12月、坂井家。悠二は風呂に入っており、  
リビングには2(+1)人きりだ。  
ふとシャナが切りだす。  
 「ねえ千草、クリスマスにはなぜ靴下を飾るの?」  
突然の質問にも千草は深く詮索はせずに答える。  
 「私も詳しい由来は知らないけれど、  
サンタクロースがその中にプレゼントをくれる  
って言われているの。」  
 「でもサンタクロースは実在しないんでしょ?  
ならプレゼントなんて貰えないじゃない。」  
 「そうね。でも、プレゼントはサンタクロース  
だけがくれるものじゃないのよ」  
 「どういうこと?」  
千草の答えに、世俗的なことに疎いシャナは首を傾げた。  
 「家族や友達、恋人のように近しい人にプレゼントを送ったりするの。  
『この一年ありがとう、また一年よろしく』  
って気持ちを込めてね。」  
 「気持ちを…込めて?…お弁当を渡すように?」  
 「そうね。でも、これはお弁当よりももっと特別なの。」  
 
シャナは戦慄した。今日、この話をしなければ、  
何も知らぬままクリスマスを迎えるところだったのだ。  
(お弁当だけでも『好き』って言うのと  
同じなのに、もっと特別だなんて…!  
吉田一美も悠二にプレゼントするのかな…  
…ダメ!そんなの嫌!私だって気持ちを届けるんだ!)  
最も油断ならない相手、吉田一美に思い至った瞬間、  
シャナはいてもたってもいられなくなった。  
 「千草!プレゼントは靴下に入るものじゃなきゃだめなの!?」  
 「そんなことはないわ。でも最近はクリスマス用の  
とっても大きい靴下もあるみたいね。」  
 「!ありがとう、千草!」  
(とにかく先手を打つんだ!)  
シャナは立ち上がり、短く礼を言うと、  
電飾まばゆい街に飛び出していった。  
 
 
──クリスマスイブ  
 
星空の下、素早くしかし静かに屋根を渡る。  
(胸の奥が熱くて…どきどきする…)  
思わずにやけそうになるのを堪えながら、  
両手で抱えた包みをぎゅっと抱き締める。  
 
日課のトレーニングを終えて悠二と別れるとすぐに、  
シャナは平井ゆかりの家に急いだ。  
今日のために用意した荷物を取りに行くためだ。  
今日は千草に頼んで玄関から入れてもらえる手筈になっていた。  
悠二の部屋の窓は閉まっているからだ。  
屋根から飛び降りたシャナは硬直した。  
 「シャナ…ちゃん?なんで…」  
吉田一美がシャナがもっているのと同じような  
包みを持って、玄関の前で躊躇うように立っていたのだ。  
 
 「そっちこそ、どうして、その包みは何?」  
シャナは上ずりそうな声を隠しながら  
強い眼差しで目の前の強敵に問い返した。  
 「私は、その、クリスマスだから…あの…」  
 「だめ!悠二へのプレゼントは私があげるの!」  
 「そんな!私にだって、あげる権利あるもの!」  
 「うるさいうるさいうるさい!ダメったらダメなの!」  
睨み合い、お互いに引けなくなったところに、予想外の介入があった。  
 「どうしたの、シャナちゃん?…あら?吉田一美さん?」  
千草は一目でおおよその状況を読み取った。  
「二人とも、外は冷えるわ、ひとまず中に入って。」  
 
『……』  
気まずい沈黙。すぐ上では悠二が眠っているはずなので、  
当事者の2人は強い口調で話せず、押し黙るしかなかった。  
 
静寂を破り、千草が提案をする。  
 「二人とも、プレゼントはそれぞれのメッセージと  
一緒に悠ちゃんの部屋に置いてきたら?」  
しかし吉田は少し躊躇いながらも、意を決して口を開いた。  
 「あのっ…そ、それじゃダメなんです!  
これだけ渡しても意味がないんです…」  
後半は消え入るような声だったが、シャナはその表情にまさかと思い、声をあげそうになった。  
 「やっぱりだめ!靴下は、それは、私が悠二にあげるの!」  
2人のやり取りを聞いた千草は頬に手を当てながら、  
「やっぱり女の子は早熟なのねえ。」  
とつぶやき、ここまで全然描写されてないアラストールも、  
坂井悠二絡みのおもしろくない方向に話が進んでいくのを、ハラハラしながら見守っていた。  
 
 「こればっかりは悠ちゃんが答えを出すしかないものね。」  
千草は意外とモテモテの、それでいて甲斐性なしの  
息子にため息をついた。  
 
 
天井を見つめながら坂井悠二はため息をついた。  
世のカップルが甘い夜を過ごしているはずのイブも、  
いつもどうりのトレーニングが済むと、  
シャナはすぐに家に戻ってしまったし、  
告白されたとはいえ、返事もしていない吉田一美とも  
なにも起きるはずもなく、午前零時とともに回復した体力を持て余していた。  
それでも染み付いた習慣のせいか、  
横になっていればうとうとと眠気が襲ってくる。  
ぼんやりとした意識の中で、自分のことを  
好いてくれているらしい2人の少女のことを考える。  
(僕は…いったいどちらを選べばいいんだろう…  
いや、選ぶなんておこがましいとは思う。  
でも、僕は、どちらと一緒にいたいんだろう。  
どこからが『好き』なんだろう…)  
何度も考えた、未だ答えのでない考え。  
(…最近平穏だからって、いつまでもここにいられるわけじゃないのに…  
ダメだ、きりがない。今日は‥もう…寝よう)  
思考をとめた頭は、暗やみに溶けていった。  
 
機先を制して吉田が立ち上がりリビングをでる。  
歴戦のフレイムヘイズともあろうものが油断していた、虚を突かれた。  
ここには千草もいるのだ、吉田一美も突飛な行動にはでないだろうと踏んでいた。  
しかし、事態を把握したときにはすでに敵は廊下、  
そして階段へと進行していた。  
千草は言った。大切な人に、気持ちを込めてプレゼントを送るのだと。  
(だめ!悠二は私の、私が気持ちを届けるんだ!  
吉田一美にだけは負けない!)  
階段を駆け上がる。悠二の部屋の前、ドアノブに手を掛けた吉田がいた。  
ドアが開く。  
(!間に合わない!こうなったら!)  
吉田が迫り来るシャナに気付く。  
(力を抑えて、一撃でしとめる!)  
思い切り床を蹴り、一気に敵の背後につける。  
蹴った床が煤けているが、今はそれどころではない。  
(悠二は、絶対渡さない!)  
いつもなら相手は全力で討滅する。それだけだ。  
しかし、この最強のライバルは『殺さず倒さなければならない』  
手刀に僅かに、ほんの微かに力がこもる。  
首筋を軽く叩くと、吉田の膝がガクリと折れ、  
部屋の中に倒れこんだ。  
 
(これでひとまずは安心。…でも、このままじゃ…)  
今は気を失っているとはいえ、いつ気が付いて邪魔されるかわからない。  
邪魔される、ということまで考えたところで、  
シャナはもう1人の、もう1つの障害があることに気が付いた。  
「ごめん、アラストール。」  
首からコキュートスを外すと、その鎖で吉田を後ろ手に縛る。  
一石二鳥とはこのことだ。今日は特別な日、  
ちょっと頼りなさげだけどここ一番で頭の冴える、  
でも普段はときどきぼぉっとしてるときもある悠二に、  
この熱く、焼けるような気持ちを届ける日なのだ。  
最強のライバルと、最強の保護者には退場願おう。  
と、ここで欲がでた。どうせなら、このライバルに、  
自分の思いを、悠二と『誓う』ところを、  
(─見せ付けて諦めさせよう!)  
と考え、吉田一美を悠二の部屋に運び込んだ。  
しかし、このままではアラストールには丸見えだ。  
シャナは悠二の服をひっぱり出すと、吉田の腕ごとぐるぐる巻きにして、  
ついでにタオルで猿轡も噛ませた。  
 
(これでひとまずは安心。…でも、このままじゃ…)  
今は気を失っているとはいえ、いつ気が付いて邪魔されるかわからない。  
邪魔される、ということまで考えたところで、  
シャナはもう1人の、もう1つの障害があることに気が付いた。  
「ごめん、アラストール。」  
首からコキュートスを外すと、その鎖で吉田を後ろ手に縛る。  
一石二鳥とはこのことだ。今日は特別な日、  
ちょっと頼りなさげだけどここ一番で頭の冴える、  
でも普段はときどきぼぉっとしてるときもある悠二に、  
この熱く、焼けるような気持ちを届ける日なのだ。  
最強のライバルと、最強の保護者には退場願おう。  
と、ここで欲がでた。どうせなら、このライバルに、  
自分の思いを、悠二と『誓う』ところを、  
(─見せ付けて諦めさせよう!)  
と考え、吉田一美を悠二の部屋に運び込んだ。  
しかし、このままではアラストールには丸見えだ。  
シャナは悠二の服をひっぱり出すと、吉田の腕ごとぐるぐる巻きにして、  
ついでにタオルで猿轡も噛ませた。  
 
準備は整った。傍で気を失っているライバルを揺さぶり起こす。  
「…ん、ぅん…っ!むーっ!んんんーっ」  
なにやら非難されているようだが、そんなことは関係なかった。  
「私だって、負けない!悠二に、ちゃんと、『好き』って言うから!」  
そう言い放つと、ライバルにクルリと背を向け、悠二が眠るベッドへとむかう。  
 
 
(声が聞こえるような気がする…シャナの声みたいだ)  
「…じ、悠二!」  
(『気がする』?いや、これはシャナの声だ。  
でもこんな時間になんで…)  
ゆっくりと目を開くと、薄明かりのなかに  
不思議なシルエットがあった。  
(靴…下?シャナが靴下の中に?)  
あまりに突然な光景に一瞬噴き出しそうになったが、  
暗闇にうかぶシャナの顔を見て思わず息を呑んだ。  
真剣だ、本気の眼だ。笑ったりしてはいけない。  
「悠二、聞いて…」  
シャナの眼差しに射ぬかれたように身動きができない。  
「…私、私ね…」  
(でもなんだろう、シャナの眼つき。闘ってる時みたいに真剣なのに、  
今にも消えてしまいそうにか細い。前にもどこかで…)  
「私…!」  
突然。それはシャナのすぐ後ろから聞こえてきた。  
「─!ん─!」  
シャナの印象が強すぎて気付かなかったが、  
そこにはもう一人、よく知る人物が倒れていた。  
「吉田さん!?なんでウチに!?なんで猿轡!?」  
 
「待ってて、今外してあげるから。」  
ベッドをおりようとする悠二の胸ぐらに掴み  
掛かるようにシャナが立ちふさがる。  
「ダメ、悠二!今は私が喋ってるの!」  
「だめって…もしかしてシャナがやったの!?  
どうしてこんなこと!」  
(そう、どうしてこんなことを…いや、待てよ?  
いくら何でも突拍子もなさすぎるんじゃないか?)  
「どうしてって…そんなの、いつもお弁当が、  
今日はクリスマスで、プレセントが…!」  
シャナは遠慮もなく悠二の胸ぐらをたたく。  
「落ち着いて、シャナ。そんなに叩かないで、痛いよ。」  
シャナはベッドに腰掛ける悠二にすがりつくように  
俯いたまま黙ってしまったが、すぐに顔をあげて  
最後の呪文を唱えた。バルス!…いや、違った。  
  「私、悠二が好き!」  
真っすぐな気持ちと眼差し。  
(可愛い。すごくかわいい)  
悠二は自分の既成概念が天空の城もびっくりの勢いで  
崩れていくのを感じた。むき出しの飛行石のように  
心が浮かれていくのがわかる。  
 
その一方で、状況を未だ飲み込めないのも自覚をしていた。  
(シャナが、僕を?あのシャナが?  
今日はイブで、僕のことを好きだっていう女の子がいて、  
夜中に大きな靴下に包まっているその子がシャナ?  
しかもその後ろには吉田さんがいるなんて、  
おかしい。何か変だ。そうだ、  
シャナに叩かれた胸が痛いからって、  
現実だとは限らないじゃないか?)  
それなら、この唐突な展開も説明できる。  
結局悠二はせっかくの『夢』を楽しむことにした。  
「なら、いいよね?」  
期待と不安の入り交じった表情のシャナを引き寄せ、  
 
キスをした  
 
最初からそうするつもりで来たのだ、  
自分からするつもりだったくらいだから、  
悠二からのキスに、予想していた以上に気持ちが昂ぶって、  
顔が火照ってくる。頭がぼーっとして、  
それでいて唇だけは意識が集まっている。  
数秒か、数十秒か。触れているだけの軽いキスだったが、  
『シャナ』は唇だけの存在になってしまったかのように  
全神経で悠二の存在を感じている。  
(悠二が受け入れてくれた!私と悠二は『誓い』をたてたんだ!  
もう吉田一美にだって邪魔されない、悠二は私をえらんでくれたんだ!)  
気が付けばシャナは悠二に抱きついていた。  
最高の、メロンパンを食べているとき以上の笑顔。  
「私、悠二が好き!悠二は私のこと、好き?」  
わかっている。互いのすべてを『誓った』のだ。  
他の答えなどあろうはずもない、と思っていた。だが…  
「…シャナのことは好きだよ。でも」  
(え?)  
思考回路がとまる。あるいは物凄い勢いで働いているのかもしれない。  
『でも』は逆接の接続詞だ。後に続く言葉は決まっている。  
(悠二は『好き』って言ってくれた!『でも』?  
聞きたくない、そんな続き聞きたくない!聞きたく)  
「吉田さんにあんなひどいことするシャナは嫌いだ。」  
 
─その瞬間、坂井悠二は勝利の開拓者になった。─  
どこかで聞いたようなフレーズが聞こえたような気がした。  
シャナは小さく首を振りながら、  
「お願い、嫌いにならないで」と繰り返し呟いている。  
(普段なら入るような邪魔の心配もないし、  
この様子ならあと一押しかな。いくら夢でも  
道筋立ってないとリアリティに欠けるもんなぁ。  
それにしても、シャナの反応といい、吉田さんといい、  
こんな夢見るなんて、僕って実は隠れSなのかも。)  
相変わらず事態を飲み込めていないにも関わらず、  
話を有利に進められるのは幸運なのか悪運なのか。  
(さて、上げて落としたら次は拾い上げる。  
お決まりのようだけど、お決まりには  
お決まりになるだけの効果があるってことだ。)  
 
「シャナは僕にどうしてほしい?」  
ただ拾い上げるでは意味がない。  
垂らす糸は細く。頼りないほど依存は強まる。  
俯いたシャナの肩が微かに動き、  
絞りだすように言葉を紡ぎだす。  
「…ぁたしのこと、嫌いにならないで…」  
(よし、これでおそらく主導権は握った。  
精神的優位、心のマウントポジションだ。  
あとは少しずつハードルを上げていけばいい。)  
「なら、吉田さんとも仲良くできる?」  
シャナは一瞬ためらいはしたものの、素直に頷いた。「じゃあまずは猿轡を外してあげて。そう。よくできたね。」  
シャナへのご褒美に額にキスをする。  
シャナは顔を朱に染めながら次を促す。  
「次は?悠二、私は、どうすればいいの?」  
釣った魚にも餌は必要だが、与えすぎは良くない。  
「少しの間そこで静かに見てて。」  
冷淡に言い放つが、反論はない。  
(こういうの、なんか癖になりそうだな。)  
シャナの横を通り過ぎ、先程からこちらを見ていた  
少女のもとにむかう。  
 
 
(あぁ、ダメだったんだ…)  
薄明かりの中の2人を見た吉田一美には、他の言葉がでてこなかった。  
後ろ手に縛られ、猿轡をされていることにも気付かない。  
引っ込み思案な少女が告白までした少年・坂井悠二はしかし、  
やはり彼を好きだという少女とキスをしていた。一秒ごとに胸が締め付けられる。  
二人の唇が離れた時には、まわりの音も耳に入らないくらい惚けてしまっていたので、  
悠二が何を言ったのか理解できなかった。数秒の間をおいて、  
少女が、シャナがこちらにきて猿轡を外す。手は縛られたままだ。  
戻ってきたシャナの額に、またも悠二は口づけ、すぐさまこちらに近づいてくる。  
 
「吉田さん。」  
「さ…かい‥くん…」  
穏やかに、優しくかけられた声に、少女は我に返ると、途端に涙があふれそうになる。  
「…ごめんなさい…私、こうなっちゃう…かもって、覚悟は‥してたのに…」  
懸命に涙をこらえ言葉を搾りだす少女に、悠二は先程と変わらぬ口調で話しかける。  
「吉田さん、僕がはっきりしないせいで、ごめん。でも今の僕には、  
どちらかを選ぶなんてできそうにない。二人とも失いたくないんだ。」  
普通なら優柔不断だと怒るのかもしれない。だが少女は  
(なら私にもチャンスはあるんだ。諦めなくても、いいんだ!)  
と考えた。とはいえ、恋敵であるシャナはすでにキスをしているのだ。  
このままリードを許すわけにはいかない。ならばやるべきことは一つ。  
「わ…私にもキス、してください。」  
言ってしまった、もう後には引けない。覚悟を決めるように目を閉じる。  
 
(こうも思ったとおりにコトがすすむと、いくら夢とはいえ不安になるな。)  
シャナにキスをして、そのうえ目の前の吉田一美もキスしてほしいという。  
ぎゅっと閉じた瞼。唇も強ばって閉じられ、体も震えているようだ。  
そっと、優しくついばむように唇が触れる。緊張が伝わってくる。  
左手でそっと抱き寄せながらも、2度3度ときすをするうちに、  
彼女の緊張も解れてきたのか、強ばり閉じられていた唇が、やわらかく開かれてくる。  
薄く開いた口元に、悠二は舌を這わせはじめる。彼女の体がピクリとふるえたが、  
徐々に受け入れ、僅かずつだが自らも舌を絡めてくるようになる。  
ゆっくりと彼女の背後に手をのばし、彼女を縛る服と鎖を外すと、  
丸めてクローゼットに放り込んだ。  
自由になった彼女の腕が悠二の首に絡み付き、体が密着する。  
 
(吉田さん、すごくやわらかい。大きいんだな…胸。シャナとは違ってw)  
ちらりと盗み見たシャナは泣きそうな怒りそうな顔で、  
しかし悠二の言い付けを守っておとなしくしている。  
不意に首が自由になる。すると彼女の手は悠二の右腕にかけられた。  
彼女の背中から引き離されてた腕は、別の場所へ導かれる。  
クラスの女子のほとんどが『あれには適わない』『吉田さんは別格』  
と称する胸に触れている。思わずゴクリと唾を飲んだ。彼女の唾液も混ざっていた。  
ゆっくりと顔が離れる。暗闇のなかでもわかるくらい紅くなっている。  
(これ、本当に夢か?なにがなんだかわかんないけど  
これ以上先に進んでいいんだろうか。取り返しのつかないことになる気が)  
「坂井くんには、私の全部を知ってほしいの。」  
かけられた声のせいで考えは中断され、代わりに頭を埋め尽くすのは  
右手に伝わるやわらかい感覚と目の前の少女の真剣な眼差し。  
 
(だめだ、衝動を堪えきれない!)  
悠二は彼女の唇をふさぐと、恐る恐る右手を動かす。  
「…ん、んん‥」  
自分の体とは違うやわらかな弾力と、ふさいだ口からこぼれる艶やかな声。  
一度解放された右手の動きは次第に大胆になり、  
彼女の反応も服のうえからとは思えないほど大きくなってくる  
「服の上からでもこんなに…直接触ったら吉田さん、どうなるのかな?」  
思ったことをわざと口に出して聞かせる。  
「ん…ぁぁ、そ…んなこと…んふぁ!」  
息も荒くなり、心なし瞳もとろんとしてきたようだ。  
「脱がして…いい?」  
ゆっくりうなずくのを確認して彼女の服に手をのばす。…とその時。  
 
「だめ!」  
と傍観していたはずのもう一人の少女がしがみついてきた。  
「シャナ?言ったよね、静かにしててって。」  
「わかってる!わかってるけど!」  
「それにこれは、吉田さんに意地悪したシャナへの罰でもあるんだ。  
だめっていわれたからってやめたら、お仕置きにならないじゃないか。」  
そう、これは吉田一美に対する好意の表現であるとともに、シャナへの罰でもあった。  
「違うの、確かに私も意地悪したけど!  
先にズルかったのはあっちで、今日だって、だから!」  
必死に訴える様子は普段では考えられないくらい可愛った。  
「わかったよシャナ。なら先に、シャナとしてあげる。吉田さん、続きは少し待ってて。」  
そういって彼女に軽く口づけると、しがみつくシャナの手を解いて  
お姫さまだっこでベッドにつれいく。  
 
思わず止めに入ったものの、いざベッドに寝かされるとどうしていいのかわからない。  
(こういう時どうすればいいかなんて、ヴィルヘルミナも教えてくれたことないもの…)  
悠二がまたがるように覆いかぶさってくる。服越しにも体温が伝わるような感覚に、  
もどかしいような、不安なような。もやもやした気持ちが湧いてくる。  
そっと手を伸ばし、悠二の顔を引き寄せ、キスをするが、離そうとした唇はふさがれたままだった。  
「ちょっ、悠……!」  
どうしたのかと口を開いたとたん、悠二の舌が侵入してくる。  
(!!)  
思いもよらぬ悠二の行動に一瞬体が硬直する。  
悠二の舌が触れるたび、逃げるように舌を動かすが、  
逆にそれを追う悠二によって、狭い口内はくまなく侵されていく。  
(っ…なに?…こんなこと、何にも書いて…なかった、のに…でも、なんだか…)  
口中が悠二の味に。驚きは胸の高鳴りに。もどかしさは快感に変わっていく。  
いつの間にか自ら悠二を求めて舌を這わせていることにも気付かない。  
 
突然、胸に手が添えられる。フレイムヘイズになって以来成長していない小さな膨らみ。  
学校の女子たちは『きれいな体付きだね』などと誉めてくれたこともあったが、  
悠二を好きだと意識して以来、『男はみんな大きい胸のほうが好き』  
という噂を真に受け(大抵の場合、あながち嘘でもないのだろうが)、  
密かに?気に病んでいた場所。そんな場所に服越しとは言え悠二が触れている。  
(悠二はどう思ってるのかな…)  
尋ねる勇気もないし、口をふさがれて喋ることもできない。  
そんなシャナに気付いているのかいないのか、悠二は添えていた右手を  
シャナの胸を撫でるようにやさしく愛撫しはじめる。「‥ん…ん」  
漏れだすシャナの声に悠二がふと唇を離す。  
「あっ、悠二…」  
おもちゃを取り上げられた子供のように泣きそうな声をあげたシャナに、  
悠二はやさしく少し意地悪な顔で囁く。  
「あわてないでシャナ。続きの前にお願いがあるんだ。」  
 
何だかわからない、といった表情のシャナにさらに続ける。  
「封絶を、張ってほしいんだ。物音や声で母さんに気付かれると不味いだろ?」  
「う、うん。わかった。」  
千草の話をされたシャナは一瞬ドキリとして、悪戯がばれるのを嫌がる子供のように、言われるままに部屋一帯を封絶で囲った。  
「悠二…これで、いい?」  
「うん、これで邪魔されないですむね。」  
あらためてキスをする二人。そして悠二が再び口を開く。  
「シャナそろそろ服、脱いで。」  
シャナはこの期に及んでイマイチ展開が理解できていなかった。  
(なにが『そろそろ』?服脱ぐの?)  
それでも、ここでもたついては折角奪ったアドバンテージが  
無駄になりかねないと思い、腰や背中を浮かせたりしながらゆっくりと服を脱いでいく。  
悠二のベッドの上。一糸纏わぬ姿になったシャナは、恥ずかしそうに腕で体を隠そうとしている。  
悠二はそっとシャナの手をどけ、露になった体をじっと見つめた。  
 
「そ、そんなに見ないで!」  
シャナは真っ赤になりながら顔を背ける。  
「どうして?」  
「…だって悠二も大きい方がいいんでしょ?私、胸おっきくなから…」  
聞かなければよかった、という表情のシャナに、悠二は笑いながらいう。  
「なんだ、そんなこと気にしてるの?違うよ、胸が大きいとか小さいとか、  
そんなことでシャナを好きになったんじゃない。シャナは十分綺麗だよ。」  
「悠二…あ、ありがとう。」  
悠二の言葉に照れたシャナは、今度は俯いてしまう。  
「触って、いいかな。」  
「…うん。」  
簡潔なやりとり。悠二が再び、今度は直に、その膨らみに手を伸ばす。  
「…ん、くぅ…ん!」  
今はキスをしていないので、シャナの発した声がそのまま部屋に響く。  
悠二はその声をふさがぬように頬・首筋・鎖骨と、徐々に唇を這わせていく。  
「ああぁっ!」  
悠二の唇がわずかに勃った緩やかな頂きを捕えた。吸うように、舐めるように。  
はじめての感覚に、体の芯から何かが溢れそうになる。  
もどかしげに両脚を擦りあわせる姿に悠二は、  
(そろそろかな?確認、してみるか。)  
と恐る恐る右手をシャナの下腹部、まだ汚れていない部分に滑らせる。  
(あれっ?予想より濡れてない?)  
初めての快感に身体がついてこないのか、反応の割に準備は整っていなかった。  
 
頬も、首も、鎖骨も胸も、悠二の触れる場所全てが驚くほど熱い。  
悠二が赤ん坊のように自分の胸を求めている。とても嬉しくてすごく恥ずかしい。  
初めての感覚に、少しずつぼーっとしてくる。悠二の愛撫に支配されそうになったその時、  
(――!!)  
身体を電気が流れた。一瞬頭が真っ白になる。  
  ごっ!  
鈍い音がした。我に返ったシャナに、悠二が力なく被さっている。  
「…悠…二?」  
問い掛けにも反応はない。思わず傍にいる一美に視線を送る。  
「気絶…してるみたいですね。」  
「そ、そうね…。」  
「…」  
「……」  
「ど、どうしよう?」  
「と、とりあえずシャナちゃん、服を…」  
「!!」  
バタバタと脱ぎ捨てた服を拾い集めるシャナだった。  
 
 
12月25日  
 
「うわっ!なんで!?」  
その日はホワイトクリスマスだった。少なくとも坂井悠二にとっては。  
「変な夢でも見たのかな…。とにかく、早く着替えないと…  
あれ?なんか首がうまく動かないぞ?寝違えたかなぁ。なんか嫌な1日のスタートだな…」  
しかし彼は知らない。あの2人がリビングで待っていることを。  
 
 
 
KAN  

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