「ここが・・・御崎町・・・」
バスが派手な排気音を響かせて次の目的地へ向かおうとする、
そのなか、バスから降りた何人かの乗客に紛れながら少女が呟いた。
「ここに、零時迷子のミステスが・・・」
その少女の名前はヘカテー、仮装舞踏会・三柱臣が一人、真名は頂の座の強大な王の一人である。
だが、もちろん周囲の人々はそんなことは知る由もない。
「ここはこのまま、真っ直ぐ進んで・・・次の目印は・・・」
わたされた地図を頼りに少しずつながらも目的地へと進んでいく。
「ここを右に曲がってー300m先の信号でェエークセレントって何を書いてるんですか、おじさまは」
目的地への地図を書いて渡し、この頼みをしてきた相手のちょっとしたいたずら
(無論、本人はそんなことは考えてもいないのだろうが)に軽く突っ込みを入れながらも、
その先の信号で本当にエクセレントなのか確認したりしてみた。
そうこうしているうちに、目的の場所―零時迷子のミステスの住居―へと辿り着いた。
「あくまで接触+αのみで零時迷子の奪取は考えなくともよい、ですか・・・
とりあえず、このあたりで見張っていればいいのでしょうかそれとも家に上がり込めば・・・」
これからどうするか、それを考えながらもとりあえずは電信柱の影に隠れようとしたとき、
不意に後ろから肩を叩かれた。そこで考えるのをやめ、ゆっくり後ろを振り返る。
もちろん奇襲をかける準備をしながら・・・
「どうしたの?君、こんなところで」
だったのだが、その声を聞いた瞬間、声の主の姿を捉えた瞬間にそれもやめた。
(おじさまはこういうことになった時の対処法を用意してくれてました)
「あの・・・大丈夫?迷子?」
黙って首を横に振る
「あ・・・そうなのか、じゃあ早く帰りなよ?お家の人も心配するだろうし」
そういって声の主、目的の相手が立ち去ろうとする
(いま!)
ガシィ!
そんな音がしそうな位の強さで、目の前を離れようとする相手
―零時迷子のミステスたる坂井悠二―の服の裾をつかんだ。