ブロッケン山に構える、[とむらいの鐘]の本拠である要塞、その回廊に一つの影があった。  
 黒衣白面の痩身の女性―――『九垓天秤』の一角である“闇の雫”チェルノボーグである。  
 常のように音もなく歩く彼女は、やがてある部屋の前を通りかかった。  
 月が天頂を過ぎ、多くの生き物が眠りについているこの時間に、部屋から明かりが漏れている。  
(ここは痩せ牛の……)  
 彼女と同じく『九垓天秤』の一角にして[とむらいの鐘]の宰相を務める“大擁炉”モレクの部屋である。  
 ―――紅世の徒に本来睡眠など必要ない。だが先のオストローデの一件で、『都喰らい』成就までの間フレイムヘイズらの攻勢に晒された彼らは、体を休め傷を癒す必要があった。  
 そしてこの部屋の主は、『ラビリントス』によりフレイムヘイズを捕らえ、仲間の徒を守り、結果として深手を負い多くの力を消耗していた。  
 休息は彼にこそ必要である。  
 チェルノボーグは、自身を顧みないこの同胞に対する怒りで僅かに眉根を寄せ、無遠慮にドアを開けた。  
「こんな時間まで何をしている、痩せ牛」  
「ぅひゃぁ!? チェ、チェルノボーグ殿」  
 いきなりの来訪者に素っ頓狂な声をあげる牛骨の賢者。  
 それにも構わずチェルノボーグは机に目をやると、羊皮紙の類が広げられていた。  
(やはり…)  
「なんですか、突然?」  
「先に聞いているのはこっちだ」  
 有無を言わせぬ強い口調に、慌ててモレクは答える。  
「はっ、フレイムヘイズらへの、特に新たに現れた『炎髪灼眼の討ち手』と『万条の仕手』への対策と、討滅されたフワワ殿の部隊の、他隊への再配属について思案していました」  
 モレクはあの一件後、同胞を死なせてしまった責任を感じてか、碌に休みもせず組織の運営に尽力していたのだった。  
 半ば予想していた通りの答えに、チェルノボーグの怒りは益々大きくなる。だから彼女は、  
「疲れた頭でいい考えが浮かぶとは思えん。それに『ラビリントス』を使えない今のお前では、戦いになれば足手纏いにしかならん」  
 辛辣な言葉を放る。彼女としては“少しは休め”と言いたかっただけなのだが。  
 当然モレクは彼女の言葉に籠められた意味など気付くはずも無く、言葉通りに受け取る。  
「それは、そうかもしれませんが…」  
 落ち込む彼であったが、しかしチェルノボーグに対し言葉を続ける。  
「おそらく『都喰らい』の一件で、紅世にて静観を決め込んでいた王たちも重い腰を上げるでしょう。  
 これから激化する討ち手らとの戦いに対して、出来るだけの事はしておかなければ。私はもう、誰も失いたくないのです」  
(誰も、失いたく…ない…)  
 モレクから向けられた、この突然の真摯な想いに―――自分だけに宛てられたものではないと分かっていても―――彼女は顔が赤面していくのが分かった。  
 だが一つだけ、聞いておかなければならない事がある、とチェルノボーグは気付いた。ポツリと呟く。  
「…その“失いたくない者”の中に、お前自身は入っているのだろうな?」  
 そしてその言葉は、しっかりとモレクの耳に届いていた。  
「えっ!? 私自身?」  
「そう、お前自身だ」  
 彼女の予期せぬ問いに答えを窮した彼だが、やがてはっきりと言う。  
「…これから先、必要なのはあなた方のような強者。私はあなた方を守れるのならばそれでいいのです。それにもしもの事があっても……私の代わりなど幾らでもいるでしょう」  
「―――――っ!!」  
 その言葉に、先の浮かれた気持ちなど一瞬で吹っ飛んだ。そして、  
「お前の代わりは他の誰にも出来んっ! 二度とそんなことを言うな、痩せ牛!!」  
 普段押し隠していた感情が、爆発した。  
「お前はどうしてそのように自分を卑下する!」  
 抑えることが、出来なかった。  
「皆がお前を認めている事に、何故気付かない!」  
 自分が尊敬の念さえ抱くこの男だからこそ、  
「信頼している事に、何故気付かない!」  
 その言葉が、どうしても許せなかった。  
「何故…必要とされている事に、気付かない…」  
 このままではこの男が、報われないではないか。  
「何故…気付いて、くれない……」  
 いつしか彼女の瞳からは、涙が溢れていた。  
 
「……チェルノボーグ…殿」  
 モレクは、冷静な彼女がこのように感情を顕にしたところなど、見た事が無かった。  
 それ故に、自分の今の一言が、どれだけ愚かな言葉だったのか、思い知らされた。  
 そして、自分が彼女にどれだけ思われているか、気付いた。  
「頼むから…もうそんな事、言わないでくれ」  
 チェルノボーグの切実な願い。  
 彼女にこんな事を言わせてしまった自分を、言われるまで気付かなかった自分を、恥じる。  
「はい…申し訳、ございません」  
 そっと、彼女の頬に伝わる涙を指で掬い取る。  
 そうされて初めて、彼女は自分が泣いている事に気付いたようだった。  
「あっ、こ、これは…」  
 何とか誤魔化そうとするチェルノボーグ。  
 モレクはそんな彼女を、とても愛しく思った。  
「ありがとうございます」  
「えっ!?」  
 自分のために涙を流してくれた彼女を。  
「私を必要としている方がいる限り、私は死ぬわけにはいきません」  
 自分のことを嫌っているとまで思っていた彼女を。  
「あなたは私を必要と仰ってくれた」  
「い、いやっ、私は、皆が必要としていると言っただけで―――」  
 その言葉を遮って、  
「私もあなたが必要です」  
「〜〜〜〜っ!!」  
 モレクが真直ぐな言葉を、チェルノボーグに向ける。  
 ここまで言われては、彼女ももはや意地を張るつもりは無かった。  
「……ああ、私にも、お前が必要だ」  
 
 想いの丈を打ち明けたモレクとチェルノボーグ。  
 二人は吸い寄せられるようにその距離を縮めていった。しかしあと少しで触れ合う、というその時、  
「あっ、す、少し待って下さい」  
 モレクが突然制止の言葉をかけた。  
「? どうした、痩せ牛?」  
「このままの姿では、あなたも嫌でしょう」  
 モレクは自分の体を見下ろす。牛骨で出来た、自分の体を。  
「構わないさ」  
 チェルノボーグは本当に気にしていなかったが、  
「わ、私は気にします」  
 彼は頑として譲らない。  
「なら、どうするというんだ?」  
 チェルノボーグの問い掛けとほぼ同時、モレクは一つの自在式を構築、発動させた。  
 彼の体が黄色の炎に包まれ、別の姿を形作る。『人化』の自在法であった。  
 黄色の炎が薄れた時、そこには一人の青年がいた。  
「これで、どうですか?」  
 恥ずかしげに聞くモレク。今の姿が彼女の好みに合っているか心配しているようだった。  
 しかしチェルノボーグは構う事無く、彼を抱き寄せる。  
「ふっ、その姿ではお前を痩せ牛と呼ぶことは出来んな」  
 チェルノボーグの腕に抱かれたモレクも、そっと彼女の背中に手を回す。  
「お好きなようにお呼び頂いて構いません」  
 見つめ合う二人。  
「……モレク、これからも…ずっと、そばに……」  
「……はい…いつまでも、一緒に……」  
 その言葉とともに、二人は唇を合わせた。  
 
「んう……ぁむっ、んふ…」  
 ついばむような軽いキスが繰り返される。  
「…んぁ…モレ、ク……」  
「ん…チェル、ノ…ボーグ…殿」  
 チェルノボーグがぎゅっとモレクを抱きしめ、それに応えるように彼も背中に回した腕に力を込める。  
 密着した部分から相手のぬくもりが伝わってきて、心地良い。  
 いつしかキスは、より強い繋がりを求めて、深いものへと変わってゆく。  
 と、唇の合間を縫って、チェルノボーグはそっと舌を滑り込ませた。  
「んむ!……ぅん…」  
 彼女の舌がモレクの口内を余す所無く舐め回していく。  
 突然の事に驚いたモレクだったが、それでもおずおずと舌を差し出し、これに応じた。  
「ふぅっ………ちゅ、んん…」  
 二人の舌が絡む。互いの唾液が混ざり合い、室内に淫猥な水音が響く。  
 モレクが口の中に溜まった唾液を飲み込むと、今度はチェルノボーグが彼の舌を自分の口内に招き入れ、唾液を啜る。  
「ぅんっ、ぁっ………はぁ…はぁ…」  
 ようやく重ねられていた唇を離し息を吐く。舌先から濡れ光る銀糸が伸び、二人の間に橋を架けていた。  
 その扇情的な光景の中、二人は相手をより強く感じようとこの先を求める。  
「…モレク、そろそろ…」  
 色の抜けるように白い頬を朱に染め、微妙に視線を逸らして言うチェルノボーグに、  
「…はい…」  
 モレクもまた同様に顔を真っ赤にして頷いた。  
 
 チェルノボーグがモレクを引き寄せ、そのまま後ろからベッドの上に倒れこむ。  
「っ! チェルノボーグ殿!」  
 結果としてモレクがチェルノボーグの上に覆い被さるような体勢になる。  
 いきなりのことに戸惑う彼だったが、そこに、  
「モレク…」  
 チェルノボーグの言葉が耳に入る。と同時に気付いた。彼女の肩が、僅かに震えている事に。  
 思えば彼女だっておそらくは始めての事、だというのに気弱な彼を想ってか、積極的にリードしていたのだ。  
 そこまで思考が辿り着いた途端、モレクは胸に熱いものが込み上げて来るのを感じた。  
 チェルノボーグの柔らかそうな唇に吸い込まれるように、今度は自分から唇を重ね合わせる。  
「んっ…ふちゅ……」  
 先程のような深いキスを交わしながら、右手で彼女の胸に触れてみる。  
「ん、あぁっ!」  
 だがチェルノボーグの一際大きい声に慌てて手を離すモレク。  
「も、申し訳ございません。痛かった…ですか?」  
「はぁ…いや、痛かったわけじゃない、から、その…今の、続けても、いい…」  
 自分が上げた予想外に大きな声に恥ずかしがりつつ、チェルノボーグは答える。  
 その言葉にホッとするモレクだったが、彼女は(顔を紅くしつつも)少しだけ厳しい目をして言う。  
「だがその前に」  
「? 何ですか?」  
「それだ、その畏まった言葉遣いをやめろ。それと私のことは呼び捨てでいい」  
「そう言われましても…」  
 モレクのこの言葉遣いは今に始まった事ではない。それこそ何百年も前から続いているものだ。つまりこれが彼にとって通常の話し方だった。それを今さら変えるのは難しい。  
 だがそんな彼にチェルノボーグは、先とは逆の、今まで見たことのない優しい顔で微笑む。  
「こんな時ぐらいは、いいだろ?………さあ、続き…しようか」  
 そんな顔をされては、彼女の頼みを断れる筈も無く、たどたどしくも応えた。  
「………ああ、……チェルノ、ボーグ…」  
 彼女の膨らみを黒衣の上から撫でるように刺激する。  
「ふぁ……ぁん……もっと、強くしても…んっ…大丈夫、だ…」  
 不快さを抱いていないことを確認すると、もう少し力を入れて揉む。  
 ほどよい弾力で手を押し返してくる双丘の中央に少し硬くなっている部分を感じ、そこを手のひらで擦りながら揉みしだく。  
「んっ、あぅ……そんな、とこ…」  
 快感と羞恥に顔を背けるチェルノボーグの、その頭上に一対ある獣耳がぴくぴくと反応していた。  
 それがなんだか可愛く思えて、堪らずそこを甘噛みする。  
「ひゃっ!…ぁ……はん……」  
 そこから首筋を伝って鎖骨の辺りへと、白磁のような肌に舌を這わせながらゆっくりと下りていく。  
 同時に手を徐々に滑らせ、下腹部を通って足の付け根の方へと持っていった。  
 
「ふぁ……ぅ、ん………」  
 モレクから絶え間なく与えられる刺激に、体中が過敏に反応する。  
 彼に触れられていると想うだけで、今まで感じたことが無いほどの熱さと甘い疼きが込み上げてくる。  
 こぼれる声を、どうしても抑えられない。  
「あぅ……ぁん……」  
 モレクの手がお腹の辺りをやわやわと撫でる。こんな他愛の無いことでも体の芯から熱が止め処無く溢れ出してくる。  
 唯それが心地良くて彼の愛撫を享受していた。  
 しかしモレクの手がさらに下―――秘所に滑り込んでくると、そこの有り様に思い至り咄嗟に足を閉じて彼の手を挟んで止めてしまった。  
「え? あっ、あの……」  
「…………」  
 突然の事に呆気に取られるモレクに、無言で俯いているチェルノボーグ。  
 彼女は自分の行動に後悔していた。  
 このような拒絶の行為を採れば、心優しい彼はきっとこの先へ無理矢理に踏み込んで来る事はないだろう。現に今、彼は指を伸ばせば“そこ”に触れる事ができるというのに、一向に動かそうとしない。  
 ―――もしかするとこのまま行為自体を止めてしまうかもしれない。  
 ―――だが今止められたらこの火照った体を持て余してしまう。  
 ―――かといって自分から求めるような真似をしてはモレクに軽蔑されるかもしれない。  
 手詰まり状態だった。もうどうしたらいいのか分からず、唯彼を放したくない一心で、閉じられた足にさらに力を加える。  
 だがそんな彼女の後悔も、モレクの一言で呆気なく終わる。  
「私は…あなたをもっと感じたい」  
 彼が自分を求めてくれる、その言葉で幸福感に満たされていく。  
 チェルノボーグは徐々に足から力を抜き、モレクの手を解放した。  
 モレクは優しく微笑んで彼女と唇を重ね合わせると、そっと秘裂に指を這わせた。  
「んぁっ……やぁ…くぅん!」  
 自分の最も大切な部分に触れられた途端、あまりの刺激に堪らず唇の間から喘ぎ声が漏れる。  
 どうにかなりそうな位気持ち良かった。  
 恥ずかしくて堪らない、だけどもっと触れて欲しい、という相反する感情が、彼女の中に渦巻いていく。  
「ぁっ…こんなに、濡れて……」  
 その一言に羞恥のあまり真っ赤になって、つい怒鳴る。  
「〜〜〜〜っ、う、うるさ――んっ!」  
 しかしチェルノボーグの言葉は、新たなる刺激によって途切れる。モレクの指が秘裂を割って侵入してきたのだ。  
 自分の中をゆっくりと、気遣うように優しくかき混ぜられ、その度に秘所は淫らな音を立て彼の指を迎え入れる。  
「ああっ、くぅっ…んっ…あぁっ……」  
 恥ずかしい場所に触れられているのに、それでも尚モレクを求めてしまう。  
 彼が与えてくれる快感を全て受け入れようと、彼の指に意識を集中させる。  
「んっ…ふうっ、あっ……あぁん」  
 すっかり硬くなったクリトリスが偶然モレクの指に触れ、体中にびりびりとした快楽の波が駆け巡った。  
「ふぁっ…ぁ…そこ、いぃ…」  
 思考が塗り潰されていく。  
 もはや自分の意思とは関係なく腰が動き、今の刺激を求めて秘所を彼の手に擦り付ける。  
 それに応えてモレクの指が硬くなった突起を強く擦り上げてくる。  
 今度は指に挟んで扱きたてて、彼女を高みへと導いていく。  
「あっ、モレクっ、モレクぅ、もうっ、んっ、くうぅぅん!!」  
 縋るように彼の名を呼びながら、チェルノボーグは絶頂を迎えた。  
 
「はぁっ…はぁ、ん…はぁ…」  
 モレクはチェルノボーグの秘所からゆっくりと指を引き抜くと、彼女の息が整うまで静かに待っていた。  
 断続的に繰り返すひくつきが治まると、目の焦点が徐々にはっきりとしていく。  
 彼女はしばらくボーっと絶頂の余韻に浸っていたようだが、程なくしてモレクと目が合った。  
「…はぁ……モレク…」  
 ようやく息を落ち着けたチェルノボーグが、恥ずかしがりながらも続きを切り出す。  
「私だけが、その…気持ち良く、なったんじゃ…不公平、だろ? だから次は、お前が…その……」  
 なかなか要領を得ない内容を、ただでさえ鈍いモレクが理解する筈も無く、結局、  
「〜〜〜〜っ、つ、次は私がしてやるから、お前は甘んじて受けろ!」  
 という不条理な台詞とともに、チェルノボーグはモレクを押し倒した。  
 勢いそのままに、今度はモレクの礼服に手をかける。  
「っ!? チェルノボーグ殿っ、服なら自分で…」  
「私がやると言ったんだ! お前は私に任せてくれればいいんだ」  
 真っ赤になって声を張り上げながらも、しかし丁寧に服を脱がせていくチェルノボーグ。  
 やがてモレクの下半身が解放され、張り詰めた肉棒がバネ仕掛けのように飛び出す。  
「あっ…」  
 彼女はその光景に軽く息を呑んだ。  
「……これが…私の、中に……」  
「〜〜っ」  
 モレクは初めて他者に自分の陰部を曝け出す恥ずかしさに顔を伏せて耐えていたが、自分のすぐ上から聞こえてくる衣擦れの音に気付き、視線をそちらに向ける。  
「ぁっ…」  
 その光景に、今度はモレクが息を呑んだ。  
 服を脱ぎ捨て裸身を曝すチェルノボーグが、膝立ちでモレクに跨り、見下ろしていた。  
 白かった肌は上気して桜色に染まっており、引き締まった内腿には蜜が伝い濡れ光っている。  
 そのすらりとした肢体にモレクは釘付けになった。  
 彼女はその視線を受けて恥じらいに顔を染めるが、それでも一度大きく息を吐くとモレクの陰茎に手を伸ばし、先端を自分の秘所に宛がう。  
 そして深く目を瞑ると、意を決したように腰を落としゆっくりと彼のモノを迎え入れていった。  
 
 先端がゆっくりと飲み込まれていく。  
 熱く潤ったチェルノボーグの膣内はしかし、侵入者をこれ以上進ませまいとするかのようにきつく締め付けてくる。  
「うっ……、ぁ……」  
「くっ…ぅ……痛、っ…」  
 チェルノボーグはきつく目を閉じ痛みに耐えている。  
 目尻に涙が溜まっていくのが見えるが、それでも彼女は止まることなく腰を深く沈めていく。  
 奥へと招き入れられるにつれて、膣内から溢れ出した蜜が陰茎を伝って滴り落ち、シーツに染みを作っていった。  
 やがて先端に強い抵抗が触れ、それ以上の進入を妨げてくる。  
「…………」  
 チェルノボーグは一度目を開けると、左手を伸ばしてモレクの右手を掴む。  
「手……握ってていい?」  
 ぶっきらぼうな、だが懇願するようなその瞳、その声に、モレクは自分から彼女の手を握ることで応えた。  
「……ありがと…」  
 それで決心がついたのか、チェルノボーグは彼を最奥まで迎え入れようと大きく腰を落とし、モレクは下腹部に力を入れこれを押し返し、一気に抵抗を貫いた。  
「っ――――!」  
 その部分を抜けた勢いで、そのまま肉棒がチェルノボーグの中に全て収まる。  
 無数の肉襞が肉棒に吸い付き、絡み、絞め上げてくる。  
 その強烈な刺激を感じながら、痛いぐらいに右手を強く握ってくるチェルノボーグを心配して顔を窺う。  
 彼女は目をきつく閉じて眉根を寄せ、破瓜の痛みに耐えているようだった。  
 しかしモレクの視線に気付くと、  
「くっ……少し、待ってろ……ん…すぐに…動いて、あげるから……」  
 その言葉とともに、チェルノボーグは足に力を込めて少しづつ腰を浮かせ始めた。  
「………っ、つぅ……」  
 僅かに動かしただけで彼女の口からは苦痛の声が漏れる。  
 モレクはこの健気な女性が愛おしくて、またこの気丈な女性にこれ以上無理をさせたくなくて、彼女を強く抱き締めていた。  
 
「ぁ………」  
 全身にモレクのぬくもりを感じる。  
 それが圧倒的な安心感となって体中を包みこんでいく。  
 しかしこれでは動くことはできないし、彼に気持ち良くなってもらえない。  
「しばらく、このままで……」  
「だが、それではお前が―――」  
 続く言葉を遮るように、モレクが抱きしめる腕にさらに力を込める。  
 たったそれだけで、反論する気も起きなくなった。  
 考えてもみれば、チェルノボーグが無理をして続けても彼が喜ぶはずが無いのだ。  
 チェルノボーグもモレクの背中に手を回す。  
 そのままじっとしていると、僅かずつだが痛みが引いていった。  
「……もう、大丈夫だ…」  
 背中に回していた手を解いてモレクを見つめる。  
 彼はまだ心配そうな顔をしていたが、それでもチェルノボーグが動けるぐらいには腕の力を緩めてくれた。  
 彼を安心させるように一度だけ強く唇を重ね合わせると、ゆっくりと腰を上げていった。  
「……ぅ、んっ……」  
 一体化した肉を引き剥がしていくような感覚。  
 痛みはまだ完全には引いていないが先ほどよりは随分と楽になっていて、少しずつ痛み以外も感じられるようになってきていた。  
 ようやく抜けるぎりぎりのところまで腰を持ち上げると、一気に落として再び彼のモノを深々と飲み込んでいく。  
「ああぁっ!」  
「つっ……う、ぁ……」  
 痛みで一瞬体が痺れた。やはり急激な動きではまだ快感よりも痛みの方が大きかったが、それでも止まる事無く腰を動かしていった。  
 チェルノボーグの声に苦痛の色が混じっているのを感じ取ったのか、モレクは少しでも痛みが和らぐようにと胸を愛撫してくれる。  
「んっ、ふっ、んぁっ」  
 胸の上でツンと自己主張している突起をモレクが指で擦り、摘む度に痺れるような快感が奔る。  
 次第に痛みよりも快楽が勝りだし、腰の動きがだんだんと激しいものになっていく。  
 それにつれてチェルノボーグの中で、モレクの事をもっと感じたい、モレクにもっと自分のことを感じてもらいたい、という欲求が大きくなっていく。  
「んっ、…モレク、も……ぁっ…う、動いて……」  
 求めに応じてモレクも動き始める。  
 チェルノボーグが腰を浮かせばそれに合わせて陰茎が引き抜かれ、腰を落とすと下から突き上げてくる。  
「ふあっ、あっ、ああっ、モレクっ、んんっ、あぁっ」  
「はっ、あっ、チェルノ、ボーグ、殿っ」  
 腰を深く沈める度に肉棒が子宮口に突き当たり、それが新たな快感を生み体の奥にまで響いていく。  
 その感覚に身を震わせながら跳ねるように上下に動き、湧き上がる快楽を貪欲に求めた。  
 やがて体の奥から甘い疼きが広がっていく。  
「んっ、チェルノ、ボーグ殿、もうっ」  
 モレクのほうにも限界が近づいている。  
「ふぁっ、ああ、いいよ、モレク、そのまま、んっ、中で…」  
 腰の動きを一段と激しくして、自分も昇りつめていく。  
 思考が次第に掻き消されていき、最後に決して消えることの無い想いが残った。  
「あっ、あぁっ、モレク、ずっと、んんっ、ずっと、一緒にっ」  
「くっ、はい、ずっと、一緒に」  
 その言葉をきっかけとしたかのように、体内で肉棒が膨れ上がり、爆ぜる。  
 そして、胎内に注ぎ込まれた熱い精の迸りを感じながら、  
「んああっ、あっ、ああぁぁぁぁっ!!」  
 チェルノボーグも快楽の頂に達した。  
 頭の中で閃光が何度も瞬き、足腰は痙攣してふるふると震え、蜜壷は体内にある肉棒から精を絞り取るように収縮を繰り返している。  
 やがてモレクのモノは力を失っていく。  
 チェルノボーグは腰をなんとか浮かせ、多少の名残惜しさを感じつつも膣内から引き抜くと、くたっと脱力してモレクに覆い被さった。  
 モレクもチェルノボーグをそっと抱きとめると両手を彼女の背に回す。  
 互いに腕の中の存在を確かめるようにぎゅっと抱き締め合うと、そのまま二人は言葉も無く心地良い余韻に浸った。  
 
 
「モレク…」  
「はい?」  
「なんだ、まだ寝ていなかったのか」  
 互いの精液や愛液を拭い、二人は再びベッドの上。  
「少しは休め。お前は働きすぎだ」  
「とは言われましても―――」  
 まだ休むことに躊躇いを持っているモレクに、チェルノボーグは少し強い口調で言う。  
「同胞殺しの道具共も大きな被害を被った。すぐに攻めてきたりはしないだろう」  
「……わかりました、少し休息をとる事にします。確かにいざという時『ラビリントス』に支障が出てしまっては足手纏いになってしまいますからね」  
「そ、それはただお前に休んでもらおうと思って言っただけで」  
 自分が先程言った言葉をモレクが未だに気にしていることを知り、慌てて撤回する。  
「……それに例え足手纏いになったとしても、お前は私が―――」  
 しかし情事を終えて普段の冷静さを取り戻した今では、続く言葉をどうにも恥ずかしく感じてしまい、言うことができない。  
「〜〜〜っな、なんでもない。いいから早く休め」  
 モレクとしては続きが気になっていたようだが、チェルノボーグのほうにもはや語る気が無いのを見て取ってのか、追求はしてこなかった。  
 室内が静寂に包まれてどれだけ経ったか。  
 モレクは本当に疲れていたのか、しばらくすると規則正しい寝息を立て始めた。  
「……モレク…」  
「…すぅ……すぅ……」  
 眠ったことを確認すると、チェルノボーグはモレクの手をそっと握った。  
 臆病で小心な紅世の王。  
 この巨大な組織に明確な指針を示し、纏め上げる宰相。  
 かねてより尊敬の念を抱いていた存在。  
 そんな彼と共に歩ける未来に無上の幸せを感じながら、チェルノボーグも眠りについた。  
「……お前は絶対に…私が守るから……」  
 今も昔も変わらぬ、ひとつの誓いを胸に秘めて。  
 
 
 〜END〜  
 
 

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