「零時迷子のミステス…坂井悠二」  
「っ、君は…紅世の徒…!」  
千変シュドナイに拉致され、見知らぬ空飛ぶ建造物――恐らく宝具の類だろう――に  
連れてこられた悠二の前に、白い巫女服に身を包んだ少女が現れた。  
儚げな容姿とは裏腹にこの世に在らざる者の気配を感じ取った悠二は、とっさに身構える。  
しかしそんな悠二を意に介さずに、少女は悠二の側へと歩み寄る。  
「……とうとう、来てくれましたね―――」  
無表情だった少女の瞳が僅かに緩む。  
「っっ、く――ぼ、僕をどうするつもりなんだ」  
その気になれば少女は自分のことなど一瞬で消滅させ、自分の中に内包されている  
零時迷子を取り出せるだろう。  
しかし目の前の少女は、ただ悠二を見て僅かに微笑むだけ。  
「始めましょう、ミステス。私と、一つに…」  
「―――っな!!?」  
それは本当に唐突だった。  
ぱさりという軽い音とともに、少女の服が床へと落ちたのだ。  
するすると手馴れた様子で服を脱ぎ去り、あっという間に少女は帽子以外のすべての衣服を取り去った。  
「さあ、ミステス…私と一つに…」  
「う、え!?ちょ、ちょっとまってくれよ!」  
「…?」  
裸になった少女をなるべく視界に入れないように眼をそむける悠二。  
それを不思議そうに小首を傾げて見るヘカテー。  
「あ、その、えっと、こ、こういうのはほら!好きな人同士でっていうか、軽々しくしちゃ駄目っていうか!」  
「…問題はありません。あなたと私が一つになることは決められていたことですから」  
「何時!?」  
「―――さあ?」  
「そんな曖昧な――ッ!?」  
視線を逸らしながら抗議を続けていた悠二の声が途切れる。  
体に伝わる他者の体温。恐る恐る目を胸元に向けると、そこにはいつの間にか少女が抱きついていた。  
「な――!ちょ、まっ!」  
言いながらも体は硬直して動かない。  
(う、柔らか…シャナより少し胸あるんだな――って!何考えているんだ僕は!?)  
視線の先には見知ったフレイムヘイズの少女よりややふくらみのある胸。  
水色の髪を隠す白い帽子、そしてやや朱を挿している頬。  
(う…か、可愛い……って、だ、駄目だ!この子紅世の徒!徒!)  
傾きかけた理性を必死に頭を振って立て直す。  
そうだ、こんなところで誘惑に負けたら自分の存在自体が―――  
 
「って、なにやってるのーーー!!!?」  
「―――しょ。脱がせ辛いですね」  
悶々と妄想に浸っていた悠二は、いつの間にか少女の手によって真っ裸にされてしまっていた。  
思わず両手で股間を隠そうとし、  
「んっ…凄いですね…」  
少女が先に手を這わせていた。  
「っくぁ!」  
反射的に腰を引こうとし、しかし、少女のもう片方の手が悠二の動きを制する。  
見かけによらない膂力。それが悠二の混乱していた頭を一気に覚ませた。  
(そうだ、この子は紅世の徒なんだ…!)  
可憐な容姿に思い違いをしていた。この子はいつでも僕を消せる。  
ならば今自分にできること。それは―――  
(シャナが来るまでなんとか時間を稼ぐ)  
「んっ、んっ…」  
小さな手で悠二の肉棒を弄る少女を見下ろす。  
「君は―――」  
他者に弄られている快感を何とか誤魔化そうと口を開き、  
「ヘカテーです」  
「え?」  
「そう呼んでください」  
少女、徒、ヘカテーは悠二の瞳を覗き込んでそう言った。  
「私もあなたのことを…悠二と呼びます」  
どくん、と鼓動が強くなった。  
ただ目の前の儚げな少女が名前を呼んだだけで、悠二の体が熱くなる。  
「ヘカテー……で、いいのか?」  
「はい、悠二…」  
交わされる視線。内からこみ上げる衝動に、悠二の頭は次第に霞がかかったように不鮮明になってきた。  
そして自然に顔が近づき――  
「んっ…」  
「ちゅ――んむ…」  
唇を、重ねていた。  
 

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