それだけで、その一言でシャナの表情は輝いた。千草は意外な表情をしている。 
(よかった。当たりのようだ・・・) 
いや、クイズじゃないんだから・・・ 
その場をごまかすように悠二が携帯を取り出す。 
「ああ、これ、このボタン一つでアラストールに繋がるようになってるから」 
「そう?それなら簡単ね」 
その時玄関のチャイムが鳴る。 
「あらあら、いらっしゃい。吉田さん」 
「こ、こんにちわ」 
「今日はゆっくりしていってね。悠二の部屋に飲み物とお菓子は用意してあるから」 
「お、お気遣いどうもありがとうございます」 
千草は携帯を持って居間に戻った。 
「この服、どうかな?」 
一美が真っ赤になりながら悠二に尋ねる。 
「涼しそうでいい・・・ゲフン。似合ってるよ」 
よく見ると胸元が開いていて悠二も思わず顔が赤くなる。 
「よかった」 
シャナにさっきから凄い目で見られているのは絶対気のせいじゃないと思う。 
シャナと一美はバチバチと火花を散らしながら、悠二は前でそれの気配を感じ少し早足で三人は部屋に向かった。  
 
それからシャナ達は、しばらくトランプやウノ、悠二の家にある様々な遊具やボードゲームなどで時間を潰していたが、 
はっきり言ってかなり異様な雰囲気だった。 
二人の表情はむしろにこやかで、シャナも一美も表面上は笑顔だ。 
しかし、悠二はその水面下で飛び交っている火花にしっかりと気づいていた。 
針のむしろ・・・いやまるで、何時爆発するか分からない爆弾のとなりに座っている感じだった。 
(うう・・・勘弁してくれぇ・・・何でこんな険悪な雰囲気なんだ!) 
悠二は本気で逃げ出したいと思っていた。 
トランプの勝負も何順かした後、悠二はついに場の空気に耐え切れなくなって言った。 
「あ、僕ちょっとトイレに行って来るよ」 
もちろん嘘である。まあ、腸ではなく胃の方は穴が開くほどのダメージを食らっていたが。 
「・・・悠二に・・・あの事は言ったの?」 
「まだ、言ってない」 
「だめ・・・言わないで・・・」 
「ううん。いつか言う。もう、決めたもの」 
「・・・っ!」 
 
悠二がドアを開けると、二人は子供のように掴み合いの喧嘩していた。 
「止めろって二人とも!いったいどうしたん・・・」 
射すくめるような二人の視線に、悠二は凍りついた。 
「うるさいうるさいうるさいっ!あんたのことで、喧嘩、してたのよっ! 
それも、これも、全部、全部、あんたがはっきりしないから悪いんじゃない!」 
シャナは滅多に無いことだが、涙目になっていた。 
「え、どういうことだよ・・・」 
悠二はシャナの態度にただ困惑し、突っ立っている。 
今こそ、言うべきなのかもしれない・・・一美は、真っ赤に成りながらも、思いを伝えようとした 
意外と、声はすんなりと出た。 
「私が、悠二くんの・・・事、好きだ・・・っていうこと、伝える、伝えないで・・・揉めてたの」 
「えっ・・・」 
それは、小さく、とぎれとぎれの声だったが、はっきりと悠二の耳に届いた。  
 
シャナはその言葉の響きが持つ意味に、ハンマーで殴られたかのようなショックを覚えた。 
言われた・・・ 
これでもし悠二が一美を選んだら・・・私はどうすればいいの?何所へ行けばいいの? 
私を初めて名前で呼んだ、優しく、少し抜けていて、でも判断力のある風変わりなミステス 
いや、自分に温もりや色んなものをくれた坂井悠二と言う存在が、決定的な意味で私から離れる・・・ 
そんな途方も無く巨大で凄まじい喪失の恐怖と不安にシャナは、震えた。 
私の思いを、伝えなくちゃ。 
ただ、そう思った。しかし、その言葉を紡ぐには、 
今までの全ての紅世の徒と戦いと同じくらいの覚悟、いや、戦いの方が分かりやすくてまだマシだと感じた。 
「私は、私だって・・・私だって悠二の事が大好きなのよっ!あんたなんかに、渡したくないっ!」 
思わず、大きな声が出てしまい、千草やアラストールに聞かれたかとあせったが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。 
悠二はもう気絶するかと思うほど驚いていた。 
「それを決めるのは、悠二君です」 
「そうね・・・」 
二人が、無言で悠二に詰め寄る。 
「さあ、どっちが好きなのかはっきりしろ!」 
「答えを・・・聞かせて下さい・・・」 
眉を寄せて物凄い眼で睨み付けるシャナ。 
真っ赤な顔で泣きそうになりながらも悠二を見据える一美。 
「・・・・・・」 
(こ、これは、修羅場か・・・しゃ、シャレにならん・・・困った事になったぞ・・・ 
一美ちゃんは可愛く優しい・・・好きだけど・・・でも僕はミステスで年をとるかどうかも分からない。 
それに彼女に答えられるかどうかも分からない・・・ 
でも僕は確かにシャナも好きで彼女はとても強くて格好よくて尊敬できるしあこがれるそして時折見せる脆さと弱さと可憐さが・・・素敵で 
ああ・・・気持ちの整理がっ、つかない!) 
暫くの沈黙。 
「ご、ごめん!二人とも、嫌いなわけじゃない。どちらも・・・好きなんだけど・・・ 
でも、気持ちの整理が出来てなくて・・・俺にはまだどっちが好きかなんてことは決められないんだ!」 
その無言のプレッシャーに耐え切れず、悠二は、逃走した。ドアに向かって走る。  
 
「逃げるなああぁ!」 
神速で投げつけられた置時計が悠二の後頭部を直撃する。 
「ぐわっ!」 
悠二はもんどりうって転がり、ドアに激突した。 
「いたたたた・・・」 
「ちょ、乱暴しないでくださいっ!」 
「あんただって答えを聞かないまま逃げられるなんて望まないでしょ!」 
「それは・・・」 
「曖昧なままなんて許さない!悠二!私のほうが、私のほうが・・・」 
「ゆかりちゃん!私だって、悠二君の事が大好きなんだもの!」 
「何よ!何よ!私は、今までも、これからも、色んな事を悠二と一緒に乗り越えていくのよ!私の方が悠二の事が好きなんだから!」 
「わ、私だって負けないもん!悠二君を思う気持ちだって、胸だって!」 
「うっ・・・」 
シャナは見比べた。自らの成長しない膨らみと、一美の服に強調された年不相応に立派な胸を見比べ、ぎりっ、と歯噛みする。 
(く、くやしいけど・・・これに勝つには・・・もう・・・脱ぐしかないっ・・・ 
アラストールに内緒で見てた深夜番組では男は女の人の裸、しかも大きい胸が好きって話で・・・ああ、何考えてんだろ私 
思考がこんがらがってまとまらない!普段ならこんなに冷静さを欠くなんで有り得ないのに・・・いや、でも 
悠二は小さい胸の方が好みかもしれないし・・・まだ望みはあるっ!) 
シャナは、一美の方に向き直り、まるで紅世の徒と相対した時のような敵意を視線と言葉に乗せる。 
「お前なんかに、ぜったい、絶対、負けないんだから!悠二!!私の、全部を、よく見てろっ!」 
シャナはチャイナドレスに手をかけて服を脱ごうとする。 
「な、シャナ何をっ!」 
あまりの事に悠二は痛みも忘れ呆然。一美も一瞬あっけに取られるが、すぐに顔を真っ赤にして決意を固めて、宣言する。 
「わ、わ、私だって、私だってぇ・・・ゆかりちゃんなんかに、負けないっ!」 
一美も服に手をかけて、脱ごうとする。 
(わわわ二人とも何をこれって俺の為に争ってるんだよないや嬉しいけどこんな事までしなくてもいやそんな事思って無いで 
二人を止めなきゃいやでもせっかく脱いでくれてるんだしもう少し見てても罰はあシャナは相変わらず 
きれ//あ、一美ちゃん聞いた通り胸でか・・・)  
 
「ドタバタとうるさいけれど・・・何の騒ぎなの?」 
ガチャッとドアをあけて千草が携帯電話を手に、入ってきた。ドアには鍵はかかっていなかった。 
シャナは下着だけの格好で、一美は上着を脱いで外そうとした姿で、悠二は手で目を覆ってるけど隙間からばっちり見てる、 
という格好で固まった。 
彼女は悠二がドアにぶつかった音とシャナ達の騒ぎを聞きつけてやって来たのだった。 
アラストールは千草や一美が居る為黙ったままだったが・・・携帯電話から凄まじいオーラが立ち昇っている。 
(なななななんて格好で・・・悠二め我が顕現出来たら燃やし尽くして・・・いやそれよりもシャナには正しい男女交際について 
小一時間問い詰める必要が・・・) 
千草は、一美とシャナ、二人の格好を見て、何時もの笑みを崩さず一言。 
「・・・あらあらまあまあ・・・」 
・・・千草の笑みは怖いほどに変わらない。 
「とりあえず、二人とも服を着なさいね?それから、居間でお話しましょうか」 
にこやかだが有無を言わさない、ある意味顕現したアラストール並みの威圧感と無言の迫力を受けて、 
三人は絶望的な表情で黙り込んだ。 
(千草殿、きっついお灸を頼みますぞ!・・・悠二とシャナには後で改めて説教をせねば・・・) 
千草の説教を食らって一美は泣きながら家に帰り、へろへろになって部屋に帰りついた悠二とシャナは・・・ 
「この馬鹿者どもがあああ!!!シャナ、悠二、そこに座れ!いいか、正しい男女交際というのは・・・」 
アラストールの説教を食らった。因みにこれは日が暮れるまで小一時間じゃきかない位の間続いた。 
それからシャナは何を聞いても、「うるさいうるさいうるさい」の一点張り。 
悠二は零時を待たずして、存在の力を使い切ったのか?と言わんばかりに疲弊し、目が死んだ魚のようになっていた。 
次の日、クラスの雰囲気は非常に悪かった。 
シャナは昨日からそっぽを向いたまま。 
一美に至っては学校にすら来ていない。 
田中と佐藤にはニヤニヤとした目で見られ、 
池には「貴様また何かやらかしたのかー!」といった凄い目で見られている。 
(なんでこんなことになったんだー!) 
悠二の血の叫びを受けても、世界はただ平然とそこにある。 
おしまい。  
 
 
 
 
おまけ次回予告(大嘘。ペテンと本気が入り混じってるので信用しないように) 
「読者の皆さん、修羅場入ってる上にあんまり萌えなくてすみませんすみません! 
漏れの実力じゃあのシャナたんや吉田たんのもえっぷりが表現できてないかもしれませんがそこはお目こぼしを。 
SSってとんでもなく難しい・・・めっちゃつかれた。 
あと、えっと、あーシャナたんの成長しない膨らみは堪能できましたか? 
さーて次回の「シャクガンノシャナタソゲキジョウ」は 
「マージョリー様のいけないレッスン」 
「天道宮の白昼の情事」 
「池バーサーク!危うし吉田たん!」の三本立てでお送りしま・・・」 
「うるさいうるさいうるさい!ここでも成長しないふくらみとかいうの?フレイムヘイズだから仕方ないじゃない!それにこの次回予告は何なのよ!ぶった切るわよ!」 
「貴様は似非職人なのに自らの文章の修行をした方が良いのではないか?次回予告が調子に乗りすぎだ!」 
「ヒャーッハーッヒャヒャヒャア!アンタもこりねーなー!」 
「・・・ぶっ殺す」 
「徒(女性の敵)を発見・・・これより討滅するであります」 
「抹殺」 
「池くんはそんなことしません!いくら私でも怒りますよ!」 
「ま、まて4人?とももちつけこれは冗談一美ちゃんまで撲殺バットもって何する気てめえら作者にこんなことして只で済むとよーし漏れてめーらを題材にエロパロで鬼畜物書いちゃう・・・いや嘘です御免なさいリボンを首に巻きつけないで・・・ああ!寸胴の獣がああ!炎が!燃えて熱いってやめろはなせなにをすr」 
・・・切られ踏まれ絞められ殴られた挙句燃やされた作者を見て田中と佐藤と池が舌打ちしたかは定かではない。 
・・・続・・・かない?  
 

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