「クックック……!……良い、良いねぇ……」  
大通りにある喫茶店の中を覗きこむ男がひとり。  
通りに面している大きなウインドウに片手を付き、  
額を押し付けんばかりに身を乗り出し、店内を動き回るものを目で追っている。  
オールバックにした銀髪に、ダークスーツを着た長身。  
濃い黒のサングラスを掛けたその顔には、しまりのない笑みが張り付いていた。  
 
男はなにを見ているか?  
喫茶店とくれば決まっている。  
そう、ウェイトレスである。  
 
特にこの店の制服は露出度が高い。  
膝上の短いスカートに胸元を大きく開けて強調したデザインの制服。  
店内の客もそれが目当てである者が多数いるようだった。  
翻るスカートの裾や開いた胸元から覗く谷間にチラチラと視線を送っている。  
だが、彼らのように客としてコッソリと見るのではなく、往来で堂々と  
ウインドウに手をつき、貪るように熱い視線を送るのはいかがだろうか?  
 
その男、シュドナイを指差し、囁きあい、遠巻きに避けて行く人々。  
その声や視線を感じているのかいないのか、シュドナイはさらに笑みを深める。  
「人間界もいい所だ………こんなに良いものを見る事ができるとは……あれをわが愛しき姫君、  
ヘカテーに着せるとどうなるだろうか……ククク………スクール水着も素晴らしいが、  
あれも勝るとも劣らないのでは?」  
店の制服がぴったり合うような豪華なプロポーションをした、長い髪のウェイトレスが  
視界を横切っていく。  
 
ふと、ガラスについていた手を顎に掛け、思案顔になる。  
「しかし、ヘカテーは胸がないからな………あれだけ胸が大きく開いている衣装を着せても  
あまり似合わないかもしれん………いやしかし、そのアンバランスさが  
またいいかもしれんな………クククッ!」  
脳内でヘカテーに制服を着せた姿を妄想しながら、実際にどんな餌で誘いこみ、  
ウェイトレスの服を着せるかを吟味する。  
「なにかいい案は………んっ?」  
店内を慌しく動き回るウェイトレスに混じって、ウェイターの格好をした少年を見つけた。  
「あれは確か………ミステス、坂井悠二とか言ったか」  
ガラスの向こう側では、そのミステスの少年が客の注文を取り、早足で厨房に消えていった。  
「一度は嫌な目に遭わされたが、今回は非常に好都合だ」  
シュドナイはひとりほくそ笑むと、踵を返し、街の雑踏に紛れ込んでいった。  
 
そして、二週間後。  
大通りにある喫茶店で、悠二は今日も働いていた。  
「ふぅ……やっと休憩か」  
ようやく昼休みに入り、従業員用のロッカールームで一息つく。  
悠二がこの喫茶店でバイトをしている理由。  
それは他ならぬシャナとの旅立ちの下準備だった。  
何もやったことがない、学校以外での人との付き合いがなかった悠二は、社会経験と称してバイトをすることにしたのだ。  
シャナいわく  
「そんな暇があったら鍛錬すれば?」  
だそうだが、悠二は大切なことだと思い、不満そうなシャナを押し切った。  
最初は失敗をしながらも、徐々に仕事にも慣れてきたころ。  
二週間ほど前に新しくバイトを始めた娘と知り合った。  
悠二の胸ぐらいまでしかない小さな体。シャナと同じぐらいだろうか。  
透き通るような水色の短めの髪と、大きな瞳。シャナとは正反対。  
あまり表情を浮かべない整った顔。前者はシャナとは違う。  
そしてついでに、店の制服が似合ってないようなミスマッチしているような、未成熟な体。  
シャナよりは胸……大きい………かな?  
名前はヘカテーと言った。  
 
いつも淡々と仕事をこなし、笑ったりすることが少ないが、なぜか悠二には少なからず心を開いているようだった。  
彼女はまだ店内で走り回っているのだろうか?  
と、  
「……きゃっ!」  
小さく短い悲鳴とともに、皿やグラスが割れる壮大な音が聞こえてきた。  
「ヘカテーさんかな?」  
声が似ているような気がする。  
休憩時間だったが、悠二は慌ててロッカールームを出た。  
 
店内に戻ると、ざわめきが耳を打つ。  
案の定、こけていたのはヘカテーだった。  
「大丈夫?ヘカテーさん」  
床にはぶちまけられたジュースやガラスの破片が散乱し、床に尻餅をついたヘカテーの制服や顔、ついでに白のニーソックスに包まれた太ももにまで、ショートケーキのクリームなどが飛び散っていた。  
床に座り込んだヘカテーは珍しく、今にも泣き出しそうな顔をして悠二を見上げていた。  
「あらら……」  
「大丈夫ー?」  
他の従業員も集まってきた。  
ともかく、床に広がったジュースが制服に染み込まないよう手を差し出す。  
「さ、立って」  
「はい……すみません…」  
ヘカテーは素直に悠二の手を取ると、危なっかしく立ち上がった。  
「まずは着替えた方がいいね、行こう」  
悠二は近くにいた店の先輩に後片付けを頼むと、ヘカテーの手を引いてロッカールームまで連れて行った。  
 
「さ、僕らが後片付けしておくから、着替えておいでよ」  
「すみません悠二さん……」  
「誰だって失敗はあるよ、気にしないで」  
シュンとした様子で俯くヘカテーの肩を優しく叩いてやる。  
「はい…そうですね」  
ヘカテーは顔を上げるとちょっとだけ笑った。  
悠二も笑い返してやる。  
「さ、早く着替えて。それと顔も洗わないとね」  
そう言いつつ、部屋を出ようとした悠二の背中に  
「悠二さん」  
ヘカテーの声が掛けられる。  
「何?」  
悠二は振り返った。  
「ありがとう…」  
ヘカテーは微笑んでいた。  
クリームとかがべたべたついていたけれども。  
いつも感情の起伏が小さいせいかもしれないけれど。  
とても可愛いと悠二は思った。  
普段もこれぐらい笑えればいいのに。けど、僕の前だからかな?そうも思った。  
悠二にも微笑が浮かんだ。  
 
そしてその日の夜。  
ようやく今日のバイトが終わったものの、悠二はなぜか店の戸締りを任されてしまった。  
店長いわく、用事があるそうだ。  
まだ一ヶ月も働いてないアルバイトに店の戸締りを任せるのもどうかと思うが、  
悠二は了承してしまった。  
 
「さて…と」  
ガスの元栓、窓の戸締りを確認し、ロッカールームに戻ろうとすると  
「ふぅ…疲れた……ってヘカテーさん?」  
まだ残っていたのか、制服のままのヘカテーがぽつんと立っていた。  
「どうしたの?こんな時間まで」  
突っ立ったままのヘカテーに近づく。  
「あの…今日のお礼が言いたくて」  
「いや、お礼って…別にそんな」  
悠二の胸ほどのところにある大きな瞳が見つめてくる。  
暗い店内ではよく判らないが、心なしか新雪のように白い頬が染まっているように見える。  
「悠二さん」  
まったく唐突に、小柄な体が胸に飛び込んでくる。  
「っ!ヘカテーさん…?」  
細い両腕をいっぱいに広げて、悠二の体を抱きしめている。  
「ごめんなさい……わたし……本当は………こんなこと…ダメ……なの……に」  
「最初は……監…だけだったのに………けど……」  
「ヘカテー……さん…?」  
「でも…………どうしても……今だけでも……」  
そこでようやく悠二は気付いた、自分を抱きしめている小さな体が震えていることに。  
困惑する。なぜヘカテーが泣いているのかが判らない。  
「なに……?どうしたの………?」  
「今まで………こんな……やさ…しい……居な、くて……っ……」  
「だから……お願い……いま…いまだけ………」  
詳しい事情は判らないが、胸の中で静かに泣いている少女をやさしく抱きしめた。  
それ以外する事が思いつかなかった。  
なんだか、胸が暖かくて、冷たかった。  
 
「悠二さん……ひとつだけ、お願いしてもいいですか?」  
ぽろぽろと落ちる雫に濡れた顔を上げ、ヘカテーは悠二を見上げた。  
「なに?」  
「目を…瞑ってください」  
「わかった」  
なにをするか悠二にも想像がついた。けれど、拒否する気にはならなかった。  
初めてこの小さな少女が愛しいと思った。  
一瞬、二人の少女の顔が浮かんだが、すぐに消えた。いま……いまだけ………  
 
「ん……っ」  
唇に柔らかくて、すこし冷たい感触がした。  
頭の後ろに手がまわされ、必死につま先立ちになっているのがわかった。  
十数秒、そのまま静かに重ねていた。  
「ふぅ……っ」  
唇が離れたと同時に目を開ける。  
さくらんぼみたいに真っ赤になった顔が目の前にあった。  
「悠二さん……すき………です」  
か細い声と、潤んだ瞳。  
「うん……僕も」  
もう一度、そっ、と唇を重ねる。ヘカテーの瑞々しく、柔らかな感触を楽しむ。  
「んぅ…んふ……ぅ……」  
「んん………んぅ」  
ひとしきり楽しんだ後、薄い唇を舌で割った。  
「んぅっ!?」  
驚いて縮こまったヘカテーの舌を絡め取ると、やさしく愛撫する。  
「んふぅっ、んんぅ、んっ」  
「はむぅ、んむ、ちゅ、ちゅぅ」  
「ちゅぅ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅくっ」  
必死に答えようとする動きがとても可愛らしい。  
「んんぅっ、はむっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅぅぅっ」  
「ちゅむぅっ、ちゅっ、ちゅぅ、くちゅぅっ、ふぁっ」  
狭い口内を隈なく味わい、口を離す。つつぅー、と唾液が糸を引いた。  
 
「あっ」  
ディープキスで力が抜けたのか、へたり込もうとした体を支え、近くにあるテーブル席に横たえる。  
「あ、あの……」  
「怖い…?」  
不安そうに悠二を見上げる瞳が揺れている。  
「はい……でも、やさしくしてくれたら…」  
「うん……約束するよ」  
頷き、あまり膨らんでいない胸に手をあてる。  
「はぅ……」  
「すごく……柔らかい」  
ボリュームは全然足りないと言ってもいい慎ましい胸だが、服の上からでも容易に形を変える。  
「ドキドキして……胸が痛いです…」  
「僕もだよ…」  
悠二はヘカテーの手を取ると、自分の胸にあてる。  
「本当……」  
ちょっと微笑む。ヘカテーの鼓動は小動物みたいに速かった。  
よっぽど緊張しているのだろう。体も張り詰めたように硬いようだった。  
「力を抜いて……」  
そう呼びかけつつ、やわやわと胸を揉む。  
「んふぅ……んん、ふぁあ」  
「あぅ……んぅ、はぁ…んんぅ」  
制服の前をはだけ、胸を直に揉み始める。  
本当にマシュマロみたいに柔らかい。悠二は夢中になって揉みしだいた。  
「んんぁ、ふぁ、はぁぁ、んっ、んぁっ、ふぁう」  
「あぅぅ…んん、ぁっ、はぅ、ふぅ、んぁぅ」  
次第に中央にある淡い突起が勃ってきた。  
それを人差し指と中指で挟みながらこねまわす。  
「あぅうっ!ふぁぅ、あんんぅ、はあぁぁ、ふぁうぅ」  
今度は口に含み、舌で転がす。  
「ふぁぁっ!あんぅっ!はあぁぅ、あぅう、ふぁぁぁっ」  
じんわりと白い肌が汗ばみ、火照ってきた。  
 
先程からもじもじしている太ももを撫で、すべすべとした感触を楽しむ。  
「悠二さん……そっちも…」  
「こっち?」  
懇願するような顔で頷かれると、どうにも意地悪がしたくなる。  
短いスカートをたくし上げると、焦らすように太ももやお腹を撫でる。  
「んんぅ…悠二さん…っ……いじわる……しないで…」  
ヘカテーは目に涙をいっぱい溜め、か細い声を出した。  
「ごめん……」  
やさしくおでこにキスをする。  
そして純白のショーツに包まれたその部分に手を当てる。  
「あぅっ!」  
よっぽど待ち望んでいたのか、指が触れた瞬間ヘカテーの体が跳ねる。  
「うわ…すごい……」  
ただ触れただけで指を濡らすほどの愛液が漏れ出す。  
「んあぅっ、あふぁうっ、はああぁっ、ああぁぅっ!」  
「ああんっ!気持ち……いいですっ」  
そのまま小刻みに指を動かす。  
「ああぅっ!はんっ、あんぅっ、ふあぁぁっ、はぁぁぅっ」  
「んんっ、あぅっ、はぁぁっ、ふあぁあっ、んぅうっ」  
「脱がすよ……」  
荒い息をしながら頷いたヘカテーの足を持ち上げ、するするとショーツを抜き取る。  
 
悠二は現れたヘカテーの秘所に思わず見とれた。  
「すごく綺麗だ……」  
お腹から続くなだらかなライン。  
毛も生えておらず、雪原のように白く美しい。  
その中に肉付きも薄い割れ目がある。  
今もそこから洪水よろしく愛液が流れ出ている。  
秘所に指を当て、ゆっくりと上下させる。  
「はぁっ!ふあぁぅっ、あんっ、あぁぁぅっ、ふああっ!」  
「ああぁ、ぁっ、ふあぁっ!んんぅっ!ああぁっ!」  
それだけでヘカテーは喘ぎ、高い声が暗闇に包まれた店内に響く。  
上部にあるクリトリスを摘み、こねる。  
「ああんっ!はあぁっ!ふぁあぅぁっ!ひゃぁぅっ!」  
一段とヘカテーの喘ぎが大きくなり、さらに愛液の量が増える。  
「い、嫌ですっ!ふあぁぅっ!ダメですぅっ!はぁぁぁあぅっ!」  
「気持ちよすぎてっ、ああぁんっ!はぁあぅ、おかしくなっちゃいますっ」  
「いいから、もっと身を任せて…」  
「あぅっ!はあぁっ、ふあぁぁうっ、ふあんんっ、あああぁっ」  
 
ヘカテーの声が段々と切羽詰ったものになってくる。  
悠二はここぞとばかりにクリトリスをきゅっと摘んだ。  
「あぅっ!ふぁっ、ああっ、あっ、ああああああぁぁぁっっ!!」  
足が攣ったように伸び、痙攣したように体を震わせ、ヘカテーは初めて絶頂に達した。  
「はあっ、はあっ、はぁっ、はあぁ……」  
「気持ちよかった……?」  
「はぁ、はぃ……」  
息も絶え絶えに答えてくれる少女がとても愛しい。  
悠二はベルトを緩め、自らのモノを取り出すと、濡れに濡れた秘所にあてがう。  
「あっ……」  
「ヘカテーさん……いい?」  
「…はい」  
ヘカテーは悠二を見つめて静かに微笑んだ。  
そんなヘカテーに胸を締め付けられるような衝撃を与えられる。  
「いくよ…」  
「はい……っ」  
ゆっくりと腰を押し進めるが、やはりヘカテーの中はとても狭かった。  
「くぅ……狭い…」  
慎重に、できるだけ痛みを与えないように。  
壁をほぐすように徐々に進んでいく。  
「いっ…痛…っ……!」  
再び目尻に涙が溜まっていく。  
充分以上に濡れそぼっているものの、そもそも体の大きさが違うため、ヘカテーにとってはかなりの負荷が掛かっているはずだ。  
「ごめん……もう少しだから」  
と、今までで一番大きな抵抗にあう。  
先端に当たる感触からして、おそらくこれがヘカテーの処女の証だろう。  
「ヘカテーさん……本当にいいね…?」  
「…はい…わたしは……悠二さんになら」  
涙に濡れる瞳が、はっきりとした意志を持っていた。  
「いくよ…」  
 
ぐっと腰に力をいれ、突き入れると、膜が破れる感触と共に、奥まで挿入された。  
「はあああぁぁぁっっ!」  
「はいったよ……頑張ったね…」  
「んぅっ…っ…」  
破瓜の痛みに耐えるヘカテーの頭をやさしく撫でてやる。  
「うぁぅ……悠二さん……わたし…嬉しい……です」  
痛みに顔を歪めながらも、ヘカテーは微笑んだ。本当に嬉しそうに。しばらく、そのまま動かずに痛みが去るのを待った。  
「悠二さん……」  
「大丈夫?」  
「はい……もう、動いてもいいですよ…」  
表情も嘘を言っているようには思えない。  
「わかった。けど、つらいならちゃんと言ってよ?」  
「はい………」  
悠二はガッチリと固定されたようになっている柔壁を剥がすように腰を引き、  
先端が抜けそうなところで再び押し込む。  
「うぁぅ……」  
ゆっくりと同じ動きをする。  
「ふぁぅ…あぁぅ……」  
少し痛みが混じる声だが、あまり辛そうには見えないので腰の動きを段々と速める。  
「んぁうっ、はぅぅっ、あぁぅっ、ふあぁぅっ」  
「あんっ、ああぅっ、ふあぁんっ、あぁんっ」  
空いている手を伸ばし、胸を揉む。  
「ふぁんっ、あぁんんっ、あぁぁあぅ、はぁぁんっ」  
「ヘカテーさん……可愛い…」  
「はぅ…なんだか……気持ちいいです…」  
 
「ふぁうっ、もう少し…っ……速くしていいです…」  
「うん…」  
ヘカテーの望みどおり少し動きを激しくする。  
「んぁぁぅっ!はぁぁぅ、んんっ、はぁ、ふぁぁっ!」  
「ああぁっ、も、もっと、もっと下さいっ、ふぁぁうっ」  
「ああぁぅっ、ふあんぅっ、あぁぁあぁ!はあぁんっ」  
ただ単調に突くのではなく、緩急をつけたり、様々な角度から挿入を繰り返す。  
「悠二さぁんっ!あぁっ、はあぁぅっ、ふぁぁんっ!」  
「くぅっ…僕も…気持ちいいよ……」  
「あぁぁっ、はあぁぁぁっ、ふぁあぁあっ、ひゃぁぁっ!」  
そろそろ限界が近いのだろう、声のトーンが一段と高くなってきた。  
悠二も背中に走るゾクッとした感覚に腰の辺りが震える。  
 
「ああぁっ!はふぁぁっっ!はぁぁぁんんっ!ふぁぁっ!」  
「くっ!もう、出るっ!」  
「わたしも、もぅっ!」  
「はぁぅっ!んんぁぁっ!はあああぁっ!」  
「あんっ、あっ、あっ、あっ、あぁっ!ふああああああああああぁぁぁぁぁっっ!!」  
思い切り奥に突き込むのと同時に、視界が真っ白になるほどの開放感が訪れる。  
悠二のモノから飛び出した白濁液が、ヘカテーの膣内に注ぎ込まれる。  
「はぁぁぁぁ、ふぁぁぁ、はぁぁ……」  
最後の一滴まで注ぎ込むと、そのままヘカテーの上に倒れこむ。  
「はぁ、はぁ、はぁぁ……」  
「はぁぁ…はぁ、はぁぁ、はぁ」  
ふたりとも荒い息をいつまでも吐き続けていた。  
 
 
息が整った後も、ふたりは無言で抱き合っていた。  
なぜか、ヘカテーが何処かへ行ってしまうような気がしていた。  
お願い……いま…いまだけ………  
ヘカテーの言葉が思い出される。  
それでも悠二はこの小さな、とても愛しい少女を放したくなかった。  
 
「悠二さん……」  
「……何?」  
悠二の胸の中で、ヘカテーは呟いた。  
「わたしと…こんなことして……後悔……してませんか……?」  
「……なんで?」  
「えっ?」  
驚いて見上げるヘカテーに、悠二は微笑みかける。  
「大好きな人とひとつになれたんだから……するわけないよ……」  
「ありがとう………ございま…す……」  
ふたりはやさしく抱き合ったまま、最後のキスを交わした。  
やわらかな月光が店内に差し込み、ふたりを祝福していた。  
 
そして次の日。  
喫茶店を訪れた悠二は、ヘカテーが店を辞めたことを知る。  
悠二は、誰もいないところで少しだけ、泣いた。  
 
 
「ふぅ…………」  
白銀に染まる峰の頂で、大きな帽子とマントを着た少女は憂いの表情を浮かべ、溜息を吐いた。  
ふわりと白い吐息は空へ浮かび、消えていった。  
「いったいどうしたんだ?わが愛しきヘカテー」  
突如背後に現れたシュドナイを気にも留めず、再び溜息を吐く。  
シュドナイは困惑するばかり。  
零時迷子を奪取する為、もといヘカテーにウェイトレスの格好をさせる為に人間界に送り込んだものの、零時迷子の回収すらせず、昨日突然星黎殿に帰ってきてからずっとこの調子である。  
ミステスと何かあったのか?そう思い問いただしてみても上の空。  
ただ空を見上げて何かを考え、溜息を吐く。  
その繰り返し。  
「ヘカテーにウェイトレスの格好をさせれたのは良いが、いったい何があったのだ?  
判らん」  
思考の海に溺れていこうとしたところを、  
「千変」  
ヘカテーの声が突如耳に響いた。  
「なんだ?」  
いつもの無表情でこちらを見ている。  
「……あなたには感謝すべきなのでしょうか?」  
「は?」  
今まで素気無く扱われてきたシュドナイにとって驚きの発言である。  
「彼と出会えたのは………」  
「彼?」  
彼、そしてヘカテーのここ数日の変貌、溜息、憂い。  
様々なピースが混ざり合わさり、ひとつの推論ができあがる。  
「……………まさか」  
「またいつか………逢いたい………いえ……逢いに行きたい………悠二さん…」  
ヘカテーの最後の言葉はシュドナイの怨嗟の声に掻き消される。  
しばらくの間、呪詛の言葉が雪の降り積もる峰に響き渡っていた。  
 
Fin?  
 

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