吉田一美はベッドの上で人形を抱いていた。  
それはどことなく彼女の想い人に似ている雰囲気がある。  
ぎゅっと抱き締めるたびにあの屋上での出来事が脳裏に浮かび上がった。  
「坂井、くん…」  
想いを告げたあの日。吉田一美は毎夜そのことを思い出しては自らを慰める。  
絶頂に達した瞬間に吉田一美の眼に赤いものが見えた。  
虚ろな悦楽の眼が一気に細まる。  
どすっ。  
枕元にあったハードカバーの本を投げつけた。  
赤い人形は重量のある本を身に受け、歪む。  
「シャナちゃんには…わたさないんだから」  
ホツレと汚れが目立つそれは、彼女の恋敵にどこかにていた。  
「シャナちゃんには…わたさないんだから」  
人形にめり込んだ本を拾い、代わるように足で踏みつけながら吉田一美は凄絶な微笑みを浮かべた。  
 

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