もわぁと淫靡な甘い匂いが漂う部屋に、一人の少年と、一人の女性が居た。
少年はジャケット姿で、女性の方は日本では滅多に見かけないメイド服を着ていた。
しかし、そのメイド服は胸の部分が破けていて、スカートも乱れ秘部が丸見えでり衣服の意味を成していなかった。
いや、何よりその女性は服の上からロープで艶やかに縛られていた。
少年―否、ミステス―の名は坂井悠二。
女性―否、フレイムヘイズ―の名はヴィルヘルミナ・カルメルといった。
うなじの手触りを味わうように掌をゆっくりと下に滑らせ、そのまま鎖骨をなぞってさらに下へと指を這わせる。
右手が次第に胸元へと移ってゆくにつれ、カルメルさんの顔に浮かんでいた怯えの色が強くなった。
目にするのも耐えられない、といった風にその細面が背けられる。
反らされた顔の動きに剥き出しになった首筋が、新雪を思わせるような眩しさを伴って僕の目の前に迫った。
掌から伝わる肌の感触は吸いつくような、という言葉をそのまま表すように僕の手を心ごと捉えて離さない。
右手がこれまで以上に柔らかい感触を捉えた。それが次第に深いものに変わってゆく。
「……っ……ひぁ!?」
蟻走感をこらえるように引き結ばれていたカルメルさんの唇がわずかに開き、短く、小さな叫び声がそこから洩れた。
すでに僕の右手は、優美なふたつの曲線をその胸に描く乳房の片方を完全に包みこんでいる。
掌の中に収められた蟲惑的な手触りのふくらみは微かに震え、その奥からはわずかに心臓の鼓動が伝わってきた。
「綺麗な形の胸ですね。見ているだけでもそれは判るんですが……、
目の前にしているとどうしても手を伸ばしてしまうのが男の性ってものでしてね……」
「くぅ……、その手を離すであります」
胸から伝わる僕の掌の感触を拒むようにして口を開いた。
やっと喉から出したような弱々しい声が僕の心を淫らにかき乱してゆく。
「悪いけど、それは聞けませんよ、カルメルさん。丁度僕の手にあなたの胸が収まっちゃって離れないんですよ」
「そんな詭弁を……あぅんっ」
「それにね、触られるというのは悪いことばっかりじゃないんですよ。……こうすると、ほら」
そう言って、僕はカルメルさんの乳房を包んだままの右手をゆっくりと踊らせた。
優しく、そして時に強く指を廻らせ、次第にリズムをつけて愛撫を送りつづける。
「…っ……っ……や…やめ…る…であり…ますっっ」
執拗なまでに丹念なペッティングの中で、必死に抵抗するカルメルさん。
しかし、その声に含まれた息使いは、僕の手の動きを受けて少しづつ乱れてきていた。
「やめ…やめるでありま…あ…!!…っ…っく……は…っあ…」
明らかに苦痛や不快感とは異なる印象を与える声がカルメルさんの唇から放たれてゆく。
長時間のペッティングが効を奏してきたようだ。
「……どうですか? いくら言葉では拒んでいても身体の自由を奪われて思うさま胸を揉みしだかれていては
どうにもならないでしょう。それに、なんだかんだ言っても身体はしっかり反応するものですしね」
事実、掌の動きにゆれていた朱鷺色の蕾に次第に力が加わってゆくのを確かに感じたのだ。
「ち、違うであります。そんな、こと……あ、あり……はぁ……っあっ…だ、だめ……ぅ……」
せめて言葉でだけは抵抗しようと試みたようだが、
無遠慮に押し寄せる快楽の波に心身を捕えられているのか、その声はだんだん力を失い、
かわりに望みもしない喜悦が唇を開かせてゆく。
「ふふふふ。いくら強がったところで状況は一向に変わりませんよ。」
右手をカルメルさんの乳房から遠ざけ、そのまま臍の横を下腹を目指してゆっくりなぞらせる。
そして、親指と人差し指でカルメルさんの下腹部を縦断している麻紐をつまみ、中指を使ってくいっ、と引っ張ってみた。
ぴくんっ。
カルメルさんの両肩がわずかに跳ねあがった。その顔は何かに耐えるように強張っていた。
今度は前よりも大きく引っ張ってみる。
「!!………っ」
間違いない。カルメルさんからは声が出そうになるのを抑えている様子が伺える。
その時ある考えが頭に浮かび、僕はそれを持ちかけることにした。
「いやあ、なんとも言えないですね、その辛そうな顔。
必死で声を抑えようとするその表情にはかえってそそられるものがあります。
……そうだ、カルメルさん、今から僕と取り引きをしてみませんか?」
僕は自分の右腕から腕時計を取り外し、モードをストップウォッチに切り替えた。
「取り引き……?」
「ええ、そうです。この時計で今から5分数える。
その間にカルメルさんが一度も声を出さなかったなら、紐を解いて開放します。
でも、5分間に一度でも声が出てしまったらカルメルさんの負け。
そのときは僕の言うこと―そうですね性奴隷になってもらいましょう。……どうですか?」
「こちらが勝てば、開放するでありますか?」
あまりに分が悪い賭けであるのに、わずかに浮かんだ希望に賭ける意欲をその瞳に湛えてカルメルさんが言った。
「そうですよ」
「わかったであります。」
……こうして性なるゲームが始まった。
麻紐を掴んでいた指を一旦離し、素肌におしつけるようにして親指を麻紐にあてがい、それを小さく左右に動かした。
その動きはひねりを伴ってカルメルさんの秘唇に伝わっているはずだ。
顔に目を向けると、快感に耐えるかのように強く閉じられた口元がわずかにゆがんでいた。
手もとのストップウォッチは2分が経過したことを示していた。それを確かめた僕は、親指の動きをさらに速くする。
「くっ…う…」
くぐもった声が聞こえてきた。
再び僕は麻紐を掴み、今度はさっきよりも小刻みに中指を動かした。
「う…うっ……ぐっ、ううっ…うっ…くううっ」
開始から3分半を過ぎた辺りから目に見えて反応が変わってきた。
いかかる快楽の波動をなんとか鎮めようとして緊縛された上体が踊るように動き、
形のよい眉は眉間に二条の深いしわを形作っている。
それにしても……最初に見たときから芯の強そうな女性だという感じは受けていたが、
決して声を出すまいとして僕の麻紐責めに必死に立ち向かう様を目にしていると、
改めてその気丈さに驚かされる。半ば敬意にも似た感情を込めて僕はその顔をまじまじとみつめた。
ストップウォッチの残り時間が30秒を切った。
延べ250秒近くにわたって責めに晒され続けたカルメルさんの身体は小刻みに震え、
さらに秘唇から滲み出た愛液が麻紐に絡みつき、指の動きにつられてちゅ、ちゅ、という音を刻んでいる。
「あと10秒。…9…8…7…6」
口頭でカウントダウンを始めた僕の視線とカルメルさんの視線が重なり合った。
その瞳に浮かんだ安堵の色が、カウントが進むにつれて次第にはっきりと現れてくる。
しかし、僕が待っていたのは、まさにその瞬間だった。
「…5…4…3」
ファイブカウントからの秒読みに併せ、麻紐にかかっていた中指の動きを、さらに速く、そして激しくした。
「…!!…っ!…っくっ…ふああっっ…!!」
襲いかかるような快感に理性の防波堤が決壊し、
ひときわ強い愉悦が声となってカルメルさんの唇から迸る。
それと同時に、僕はストップウォッチを止めた。
「うーん、残念ですね、カルメルさん。もう少しだったんだけどね」
ストップウォッチの表示は00‘03’56で停止していた。
「僕の勝ちですね?」
「くぅ……」
うなだれた格好で悔しそうに唸るカルメルさん。
……けれど彼女自身の誇りによって約束を覆す事は出来ない。
こうして万条の仕手と呼ばれたフレイムヘイズは、一人のミステスの手に落ちた。