空に、花が咲いていた。  
色鮮やかな特大の火の花が。  
祭りに付きものの観衆の喧騒も、辺りには無かった。  
「綺麗だね、シャナ」  
「うん」  
短い草が生い茂る土手にふたりは居た。  
千草に選んでもらったのだろう、緋色の着物を着たシャナの隣に悠二は座っている。  
眼下には小さな川。黒い流れに花火が歪んで映っている。どこからか、微かに虫の声が聞こえた。  
夏の夜の、生ぬるくも不快ではない風が髪を揺らす。  
シャナの長い髪が、くすぐるように悠二の頬を撫でた。  
「ん……」  
むず痒いその感触に、思わず声が漏れる。  
シャナの方は特に気にもせず、夜空を見上げている。  
またひとつ、鮮烈な火の花が夜の闇を照らす。  
一瞬だけシャナの横顔が光の乱舞に晒される。  
どこか楽しそうであり、驚いているようであり、嬉しそうだった。  
 
「ねえ、悠二」  
「ん、なに?」  
しばらくの中休みに、シャナがこちらを向く。  
周りには街灯が無いので、その顔ははっきりと見ることは出来ない。  
無論、シャナにとってもそうなのだが。  
「花火って、なんであんなに綺麗なの?」  
「うー……ん……」  
唐突な問いにしばらく唸った後、悠二はありきたりな答えを返す。  
「やっぱり、一瞬……だからじゃないかな」  
「え?」  
「ほら、花火ってさ、ほんの一瞬だけ輝くだろ?やっぱり、短くてもその一瞬に思いっきり光るから、儚くても人の心に残るんじゃないのかな?」  
言ってから、なんだか恥ずかしい台詞だということに気付き、顔が赤くなる。  
(なに言ってるんだろ……)  
「…………」  
「……なんか僕、ヘンな事言った?」  
突然黙り込んでしまったシャナに、意味も無く悠二は焦ってしまう。  
「……私は―――――?」  
「え?なに?」  
シャナの言葉は再び始まった花火の音に掻き消されてしまい、聞き取れなかった。  
「悠二―――」  
「シャナ、よく聞こえないんだけど……?」  
悠二が心持ちシャナの方に体をずらすと、シャナも悠二に寄り添ってきた。  
顔を右に向けると、すぐ傍にシャナの顔がある。  
光の残滓に漆黒の瞳が濡れている。  
妙に鼓動が速く感じた。  
 
「悠二」  
「な、なに、どうしたの?」  
今度は三つ、光が飛び散る。  
「私ね」  
途切れることなく花火が上がった。  
いつの間にか終幕はすぐそこまで来ていた。  
 
「私―――悠二が――――――」  
 
ドオォォ………ォォォン…………  
 
時が緩慢に動いているように思えた。  
鼓膜に響いていた破裂音も、シャナの声も、自分の声も聞こえない。  
花火大会の目玉、特製の巨大花火の強烈な緋色の輝き。  
照らし出された自分の顔と、シャナの顔。  
潤んだ瞳をした少女は、微かにその可憐な唇を動かした。  
 
 
好き、と。  
 
 
「……ッ!」  
あまりに唐突で、深い想い。  
声は聞こえなかったけれど、シャナは確かにそう言っていた。  
悠二の胸が急速に締め付けられる。  
形容しがたい何かに突き動かされるようにして、目の前にいる少女を抱きしめた。  
「悠……二………?」  
出来る限りの力でシャナの温もりを感じながら、耳元で囁いた。  
「僕も、だよ……」  
「ぇ…………あ」  
くぐもった声でそう言うと、シャナも悠二の背中に手をまわしてきた。  
「僕も、シャナが好き」  
「………う…ん」  
左頬に触れるシャナの頬が濡れていた。  
いつか抱きしめた時のように、暖かくて、とても小さかった。  
普段はあんなに大きな存在感を放っているのが嘘のように。  
やっぱりどこにでもいる、ひとりの少女なのだと今更ながら実感する。  
「あったかいよ、シャナ」  
「うん……」  
夏であるというのに、全く不愉快ではなかった。  
ようやく繋がった想いが伝わってくるように、胸に温かいものが満ちてくる。  
随分と長い間、そのままでいた。  
 
花火大会も終わり、遠く聞こえる喧騒も段々と小さくなってゆく。  
 
胸の中のシャナは、穏やかに目を閉じている。  
その頭を優しく撫でながら、悠二は空を見上げた。  
「……?」  
なにかが目の端を掠めた。  
視線を動かすと、数メートル先の草むらに淡い緑の光点がひとつ。  
一定のリズムで光を放っている。  
「……蛍?」  
ひとつしかなかったそれが、最初の一匹に呼応するかのように徐々に数を増す。  
「シャナ」  
「……ん、なに?」  
「ほら、見てごらんよ」  
シャナの肩越しに指差す。  
振り返ったシャナは、そこに複雑な軌跡を描いて飛ぶ無数の光を見止めた。  
「きれい…………」  
「うん、ここ、水が綺麗なのかな?」  
「たぶんそうだと思う……」  
どちらかと言うと都会に属する御崎市にも蛍がいるとは知らなかった。  
ふたりして幻想的な蛍たちの舞踏会を見つめる。  
 
「ねえ、悠二」  
「ん、そろそろ帰る?」  
「ううん、じゃなくて」  
シャナは頭を振る。長い髪がふわりと揺れた。  
「なら、なに?」  
「えっと、その……」  
「……?」  
「その……私と、誓って………ほしいの……」  
「え?」  
(誓う?)  
意味がわからなくて、頭の中に疑問符が浮かぶ。  
シャナは悠二の顔を上目遣いで見つめながらぽつりと呟いた。  
「………きす、して……ほしい……の………」  
言った途端にその頬が真っ赤になっていった。  
「えぇっ!?」  
対する悠二も突然の要求に急速に思考が混乱する。  
急場に際して冴え渡る自分の脳も、この時ばかりは全くといっていいほど冷静ではなかった。  
「えええと、その、あの、キスって……」  
「………うん」  
もはや蚊の鳴くような声で肯定するシャナ。  
「い、いいの?」  
「うん、悠二となら……いい」  
「え、と……それじゃ」  
震える手をシャナの肩に置き、片手を頬に添える。  
シャナのほっぺたはすべすべしていて、柔らかくて。  
けれど、風邪を引いたみたいに上気していて、熱かった。  
ゆっくり、ゆっくりと顔を近付けていく。  
心臓が壊れそうなほど高鳴っている。  
腕が震え、膝が震え、唇が震える。  
その震えを必死で押さえ込みながら、さらに近づく。  
あと、十センチ。  
 
シャナの瞳と唇が揺れている。  
切なげな吐息が顔にかかる。  
あと、五センチ。  
 
「……悠二」  
「シャナ……」  
お互いに、自然に目を瞑る。  
 
さあっ……  
 
柔らかい風が吹いた。  
その風はふたりの髪を誘うように靡かせ、そして蛍たちを空へと舞い上がらせた。  
小さな緑の光が舞う、この世のものとは思えない空間の中で、ふたりはそっと誓いを交わした。  
 
唇が、今まで感じたことの無い柔らかさに触れた。  
「ん……」  
恐る恐るといった感じで、シャナが悠二の首に手をまわす。  
悠二も、シャナの小さな背中に手をまわして体を密着させる。  
シャナの唇は薄く、すこし濡れていた。  
鼻腔を甘い香りがくすぐる。  
「っ……はぁ……」  
一旦唇を離すと、シャナは熱い吐息をひとつ。  
「なんか……夢を見てる気分だな……」  
「どうして?」  
悠二はちょっと笑って答えた。  
「シャナが僕のことが好きで、告白されて、今、こうやってキスしたから。なんだかすごく嬉しくて夢を見てる気分」  
「…………」  
 
「もし、すぐに夢が醒めて、いつものちょっと素っ気無いシャナに戻っていたら怖いな……やっと自分の気持ちがはっきり判ったのに……」  
「……大丈夫。これは夢じゃない、現実。私は悠二が好き」  
ちょっと強く、シャナに抱きしめられる。  
悠二とシャナの鼓動が重なる。  
「悠二、聞こえる?」  
「うん、聞こえる……トクトクって。なんだか安心するな……」  
そのまま、シャナに身を委ねる。  
からかうように、悠二の顔の横を蛍が通り過ぎた。  
「ねえ、悠二、ずっと……ずっと、私と一緒に居てくれる?」  
シャナがぽつりと零した。  
「……うん、約束するよ」  
さらに強く、シャナを抱き返す。  
「ありがとう………大好きだよ、悠二……」  
「僕も……」  
さっきより少し強く、唇を重ねた。  
「んむ……っ」  
「ん……んん……っ」  
縋りつくように、痛いほど抱きしめられる。  
それに応えるため、悠二も必死で腕に力を込める。  
心臓が痛い。  
病気なのかと思うほど脈打っている。  
ゆっくりとシャナを地面に押し倒した。  
 
「ぁ……ゆぅ………じ」  
「シャナ……いい、よね?」  
「ぇ……悠二が、やさしくしてくれるなら、いい」  
「うん、出来る限りそうする」  
すこし不安そうなシャナのおでこにキスをする。  
くすぐったそうに顔を背けるシャナの首筋に舌の先端を当て、鎖骨のあたりまでゆっくりと舐める。  
「ふぁ………」  
浴衣をはだけ、現れた白磁の肌に舌を這わせる。  
「ん、ぁ……やぁ」  
キメの細かい綺麗な肌。  
無駄な肉がほとんどといっていいほど付いておらず、しかしどこか柔らかい感触。  
それに―――――  
「やっぱりシャナって……」  
「なに?」  
「え、えっと……」  
素直に胸が全然無いなどということもできず、適当に誤魔化す。  
「………やっぱり肌が綺麗だなって」  
「……………ほんとに?」  
疑わしい、といよりジロリと睨んでくるシャナ。  
「う、うん……」  
「……胸が、全然無いとか思ったんじゃないの?」  
「っ!?」  
(や、やっぱりバレてるのかな?)  
微妙に背中に冷や汗が流れる中、しかしシャナは拗ねたように頬を膨らませた。  
「だって、仕方ないじゃない……フレイムヘイズなんだし」  
それがとても可愛く感じられて、悠二は笑う。  
「大丈夫、僕は」  
 
右手で殆ど無い膨らみを揉む、というよりは撫で、すこし硬く尖ってきている先端を指で擦る。  
「ひゃぅ!」  
反対側を口に含み、舌で嬲る。  
「ん……そんなの気にしないから」  
「ぁっ、あぅ! そんな……」  
「僕は、ここにいるシャナが好きなんだからさ」  
シャナが悶える度に見え隠れするふとももをやさしく撫でる。  
「ん……ぁ、ふ……」  
耳たぶを甘噛みしながら徐々に手を滑らせていく。  
程よく引き締まっていて、滑らか。  
ずっと触っていても飽きない感触だった。  
足の付け根まで手を上げると、シャナは両のももで手を挟んできた。  
「…………」  
無言で悠二を見上げるシャナ。  
「大丈夫。大切にするよ」  
軽く唇にキスすると、すこし安心したようにシャナは力を抜いた。  
裾から僅かに見えるショーツを手探りで脱がせる。  
夜目にも細い糸が伝っているのが見えた。  
夜気に晒された秘所はある意味触れるのも躊躇われた。  
下腹部から続くなだらかなライン。  
産毛さえ生えていない清らかな一帯。  
濡れている。その事実に嬉しさと愛しさが込み上げる。  
潤っている秘所にそっと指で触れた。  
「んぁ、ん……」  
慎重に指を上下させると、ねっとりとした液が指先に絡みつく。  
「シャナ」  
「ん!? んむ、んぅ……ちゅ、ちゅるっ」  
秘所を弄りながらシャナに口付ける。  
舌を伸ばして小さな口に侵入すると、怯えているようなシャナの舌を絡み取り、  
荒っぽくならないよう気をつけながら愛撫する。  
 
「はむ……ちゅ、ちゅっ……んぅ」  
悠二の求めに応じるように拙くも必死に応えるシャナが愛しい。  
秘所を傷つけないよう小指を腹から挿入する。  
「ちゅ、くちゅ、んむ……んぁ!? い、痛い……」  
「ん、はぁ……まだ小指だよ?」  
中をほぐすように掻き混ぜながら押し込んでいく。  
締め付けが強いが、柔壁にぴったりと包まれるのでとても気持ちいい。  
「ひゃ、ぁんっ! な、這入ってくる……」  
「大丈夫?」  
「う、いぁ……うん」  
多少痛そうに見えたが、辛くはないようだ。  
第二関節まで入れると内壁を広げるように指を蠢かした。  
「はぁ、あぁっ、いっ、んう……」  
クチュクチュと生々しい音がする。  
溢れてくる愛液が掌をじっとりと濡らした。  
「ふぁっ、はぅ……ぁぁ」  
シャナの顔から苦痛が消えた頃を見計らい、ベルトを緩める。  
あらわれたモノを見て、シャナは目を丸くした。  
「悠二の、すごくおっきい……」  
じっくりと観察するように眺められて、妙に恥ずかしい。  
シャナがその細い指を伸ばしてきた。  
「ちょ、シャナ!」  
「ん……凄く熱いよ、悠二?」  
冷やりとした可憐な指が全体をなぞる様に撫でる。  
強く握ってみたり、しごくように手を動かしたり。  
初めてもらったおもちゃをいじるような手つきだったが、悠二にとっては  
シャナにされている、それだけで気持ちよかった。  
 
「ん、く……シャナ、気持ちいい……」  
「ほんと? ん、なにか出てきた……」  
先走りを指で掬い取り、伸ばす。  
そしてそれを口に含んだ。  
「んむ……苦い……ヘンな味」  
顔をしかめるシャナに悠二は聞いた。  
「ねえシャナ、そろそろいい?」  
「ん、いいよ……」  
シャナの両足をM字に折り曲げ、秘所にモノをあてがう。  
「それじゃ、いくね」  
「うん……」  
(やっぱり、長く痛がらせるよりは)  
細い腰を掴んで一気に挿入した。  
明らかにサイズが違う異物がシャナの内部に侵入する。  
「ひッ、いぁッ!」  
痙攣するように体が震え、涙が一滴、頬を流れた。  
「ごめんシャナ、大丈夫?」  
目を硬く閉じて痛みに耐えるシャナは、それでも気丈に微笑んだ。  
「痛い……ッ、けど、嬉しいよ……悠二」  
「よかった……」  
シャナの痛みを和らげるため、腰はそのまま動かさないよう気をつけながら胸を愛撫する。  
「ん……ふ、あ……」  
途端にシャナは悩ましげな声を上げる。  
しこった先端を指で弾くたび、悠二のモノは締め付けられる。  
「んぁ、あぅ、いっ……」  
「シャナ、動くよ?」  
「う、んっ、ああぁっ、ふわっ」  
思いやるように、ゆるゆると動き始める。  
ガッチリと一体化したような肉を引き剥がし、抜けるギリギリのところでまた挿入する。  
単純な反復運動だが、腰が砕けるほど気持ちいい。  
 
「あっ、はっ、んんっ、あぁっ」  
「くっ、ふっ、んっ」  
掻き出す度に、愛液と鮮血が流れ出す。  
シャナも痛みは無くなったようで、自ら腰を動かしている。  
「くぁっ、シャナっ!」  
「んぁぅっ、ひあぅっ、な、んんっ、なにっ?」  
「気持ちいい、絡み付いてくる」  
「もっ、もっと、ひゃぁっ、いいよっ」  
シャナの求めに応えるため、角度、緩急などを変えてナカを蹂躙する。  
「んああっ、いあっ……んぐっ、くちゅ、ちゅっ、んむ」  
舌を絡め、甘い唾液を味わう。  
「んん、ちゅぅっ、ちゅっ、ちゅっ、くちゅ」  
口の端から漏れ出るのも構わず、シャナの首筋にキスの雨を降らせる。  
「はあんっ、悠二、きゃぅっ! 悠二ぃ!」  
「んっ、シャナ、くっ、シャナ!」  
無意識に互いの名を呼びながら、激しく交わる。  
周りを蛍が舞っている。  
シャナの高い喘ぎが響いている。  
自分を呼ぶ声が、思考能力を低下させていく。  
ただ、快楽と目の前の少女に対する愛しさだけがある。  
「ひゃんっ、ああっ、はあぁっ、ふぁっ!」  
「シャナっ、もう、ダメ!」  
「悠二っ、悠二ぃ、大好きだよぉっ! ああああぁぁっ!」  
最後に思い切り腰を打ちつけ、シャナを抱きしめた。  
「あああああああぁぁぁっっ!!」  
最奥で弾け、大量の白い飛沫が膣内に吐き出される。  
「ん、くっ、ふぅ……」  
余韻を楽しむようにしばらく腰を動かした後、悠二はシャナの上に倒れこんだ。  
 
「悠二」  
「なに?」  
「星、綺麗だよ」  
家までの帰り道、暗闇の中をふたりで歩いていた。  
空を見上げれば、いくつかの星。  
数は少ないけれど、それなりによく見える。  
「……うん、そうだね」  
悠二は微笑んだ。くだらない事でも、やはりシャナとなら楽しい。  
「そういえば浴衣、どうする? ちょっと汚れちゃったけど」  
「千草に本当の事言って許してもらう?」  
「えぇ!? そ、それは……」  
慌てる悠二に、シャナは悪戯っぽい笑みを浮かべた。  
「ふふ、冗談。適当に誤魔化しとくから」  
「あ、よかった……」  
心底安堵する悠二を見て、シャナはくすくす笑った。  
 
「シャナ」  
立ち止まると、シャナはこちらを振り返った。  
 
「ずっと……一緒にいよう?」  
そう言って手を差し出すと、シャナは嬉しそうにその手を取った。  
「うん、いいよ」  
そして今度はふたり並んで歩き出す。  
「約束、だからね……悠二」  
ふたりの横を、一匹の蛍が飛び去った。  
 
 
これは、起こるはずのなかった出来事。  
 
歪まなかった花火と、ひとりの少女の告白。  
 
実際には無い、''もしも''の話。  
 
 
fin…  
 
 

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