深々と、粉雪が降っている。  
闇より舞い落ちるそれらを、どこか陶然と見つめる水色の双眸。  
雪と同じ白色で身を固めた少女は、ただひとり高揚した雑踏を歩く。  
時たま奇異の視線が少女を射るが、それも一瞬のこと。次の瞬間には人の壁がそれを遮る。  
少女は上へ向かっていた視線を前に戻し、傾いた大きな帽子を直した。  
そのまま、道の両側に連なる店を興味深そうに見ながら歩いてゆく。  
ふと、立ち止まった。  
少女は人の流れを抜け、そこへ近付いていった。  
大きなショウウィンドウの中、色とりどりの光を断続的に放つ、作り物の木―――  
いわゆるクリスマスツリーがあった。  
初めて見るその人工的な美しさに、少女は見惚れた。  
「…………」  
少女の吐く白い息が、ガラスを曇らせる。  
しばらくの間、少女は飽きもせずツリーを見つめていた。  
と、  
「やれやれ、ここにいたか」  
聞き慣れた声と共に、頭上を何かが覆う。  
ツリーから視線を引き剥がし見上げると、黒い傘があった。  
視線を横にずらすと、サングラスをかけた男が目に入った。  
「あまりウロウロするなとババァにも言われただろうが、ヘカテー」  
「…………」  
「……ふぅ。まあいい、そろそろ帰るぞ」  
「……………………」  
「そんな拗ねた顔をするな。今日は特別にパーティーがあるらしいぞ………教授が主催者だというのが気になるがな」  
渋々といった様子で少女はウィンドウから離れ、歩き出した。  
楽しげに笑う人々を眺めながら、少女は誰にともなく呟いた。  
 
「メリー……クリスマス」  
 

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