「別に、なにかしたわけじゃ……」
顔を真っ赤にして答える吉田。
「嘘だよー」
「何もしてなくてこんなに大きいなんて反則ー」
「教えてくれたっていいじゃないー」
周りから巻き起こるブーイングの嵐。
「真竹だって私たちだって、知りたいんだよ。ねー」
「うんうん」
周りの雰囲気に乗せられるまま、赤面しつつも吉田は答える。
「じゃ、じゃあ……あの……牛乳を、いっぱい飲む、とか……」
「ホントにー?」
「明日から毎朝飲んでみようかなー」
口々に感想を言う女子達。
そんな中、教室の片隅では、そんな話題など全く意に介していない風のシャナが、
どこからか1gの牛乳パックを取り出し、ラッパ飲みを始めていた。
「ねーねー、他にはー?」
「もしかして揉んで貰う、とか?」
「え、う、うん……」
勢いに飲まれ、よく分からないままに頷いてしまう吉田。
「もしかして坂井!?」
誰かのあげたその声に、黄色い歓声を上げ、一斉に悠二に視線を集める女子達。
数瞬遅れて、殺意と嫉妬の入り交じった視線を悠二に集める男子。
「まさかお前……」「平井ちゃんというモノがありながら……」「なんでお前ばかり……」
「ちょっと待って! 違うよ! 吉田さんも真っ赤になってないで反論しぶべらっ!」
いつの間にか悠二の背後に回り込んでいたシャナが、悠二の後頭部に贄殿遮那の一撃(峰)をお見舞いし、
そのまま昏倒した悠二を引きづりどこかへと消える。
「真竹も誰かに揉んで貰えば?」
「だよねー。例えば田中とか」
そんな冷やかしの声に真っ赤になって言葉を失う緒方。
一方、田中も
「な、ちょ、どうしてそうなるんだ!」
「なになに、照れてるのー?」「田中……お前もか!?」「ちくしょう! 裏切り者!」
田中の弁明と冷やかしや妬みの声で騒然となる教室。
「田中さえよければ……私は、別に……」
緒方の呟きは、教室のざわめきにかき消され、誰にも聞かれることはなかった。
そして、教室の片隅で、昏倒した悠二を前にしたシャナが、
明日からの鍛錬の時、胸を揉んで貰うよう頼もうかどうしようか、
真剣に悩んでいたことも……
職員室に呼ばれていた、メガネをかけた学級委員が、
教室に戻ってきて、騒々しいクラスの様子に怪訝そうな顔をしたことも……
誰も、気に留めることはなかった。